軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

01-11 リシア・ファールハイト

リシア・ファールハイトはファールハイト家の長女である。父親のニクラス・ファールハイトはクライン王国の兵士長として長年勤め、先年、南に隣接するセルロア王国との国境で起きた紛争時に、死者無しでそれを解決した功績を買われ、 騎士(リッター) の爵位を授けられた。

本来、 騎士(リッター) は1代限りの名誉爵位であるが、クライン王国では貴族の人数が不足しているため、特例としてその子女も功を上げれば同じ爵位を与えることにしたのである。

「はあ、やっぱり貴族というのも大変なものですね……」

リシアの口から溜め息が洩れる。なにせ、貴族としての教育を受けたのは10歳を過ぎてからなのだから、庶民としての意識が既に根付いてしまっていたのである。

と、ドアが開いて村長が姿を現し、

「これはこれは、新しい徴税官の方ですね。私が村長のギーベックです。今後ともよろしくお願いします」

出迎えの挨拶をした。リシアも馬から下りてそれに答え、

「今年からカイナ村方面の担当になりましたリシア・ファールハイトです。こちらこそよろしくお願いします」

「さあさあ、まずはゆっくりおくつろぎ下さい」

村長に促されたリシアは、馬を 厩(うまや) に繋ぐと、村長宅へと入っていった。

案内されてテーブルの前に座ると、姪のバーバラがお茶を持ってやって来た。喉が渇いていたリシアはそれを一息に飲み干す。バーバラはすぐに2杯目を入れた。今度は少しずつ飲むリシア。

そうして一息つくや否や、

「そ、それでは村長さん、今年の作柄はいかがですか?」

と、仕事に取りかかった。村長は真面目な人だな、と思いつつ、

「そうですね、平年並みといったところでしょうか」

「それでは、昨年決めた税を納めていただけますね」

「はい、それは大丈夫です」

ここまでが今年の納税について。

「それでは、村の様子と畑を見せていただきましょう」

「え、これからですか?」

それを聞いたリシアは眉根を寄せ、

「な、何か不都合があるのでしゅか?」

精一杯威厳を見せようとしているようだが、噛んでいる時点でもう駄目である。

「いえ、ファールハイト様がお疲れなのではないのかと思いまして。いままでの方でしたらお着きになった日は何もされず、翌日にお見回りをされていたので」

「そうですか。でも、私は私です。案内をおねがいします」

「わかりました」

というわけで村長は村と畑を案内する。

「ここが麦畑です。秋麦の芽がもう出ています」

「順調のようですね」

そして他の作物畑。

「野菜類も取れているのですね」

最後に倉庫。

「ふんふん、麦がこれだけあれば、税を納めていただいても冬を越せますね」

「ええ、それは大丈夫だと思います」

「安心しました。明日から運べますか?」

「あ、明日からですか? それは出来ますが、ファールハイト様、お疲れでは?」

なんとなく疲労の色が見て取れるリシアに村長が尋ねるが、

「大丈夫です。これが私の役目ですから」

そう言って少し無理して笑った、その足元にボールが転がってきた。

「あら? これは?」

そのボールを拾い上げたリシアは、

「あー、おねえちゃん、ありがとー。それ僕のボール!」

そう言って駆け寄ってきたクルトに、

「はい、これ」

そう言ってボールを渡すが、その視線はクルトに、というよりもボールに釘付けであった。

「ファールハイト様?」

そんなリシアを怪訝に思った村長が声を掛けると、

「……村長さん、さっきの子が遊んでいた丸いものはなんですか?」

「ああ、ボールですか」

「ボール?」

「ええ、ジンが作ってくれた遊び道具ですよ」

「ジンというと……さっきの?」

「ええ、さきほどファールハイト様をうちまで案内した者です」

「あの人がボールを?」

「はい、彼は元々この村の者ではなく、春にこの村に迷い込んできたのでして。遠い国の 魔法工作士(マギクラフトマン) らしく、いろいろと村に尽くしてくれてます」

「彼が? 魔法工作士(マギクラフトマン) ?」

「はい」

「そうなのですか……」

少し仁に興味を持ったリシア。

「ローランドという商人が彼の作品を扱っているはずですが」

「ローランドですか。聞いたことはあります。最近大きくなってきたラグラン商会にそんな名の商人がいた気が」

「多分その者ですよ」

「そうですか。王都へ戻ったら確認してみましょう」

それでボールの件はそれまでとなり、2人は畑を離れ、村へと戻っていった。

「村長さん、あれはポンプですよね?」

途中でリシアは井戸のポンプに目を止めた。

「ええ、そうです。あれもジンが作ってくれたんですよ」

「!!」

リシアはまたも驚いた。今、王都だけではなく、周囲の村々に驚異的な速さで普及しているポンプ。それがラグラン商会を急成長させた原動力なのだが、それがこの村で作られたものだったとは。更に言えば、ジンという異国?の 魔法工作士(マギクラフトマン) が作った物だったとは。益々ジンに興味が湧いてきたリシアである。

「まあ、今日はもうお仕事から離れて、 寛(くつろ) いで下さい」

そう言って村長はリシアを温泉へ連れて行く。そこには姪のバーバラが既に待機していた。

「村長さん、ここはなんです?」

「温泉ですよ」

「温泉?」

「まあ、入ってみて下さい。バーバラ、あとは頼んだぞ」

「はい、叔父さん」

村長はリシアの相手をバーバラに任せると自分は家へと戻っていった。

「さ、ファールハイトさま、こちらへどうぞ」

そう言って脱衣所へと招き入れ、服を脱ぐように促すと、

「な、なぜ服を!?」

訳がわからないリシアにしてみれば当然の反応だ。バーバラは笑って、

「説明不足ですみません。ここは温泉といいまして、温かいお湯が湧いているんですよ。それで村の者はここに来てお湯に浸かり、疲れを癒すんです」

「お風呂とは違うのですか?」

「ええ、ここのお湯は地下から湧いてくるんです。ジンさんによれば、死の山の地下に熱の塊があって、それに触れた地下水が熱せられてお湯になった、というんですけど、正直よくわかりませんの」

「これもジンさんが?」

「ええ。彼はこの村の恩人です」

そこから先はお湯に浸かりながらの話となった。

「ああ、これは気持ちいいですね」

緊張もようやくほぐれたリシアはバーバラと共に湯の中で体を伸ばす。

「でしょう?」

今は徴税官が入浴中、ということで、村人はバーバラ以外シャットアウトされているので静かだ。2人は寝そべって湯に浸かり、湯船の縁に頭を乗せて 寛(くつろ) いでいる。少々おっさんくさい。

「……」

「ファールハイトさま?」

リシアは、隣で体を伸ばすバーバラの胸に付いている二つの膨らみを羨ましそうに見つめていたが、今はもっと気になる事があると気を取り直し、

「いったいジンさんてどこから来られたんでしょうか?」

そう聞いてみるが、

「さあ、なんでも 古代遺物(アーティファクト) の暴走に巻き込まれてこんな所まで飛ばされたそうです。お国はたしかニホンと言ってました。ご存じですか?」

「ニホン、いえ、聞いたことありませんね。もっとも、私はあまりこの大陸の地理には詳しくないんですけど」

リシアは自分が新貴族であって、今回の徴税が初仕事であることをバーバラに語る。16歳と15歳、一つしか違わない2人は、裸の付き合いを経て仲よくなっていった。