軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

08-24 勧誘

セルロア王国の首都エサイアの西側には巨大湖であるアスール湖から流れ出すアスール川が流れている。

東のトーレス川と共に、エサイアにとって天然の堀割となっていた。

当然、橋は架かっておらず、船で渡河することになる。

よってテルルス同様、船を予約して渡河できるまで3ないし4日かかることになる。

仁、エルザと別れたラインハルトは、4月10日はそこの関所で留め置かれたため4月11日にダリに着き、船を待つこととなった。

そして翌12日、ラインハルトはダリ見物をしていた。

「あら、ラインハルト様」

そう声を掛けられたラインハルトが振り向くとそこには銅色の髪、赤茶色の瞳が魅力的なセルロア王国屈指の 魔法工作士(マギクラフトマン) 、ステアリーナ・ガンマがいた。

「これは、ステアリーナ殿」

ラインハルトがそう挨拶すると、ステアリーナは上目遣いでラインハルトを睨む。

「あら、そんな他人行儀な言葉づかいされるなんて寂しいですわ」

色っぽい仕草だがラインハルトは動じない。

「これは失礼、ステアリーナ『さん』」

「ええ、それなら許して差し上げます」

そう言ったステアリーナは、きょろきょろと辺りを見回すと、ラインハルトに尋ねる。

「今日はお一人? ジン君は一緒じゃないのですか?」

「ええ、ジンとはしばらくの間別行動をしてまして」

ややぼかして答えるラインハルト。それを聞いたステアリーナは肩を落として言う。

「そうなんですの? ちょっと残念ですわ。ゆっくりお話したかったのに」

ラインハルトは苦笑し、

「済みませんね、僕しかいなくて」

と言う。するとステアリーナは笑ってラインハルトにお辞儀をした。

「冗談ですわ、ラインハルト様。今日、お暇ですか? もし時間がございましたら、わたくしにお付き合い下さいませんこと?」

特に予定もなかったラインハルトは肯いた。

「いいですよ。どこか面白い場所をご存じなんですか?」

「うふふ、着いてからのお楽しみです」

そう言ってステアリーナはラインハルトの右腕に自分の左腕を自然に絡ませ、そのまま歩いて行くのであった。

「どうぞ」

ステアリーナがラインハルトを案内していった先は普通の住宅であった。

セルロア王国標準と言っていい、石造り2階建て。窓は大きめに取られており、一部はガラスがはめ込まれている。

家の裏手には水路があって、アスール川に続いているようだ。

「わたくしの別宅ですわ」

ステアリーナの本宅はアスール川の向こうなのだが、首都を訪れた際、帰りはいつも3日4日待たされるのでここに家を借りたのだそうだ。

「年に50日以上使いますから、宿よりも安上がりですの」

そう言ってドアを開け、ラインハルトを招き入れた。

「お帰りなさいませ、お嬢様」

出迎えたのは初老の執事風にした 自動人形(オートマタ) である。

「ただいま。ザフィオ、お客様だからよろしくね。あとそのお嬢様ってのやめて」

「かしこまりました、お嬢様」

自動人形(オートマタ) はそう言って何か準備をするのであろう、家の奥へ姿を消した。

「もう!」

執事風 自動人形(オートマタ) はザフィオというようだ。

「まったく。いくら言ってもわたくしのことお嬢様、って言うのよ、こんな三十路のおばさんなのに、ねえ」

だがラインハルトは首を振って、

「いえいえ、ステアリーナさんはまだまだお嬢様、ですよ」

と言ったのである。

ザフィオが「お嬢様」と呼んでいるのは仕様の筈だ。ステアリーナがそうプログラムしたからに他ならない。そうラインハルトは看破していた。

看破していて、なおかつステアリーナの軽口に乗ったのである。

「あらあら、お上手ね。ラインハルト様はジン君と違って女を口説き慣れてるのかしら?」

「さて、どうでしょう」

さらりとかわすラインハルト。軽く睨むステアリーナ。

「まあ、にくらしい」

そんなやり取りをしていると、ザフィオが戻ってきた。

「仕度が調いました、お嬢様。お客様、こちらへどうぞ」

そう告げたザフィオの後に付いてステアリーナとラインハルトは進んでいった。

廊下の奥の部屋、そのドアを開けてザフィオは、

「どうぞ」

と2人を部屋へと招き入れた。

そこは広い部屋で、正面に大きな窓があり、そこから手入れの行き届いた庭が見える。南向きなのだろう、光もたっぷりと差し込んで明るい。

中央にはシンプルだが形のよい丸テーブルが置かれ、 お茶(テエエ) が2つ、ほのかに湯気を上げていた。

「いろいろとお話聞かせて下さいな。エゲレア王国では周りの耳もあってかなり限られたお話しかできませんでしたものね?」

その言葉の意図を測りかねたラインハルトは、言葉を濁して誤魔化すことにする。

「さて、それほど深いお付き合いでもありませんしね、そこそこお話はしたと記憶しているのですが」

するとステアリーナは悪戯っぽく笑って言った。

「あら、警戒してらっしゃるの?」

更に続けて、

「 統一党(ユニファイラー) についてはまだよくお話してないじゃないですか」

と言ったのにはラインハルトも驚いたのである。

「先日、わたくしが 統一党(ユニファイラー) に誘われたと言うお話しましたでしょう?」

「ええ、でもエゲレア王国の人たちにのみ話してたじゃないですか」

「そうですわね。でも、ラインハルト様やジン君にも話しておいた方がいいと思って。ここはセルロア王国ですから、エゲレア王国に配慮する必要ありませんしね」

そうステアリーナが言うのでラインハルトも聞く気になった。

「 統一党(ユニファイラー) がわたくしに接触してきたのは1年くらい前でした。この世界を変えたいから力を貸せ、というようなことを言われた憶えがあります」

お茶(テエエ) をすすり、一息入れたステアリーナは話を続ける。

「考えさせて下さい、と言うと一旦帰ったんですが、5日後くらいにまたやってきまして、それからは毎日来るように」

仁が聞いたらインチキ宗教の勧誘みたいだ、とでも言っただろうか。

「そのたびに勧誘の言葉も違いましたわ。『金』『権力』それから……ああそうそう、『男性』なんてのも報酬にちらつかされましたわね。わたくし、男性を報酬に欲しいなんて思いませんことよ」

そう言ってステアリーナは笑った。

「はっきりと断ったのは5回目くらいの時でした。そうしたらその人は来なくなったんですが、帰りしなに『後悔するぞ』って……」

「何て言いますか、典型的な脅迫ですね」

ラインハルトも お茶(テエエ) を一口飲む。なかなか香りがいい。

「その後、一度誘拐されかけましたのよ」

「えっ?」

「詳しくは恥になりますので勘弁して下さいね。その時は王国騎士の方に助けていただいたのでこうして無事でいますの」

「そうだったんですか……」

ラインハルトもエルザの事があったので他人事ではない。

「今日だって王国騎士の方が2人、わたくしを陰ながら守って下さっていたはずです」

「気が付きませんでした」

武官ではないラインハルトにはまあ無理であろう。

「ですので、ラインハルト様、あなたもご自分の置かれた立場をもう少し自覚なさって下さいまし」

「そう、ですね……」

それから後は他愛のない話が続けられた。言葉の端々に、ステアリーナは仁ともう一度会っていろいろ話がしたかった事が透けて見えるようだった。

* * *

「と、いうわけさ」

ラインハルトからの長い話はそれで終わった。

「気をつけてくれよ?」

「ああ、これからは1人で出歩かないようにする」

「うん、そうしてくれ」

ラインハルトとのホットライン(?)はそれで一旦切られたのである。