軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11-15 名誉会員

結局、挨拶だけは受け、それ以上の話はまずは宿へ入ってから、と言うことになったのだが、

「お泊まりになる場所は手配してございます」

とライマー・ゲバルトフが言った。

どうするか、仁、ラインハルト、マテウスは顔をつきあわせて相談したが、結局その厚意を受けることにしたのである。

ライマーが手配した宿というのはアンベルク町長、サリュート・ベルルーシの屋敷であった。

アンベルクの街も平屋建てがほとんどだが、町長の屋敷はなんと3階建て、街の中心部にあって、町中を睥睨している感がある。

「何かあったらすぐに分かりますからな」

とは、仁たちを迎えた町長の言葉である。

確かに、物見台としての役割は十分果たしていた。

因みに、仁たちの部屋は2階で、それなりに見晴らしはいい。仁は礼子と、ラインハルトはクロードと、そしてマテウスは連絡兵1人を伴って、それぞれ個室になっていた。

荷物を置くと、町長に招かれお茶を御馳走になる事に。時刻は3時過ぎ。

ちょうど喉が渇いていた所なので、仁もラインハルトも、それを受けた。

案の定、そこにはライマー・ゲバルトフも同席している。

香りの良いお茶が出され、全員が席に着いたところで町長が立ち上がった。

「まずは、アンベルクの街にようこそ。ラインハルト様」

そう言ってサリュートは頭を下げた。顔を上げた彼をよく見てみれば、銀髪、青い眼。年齢は50前後といったところか。痩せて背が高い。

「そして、あなたがエゲレア王国の 名誉魔法工作士(オノラリ・マギクラフトマン) 、ジン殿ですな? ようこそ、歓迎いたします」

質問と言うより確認のようにそう言った。続けて、マテウスにも挨拶した町長は席に着くと、改めて仁に向かって、

「後ろに控えてらっしゃるのは貴殿の 自動人形(オートマタ) ですね? 素晴らしい出来ですなあ!」

と、礼子をまじまじと見つめてそう言った。

「お願いしたら、私にも同じ 自動人形(オートマタ) を作っていただけるでしょうか?」

これには仁も驚いた。今まで数々の依頼を受けてきたが、礼子と同じ 自動人形(オートマタ) を作ってくれという依頼は初めてだったからだ。

答えに窮した仁が考え込んでいると、ライマーが先に口を開いた。

「町長、そのような話はあとにして下さい。ジン殿、本日私が出向いてきたのは、貴殿に『ショウロ皇国 魔法技術者(マギエンジニア) 互助会(ギルド) の名誉会員』となっていただきたかったからなのですよ」

それを聞いて歓声を上げたのはラインハルトだった。

「おお、それはいい! ジン、 互助会(ギルド) 名誉会員は、それ相当の貢献をした者にしか贈られないし、ましてや国外の人間に贈られた前例を僕は知らない!」

そう言って自分の事のように喜んだ。

アンベルクの 魔法技術者(マギエンジニア) 互助会(ギルド) の長、ライマー・ゲバルトフは金色のカードを差し出した。

名刺より二回りほど大きい、薄い金属製のカードである。

「本来なら大々的に行いたいのですがね。旅の途中でもありますし、ハタタのコーツ・ロードイトからの知らせにも、仰々しいことはお好きでないと書かれていたのでこんな形を選びましたが、お受けいただけますかな?」

「はい」

元より仁は、断る理由はないし、クライン王国ではエゲレア王国の 名誉魔法工作士(オノラリ・マギクラフトマン) と言う肩書きが思った以上に役に立った事もあって、喜んでそれを受けることにした。

聞けばラインハルトも名誉会員だそうだ。これを持っていると、ショウロ皇国の 魔法技術者(マギエンジニア) 互助会(ギルド) では、貴重な素材を優先的に回して貰えるなど、いろいろと便宜を図って貰えるらしい。

「受けて貰えてほっとしました。ところでジン殿、ハタタではポンプなるものをお作りになりましたが、ここアンベルクでも何か作ってもらえませんかな?」

本気とも冗談とも付かないようなライマー・ゲバルトフの物言いに、町長が食い付いた。

「なっ! 私には後にしろと言っておいて、自分はそれか!?」

「何を言う。私が口にしたのは役に立つような道具の話だ。そちらは自分の趣味ではないか」

「それにしたって、受けるかどうかはジン殿次第だ。その頼み方は卑怯であろう!」

等とやり始めたものだから、仁は呆れ、ラインハルトは苦笑。マテウスは勝手にやらせておけ、と言った表情で出されたお茶を飲んでいた。

仁は真に受けてちょっと考え込み、ラインハルトを見ながら、

「『掃除機』があると便利だと思いますが」

と言った。それを聞いたラインハルトも賛成する。

「そうか、あれか! ここの 互助会(ギルド) になら技術移管してもいいな!」

それを聞いたライマーは、

「そうじき? とは何ですかな?」

と疑問顔。仁は以前、ラインハルトと協力して作った掃除機をここの 互助会(ギルド) に売り込もうと決めたのである。

ラインハルトの馬車にはまだあの時作った試作機が残っていた。

「おお、さすがラインハルト」

捨てたり処分したりせずにここまで持って来たのは大したものだ、と仁が褒める。

「はは、だって使えるものを壊したり捨てたりはしたくないじゃないか」

ラインハルトはそう言って笑った。

そして、試作機を動かし、掃除機の有用性をアピールする仁。このあたりは乾燥して埃っぽいので、こういう『吸い込む』掃除機が有効なのではないかと思ったのだ。

「これは旅先で作ったので、出来も今一つです。特にフィルター……ゴミを溜める袋ですが、これをもっと目の細かい丈夫な布にして、吸い込む風魔法を強力にすれば……」

現物があったので、ライマーの理解も早かった。

「ううむ、こんな魔導具があったとは……! ラインハルト様、ジン殿、我が 互助会(ギルド) にこの製法を売っていただけるのですな?」

仁とラインハルトは頷いた。

「うーむ、これだけの魔導具だと……おい、幾らくらいが妥当だと思う?」

互助会(ギルド) 長、ライマーは、後ろで見ていた若い男にそう尋ねた。

「そうですね、僕の意見では20万トールってところですね」

約200万円、微妙な線である。 互助会(ギルド) に売ると言うことは、同じものを作って売ってもいいと言うことと同義だからだ。

ポンプの製作方法は100万トールで売れた。

付加価値や利用価値を考えると、水という生命線に関するポンプが100万トールで、便利道具である掃除機が20万トールというのは妥当かも知れない。

それでいいと仁が言おうとしたところ、ラインハルトが先に発言を始めた。

「もう一声欲しいかな。何もがめついことを言っているのじゃない。この技術には応用が利くからだ」

「応用?」

「そうさ。今日見たばかりでは気が付かないのは無理もないが、この『風魔法を応用する』と言う考え方にはいろいろ使い途がある。例えば、単に風を起こす魔導具として使えば、暑い時には……」

「おお、なるほど!」

ライマーは掌を打ち合わせ、納得がいったと言う顔をした。

「それでは……40万トール。これでどうですかな?」

ラインハルトは少し考え、

「まあ、いいんじゃないかな?」

と言い、仁を見返る。仁には反対する理由はないので頷いて見せた。

「それでは、40万トールでお譲りしましょう」

と言うことで契約成立。

さっきの若者がお金を取りに 魔法技術者(マギエンジニア) 互助会(ギルド) まで走って行った。

冷めてしまったお茶が下げられ、新しいお茶が淹れられた。

仁は先ほど飲んでいなかったので、今度こそと思い、一口口にした。味は完全に緑茶である。猫舌な仁は少しずつ、だが美味そうに全部飲み干した。

町長はそんな仁を見て、

「それではジン殿、先ほどの私のお願いの方はいかがですかな?」

と再度口にしたのである。

「素材の関係もありますし、まったく同じというわけにはいかないと思いますが」

「おお、では、作っていただけますかな!?」

顔に喜色を浮かべた町長の声。

「ええ、でも、どういう目的で 自動人形(オートマタ) を欲しがられるのか、お聞きしてもよろしいですか?」

その言葉に町長、サリュート・ベルルーシは大きく頷く。

「もちろんですとも。孫の遊び相手にしたいのです」

「お孫さんがいらっしゃるのですか」

「はい。その、病弱で、ほとんど外に出られないのでしてな。だから友達もおらず、寂しい思いをしているのです。貴殿の 自動人形(オートマタ) なら、必ずや孫も気にいると思いまして」

「なるほど、そうでしたか」

小さい子供の遊び相手、ということなら、と仁は引き受ける気になりかかった。

元々礼子と同じ性能にする気は毛頭ない。外見相応の性能で十分だろう。それなら、一般素材で十分である。

「お孫さんの遊び相手、ということなら早い方がいいですよね」

「ええ、ジン殿の旅先から送っていただければ」

「えっ?」

「えっ?」

2人顔を見合わせての疑問符。

仁と町長も、相手の意図するところが分からなかったのである。