軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

08-10 治療

大怪我をし、瀕死のミーネ。仁はまず、治癒魔法を掛ける。

「『 治療(キュア) 』」

とにかく、一刻の猶予もなさそうである。腹部に刺さったナイフが抜けなかったのは良かった。川の中で抜けていたら、水圧も加わって大出血していただろう。

「『 治療(キュア) 』」

治癒魔法の重ね掛けで応急処置を行う仁。

ミーネにまだ息があるのを確認し、

「この近所に医者……治癒師はいませんか?」

と、集まった野次馬に尋ねる。そのうちの1人が、

「少し街中に入った所にいるよ」

と言ったので、

「済みません、どなたかそこまでこの人を運ぶのを手伝って貰えませんか?」

と仁が言うと、

「ああ、用事があったんだっけ」

「そろそろ帰らないと」

「あたしには無理ね」

などと口々に言い、1人もいなくなってしまった。いや、治癒師のことを教えてくれた中年の女性だけが残っていた。

「なんて薄情な連中だ……」

仁がぼやくと、

「仕方ないさ。元々この街の人間は寄せ集めだしね」

とその女性は言った。

「それより、このナイフは抜いた方がいいね」

そう言うが早いか、一気にナイフを引き抜いた。

「っ!」

やはり痛かったのだろう、意識の無いはずのミーネの身体がびくんと跳ねた。

「何を!」

「『 治せ(ビハントラン) 』」

だがその女性はすかさずショウロ皇国式の治癒魔法を唱え、出血を最小限で抑えたのである。

「あまり長いこと刺したままだと抜けなくなるからね」

筋肉組織が絡みついたり癒着したりしてしまうからだ。

「あなたは?」

その手際に仁が感心していると、

「ああ、私はその治癒師サリィ・ミレスハンだよ」

幸運なことに野次馬の中に治癒師がいたのである。

「だけど困ったね。2人じゃあちょっとこの怪我人を運ぶのはつらいね。主に怪我人への影響って意味でね」

「任せて下さい。……礼子、ちょっと向こうへ行って、 隠密機動部隊(SP) の『エルム』と『アッシュ』を呼んできてくれ」

「はい」

ここで 消身(ステルス) を解くのは怪しすぎるため、姿を消したままで礼子は短く返事をし、川原に生えた木の陰でエルムとアッシュを呼んだ。

「シスター、お呼びですか」

当初、『 隠密機動部隊(SP) 』も仁を『お父さま』、礼子を『お姉さま』と呼んでいたのだが、その役目上、仁を『チーフ』、礼子を『シスター』と呼ばせるようにしたのである。妙な所に拘る仁であった。

「ご苦労さま。しばらくお父さまの指示通りに動いてください」

「はい、シスター」

そして礼子はエルムとアッシュを連れて戻った。

「ご苦労。エルムとアッシュでこの人をそっと持ち上げて運んでくれ。行き先は俺たちに付いてくればいい」

「はい、チーフ」

仁の言うことを聞いている2体のゴーレムを見て、サリィ・ミレスハンは驚いていた。

「君、すごいね。こんな立派なゴーレムを2体も持っているなんて。でも助かったよ。それじゃあそっと持ち上げてくれ」

エルムとアッシュは動けないミーネの身体の下へ左右から手を入れ、そっと持ち上げる。できるだけ腹部の傷に障らないような体勢を維持しながら運ばなくてはならない。

「そうそう、それじゃあこっちへ来てくれ」

サリィの案内で堤防を越え、街中へ。エルムとアッシュが珍しいとは言っても、ゴーレムが日常的に溢れている街、人々の視線もさほどではない。

「そこの角を右に入って、ああ、そこだよ」

堤防から3分ほどでサリィの治癒院であった。小さくドアに『ミレスハン治癒院』と書かれている。

「そうそう、そこにそっと寝かせて、うん、それでいいよ」

ミーネを診療用ベッドに寝かせると、サリィは早速診察に掛かった。

「右手首と右腕の骨が折れてるねえ。お腹の傷は、と……君、ちょっと席外しなさい」

ミーネの服を脱がそうとした手を止めて、サリィは仁に注意をした。

「あ、はい」

仁は隣にある準備室みたいな部屋に礼子と共に逃れる。そして、

「礼子、老子に連絡してみてくれ。エルザの居場所、探知出来たかどうか」

「はい、わかりました」

しばらく礼子は無言で、内蔵された 魔素通信機(マナカム) で蓬莱島と連絡を取っていた。

そして2分ほど後。

「わかりました。それらしい反応が2つあるそうです。1つはイカサナートに。もう一つはトーレス川を遡ること約20キロの場所です」

それを聞いた仁は、

「うん。イカサナートにあるという反応は多分置いていった短剣だろう。とするともう一つの反応がエルザらしいな」

そう推測した。その時隣の部屋からサリィが呼ぶ声が聞こえた。急いで治療室へ戻る仁。

「どうしました?」

サリィが険しい顔で立っていたのである。

「危ないんだ。ナイフは抜いた。傷口も塞いだ。飲んだ水も吐かせた。骨折も治した。だが……」

仁はミーネの顔を覗き込む。血の気が無く白い。おそらくナイフの傷は内臓に達していたのだろう。肝臓とか脾臓は血管が集中しているから出血が止まりにくいと聞いたことがある。

一応工場勤務の時に現場で出来る応急手当などを学んだことがある仁はそう判断した。内臓の損傷は外科的手術の出来ないこの世界では致命的であろう。

「このままだと……危ない」

悲痛な顔のサリィ。患者を救えないというのはやはり辛いのだろう。

「せめて……回復薬があれば……」

「回復薬?」

「ああ。飲むタイプの薬だが、高価でな。錬金術師そのものが稀少だから致し方ないのだが、あれを飲ませることが出来れば、あるいは」

仁はポケットに試作の回復薬を持っていた。だがそれはあくまでも試作、人体実験するわけにもいかず、ずっとそのままだった。

「このままだと、回復する見込みは?」

念のためそう尋ねる仁。サリィは少し考えてから、

「10に1つもない。というか、このまま意識が戻らなければもう駄目だろう」

と言う。仁も悩んだ末、ポケットから回復薬を取り出した。

「ここに回復薬らしき物があるんですが、効果がわからないんです」

と正直に言うと、

「どれ」

サリィはそれを受け取り、いろいろ調べているようだった。最後には、

「『 分析(アナライズ) 』」

分析の魔法を掛ける。この魔法は自分が知らない物は分析できないので、仁が使っても意味がなかったのだが、サリィはというと、

「き、君! これをどこで手に入れたのかね!?」

と興奮して仁に詰め寄ってきた。仁はその様子を見て、

「効果があるんですか? でしたらその話は後にして、使って下さいよ!」

そう言ったのである。言われたサリィは少し顔を赤らめて肯く。

「う、うむ。君の言うとおりだ。それではさっそく」

そう言うと、吸い飲みに中身を3分の1ほど移し、ミーネの口へと咥えさせた。

「飲んでくれよ……」

吸い飲みの半分ほどはこぼれてしまったが、なんとかもう半分は飲ませることが出来た。

そうなると効果は劇的であった。

白かった顔色に赤みが差し、乱れていた呼吸が平常に戻ってきた。

手首で脈を診ていたサリィも、

「うむ、危機は脱したようだ」

と、ほっと溜め息を吐いたのである。