軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

07-02 過疎

「さて、話しておきたいことがある」

風呂も入り、夕食も済ませた後の事。

ラインハルトは一行、すなわち仁と礼子、エルザ、その乳母ミーネ、執事アドバーグ、護衛ヘルマン。それに自分の執事と侍女2人を同じ部屋に集めた。

真面目モードである。

「この村のことだ」

ラインハルトは仁を見て、

「何か気が付いた事はあるかい?」

と尋ねた。仁はちょっと考えて、

「うん、なんだか活気がない村だと思った」

ラインハルトは肯き、

「ああ、その筈だ。なにせここは老人しかいない村だから」

と言った。それを聞いた仁は顔を顰めながら、

「こんな所も過疎化が進むのか……」

と呟く。

「かそ?」

それを聞きつけたエルザが仁に尋ねた。怪訝そうな顔だ。

「あ、ああ。だんだん人がいなくなっていく事、かな?」

「そうさ」

ラインハルトがそれを引き継いで、

「人口を維持するためには、一組の夫婦に2人以上の子供がいなくてはならない。エルザ、わかるな?」

「ん」

「乳幼児の死亡率や兵役、疫病などを考えると、3人は欲しいところだな、為政者側としては」

ラインハルトが何を言いたいのか、だんだん仁にもわかってきた。

「端的に言って、この村は人口を維持できなくなった村なんだ」

ラインハルトはそれから少し辛そうな顔で話し始めた。

「だいたい20年くらい前、隣国のセルロア王国は周辺国にちょっかい掛けていた」

深刻な話を少しでも和らげようというのか、軽い言葉を織り交ぜながら。

「その真意は、まあ、先代のセルロア国王本人でなければわからないだろうが、土の下にいる者に聞くわけにもいかんから推測になるが」

そう言ってちらとエルザ、そしてミーネを見、

「領土を広げたかったと一般には言われている、が、そんな小さい理由じゃない」

一息ついたラインハルトは、

「大陸にある王国全てを呑み込みたかったんだ」

と言い放った。

「それって、 統一党(ユニファイラー) の……」

仁がそう言いかけると、ラインハルトは首を縦に振った。

「そうさ。 統一党(ユニファイラー) の理念はその時に既にもうあったんだ。今のセルロア国王は、先代より野心的でないように見える。だがその実は先代以上に野心が強い人物だと、僕は見ている。先代は分かりやすかったが、今の王は……正直、読み切れない。が、他国を支配しようという野望がなくなったはずはない。今は多分力を溜めているんだろう」

そこで再度エルザを見、

「ということで、先代セルロア国王は、正確には21年前から18年前の3年間、エゲレア王国とフランツ王国を攻めたのさ。我がショウロ皇国は、ディナール王国の末裔ではないせいか、特に攻められることはなかった。だが、防衛のため、セルロア王国へ派兵せざるを得なかった時期がある」

それで仁も気づく。

「なるほど、その時期にこの村が過疎になる原因があるわけか」

「まあそう言うわけだ。そしてエルザ、君の父上が功を上げたのもその頃だと聞いている」

ラインハルトがそう言った時、ミーネの表情が一瞬歪んだようだったが気が付いた者はいない。

「父さま、が」

「ああ。叔父上から聞いた話では、国外駐留軍の大隊長としてエゲレア王国にいた時、3倍以上いたセルロア王国軍を押し止め、友軍と付近の住民への被害を最小限に防いだと言っていたな」

「へえ、エルザのお父さんってすごい人なんだな」

それは仁の素直な気持ちから出た言葉であったが、それを聞いたミーネは更に顔を歪めていた。が、俯いているので誰も気が付いていないのは相変わらずだ。

「セルロア王国軍との戦いでは大勢の軍人、兵士が亡くなったが、その中にルイス……クズマ伯爵の父上もいたそうだ」

との説明に仁は納得する。

「ああ、クズマ伯爵が若くして家を継いだというのはその所為なのか」

ラインハルトは硬い表情のまま肯く。

「そうだ。そして兵士はあちらこちらから徴兵されていた。ここもその1つだっただろう。当時20歳から40歳くらいまでの男で、戦えそうな者は皆徴兵されたらしいからな」

逆算すれば、当時40過ぎていた者は今は60近いわけで、この村が老人しかいない事も納得できる。

「村によって部隊が編成された隊もあったと聞く。そして全滅した隊もあったろう。この村はその1つだ」

溜め息と共にラインハルトはそう言った。仁も暗澹たる気分になったが1つの疑問を口にする。

「じゃあ当時、徴兵された人の奥さんや10代だった子供は?」

そう聞かれたラインハルトは悲しそうな顔で、

「多分村を捨てたんだ」

「捨てた、って……」

「ここはエゲレア王国首都の北、セルロア王国軍が攻めてくれば確実に戦場になる。家が残っているから幸いにして戦火に曝されはしなかったようだが、子供を連れた母親達は万が一を考えて避難したんだ」

「…………」

場に沈黙が満ちた。

「少々重い話をして済まない。だが、エルザ、お前も17になったんだ、世の中の事、ましてお前の父上も関与していた当時のこと、少しは知っておいてもいいと思ってな」

そして仁を向いて、

「ジン、君に聞かせたのは、知って欲しかったと共に君の意見を聞きたかった事もある」

「意見?」

「うん。君はさっき『過疎化』と言ったね? つまりこういう村、集落を他でも見てきたもしくは知っているわけだろう? そうしたら、そういう場合に為政者側がどういう対策を取ったのか知っていたら教えて欲しいと思ってね」

ラインハルトも貴族の一員、為政者側の人間である。

また現実にこの世界は人口不足に悩んでいる。それを少しでも解消する手立てを見つける事も必要な事と思っているのだ。

そう言われた仁は、地球にいた時に見た、限界集落を取り上げた番組の記憶を呼び起こす。

「そうだ、なあ」

記憶を辿りながらぽつりぽつりと仁は言葉を紡ぎ出す。

「まずは、産業、だな。そこで稼いで暮らしていけなければ人は集まらない」

「ふむ、正論だな。続けてくれ」

ラインハルトも肯いている。

「若い人たちに魅力ある場所でないとなかなか移住してはくれないだろうな」

土地は多くの地域で余っている。ここに住みたい、と言う理由付けがあるといいわけだ。

「それもわかる。具体的には?」

仁はどこだかの自治体がやっていたというニュースを思い起こし、

「最初のうちは税の軽減、かな。5年間くらいは何割か軽くするというような」

それをこの世界に当てはめられるように修正して説明した。

「なるほど! その5年間で定住してもらうのだな。いい考えだ」

「あとは、生まれた子供の人数によって税を多少軽減する、みたいなことかな」

ラインハルトは感心したように顔をほころばせ、

「すばらしい。それは僕も考えていた。ジン、君は為政者としての才もあるんじゃないか?」

と絶賛した。仁はかぶりを振り、

「い、いや、俺なんてモノを作るしか能のない男さ、買いかぶらないでくれ」

と慌てて言った。何せ、全て受け売りなのだから。

それからもいろいろな話や意見を交わし、夜も更けてきたのでそれぞれ部屋へと引き上げたのである。

* * *

その夜、寝床に横たわりながら仁は珍しく考え込んでいた。

(俺がいろいろな物を作れるのも先代がその全てをくれたからだよな)

寝返りを打つ。

(ラインハルト達に偉そうに説明したって、それは現代日本で教育を受けたからであって、俺の手柄じゃあない)

なんとなくもやもやする。

(俺自身は何をしたらいいんだろう?)

夢中で突っ走り、好きなことをやりたいようにやってきた仁は、この世界にやってきて初めて、自分がこの世界で何をすべきか考え込むのであった。