軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11-20 契約成立

「僕たちがこの村の住人に、ですか」

「そう、君たちが良かったら、だが。もちろん、国に帰りたいなら援助する。今すぐ決めろとも言わない」

仁がそう言うと、バロウは少しだけ考えてから返事を返した。

「そう……ですね。この村はすごくいいところです。一昨日、勉強会をちょっと見学させていただきました。まだ僕らの知っている範囲内でしたけど、これからもっといろいろな事も教えていただける予定だと、エルザさまから伺ってもいます」

仁は頷く。

「ああ、そうさ。少しずつだけど、教育関係も充実させて行こうと思っている」

「こんな村、初めてです! あたし、この村大好きです!」

そう元気に答えたのはベーレだ。

「この村に住んでいいというなら、あたし、住みたいです」

そう答えたベーレに、バロウは、

「ベーレ、いいんだな?」

と尋ねる。

「うん、バロウ。あなたと違って、あたしはもう家族はいないから、マギルーツに帰っても仕方ないもの」

どうやら、ショウロ皇国に実家があるのはバロウだけで、ベーレは天涯孤独のようだ。

そういう事情聴取はエルザとミーネに任せるだけ任せていて、報告を聞くのは忘れていた仁。連れてきた本人として反省すべき点だ。

「ジン様、僕とベーレをこの村に置いていただけますか。国には……急いで帰る理由も無いんです。あの時は……もうほんとうにギリギリで、死ぬなら国の土を踏んでから、と思っていたんです」

バロウは仁の方を向き、背筋を伸ばしてそう言った。

「わかった。ギーベックさんにも話しておく。仕事は、そうだな、お城の管理というのはどうだろう」

普段は掃除など、客があった場合は応対、接待。ゆくゆくは管理業務の一端を任せたい、と仁が言うと、

「そ、そんな大役をですか?」

と、少々腰が引けるバロウ。一方ベーレは、

「はい! 頑張ります!」

と前向きな返事。内容を理解してないだけかも知れないが。

「よし、それじゃあ、給金は月に銀貨10枚、食事はこちら持ち、必要な服は支給する。住居はとりあえず城の中、でどうだ? 休みは最初は週に1日だが、いずれまた考えると言うことで」

普通、住む込みの見習い執事や侍女の給金は無いに等しい。月に銀貨10枚というのは破格の条件である。休みの日があるというのも聞いた事がない。少なくとも、彼等が働いていたセルロア王国では。

「は、はい、よろしくお願い致します!」

ベーレに肘で突かれて、ようやくバロウもそう返事をしたのである。

「よし、決まりだ。細かいことはまた明日話そう。俺はちょっとこれから用事があるから」

そう言った仁は立ち去りかけてから足を止めて振り向き、

「本当に、ショウロ皇国に一度帰りたければ考えるからな」

そう言って城方面へ向かったのである。

「おにーちゃん、いってらっしゃーい!」

家から出てきたハンナは、そう言って仁を見送ったのである。

* * *

仁が馬車内の 転移門(ワープゲート) から出ると、一行はもうすぐクラムの町に着くところ。時刻は正午を30分ほど回ったところだ。

時差約2時間20分と見て逆算した仁、到着時刻の読みはぴったりであった。

「おお、どんぴしゃ」

思わずそんな声が漏れてしまう。

馬車はクラムの町郊外にある駐馬車場に止まった。

「おーい、ジン、いるか?」

ラインハルトである。『いるか』と聞いてくるあたり、分かっていると言うべきなのか、慣れてしまったと言うべきなのか。

「いるぞ」

律儀に答える仁も大概であるが。

「ここの名物はちょっと変わってるんだ」

「それは楽しみだ」

仁はそう答えながら馬車から降りる、礼子は影のように仁に従っている。

「ラインハルト、ジン殿、行こう」

マテウスが先導していく。部下に予約をさせておいたそうだ。

「ほら、ここがそうだ」

入ったレストランは、店構えは普通だった。が、中に入った途端、なんとなく仁にとって懐かしい匂いがしたのである。

「まあ、豪華には程遠いが、こういう料理もあるということで、味わってみてくれ」

ラインハルトがそうまで言う料理とはどんなものかと思っていた仁の前に出てきたものとは。

「これは……」

何と、麦飯と菜っ葉の漬け物であった。その他には、干した魚の塩焼き。どう見てもアジの開きに見える。

仁は、いただきますもそこそこに、菜っ葉と干物にかぶりついた。

麦飯はばさばさしているかと思いきや、小麦粉でわずかにとろみが付けられていた。

菜っ葉はぬか漬けでなく塩漬けだった。塩を振って重石を乗せて作る一夜漬けのようだ。

アジに似た魚は蓬莱島で獲れるので、こちらはそこまで懐かしくはないが、まさかこんな場所で、という驚きがある。

あとは箸ならもっと良かったのだが、れんげのような大きめのスプーンとフォークなので、そこだけは違和感がある。

醤油が無いのが残念だったが、懐かしい味に涙が出そうな仁。たちまちに1皿食べ尽くしてしまった。

その食べっぷりを見て、ラインハルトが目を見張る。

「驚いたな、そんなに気に入ってもらえたとは。光栄だな」

「ああ、俺の故郷にも似たものがあったから懐かしかった。ありがとう、ラインハルト」

「そうだったのか、それは思っても見なかったが、喜んで貰えて嬉しいよ。寒い時の方が美味いんだけどな」

後ろにいる礼子は、料理の成分などを分析し、蓬莱島の老君に伝えていた。

(「老君、お父さまは凄く懐かしそうなお顔で食べてらっしゃいます。是非蓬莱島でも作って差し上げられるようにして下さい」)

(『了解です、任せておいて下さい』)

情報を得た老君は己の中の仁の知識と照らし合わせ、仁の好みになるよう、料理担当ゴーレムメイドのペリドリーダーに伝えていた。

今度仁が蓬莱島に帰ったら、少なくとも野沢菜もどきと白菜もどきの漬け物を食べる事が出来るだろう。

何せ、蓬莱島には大きな冷蔵庫があるから、本来冬に漬ける漬け物も1年中作る事が可能なのである。

思いがけなく懐かしい味を堪能した仁は、午後はラインハルトを同乗させ、話しながらフォンデを目指す。

「……ということで、あの2人を俺のところで雇うことにした」

一通りの説明をするとラインハルトは喜んだ。

「そうか! 何だかんだ言って、同郷の者だから気になっていたんだ。それを聞いて僕も安心だ」

そう言ったラインハルトは、

「一応身分証用意しておいたんだが」

と言って、胸ポケットから木札を出した。外交官なので、地球で言う大使のように証明書の発行もできるのだそうである。

それにはショウロ皇国住民であることを証明する旨の記述が書かれており、あとは本人直筆のサインがあれば、と言う状態になっていた。

「まあ、俺のところで働くに当たって、必要になるかも知れないから、有り難く受け取っておくよ」

「うん、それがいいな」

のんびりと、馬車は街道を進んでいった。

* * *

一方、クライン王国、プレソス。ここはワルター伯爵領の外れ。街道をもう少し王都に寄ったガァラは王家直轄領となる。

本来、領主はその領地を統治しやすい場所に拠点を置くものだが、ワルター伯爵領に関しては違っていた。

彼は、できるだけ王都である首都アルバンに近い場所を好んだのである。

そのプレソスに、2人の旅人が到着した。

「今日はここで泊まりですね」

片方は若い男の騎士である。

「そうなりますね。明日は早立ちしましょう」

答えたのはこれも若い女性騎士だった。

「ラッシュさん、この街は来たことあります?」

と問うたのは女性騎士。ラッシュと呼ばれた男の騎士は、

「いえ、恥ずかしながら。ファールハイト殿にお任せしますよ」

と返答した。

「そんな他人行儀にならなくてもいいですよ。リシアと呼んで下さい」

「そ、そうですか! それでしたら、リシアさんも僕をパスコーとお呼び下さい!」

「ふふ、わかりました、パスコーさん」

そして2人は、馬を預けると、荷物を持って宿を探しに行ったのである。