作品タイトル不明
07-21 宴
ギガース破壊の後、帰路に仁達はルコールを捜したのだが、どこへ行ったのかは結局わからなかった。
まだ 統一党(ユニファイラー) の監視が残っていたのかもしれない。まあ子供ではないので、いなくなったこと自体は心配ではないのだが。
ルコールの小屋の下からは、ギガースの 魔力核(コア) を封印していたらしき箱の破片も見つかった。
書かれていた古代文字によると、魔族に遺跡を発見された場合の罠として残された物らしい。
興味本位で魔力を流せばギガースが起動するというわけだ。
遺跡のことは 統一党(ユニファイラー) に知られているはずなので、万が一にも他の秘密が知られないよう残されたゴーレムは全て素材に戻してきた。特に貴重な素材はなかったので惜しくはない。
転移門(ワープゲート) の魔法陣も書き換えてしまったので、仮に再現しても正常に動かないだろう。それどころか暴走してしまうかもしれない。
後日、 統一党(ユニファイラー) のメンバーがルコールからの情報を見てやって来たなら、何も得られず、いや、とんでもない土産を得て帰って行くだろう。
仁達は安心してヤダ村へと向かった。
「一番の収穫はアンだな」
仁がそう言えば、ラインハルトも肯き、懐を叩く。
「この魔導大戦の記録、これだって貴重だしな」
更に仁はアンを顧みて呟く。
「とにかく、修理してやらないとな」
「うん、それはジンにしか出来ないな。是非直してやってくれ」
だが、ヤダ村にそんな設備はない。
「とにかく、エゲレア王国内にいる間に直すべきだな」
とはラインハルトの意見。セルロア王国がきな臭い今、 名誉魔法工作士(オノラリ・マギクラフトマン) である仁なら、エゲレア王国内にいるうちならどこか工房を借りられるだろうと付け加えた。
蓬莱島に連れ帰れば完全に直せるだろうが、ラインハルトたちにはまだ秘密である。仁は次第に秘密を持つ事の面倒くささを感じ、ラインハルトたちに全てを打ち明けたくなってきていた。
道が悪いとは言え帰りは下りである。夕方にはヤダ村に着くことが出来た。
そしてやはりというか予想通りにミーネが飛んできた。
「お嬢様あ! お帰りが遅いので心配しました!」
今回はそれだけで、仁への嫌みは無し。少しは学習しているのかもしれない。
「あー、何だか疲れた」
なんとなく疲れていた仁は、宿の部屋に行き、ベッドに身を投げ出した。
「お父さま、夕食の時間が来たらお起こし致します、少しでもお休み下さい」
との礼子の言葉に甘え、仁は目を閉じ、今日のことを回想する。
アンのこと。
ギガースのこと。
魔力素(マナ) を吸収するシステム。あれは危なかった。礼子があれだけの出力を出せなかったら。
いろいろなことがぐるぐると回り、仁はいつの間にか眠りに落ちていた。
* * *
ノックの音が響く。それで仁は目覚めた。
見ると、礼子がドアを開けに向かっている。
「はい、なんでしょうか」
ドアを開けた先にいたのはエルザ。
「ジン君を迎えに来た」
そう言っている。そういえばもう外は真っ暗、夕食の時間であろう。
仁は起き上がってドアへ歩み、エルザの格好に気が付いた。
お気に入りの若草色のドレス。珍しく髪に花を飾り、胸には仁がプレゼントしたブローチを付けていた。
「エルザ?」
なんで宿の夕食くらいでそんな着飾っているのか理解が追いつかない仁に向けて、エルザは右手を差し出してくる。
「迎えに来た、と言った。さ、行こ」
「あ、ああ」
寝起きでまだよく回っていない頭を抱えたまま、エルザの手を取り……というよりエルザに手を引かれ、仁は食堂へと歩いて行く。
そして食堂に着くと、仁は拍手で迎えられた。
そこにいたのはラインハルト、その執事のクロード。エルザの執事、アドバーグ。そして何と、ミーネまでがいて、拍手をしていたのである。
「ジン君、お誕生日、おめでとう」
仁の手を取ったままエルザが言った。
仁は何が起こっているのか一瞬判らなかったが、やっと状況が理解できたのか、
「みんな、あり……がとう」
と、やっとの思いで口にした。
その目から一筋の涙がこぼれたのを最初に見つけたのはエルザ。
「ジン、君?」
心配そうに仁の顔を覗き込むエルザに仁は、
「あ、ああ。何でもない。ただ、誕生日をこうやって祝ってもらったなんて久しぶりだなあ、と思って。そうしたら何か」
と答える。エルザはそんな仁の手を引いて、
「ジン君の意外なところを見ることが出来た。さ、こちらへどうぞ」
と、今日の主賓らしく上座へと座らせた。自分はその隣に座る。
ラインハルト付きの侍女たちがすぐにワインを注いで回り、全員にワインが注がれたのを見たラインハルトは、
「それでは、我が友人、エゲレア王国 名誉魔法工作士(オノラリ・マギクラフトマン) 、ジン・ニドー君の21歳の誕生日を祝して。乾杯!」
と音頭を取った。
「乾杯!」
「乾杯!」
参加者たちもそれに和する。
「ジン、急なことでこれくらいしかできなかったが、誕生日おめでとう」
ラインハルトにそう言われて、また仁の目に涙が溜まってくる。
「ありがとう」
陳腐だとは思うが、それしか仁は口に出来なかった。
「はい、ジン君」
グラスのワインが空になったと見るや、エルザが手ずから注いでくれた。
「ありがとう、エルザ」
「ん。いつも、ジン君にはお世話になっている、から」
そんな答えを返すエルザがなんとなく大人びて見える。
そこへラインハルトが席を立ってやって来て、
「ジン、時間が無くてこんな物しか贈れないけどな。一応僕が代表して持ってきたがみんなの気持ちだ、受け取って欲しい」
そう言って差し出してきたのは名刺より一回り大きいくらいの平たいケース。
「 互助会(ギルド) の登録証を入れるケースさ」
そう言えば、ちょうど良さそうな大きさである。材質は銀らしい。表には金象眼が施されている。飾り文字でジン、と書かれているようだ。ラインハルトが作ったのだろう。
「ありがとう、大事にするよ」
仁はそう言って、胸ポケットにケースを仕舞う。
その間にエルザはフルーツを取り分けてくれていた。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
今夜は礼ばかり言っている仁だが、不思議と心地よかった。
その夜の食事は、仁が21年生きてきた中でも屈指の楽しい食事となった。
春の宵らしく暖かな風が吹き渡るヤダ村。4月を迎え、季節は春たけなわ。
どこからか、クェリーの花びらが飛んできて、窓辺にひとひら、薄紅色の彩りを添えていた。