軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

06-44 スーパー馬車

ゴーレム馬を馬車に繋げば一応準備完了である。

「さあどうぞ」

仁はキャビンの扉を開く。するとタラップが降りてくる仕組みである。

「これ、すごい」

今回、エルザは裾の長いドレスを着ていたので、降りる時はともかく(飛び降りる)、乗る時にどうしようかと思っていたのだ。

タラップがあれば楽に乗り込む事が出来る。

「中……面白い」

キャビンは6人用。3つの座席が2列並んでいる。向かい合わせでなく、進行方向を向いて。

フロントガラスに当たる窓が広く取られていて、進行方向が良く見えるような配置だ。

シートは魔獣の革張りで、魔綿を入れてあるのでクッション性もいい。

御者席を一応設けてあるが、牽くのはゴーレム馬なので実際には必要無い。よって御者に遮られず、前が良く見えるわけだ。

「礼子、念のため御者席に着いてくれないか」

と仁が言うと、

「……はい」

若干不機嫌そうに答えた。それでも、以前仁がエルザを妹みたいな子と言った事からか、さほど嫌そうな顔をしてはいない。

御者席に座った礼子は振り向いて仁の顔を見る。その仁はエルザと並んで座っていた。それを見て少しだけ礼子の顔が険しくなった。

「よし、頼む」

それに気付いているのか気付いていないのか、仁が出発の合図をした。

礼子はゴーレム馬から伸びている手綱を握り、魔力で指示を出した。ゴーレム馬は静かに歩き出す。

「すごい。動いた」

エルザは喜んでいる。それは動くだろう。

迎賓館裏から表に出、広場へと出ていく馬車。それを見た衛士の目が丸くなった。

馬車はまあいい。少々変わっているが、まあそれだけだ。だが、それを牽いている馬。

緑青(ろくしょう) 色。つまり、金属製であるということ。それはすなわちゴーレム馬。そんなものは初めて見たのだから。

迎賓館裏から出て来た事から、賓客のものだという見当は付いた。が、あまりにも異質なそれを見過ごせず、

「ちょ、ちょっと待て、そこの馬車」

と、停止を命じたのである。

「礼子、止めろ」

「はい、お父さま」

止まった馬車、御者が小さな女の子であるのを見て更に仰天する衛士、だがよく見るとその子に見覚えがあった。

「あ、もしかしてレーコ……さんですか!?」

と、なぜか敬語を使う。

「はい、私は礼子です」

と礼子も答える。

「おおお! やっぱり! 自分は先日のゴーレム騒動の時、レーコさんに間一髪で助けていただいた者です!」

「はあ」

興奮気味の衛士であるが、礼子は一向に憶えがない。仁以外の人間は文字通り『ついで』であったからだ。

「そ、それで、これはなんでありますかっ!?」

「馬車ですけど」

「えーと、許可を貰って俺が造った馬車ですよ」

ドアを開けて仁がそう言うと、

「おお、あなたはジン殿! レーコさんの製作者にして『 名誉魔法工作士(オノラリ・マギクラフトマン) 』を受けたお方ではないですかっ!」

暑苦しい衛士だ。興奮した時のラインハルトより暑苦しい。

「そうですか、あなたが造られた馬車。なるほど、馬もゴーレムなわけですね! さすが『 名誉魔法工作士(オノラリ・マギクラフトマン) 』ですっ!!」

「あの、もう行ってもいいでしょうか?」

と礼子が問えば、

「はい! どうぞ!」

と手を振って見送る衛士だった。

「……へんなひと」

とはエルザの感想である。

王城内の広場では、整地されているため乗り心地の検証はあまり出来なかったが、

「すごい。ほとんど揺れない。この前ジン君とライ兄が改造した馬車もすごいと思ったけど、これはもっとすごい」

とエルザは絶賛。

そのまま少し速度を上げてみる。時速10キロくらいか。あまり速度を出すと王城内なので叱られそうだ。

「礼子、ゴーレム馬の出力どのくらいだ?」

と尋ねると、

「はい、だいたい10パーセントです」

との答が返ってきた。仁は満足そうに肯くが、エルザは驚いている。

「……やっぱりジン君は規格外」

それで試運転は終わりとして、馬車をUターンさせる。独立懸架した車輪は軽く、ほとんどその場で馬車は方向転換した。

「なに、今の」

エルザは信じられない物を見た、といった顔。

立場上、いろいろな馬車に乗る機会があった彼女は、今乗っているのがそのどれもが太刀打ちできないような馬車であるということをあらためて認識したのである。

* * *

「おーい、ジン!」

そんな声が聞こえた。そちらを見れば、ロッテを従えた第3王子、アーネスト殿下である。

「部屋から見ていたらなんかすごいもの造ったじゃない!」

やはり興味を持ったようだ。

仁は馬車から降り、王子を出迎えた。

「殿下、いいんですか? 内宮から出て来てしまって」

そう言うとアーネスト王子は、

「いいのさ、僕の王位継承権は4位。兄上2人と叔父上がいるから、この国にとってそれほど重要じゃないのさ」

初めて聞いた王子の投げやりな言葉に仁は、

「殿下、そういうことをおっしゃるものではありません。陛下にとって殿下は紛れもなく血を分けた我が子でしょう。あの騒動の時を思い出してご覧なさい」

そう言って諫めた。

アーネスト王子はうなだれてそれを聞いていたが、やがて顔を上げると、

「……うん、そうだね。ジンの言うとおりかもしれない。気をつけるよ」

「そうなさって下さい、殿下」

ほっとする仁。アーネスト王子はわがままなところがあるが根は素直な少年である。

「それはそうとして、この馬車、すごいね!」

眼をキラキラさせて見つめてくるので仁は苦笑しながら、

「乗ってみますか?」

と言えば、

「うんっ!」

と元気のいい返事が返ってきた。

「えーと、先客が乗ってますけどいいですか?」

「先客?」

王子は馬車の中を覗き込み、そこにいたエルザと目が合った。

「ああ、そういうことか。ジンはこの人とあいびき中だった、と」

「で、殿下!」

慌てる仁、

「あいびき?」

わかってないエルザ。

「殿下、彼女はラインハルトの従妹でエルザと言います。俺の友人です」

「エルザ、です」

エルザは立ち上がり、スカートの裾をつまんで軽く膝を曲げ、一礼する。

「これはこれは。エルザ嬢、エゲレア王国第3王子、アーネストと申します」

王子はそう言ってエルザの左手を取り、その甲に口を付けた。そんな仕草は、13歳とはいえやはり躾の行き届いた王族の顔である。

「さあジン、走らせて見せてよ!」

だがそう言ってはしゃぐ姿は年相応の少年。

仁は礼子に、ゴーレム馬10パーセントで走らせるように指示を出した。

* * *

「すごかった! ジン、僕も欲しい! 作って!」

案の定、王子は同じ馬車を欲しがったのである。