軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

01-03 温泉

「おにーちゃーん、こっちこっち」

「ハンナちゃん、待ってくれよ……」

今日、仁はハンナと一緒にハイキング……ではなく、薬草取りに山へやって来ていた。

「ふう、ふう、ハンナちゃん、げんきだね……」

「うん!」

さすがの地元育ち、仁とは基礎体力からして違うようだ。もっとも仁は籠を背負っているというハンデもある。

それに、転移の際、焼けただれてぼろぼろになった身体が補完されたために、筋力や持久力などが初期値、つまりトレーニングなどの効果が無い状態に戻ったためなのだが、本人は気づいていない。

「ふう、やっと登った……」

村の北側にある小高い山。標高差は200メートルくらいだろうか。1時間かけて登り切ると、眺めが開けた。

「ほら、あれが村だよ!」

ハンナが髪を風に吹かせながら指差す彼方に、カイナ村が小さく見えた。

「おおー、これはいい眺めだ」

「でしょー!」

頂上付近は草原になっており、足元に村が一望できる。振り返れば北には更に高い山々が雪を頂いてそびえている。

「ああ、この雪があるから水が豊富なんだなあ」

基本的に雨の少ない土地らしいが、高い山には雪が降るため、地下水が豊富らしい、と仁は思った。

そして西には。

「……ハゲ山、か」

草も木も生えていない小山が1つ。よく見ると、山肌が所々黄色くなっており、湯気のようなものも立ち上っている。

「もしかして火山か?」

そんなことを考えていたらハンナが、

「おにーちゃん、はいこれ」

薬草を一杯摘んで戻ってきた。

「これが薬草か」

「うん。すりつぶして傷につけるの。それとこっちはかわかしておくすりにするの」

傷薬と煎じ薬ということらしい。仁も、ハンナが取ってきた物を見本にして薬草を探した。

2人で集めたのですぐに目的の量は採取できた。こういう場合、欲張って採りすぎるのは厳禁である。

「じゃあ、おべんとうにしようか」

「はーい」

パンと、リンゴのような果物。それを分け合って食べた。

「おいしーね」

「うん、そうだな。やっぱりこういう場所で食べるとまた違うな」

食べながら仁は火山とその地形を観察していた。その視線に気が付いたハンナは、

「おにーちゃん、死の山をみてるの?」

「死の山?」

「うん。あの山にちかづいた鳥はおちちゃうの。ときどきへんなにおいもするし。『しょうき』だっておじさんたちがいってた」

「瘴気?」

火山性ガス。硫化水素や亜硫酸ガスは生物が吸い込めば毒になる。そういう呼び名が付いてもおかしくない。

「そっか、大丈夫、近づかないよ。じゃあ帰ろっか」

「うん」

目的の薬草も採取し終え、弁当も食べたのでゆっくりと下山する。危険な獣も出ないこの一帯は、村の重要な採取地となっていた。

「魔物とかも出ないんだな」

マーサから聞いた話だと、『魔導大戦』の時に、この大陸に棲むほとんどの魔物や魔獣が滅びたらしい。残った魔物はずっと北へと退いたそうだ。

「ただいまー、おばあちゃん」

「おかえりハンナ、ジン」

マーサが出迎えた。

「あー、汗かいたな」

「そこに水汲んであるよ。身体をお拭き」

「はーい」

ハンナは、ぱぱっと着ているものを脱いで身体を拭き始めた。まだ8歳、仁が見ていても平気なようだ。仁も仁で、孤児院で年少の子達を風呂に入れていたりするので動じてはいない。年齢のわりに老けている気もしないではないが。

「やっぱり風呂、入りたいな」

ポンプの設置によって水は汲みやすくなったが、燃料は貴重である。入浴できる程の湯を沸かすのは贅沢であった。

「やっぱり温泉か」

身体を拭き終えた仁は山を眺める。火山があそこ、地形からいって地下には温泉の湯脈があるに違いない。

「やっぱり魔法で調べるしかない、か」

知識はあっても、まだまだ仁は魔法を使うという思考に慣れていない。

「えーと、こういう時は土属性の魔法でなにかあったっけな」

脳内辞書をめくるようにして必要な魔法を検索。そして目的の魔法を見つける。

「……よし。 地下探索(グランドサーチ) 。ターゲット変更、 温泉(ホットスプリング) 」

本来は鉱脈などを探す魔法であるが、ちょっとアレンジすれば湯脈だって探せるのだ。 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) の称号は伊達ではない。

「あった。ひとつ、ふたつ、……よし、こいつにしよう」

地下を流れる湯脈のうち、湯量が豊富で、かつ村の近くを流れるものを選定する。次は場所を決めることだ。

「おにーちゃん、どこいくの?」

外に出ようとした仁を見つけ、ハンナが寄ってきた。

「うん、温泉を作りにね。一緒に行くかい?」

「うん!」

温泉がなんだかわかっていないハンナだが、仁といっしょに出掛けるのが嬉しいようだ。

「うーん、勝手に温泉作るわけにもいかないよな」

ということで、仁はまず村長の家へと向かった。

「あ、ジンにーちゃんだ」

「ジンにーちゃん、どこいくの?」

ポンプの件で、村中に感謝された仁は、もうすっかり馴染んでいる。特に子供達は仁に懐いていた。

ぞろぞろと子供たちを引き連れた仁は村長の家のドアを叩く。

「なんだね? おや、ジン君か。どうした?」

壮年の男が顔を出す。このカイナ村の村長、ギーベックだ。

「ええ、ちょっと相談がありまして」

「どんなことだ?」

仁は温泉を掘ること、そこに小屋を建てること、などの必要事項を説明した。

「ふむ、すると君は、お湯の出る井戸を掘って、小屋を建てたい、というのだな? 別に私が反対する理由は無いな。というか是非作って欲しい。何か必要な物はあるかね?」

風呂の有用性を村長も理解してくれたので話は早かった。

「そうですね、小屋がけする木材が欲しいです」

「おやすいご用だ。貯木場から持っていっていいぞ」

「ありがとうございます」

許可を貰った仁は早速候補地へ向かう。そこは村の中程にあるすこし窪んだ場所。

「よし。間違いないな」

地下探索(グランドサーチ) で湯脈を確認後、まず土魔法で浴槽を作る。熱めと 温(ぬる) めの2つ。身体を伸ばせるよう、やや浅くし、その分広さを取る。

「おー! すげー!」

「ジンにいってすごいよなー」

付いて来た子供たちは、仁が魔法を使うのを恐がりもせず、おもしろがって眺めていた。魔法使いという人種を見たこともないので、偏見という物が全く無いのだ。

「よし、これで浴槽はOK、っと」

次には小屋がけ。といっても柱を4本立て、屋根をかけるだけである。付いて来た子供たちも一緒になって丸太を運ぶ手伝いをする。

「よいしょ、よいしょ」

「おまえら、転ぶなよー」

「だいじょうぶだよー」

「よし、それじゃちょっとおさえていてくれ」

子供たちも少し手伝い、そんなこんなで小屋がけ完了。周りにはとりあえず板を立てかけて目隠しにする。

「じゃあいよいよ温泉を掘りますかね。 掘削(ディグ) 。続けて 硬化(ハードニング) 」

湯脈までの穴を掘り、同時に表面を硬化させてパイプの代わりとする。すぐにお湯が湧き上がってきた。

「うん、温度も十分熱いな。というか熱すぎる。あちちち」

慌てて、お湯だまりを作り、一旦溜めておく。その間に、水脈への穴も掘って、お湯と水を混ぜられるようにした。

樋(とい) を使って浴槽にお湯と水を適度な割合で注いでいけば、

「さあ温泉の出来上がりだ」

「おー!」

「にいちゃん、ここでおよぐのか?」

よくわかっていない子供たちに、

「ちがうちがう。ここに入って身体を綺麗にしたり、疲れを取ったりするところだ。ということで、手伝ってくれたお前達、この村で最初に浸かる権利をやろう」

「おー」

「やったー!」

子供たちはその場で服を脱ぎ、すっぱだかになると浴槽に駆け寄る。男の子も女の子も同時である。まあ子供だし、と仁は変な納得の仕方をする。

「入る前に身体にお湯を掛けろよ」

そう注意しながら、自分も服を脱ぐ仁であった。

「うわーい、きもちいいー!」

「こらこら、あんまりはしゃぐんじゃない」

子供たちは初めての温泉に大喜び、浴槽内で泳いだり走ったり、はしゃぎ回っている。

「おにーちゃん」

ハンナが仁の所にやってきた。

「おばあちゃんもきっとよろこんでくれるね」

「ああ、そうだといいな」

仁が作った温泉は村中から歓迎され、更に浴槽を増やす事となった。

泉質は炭酸水素塩泉で肌がつるつるになるので女性にも大人気になり、小屋がけも簡単な物からしっかりした物に。

男性用女性用が分けられ、脱衣所も出来、すっかり温泉らしくなったのである。