軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

09-04 閑話8 リシアの奮闘

リシア・ファールハイトはクライン王国の新貴族である。

父親のニクラス・ファールハイトが戦闘で功を上げ、 騎士(リッター) の爵位を授けられ、リシア自身も準騎士として実績を上げたため、晴れて 騎士(リッター) を名乗ることが許されたのである。

もっとも、リシアが所属するクライン王国が慢性的な人材不足であることも理由の一つであることは否めないが。

大陸暦3457年1月17日、クライン王国西に隣接するフランツ王国が突如国境を侵した。

フランツ王国はセルロア王国の属国的な国であり、これまでも国境線を越えてちょっかいを掛けてきていたのである。

フランツ王国はクライン王国とほぼ同じ規模の国家であるが、背後に控えるセルロア王国の国力を頼みに、数年おきにこうした小競り合いが繰り返されていた。

* * *

クライン王国首都、アルバンにて。

「リシア・ファールハイト、まいりました」

リシアは王国騎士団長に呼び出されていた。

「うむ。リシア・ファールハイト、西の国境でフランツ王国との戦闘が勃発した。そなたは救護騎士隊員としてストルスクへと向かうように」

「はい!」

リシアの他にも、新しく 騎士(リッター) になった者達が計10名、救護騎士隊に編入されて戦場へと向かう事になる。

リシアが選ばれたのは治癒魔法が使えるという事から。ほとんどの隊員が同様に治癒魔法の使い手であった。

わずか3日という短い訓練の後、リシアは救護騎士隊25名の1人としてストルスクへと向かったのである。

時間節約のため、行軍しながらの訓練は脱落者が3人出たほど厳しかったが、持ち前の責任感でリシアは耐え抜いた。

訓練中も行軍していたのでストルスクへは2日の行程であった。計5日である。

今のところ、戦線は膠着状態。クライン王国勢は良く守り、フランツ王国勢を押し止めていた。それどころかじりじりと押し返していたのである。

ストルスクに着いたリシア達救護騎士隊は早速活動を開始する。

「水ください!」

「治癒魔法、こちらへお願いします!」

「添え木を、早く!」

ストルスクは戦場のすぐ後方であった。駐屯しているのは王国第3騎士隊300名。ここには怪我をした兵士が大勢運ばれてきていた。

大隊ともなると専属の救護班もいるが、戦場では十分な人数とは言えず、救護騎士隊は到着すると同時に大忙しとなったのである。

「『 治療(キュア) 』」

「『 快癒(リカバー) 』」

訓練と努力の結果、リシアは治癒の中級魔法までを使いこなせるようになっていた。

「ファールハイト、こっちも頼む!」

「はい! すぐ行きます!」

故に救護用天幕の下、彼女は休む間もなく動き回っていた。

「ふう……」

短い休憩時間、リシアは天幕の外に出、夜空を見上げていた。

身体も精神も疲れてはいたが、充実していた。

「私に出来ること……やっぱり癒すこと、でしょうね」

いつか、カイナ村から麦を運んだ際、仁に言われた言葉。

『自分に出来る事をやっていけばいいんじゃないでしょうか』

それ以来、リシアは自分に出来ることってなんだろう、と自問し続けていた。

『 騎士(リッター) は皆を守るんです!』

あの時自分が発した言葉。それに嘘はなかった、と思う。咄嗟にではあったが、いやそれだからこそ、あの言葉は自分にとっての真実だと思える。

「守ること、そして癒すこと。それが、私に……出来ること、ですね」

見上げた夜空にはあの時仁と一緒に見上げていた空と同じように月が輝いていた。

* * *

翌朝、戦線が動いた。

フランツ王国が増援を得て、クライン王国勢を押し返してきたのである。

「ファールハイト、君は軽傷の者達に付き添って後退だ!」

「は、はい!」

救護騎士隊隊長のヨハネスが指示を出した。

自力で歩行できない重傷者は馬車に乗せて運ぶ。荷馬車の荷を自分たちが担いででも、使える馬車を確保しようと救護騎士隊は奔走していた。

(ジンさんの作った荷車は凄かったですね……)

納税のためにカイナ村からトカ村まで、一度で麦を運んでしまえる荷車の事をリシアは憶えていた。

リヤカーという名前は覚えていなかったが、その運搬力には驚かされたものだ。

(あの技術が我が国にあったら、きっと……)

リシアの物思いはそこで中断される。

「敵襲! 戦闘態勢に入れ!」

撤退の準備も整わないうちに、フランツ王国勢が攻め込んできたのである。

「あ……あれは!」

フランツ王国勢の増援、それはゴーレムであった。しかもその造形には見覚えがある。

「トカ村手前で……襲ってきたゴーレム?」

あの時仁の不可思議な魔法で撃退、破壊したゴーレムと良く似ていたのだ。それが20体。敵兵士の先頭に立って攻めてきていた。

「ぐわあ!」

「ぎゃあ!」

上がる悲鳴、飛び散る血飛沫、増える重傷者。

そんな中、救護騎士隊25名は第3騎士隊に守られつつ後退していく。何人かの重傷者は見捨てる以外に方策はなかった。

「ああ、どうしてこんな時に」

リシアの頬に悔しさと悲しさがないまぜになった涙が流れた。

「『 炎の槍(フレイムランス) 』!」

そんな時、リシアの向かう方角から魔法が放たれた。

炎の槍(フレイムランス) は青銅製らしいゴーレムを融かし、敵兵士をもなぎ倒した。

「おお、魔法騎士隊だ!」

魔法攻撃を専門とする中隊である。遠距離での支援が本来の役目であるが、第3騎士隊と救護騎士隊の危機に駆けつけて来たのである。

「『 炎の槍(フレイムランス) 』!」

連続して放たれる 炎の槍(フレイムランス) は20体いた敵ゴーレムを半数以上屠る。

それを見た敵隊長は損害を考えて退却に転じた。

魔法騎士隊はそれを追撃することはせず、負傷者の救護に当たる。魔法騎士隊隊員は攻撃魔法だけでなく治癒魔法が出来る者も多いのだ。

「こちら! 治癒魔法を早く!」

「血止めを! 急げ!」

軽傷者は自力で後退させることにし、救護騎士隊は全員で負傷者の手当にかかる。

「うっ、これ……」

たった今開いた傷口、止まらない血。リシアはこみ上げる嘔吐感と闘いつつ治癒魔法を掛けて回る。

完全治癒ではなく、応急手当を優先して。

戦闘が終わったのは昼前だったのに、気が付けば夕暮れ。なんとか一通りの応急処置を終え、救護騎士隊の面々は疲れ果てて大地に横たわっていた。

(それでも……救えない人が大勢いました……)

無力感に苛まれながらも、リシアは自らの行為を後悔する事はなかった。

やがて夜になり、破れた天幕や半壊した馬車の陰で休息を取る騎士隊員達。魔法騎士隊は出来うる限りの重傷者を連れて既に後方へ退いていた。

「残った負傷者は58名、我が救護騎士隊にも5名の負傷者が出ました」

計63名の負傷者と、無事な救護騎士隊20名。それに行動に支障を来さない程度の軽微な負傷の兵士が15名。

それがこの場に残った全員である。死者はまだ不明だが50名は下らないだろう。

そんな中、無事だった食料で粥を作り、怪我人に食べさせて回るリシアの姿があった。

「出来ることを精一杯」

そう呟きながら自らを叱咤し、リシアは負傷者の間を回っていた。

この2日後、定期的とも言える戦闘は一応終了する。

双方に意味のない死傷者を出して。