作品タイトル不明
09-42 圧倒
「礼子、行ってくれるか?」
今、戦況を更に有利にするため、攪乱は欠かせない。
そしてそれに最適任なのはやはり礼子だ。
「だが、まだ直接介入は無しだ。 魔力砲(マギカノン) を使って遠方からの射撃だけにしておけ」
一応考えていることもあるので、礼子に釘を刺しておく仁。礼子は素直に頷く。
「はい、お任せ下さい」
そこで仁はペガサス1の高度を下げた。地表まであと10メートル程となった時。
「ここで結構です。アン、お父さまをよろしく」
そう言って礼子は桃花と 魔力砲(マギカノン) を持ち、ペガサス1から飛び降りたのである。
スカートの裾を器用に抑えつつ、礼子は大地に下り立った。そこは戦場から500メートルほど離れた地点である。
「よし礼子、 魔力砲(マギカノン) 30パーセントで発射だ」
「はい」
再度高度を取ったペガサス1から仁の指示が飛ぶ。
「今、ランド隊に移動を指示した。向かって左側から右側へ味方は移動している。わかるか?」
礼子はその驚異的な視力によって、向かって左側に味方のランド隊がいなくなるタイミングを読み取った。
そして抱えた 魔力砲(マギカノン) を構える。
「 魔力砲(マギカノン) 、出力30パーセント。発射!」
ドカンという衝撃波の音と共に、アダマンタイト製の砲弾がマッハ20程の速度で発射された。
* * *
「何やってるの! ええい、じれったい!」
魔導投影窓(マジックスクリーン) を見ているエレナが歯がみをしている。
その時、新型戦闘用ゴーレム数体が吹き飛んだ。
「え?」
数秒おいて、また数体。そして、また数体。
「何? 何が起こっているの?」
マッハ20以上で飛来する砲弾はエレナといえど視認できず、事態を把握出来ないでいた。
そして、その間にもまた味方ゴーレムは吹き飛んでいく。
計10回、味方ゴーレムが吹き飛ぶ光景を見せられたエレナは判断力を失いかけていた。
「ゴーレム! 散開よ! 固まっていたら被害が大きくなるわ! 散開しなさい!」
だが、それこそ仁が狙っていたことであった。
* * *
「おっ、敵ゴーレムがばらばらになったぞ。礼子の砲撃に恐れをなしたか」
上空から眺める仁は一人そう呟いた。
「ごしゅじんさま、これならラプターによる攻撃も可能です」
アンが助言を呈してきた。
「うん、そうだな。広範囲ではなく、各個点射で敵ゴーレムを狙い撃ちさせよう」
そして仁はラプター隊に指示を出した。
「ラプター隊、それぞれに地表の敵ゴーレムをレーザーで点射。間違っても味方に当てるなよ」
* * *
「こ、こんどは何!?」
エレナが発する声が金切り声になってきた。
魔導投影窓(マジックスクリーン) の向こうで、新型戦闘用ゴーレムが1体また1体と倒れていくのである。
何が起きたのかわからない。ただ、突然に頭が、腕が、半身が蒸発して倒れていくのである。
「いったい、いったい、何なのよおおお!」
悲鳴に近い声を上げるエレナ、そんな彼女を落ちつかせようと、 統一党(ユニファイラー) 主席、ジュールがその肩を叩いた。
だがそれは、エレナを苛立たせるだけであった。
「うるさいっ!」
振り切られるエレナの腕。そのぶつかった先はジュールの胸。骨の折れる音が響き、口から血を吐いてジュールは倒れた。
「え、えれ……な?」
辛うじて出た声はそれだけ。気を失ったのである。
倒れたジュールを見下ろしたエレナは、多少分別を取り戻す。
「ちっ、まだ使える駒を壊してしまったわ。……まあいい、代わりはいくらでもいるのだから」
そう嘯くと、横で驚いた顔をしているドナルドに向かい、
「ドナルド、あなたが今から 統一党(ユニファイラー) の主席よ」
そう告げる。引き攣った顔をしていたドナルドは、その声で笑顔になった。
「わかった、エレナ。今から私が主席だ」
その目に意志は感じられない。
「ええ。ドナルド、残っている熱飛球は何機?」
「10機だ」
「いいわ。全機出しなさい。乗せるのは魔導士隊全員ね」
「わかった。28人だから、8機が3人、2機が2人でいいね?」
「ええ、それでいいわ。空から敵を攻撃させるのよ!」
* * *
「いいぞ、ラプター隊」
仁は戦況を眺め、順調にいっている、と感じていた。
敵ゴーレムは残るところ100体を割り、最早ランド隊のみで殲滅可能である。
今のところランド隊に脱落はない。多少の傷を受けたものはいるが、動作に支障はないレベルである。
「よし、ラプター隊はレーザー攻撃を止めろ」
敵が疎らになり、効率が低下したのである。あとはランド隊で十分だろう、と仁は判断した。
「これで終わるとも思えない、次は何を仕掛けてくる?」
仁がそう思った時である。
「ごしゅじんさま、あれを」
アンの声に、顔を上げる仁。下方ばかり注意していたが、今度の敵は同高度にいた。
距離は1キロほど。まだ肉眼では点のようにしか見えない。
が、望遠機能付きの 魔導投影窓(マジックスクリーン) を見ると、珍しく仁は感心した声で呟いた。
「ほう、熱気球か。話には聞いていたが、本当にあんなものを開発していたんだな」
だがアンは、
「いえ、ごしゅじんさま、老君にも報告しましたがあれは『熱飛球』といいます。魔導大戦で、飛べる魔物対策に開発されたものだったようです」
それは、アンの復元しきれなかった記憶にあった情報らしい。最近になってようやく復元が成ったようだ。
「アスントやテトラダに現れた奴だな? まあ呼び名はどうだっていい。見たところ、火魔法で暖めた空気を使って浮き、風魔法で移動しているようだな?」
さすが仁、見ただけで原理をほぼ正確に見抜いていた。
「そうです。ですから先の戦いでは 魔力妨害機(マギジャマー) で不時着させることができました」
「よし、その前に脅かしてやろう」
そこで仁はペガサス1を敵熱飛球に向けて移動させた。
「 魔力妨害機(マギジャマー) はいつでも放射できるようにしておけ。そして前方に 魔法障壁(マジックバリア) を展開」
垂直離着陸機(VTOL) でもあるペガサス1は微速前進、敵熱飛球に近づいていった。
* * *
「しかしいつ乗ってもこの熱飛球はたいしたもんだぜ」
「ああ、まったくだ。こんな方法で空を飛べるなんてな、昔の技術は凄かったんだな」
「空を飛べれば断然有利だからな。敵軍がどこにどのくらいの数いるかなんてすぐにわかるし、攻撃だって思いのままだし」
「おい、そろそろ敵上空だ、魔法の準備をしろ」
熱飛球上ではそんな会話がなされていた。が、その声が驚愕で凍り付く。
「お、おい、あれは何だ?」
その視線の先にあったもの。それは銀色に輝く飛行物体。
「金……属……でできているのか?」
「なんでそんなものが飛べるんだよ……」
* * *
消身(ステルス) を解いて姿を見せたペガサス1を見て、驚かない者はいなかった。