軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

08-02 回復薬

「最後にお前と会った時はまだ俺の胸くらいしかなかったのに、大きくなったもんだ。それに綺麗になった」

そうエルザに言っているのは、エルザと同じ色のプラチナブロンド、水色の瞳をした偉丈夫。その彼は今度はラインハルトに向き直る。

「ラインハルト、妹の子守り、ご苦労だった」

多少尊大な口調にラインハルトは気にした風もなく、気さくに話しかける。

「久しぶり、フリッツ。今は少佐かい」

「おう、今年昇進した。お前もなかなか活躍しているようだな。 黒騎士(シュバルツリッター) の噂、聞こえてきてるぞ」

「それは光栄だな」

幼馴染みらしく、敬語抜きで話し合う2人。

「ああ。今日は国境警備でここエゲレア王国側までやって来ていたんだ。ちょうどこのホテルの横に見覚えのある馬車が駐めてあったからな。もしやと思ったらやっぱりだ」

そしてフリッツと呼ばれたその男はもう一度エルザに向き直って、

「ゆっくり話をしたいが、まだ勤務中なのでな。今夜また来る」

そう言うと、敬礼をして食堂を足早に出て行った。最初から最後まで仁は気にもされなかったようだ。

フリッツが出ていくとラインハルトは頭を掻きながら仁に向かい、

「驚いたろう? あれはエルザの兄でランドル家次男、フリッツ・ランドル・フォン・グロッシュだ。国外駐留軍の中隊長を務めている」

と紹介した。その本人はもういないのだが。

「フリッツ兄さまは軍人。ちょっと単純だけれど」

そうエルザが兄の人となりを説明した。

「なるほど、脳筋か」

うっかり仁は思ったことを口にしてしまった。

「のうきん?」

「何だい、ジン、そののうきんってのは?」

案の定、エルザとラインハルトに聞きとがめられてしまった。仁は仕方なく説明する。

「えーと、脳筋ってのは、脳味噌まで筋肉で出来ているという比喩表現で、考えることより身体を動かす方が得意な人を指して言う言葉……かな」

多少婉曲な表現を交えて説明した。エルザの実の兄に、間違っても『猪突猛進』とか『単純馬鹿』とか『考え無し』というわけにはいかない。

だが、それでもかなり受けてしまったようで、

「脳味噌まで筋肉……フリッツ兄さま……ぷくく……」

珍しくエルザが噴き出しそうになっている。笑いをこらえている様子はかなり新鮮だ。

「あははは、ジンは面白い表現をするなあ! 見ろ、あのエルザの顔。珍しい物が見られた。……さて、それじゃあ僕は手続きに行ってくる。エルザ、お前はどうする?」

まだ身体を震わせていたエルザはラインハルトの問いかけにようやく顔を上げ、

「今日はミーネが街を案内してくれると言っていた」

と答える。

「そうか、ミーネはこの近くの出身だったっけ。わかった。気をつけてな。ジン、君は?」

「ああ、適当に街を見て回るよ」

「そうか。それじゃあ、また夜に。……クロード、行くぞ」

「はっ」

最後には外交官モードの真面目な顔になったラインハルトは、執事のクロードと共に食堂を出て行った。

「それじゃあジン君、また、あとで」

エルザも出ていく。残された仁は、 消身(ステルス) で姿を隠している礼子に向けて、

「礼子、それじゃあ俺たちも行こうか」

と言って食堂を後にしたのである。

* * *

仁は礼子と共に蓬莱島へ戻ってきていた。

いろいろとやりたいことも溜まっていたのである。因みにアンはホテルの部屋に残してきた。誰かに聞かれたら街へ出ていると答えるようにと指示してある。

そしてやりたいことの筆頭と言えば。

「礼子、1日遅れだが誕生日おめでとう」

「え? お父さま?」

仁がこの世界に召喚されて2日後。4月3日は礼子が再生した日であった。今日は4日。遅れた理由、礼子に見つからない様に作っていたら間に合わなかったのである。

「新しい服だ。今度はこれを着てくれ」

今まで着ていた服は、ギガースとの戦闘後のチェックで、わずかに擦り切れた部分が見られたので新しく作ったのである。

生地は同じだが今度の色は漆黒。礼子の髪や瞳と相まって、神秘的でさえある。実はこの黒の染料は、最も対魔法性能がいいのである。

「ありがとうございます、お父さま」

さっそくその場で着替える礼子。古い服は大事そうに畳み、礼子用の装備置き場の一番奥に仕舞った。

「うん、よく似合うな。少し大人っぽく見える」

仁がそう言うと礼子は嬉しそうに微笑んだ。

次はアンから得た情報のチェックである。

一部破損していたり欠落していたようだが、老子により補完されていればかなりの情報が得られるだろう。

「老子、どうなんだ?」

アンから得た情報の復元具合を尋ねる仁。

「はい。情報の復元率は85パーセントです。残り15パーセントは損傷がひどく、申し訳無いことですが復元できませんでした」

済まなそうな老子に仁は、

「ああ、それは仕方ない。で、復元できた情報の中で、目新しい物はあったか? あったら教えてくれ」

と先を促す。老子はすぐに反応した。

「はい。1番目は薬品の知識です。2番目はゴーレムスーツの情報です。3番目は魔導大戦の発端です。あとはまだ補完修復中です」

「なんか面白そうな情報ばかりだな。だが、発端はあって、 魔素暴走(エーテル・スタンピード) の情報はなかったのか?」

「はい。アンは 魔素暴走(エーテル・スタンピード) の起きる前に放棄されたようです」

「なるほどな。それなら仕方ない。それじゃあ、薬品、か? その情報を教えてくれ」

仁の身体は、その98パーセントほどが 魔原子(マギアトム) すなわち魔粒子だけで出来た原子に置き換わっている。ゆえに 魔素暴走(エーテル・スタンピード) が起きたら仁はあっという間に消滅するであろう。だから 魔素暴走(エーテル・スタンピード) の情報を知りたがったのである。

また、同時に 魔原子(マギアトム) で出来た細胞は普通の細胞より安定している。故にトレーニング効果が現れないのが欠点であるが、逆に病原菌などの影響で調子が狂うこともない。唯一の例外が精神的な異常である。

故に怪我はしても病気はしない、というのが今の仁の身体である。成長や老衰はどうなっているか、それはまだわからない。

それはそうとして、薬品について仁は興味があった。先代 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 、アドリアナ・バルボラ・ツェツィから受け継いだ知識の中に薬品に関する物は少なかった。

辛うじて、刺激性のある素材から皮膚を保護する軟膏や、火傷用の軟膏などの知識があるだけ。

「はい。魔力を用いて、体内の治癒力を向上させる飲み薬の情報がありました」

老子の言葉に仁は小躍りせんばかりだった。

「ポーションか!」

某、竜を倒すゲームや最後の幻想ゲームなどで有名なそれ。薬品の合成は 魔法工学(マギクラフト) でなく、錬金術の範疇なので仁も非常に興味あったのだ。

「はい、いわゆるポーションですね。それに魔力を回復させる、いわゆる『エーテル』の情報もありました」

この世界でエーテルと言えば、世界に偏在する魔力素である『自由魔力素』の事である。紛らわしい、と仁は思った。

「まあいい。その製法はわかるか?」

「はい。高位の魔物の血液を精製するのが1番ポピュラーです。血球などを濾し取り、いわゆる『血清』に近い物のようです」

それを聞いて仁は作ってみたくなる。

「あー、でも高位の魔物の血っていってもなあ」

そう呟くと老子が、

「ございますよ」

と言った。

「え?」

「先日倒した 海竜(シードラゴン) 、あの血液を確保、冷凍保存してあります」

「そうか、でかした!」

今度こそ躍り上がって喜ぶ仁。さっそく冷凍血液を見に冷凍庫へ向かった。

「うわあ」

巨大な 海竜(シードラゴン) の血液、それはドラム缶で20本ほどになっていた。だいたい4キロリットル、4立方メートルである。とんでもない量だ。

仁は実験用として、小分けにしてある分を持ち出した。このあたりは気が利いている老子である。

「まずはこれを精製してみるか」

仁は不確かな知識を探り、遠心分離を試すことにする。機械を作ることも出来るが、まずは簡単に、

「礼子、頼む」

と、礼子に任せることにした。

「はい、お父さま」

化学反応に不活性であるアダマンタイト容器に入れた血液を礼子は振り回す。耐久性の高い容器と言うことで、音速に近い速度で振り回されたそれは、予想外の効果をもたらした。

なんと3つの要素に分離できたのである。

本来血清は血液から血球や血小板を除いたものであるが、それを更に誰も考えなかったような超高速で遠心分離したため、『真血清』とでも言うべき液体が見受けられた。

「うーん、この一番澄んでいるところが血清かな? 残りはまた後で分析するから冷凍保存しておいてくれ」

仁は真血清を入れた水晶容器を目の前に持ってきて覗き込んだ。だいたい300ミリリットルくらいの量である。

「老子、これをどうするんだ?」

「はい。それは 魔力素(マナ) を豊富に含んでいるはずです。調べてみて下さい」

言われた仁は『 精査(インスペクション) 』で魔力の流れを調べてみる。すると、確かにその通りである。というか、ほとんど 魔力素(マナ) と言っても差し支え無い。

「あとはそれに指向性を与えるだけです。『治癒・回復』の指向性を与えればポーションに、『吸収・回復』の指向性を与えればエーテルになります」

仁の知識を得ているから、老子の説明は非常にわかりやすかった。但し、 海竜(シードラゴン) の血液から作られたそれは、アンの時代にあったそれの10倍以上の効能を持っているのだが。

「なるほど、 魔結晶(マギクリスタル) に魔法を刻み込むのと同じ考えだな」

理解した仁は、『 療治(メディケア) 』の魔法を刻み込むことにしようと思ったのだが、仁には使えない。今のところ礼子にもだ。

「うーん、どこかで礼子に学習してもらってから、だな」

そう呟いた仁は、実験用として100ミリリットルだけ分け、自分に出来る治癒魔法、『 快癒(リカバー) 』を込めてみた。

液体は一瞬光って元に戻る。

「うーん、効果の程はあると思うんだが、試す相手がいないな」

仁は怪我もしていないし、ゴーレム達に治療薬は必要無い。それで仁は仕方なく作った薬は瓶に入れて使う機会があるまで取っておくことにした。

水晶に 変形(フォーミング) の魔法を使って瓶を作り、コルクに似た木片で蓋をした。一応ポケットに入れておく。

さて、2番目のゴーレムスーツも興味深かった。

「パワードスーツか!」

と仁はめずらしくわくわくする。だが、細かいデータまではないようだ。

「うーん、自己流で作るしかないか」

こうしてまたとんでもない装備が生まれていくのである。