軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11-17 盗難

ダニを拡大して見てしまった男達に、

「いやあ、それは『ダニ』っていう生き物ですよ。埃のように小さく、直接害を加えるわけではないのですが、死骸や糞を吸い込むことで、身体の弱い人は体調不良を起こすんです」

と、懇切丁寧に説明する仁。

先ほども簡単に説明を受けていたサリュートはうんうんと何度も頷いた。更に仁は生態について知っていることを解説する。

「俺の知る限りでは、このダニってやつは、暖かくて湿り気の多い所を好んで繁殖するんですよ」

「なんと! すると、喉に良いだろうと、部屋を暖かくして湿り気を与えていたのは逆効果だったと言うことか!」

「ええ、ことダニに関しては、ですけど」

「なんて事だ……」

がっくりと項垂れるサリュート。その肩を仁は叩き、フォローを入れる。

「いえ、お孫さんの身体のためには良かったと思います。ですから、あの部屋からダニを一掃すれば、かなり改善されると思いますよ」

それを聞いたサリュートは顔を上げ、仁の肩を掴んだ。

「ジン殿! 感謝する! さっそくやってみよう!」

そこで仁は更に一言アドバイス。

「布団や枕ですが、『掃除機』で吸えば、かなりダニを除くことができると思いますよ」

「おおっ! そう言う使い方もあるな!」

そう言ってサリュートは廊下を駆けていってしまった。

残ったのは、仁、ラインハルト、マテウス、そして 魔法技術者(マギエンジニア) 互助会(ギルド) の長、ライマー・ゲバルトフ。

そのライマーは仁に向かって、

「ジン殿、この『顕微鏡』、でしたか、これも我が 互助会(ギルド) に売っていただけませんかな?」

と言ってきた。仁は当然それは予期していたので、すぐに頷いた。

「これを有効に使って下さい」

「もちろんだとも!」

そして相談の末、顕微鏡は50万トールで売られたのである。

その他にも、

「この掃除機の応用で、部屋の空気を吸い込んで、埃を濾してやれば……」

と仁が言うと、

「おおっ! 部屋の埃っぽいのが解消できるな!」

とライマー・ゲバルトフが反応した。さすがである。

「その場合、フィルターの目の大きさが濾す埃の大きさになりますから」

と仁はアドバイス。

「うむ、試作の試験運用はサリュートにやってもらおう」

そう言って笑うライマー・ゲバルトフであった。仁もつられて笑ったのである。

* * *

午後6時、夕食の時間。

そこには、町長サリュート・ベルルーシの心づくしが並べられていた。

コカリスクの丸焼き。山鹿のステーキ。バラクド(カマスに似た魚)の干物の塩焼き。野菜と肉を煮込んだシチュー。色とりどりの野菜サラダ。エアベールのジュース。そして真っ白いパン。

食べきれないほどの料理であった。

「ジン殿、貴殿の言ったとおり、部屋を大掃除し、布団も掃除機できれいにしてからユースを寝かせたら、劇的に症状が良くなった! 感謝してもしきれない!」

そう言って、手ずからワインを仁に注ぎにやってきたほどである。

「それにしてもエゲレア王国がこれほどの魔法技術を持っているとは……それに、病気の治療に関しても進んでいるなんて……」

ライマーが感心したような声でそう呟く。それはまったくの誤解なのだが、ここでそれを言うとややこしいことになるので、仁は聞こえなかったふりをした。

「ジン、今日はまた、大活躍だったな」

豪華な夕食を終え、部屋に引き上げてきた彼等は、ラインハルトの部屋でのんびりしていた。

「ジン殿の知識にはおそれいる。軍など辞めて弟子入りしたいくらいだが、そうもいかないしな」

珍しくマテウスも少し酔っているようだ。

「で、 自動人形(オートマタ) を作ってくれというのは結局どうなったんだ?」

ラインハルトの質問。仁も、そっちの方はすっかり忘れていた。

「うーん、元気になって、 自動人形(オートマタ) ではなく、人間の友達と遊んだ方が幸せなんじゃないか?」

そう言って笑う仁であった。

その夜は、みんな少々酔っていたので早めに休むことにした。

仁だけは体質のせいで酔わないのだが、いろいろあって何となく疲れてはいたので、部屋に戻った。

ドアを閉めると、礼子が口を開いた。

「お父さま……」

なんだか沈んだ声だ。

「ん、どうした、礼子?」

「先ほど、人間の友達と遊んだ方が幸せなんじゃないか、と仰ってましたよね……」

それで、仁は礼子が何を気にしているのかすぐに悟った。こういう話題になると、礼子は不安定になるのである。

「ああ、あの子の場合、だけどな」

「……お父さまは?」

更に暗い声である。仁は立ったまま動かない礼子に近づいていき、抱きしめた。

「礼子、お前は俺の娘だ、って前にも言っただろう? お前は誇っていいんだ。お前は 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) を両親に持つ世界でたった一人の女の子なんだからな」

「お父さま、私は女の子ではなく 自動人形(オートマタ) です。ですから1体と数えて下さい」

「うん、だけど、俺はお前をただの 自動人形(オートマタ) とは思っていない。だからお前は俺の娘だし、俺はお前を『一人』と数えるぞ」

「……ありがとうございます」

礼子の声から暗さが取れた。仁もほっとする。

「さて、俺は寝るよ」

「はい、私が夜通し起きていますから安心してお休み下さい」

* * *

「弱ったな……」

「弱りましたね、専務……」

カイナ村を目前にして、行商人、いや、ラグラン商会外回り営業担当ローランドは困り果てていた。

塩が無いのである。

事の起こりは、街道の通行止めだった。ドッパ村の先で起きた崖崩れのためである。

それが5日のこと。

シャルル町まで一旦引き返したローランドは、そこは商人、無為に留まると言うことをせず、隣のゴホホ町へ足を伸ばしたのである。

そこで品物を売りさばき、一部買い入れもした。

そして、状況を確認しにシャルル町へ戻ると、街道が通行可になったと言うではないか。

商人は信用が第一だ。ましてや、カイナ村は、ラグラン商会が大躍進する切っ掛けをくれた村である。

「これはしくじった、急がなくては」

大急ぎでカイナ村へと荷馬車を走らせるローランド。少々強行軍で、シャルル町を素通りしてドッパまで行ったのが7日のことだった。

そして、昨日トカ村で、塩がやたらと売れたのである。3倍という高値で。

どこに所属するのかはよくわからないような兵士が来て、その値段で大量に購入したため、品薄になってしまった塩。

どこから聞きつけたのか、見覚えのない商人も来ていて、なんと100キロ近い塩を売っていた。3倍で。

あの商人は大儲けしたであろう。

そして、ローランドはといえば、カイナ村にも塩を持って行かなくてはならない。それで、必要最低限として20キロ入りの壺1つだけ確保した。

「これで今回は我慢してもらって、次回は1月後にまた行くしかないだろうな」

もしくは荷馬車でなく、馬を使って半月後に塩だけでも届けなくてはならない、と、ローランドは商人の責任として捉えていた。

それが無くなった。

昨夜、トカ村とカイナ村の中間にある休憩舎に泊まるまでは、確かにあった塩の入った壺。

生活必需品の塩。カイナ村に届けるため、確保しておいたそれが、いつの間にか無くなっていたのである。

いや、はっきり言って、盗まれたのだろうとはローランドも思っている。

値段は大したことはない。荷物の中にはもっと高価なものがあったし、ローランドの懐にはそれまでの売上金もあったのだから。

「弱った……」

実は今回、ローランドの息子であるエリックは同道していない。アルバンで技術主任として忙しいのだ。

今回連れてきたのは新人のボーテである。

ローランドも、この先外回りでいることはない。近々、内勤となる事が決まっていたのだ。それで引き継ぎのため、新人を伴って来たのである。

「いい関係を築いてきたカイナ村との最後になるかも知れない商売でこんな事になるとは……」

そもそもこの街道は、イナド鉱山があるため兵士が近隣に駐屯しており、これまでは比較的治安が良かったのである。先日の脱走騒ぎはローランドの耳には入っていなかった。

まさか塩を盗まれるとは思わなかったローランドは落ち込む。

「とにかく、カイナ村へ行って、正直に事情を話すしかないな……」

「そうですね、専務」

昨日とは打ってかわってのろのろと、ローランドの荷馬車は峠目指して登って行ったのである。