作品タイトル不明
11-11 夜中の作業
ショウロ皇国に入ってからというもの、仁たちの旅は平穏無事に過ぎていった。
バンムを過ぎ、ボルトロの町で1泊。
ダンガの町を通り、デンザナで1泊。
ディバイド川を渡し船で渡って、今日7日はバニュウの町に泊まっていた。
「いやあ、何事も無いというのはいいものだなあ」
ラインハルトがしみじみとそう言った。
今は仁、ラインハルト、マテウスの3人で、宿のベランダにあるベンチに座って寛いでいるところだ。ディバイド川の川面も見える。
春の日は暮れるのが遅く、夕方と言うのにまだまだ明るい。
そしてそれぞれの前には、ショウロ皇国特産、エアベールのジュースが。
ジュースになっているので仁にも元の果物は分からなかったが、味は完全にイチゴである。
「あー、懐かしい味だ。……ジン、このエアベールというやつは、国内のあちこちに生えていてね。子供は良く摘んできて生で食べたりジュースにしたりするんだよ。もちろん栽培もされていて、これは栽培されたものの味だな」
ラインハルトは故郷の味にご満悦だ。仁は、エルザやハンナへのお土産にいいな、等と考えていた。
「そうだな。ラインハルト。お前と俺が裏山にエアベールを採りに行こうとすると、エルザ嬢も良く付いてきたっけな」
マテウスの懐かしそうな声音。ラインハルトも頷いた。
「ああ。3人で良く採りに行ったな。エルザの奴、自分だけ採れたエアベールが少ないと言って泣きべそかいたこともあったっけ」
エルザが聞いたら赤面しそうな内容の話である。
気怠いような春の夕暮れであった。
* * *
「おかしいな、予定日を過ぎているのに」
カイナ村では、前回つまり4月中頃に来たローランドが、次は5月上旬に来ます、と言っていたはずなのにまだ来ないことに村長ギーベックが疑念を抱いていた。その隣ではバーバラがやきもきしている。
「ロック、ジェフ、デイブ、ハワード、リックも戻らないというのもおかしい。何かあったんじゃないだろうか?」
そこへ、仁が代理として置いていったゴーレム、バトラーAがやってきた。
「村長様、おじゃまいたします」
もうその外見にも慣れ、ギーベックは普通にやり取りしている。
「Aか、なにかあったのかね?」
バトラーAと呼ぶのが面倒なため、村人たちには親しみを込めて単に A(エー) と呼ばれていた。
「はい、なんでも、街道の途中で崖崩れがあったようです。それで徴兵された方々が帰れなかったようです」
「何と! どこからの情報か、は聞かんが、確かなんだろうね?」
「それはもちろん」
困り顔で考え込むギーベック。一方バーバラはというと、
「叔父様、考える事なんてないじゃないの! その崖崩れを片付けちゃえばいいのよ!」
と威勢のいい声を出した。
「おいおい、場所も規模もわからないのに人が出せるか」
「あら、Aなら知ってるわよね?」
「はい」
バーバラの冷静な判断に、ギーベックはちょっと照れて頭を掻いた。
「うーむ、気が動転して聞くのを忘れていた。で、どこなんだ?」
「はい、ドッパとラクノーの間だそうです」
「よし、ゴンとゲン、それにゴーレム馬のアインとツバイを出そう。参加するのは……」
「お待ち下さい」
バトラーAがそれを止めた。
「なぜ止める?」
あくまでもバトラーAは冷静な声で、
「『帰れなかったようです』、と私は過去形で申し上げました。今はもう開通しています」
「何だ、早くそう言ってよ!」
「はい、順を追って話そうと思いましたが、途中でいろいろと仰ったので……」
これはバトラーAの話し方にも問題がある。結論を先に言った方が良かったのだ。
また、常に冷静で、淡々と述べているため、途中で口を挟みやすいということもある。
「じゃあ、あと数日もしないうちにみんな戻ってくるな」
とギーベック。そしてバーバラはといえば当然のセリフ。
「エリック……とローランドさんも来るわね」
* * *
前日6日、蓬莱島。
(デネブ29からの追加報告によれば、崖崩れはやはりワルター伯爵の指示によるものらしい、ですか)
老君は沈思黙考していた。
(但し物的証拠は無し……まだ行動を起こすには早いですね)
老君としては仁に敵対する者は、完膚無きまでに叩き潰すつもりであった。それは物理的に限らず、社会的に、そして経済的に、という方法も含む。
(まずは、この意味のない嫌がらせを排除してしまいますか……これも 懐古党(ノスタルギア) の名前で片付けてしまいましょう)
数秒でそこまでの結論を出した老君は、急ぎエレナに連絡を付けた。
折良く、エレナは手が空いていたので、1回の連絡で必要事項を全て伝えることができたのである。
『わかりました、何か聞かれましたら 懐古党(ノスタルギア) がやったということにしておきますわ』
これで根回しは終わり。人目の無くなった深夜に作業を行うことに決定する。
そして深夜。月が中天に懸かり、その光は地上を薄ぼんやりと照らしている。人間には暗すぎるが、蓬莱島のゴーレム達には関係ない。
場所は崖崩れの現場である。
人知れず飛んできたコンドル1とペリカン3、それにラプター2。コンドル1にはダイダラが1体積んであった。
ダイダラは、身長15メートル、体重8トンの巨大ゴーレムである。戦闘用のタイタンに比べ、重量は重く、動作も鈍いが、精密動作性は上。
その最大出力は、なんと礼子の瞬間最大出力に匹敵する。まあ大きさで11.5倍、体重で267倍もあるのだから当然の値である。
というか、瞬間にせよ、同じパワーが出せる礼子がとんでもないのか。
閑話休題。
まずは、コンドル1搭載の 隠身(ハイド) 機能を最大出力で起動する。
隠身(ハイド) は 消身(ステルス) の下位魔法で、気配を消す効果しかない。が、周囲に誰もいない今、それで十分である。
周囲に近づく者がいないかどうかは、ラプターでやって来た 陸軍(アーミー) ゴーレムのランド21から24が警戒に当たる。
このように下準備をした後、作業が始まった。
ダイダラはその途轍もないパワーと精密動作で、岩を崩すことなく次々と片付けていく。置き場所に困ることはない。
なぜならば、ペリカン3に搭載された『受け入れ側のいらない 転移門(ワープゲート) 』の試作機を使い、計算上は遙か南の海中に廃棄していくからだ。
そしてその廃棄される筈の海上付近には 空軍(エアフォース) ゴーレムが多数展開しており、誤差を計測する手筈になっていた。
つまり、実験を兼ねた運用なのである。そちらの結果はまずまず。最大誤差30メートルとの報告であった。
このようにして、ダイダラと『受け入れ側のいらない 転移門(ワープゲート) 』の組み合わせは、わずか15分で街道を塞いだ岩を排除し終えたのである。
『ダイダラとコンドル1は帰還。スミス101から110は街道の整備に取りかかりなさい』
老君は次の指令を出した。ラプター2に搭載された通常の 転移門(ワープゲート) から10体の 職人(スミス) ゴーレムが飛び出す。
『街道の整備、そして崩落箇所の土止めを』
指示に従い、街道に散らばる細かい岩屑を片付け、崩落箇所には『 融合(フュージョン) 』を掛け、それ以上の崩壊を事実上止めた。
岩により抉られた箇所には、散らばった岩屑を利用して埋め、全体に『 硬化(ハードニング) 』を掛け、丈夫にした。
『最後に、 懐古党(ノスタルギア) の仕事である証を残していきましょう』
老君はあらかじめ用意した金属のプレートを修復した岩壁に嵌め込んだ。それには、
「3457年5月7日 懐古党(ノスタルギア) 修復」
と刻んである。
懐古党(ノスタルギア) が蓬莱島の下部組織になりつつある今、全くのデタラメとも言えないだろう。
それが済むと、全ゴーレム・全航空機は引き上げる。
あとに残ったのは、きれいに修復された街道であった。
* * *
「お、お、お!? いったい何があった?」
翌早朝、危険防止のため街道を封鎖している兵士が、見回りに来て驚きの声を上げた。
「夜中に一体何があったんだ!?」
「 懐古党(ノスタルギア) だって!?」
ひとしきり混乱はあったが、その日の朝には通行が許可され、ロックたち5名は無事に通過。同日夕方にはトカ村、そしてその翌日には休憩舎に辿り着けたのである。
そして、その様子は秘密裏に偵察に出ていたランドRとSが発見。
『ランドR報告。ロックさんら、徴兵された村人5名発見。無事です』
『老君受領。そのまま隠密裏に村まで警護せよ』
というわけで彼等の帰村まで姿を見せずに警護していったため、9日午後には、全員無事カイナ村に帰り着いたのだった。