軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11-13 お城

深井戸ポンプを設置した仁は、感激した宿の主人からの感謝として、豪華な夕食をラインハルトと共にご馳走になった。

宿の主人の感激は大変なもので、厨房用と浴場用、それに洗面用の井戸に同じものを取り付けてくれるよう懇願してきた。

このままでは収拾が付かなくなると感じたラインハルトは、夕食後仁と相談して、このポンプを 魔法技術者(マギエンジニア) ギルドに移管する相談をした。

そして2つ条件を出した。

1つ、この街の 魔法技術者(マギエンジニア) ギルドにこの技術を伝えること。

2つ、その際、この技術を独占しないこと。

である。

その夜のうちに、ハタタのギルドからギルド長その人がやってきた。

「コーツ・ロードイトと申します。ジン殿、よろしく。ラインハルト様、お噂はかねがね」

「よろしく。あまり時間が無いので、すぐに始めましょう」

仁はそう言って、今度はギルドが用意してくれた青銅で、ポンプを作って見せた。

「ほほう、面白い構造ですな」

さすがギルド長、コーツ・ロードイトの 魔法技術者(マギエンジニア) としての腕と理解力はかなりのものだった。

「なるほど。肝はこのシリンダーとピストン、それに弁ですな?」

「その通りです。最低でも摺動部には 硬化(ハードニング) 、できればアダマンタイトでコーティングするのが望ましいですね。それが出来なければ、定期的な検査と整備が必要です」

「わかります。しかしアダマンタイトは無理ですので、 硬化(ハードニング) でしのぐしかありませんな」

コーツ・ロードイトにも1台、ポンプを作らせたが、特に問題無く作り上げたので、仁は内心感心していた。

あとでラインハルトに聞いたところ、彼はショウロ皇国でも十指に入る 魔法技術者(マギエンジニア) だと聞かされて、頷いた仁であった。

* * *

「いやあ、ジン、お疲れ!」

コーツ・ロードイトも手伝って宿屋の井戸全部にポンプを据え付け終えたのは夜の11時。

さすがにラインハルトも疲れたとみえ、仁にそう声を掛けると、自分の寝室へと消えた。仁も疲れたので部屋に入ろうとすると、マテウスに呼び止められた。

「ジン殿、今日はお見事でした。自分には何も手伝える事が無く、見ていただけというのが悔しいですよ」

そんな風に心情を吐露してくれた。

「それではゆっくりおやすみ下さい」

「ありがとう。おやすみ」

仁もそう答えて、今度こそ部屋に入った。

「お父さま、お疲れ様でした」

礼子もそう言ってくれる。

「ああ、ご苦労さん。老君からの報告を受けられなかったが、何か変わった事はあったか?」

仁がそう尋ねると、礼子は答えた。

「はい、ロックさんたち5名が無事休憩舎まで戻ってきたそうです」

「おお、それはよかった」

「はい、ランドRとSが帰村途中のロックさんたちを発見し、村まで秘密裏に護衛しています」

「うん、それでいい。よくやってくれた」

仁も、徴兵された人達が無事戻ってきたのでほっとしていた。

「それから、お城が完成したそうです」

「お、そうか」

仁は喜んだ。

「あー、今夜は疲れたから、また明日の夜にでも帰ってみよう」

「はい」

疲れていた仁は、それ以上報告がないと知ると、身を横たえ、朝までぐっすりと眠ったのである。

* * *

「何!? いつの間にか街道が通行できるようになっていただと!?」

「はい、『 懐古党(ノスタルギア) 』とやらが夜中に作業を行ったようでして」

「またしても 懐古党(ノスタルギア) か。……忌々しい奴等だ」

そして、しばらく静寂が続く。

「……塩を買い占めろ」

「はっ?」

「カイナ村は塩が採れん。塩は行商人が運んでいく。途中の村で全部買い占めてしまえ」

「商人は信用が第一と聞きます。全部売るでしょうか?」

「僅かなら残してもかまわん。金なら3倍出してもいい。脅しも使え」

「……わかりました」

「但し、私の名は出すなよ」

ワルター伯爵専任 第5列(クインタ) 、デネブ29はしっかりと聞いていた。

* * *

「ジンさんがカイナ村を租借地としていたなんて……」

リシアは自宅のベッドの上で、髪を梳かしながら呟いた。

グロリアから聞いた話は非公式なものだったが、この日、出仕したリシアは、宰相から直々に話を聞かされていた。

「やはり、ジンさんに間違いないですね」

話を聞いたリシアは、そのジンと名乗ったエゲレア王国の 名誉魔法工作士(オノラリ・マギクラフトマン) が、自分の知る青年であることを再確認していた。

「そうか。それなら好都合だ。ファールハイト、そなたは本日を持って、救護騎士隊は休職扱いとなる。そして、カイナ村へ赴く使者となるのだ」

「使者、ですか?」

「うむ。租借地における我が国の大使、という扱いだな。顔見知りのそなたなら、ジン殿の印象もいいだろう。宿舎などは自分で手配せよ。予算は十分に与える。詳細はこの後、説明の者を寄越す」

「わかりました」

すれ違いで会えなかった仁に、公式に会いに行けることとなったリシアは内心で快哉を叫んだ。

「カイナ村へ赴く際、騎士の誰かを護衛兼従者に付けようと思うが、希望者はいるかな?」

そう宰相から聞かれたが、リシアは、特にはいません、とだけ答えた。

「わかった。それならこちらで選定しよう。出発は明後日を予定しておいてくれ」

「わかりました。よろしくお願いいたします」

* * *

一方、5月9日のカイナ村で。

「何だよこの建物」

そんな声を出したのはロック。帰ってきたばかりで経緯をよく知らないのだ。

「ジンのお城らしいぜ」

エルメ川にほど近い場所に聳える天守閣を眺め、カイナ村住人たちが囁き交わしている。

「ほう、ジンの故郷の城ってこんな建物なのか」

石垣の上には白壁に瓦屋根、5重6階、地下2階。イメージ的には松本城が最も近いだろうか。ただし敷地は正方形で小天守などはない。

ちゃんと天辺には金のシャチホコが乗っており、安全のため避雷針も付けられている。

「ど、ど、どうして、こんな短期間でこんな巨大な建築物ができあがるんですかあああ!」

「なんだ、あいつ?」

理解できないと混乱して叫んでいるバロウを見て、ロックがそんな声を出した。

「ああ、ロックは知らなかったか。ジンが連れてきたお客で、バロウっていうんだ」

「なるほど、ジンのことよく知らないんだな」

動じていないカイナ村の人々に対し、困惑の色を隠せないバロウ。だが、ベーレの方はというと、既に馴染んできていた。

「ジンさんって、すごいんですね! いつの間にかこんな凄いもの建てちゃうんですから」

「ん。ジン兄は、こういうことをするゴーレムをたくさん使っている。彼等に指示をすればこんなことも簡単」

ある程度事情を知っているエルザがそう説明した。

村人の大半が集まっていることを見て取った村長のギーベックは、いい機会だと、説明することにした。

「みんな、良く聞いてくれ。ジンが王都で手柄を立てて、その見返りにこのカイナ村を50年間、租借地……まあ、借り受けることになったわけだ」

分かりやすい表現を選びながら、ギーベックは話を続けた。

「まあ、一時的な領主、と思ってくれていい。それで、ジンは公の仕事のためにこれを作ったというわけだ」

村長は代官として、仁の代理であるバトラーAからの説明も受けているので事情には詳しい。

「普段はマーサの所に建てた家に住んで、村の管理等の仕事はこちらで行う事になる。地下には食料庫があって、いざという時には避難所にもなるということだ」

「おおー! さすがジンだぜ!」

誰かの声が上がる。

「とはいうものの、私が代官としてこれまで通りに村長の仕事を続けるから、実質上何も変わらんがな」

仁は、ギーベックに代官をしてもらうにあたり、相談の結果、税の約1割、5万トールを年間の給料として払うことに落ちついていた。

「何か質問はあるかな?」

「おう、ジンをこれからなんて呼べばいいんだ? 領主様、とか、ジン様、とかか?」

この質問はロックである。

「ジンは今まで通りにしてくれと言っとったぞ」

「はは、ジンらしいぜ」

カイナ村の晴れた空にロックの笑い声が響いた。