軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

06-41 嫉妬

翌日になると、ようやくエゲレア王城も落ち着きを取り戻した。

午前中は、城内のエゲレア国貴族全員が集められ、クズマ伯爵によると現状の説明と今後の方針を聞かされたそうだ。

そして昼前。

今度は仁達 魔法工作士(マギクラフトマン) まで含めた招待客を含む全員が集められた。

まず最初に、今回の騒動は『 統一党(ユニファイラー) 』の仕掛けたものであったこと、セルロア王国特使のドミニクがその直接の犯人だったこと、エルラドライトを使い、大規模な攻撃を仕掛けたこと、その対策が既に存在し、今後各国にその技術を伝える用意があること、などの発表が行われる。

そして最後にゴーレム 園遊会(パーティー) の締めくくり。

「予想外の事件のため遅れてしまったが、王子アーネストのために集まってくれた諸君に礼を言うと共に、持ち寄ってくれたゴーレムに対する評価を発表したい」

国王陛下の言葉に、その場にいる全員が深く頭を下げる。

そして、内務卿ウィリアムがそれの後を引き継ぎ、結果が発表された。

「一位、アーネスト殿下お気に入りゴーレム、『ロッテ』。二位、惜しくも壊れてしまったが、その見事な造形で目を楽しませてくれたクリスタルゴーレム、『セレス』」

皆納得の順位である。

そして三位は 黒騎士(シュバルツリッター) 。四位以下は無かった。今回は致し方あるまい。

「『ロッテ』を献上してくれたブルーランド領主補佐にして東部地区長官、クズマ伯爵には領地の加増、そして製作者の 魔法工作士(マギクラフトマン) 、ジンには褒美を与える」

仁も貰えるようだ。これは礼子の件とは別である。

「『セレス』製作者である 魔法工作士(マギクラフトマン) 、ステアリーナ殿にも感謝を表したい」

ステアリーナもなにがしか貰えるようである。

「そして 黒騎士(シュバルツリッター) 製作者でありショウロ皇国外交官、ラインハルト殿にも同様、感謝申し上げると共に礼物を進呈させていただく」

エゲレア王国側からの賛辞が述べられ、褒賞が発表されていく。

だがエルザは今日も朝から浮かない顔をしていた。それに気付いたラインハルトは、

「エルザ、気分でも悪いのか?」

と小声で尋ねる。が、エルザは無言で首を振った。

「そうか、ならいいが……」

仁が貰った褒美は、エゲレア王国の『 名誉魔法工作士(オノラリ・マギクラフトマン) 』の称号と、ごくごく小さいエルラドライトの嵌った徽章であった。

国が全て管理しているエルラドライトを贈られるという事は、エゲレア王国では国賓に準ずる待遇と言える。要はそれだけ信用・信頼のある人物という事。

「ジン、これから大変だぞ……」

各国、こぞって仁を欲しがるに違いない。ラインハルトのその呟きを耳にしたエルザはその時だけ俯いていた顔を上げた。

* * *

「あー、疲れた」

迎賓館の自室でベッドに横たわり、仁はぼやいていた。堅苦しい場は苦手である。

その時ノックの音が。どうぞ、と仁が言い、礼子がドアを開けた。仁は身体を起こし、ベッドに腰掛けて迎える。はっきり言って行儀悪い。

「失礼します」

そう言って入って来たのは 王宮隠密侍女隊(ロイヤルシークレットメイド) のライラだった。仁の監視を兼ねて付けられているはずだが、例のゴーレム騒動以来、時々いなくなっている。

で、今度はわざわざノックをして入室してきたのだ。

「あ、あの、短い間でしたが、ご面倒おかけしました!」

そのライラは開口一番、そう言った。

「え? 短い間?」

「は、はい! 今日ただ今をもちまして、ジン様の行動監視任務を解かれました!」

『 名誉魔法工作士(オノラリ・マギクラフトマン) 』の称号を受けるような人物に監視を付けるというのは礼を失している、ということだ。

仁もそれは察する事が出来た。それで、

「ああ、そうか。今までご苦労さま」

と労いの言葉を掛ける。

「はい、いろいろ到らないところがあったと思いますが、お許し下さい」

まあ監視がちゃんと出来ていたかはわからないが、侍女としては75点くらいはとれているだろう。仁がそう言うと、

「あ、ありがとうございます!」

感激したように顔を赤らめ、そう言った。そしてもう一度深くお辞儀をして、

「それではお名残惜しいですがこれで失礼致します」

そう言って去っていった。ドアを閉め忘れて。

「……70点に減点」

開きっぱなしのドアを礼子が閉めるのを見、苦笑しながら仁はそう呟いたのだった。

* * *

「エルザ、本当にいったいどうしたんだ?」

迎賓館に引き上げた後、ラインハルトは気になってエルザの部屋を訪れていた。

「……ライ兄」

何となく潤んだ目をしたエルザは、俯せにベッドに横たわり、顔だけ上げてラインハルトを見、重い口を開いた。そして語る。昨夜盗み聞いた仁とステアリーナの会話を。

「……ふうん」

「……それから何だかもやもやして変。どうして?」

その時、黙って聞いていたミーネが口を開きかける。

「お嬢様はジン様の事を……」

だがラインハルトはそれを遮り、

「黙っていろ、ミーネ。……エルザ、ジン達が何をやっていたのか見当は付いているのか?」

と尋ねる。エルザは首を振ってそれを否定。

「……わからない。なんだか仲良さそうだなあと思った。あ、それからジン君には珍しくステアリーナさんに教わっているような雰囲気があった」

それを聞いたラインハルトは結論を口にする。

「エルザ、それは『嫉妬』という感情だよ」

「しっと?」

顔を上げたエルザが復唱するように呟く。

「ああ。お前は昔から、お前の兄君達、そして僕と遊んでいただろう? その時お前は、他の子供が兄君や僕と仲良くしていると拗ねて不機嫌になったものだ」

「…………」

黙って聞いているエルザ。

「同じだよ。お前はジンが他の女性と仲良さそうに話していたから妬いているんだ」

「そんな、こと」

「無いと言えるか?」

そう言ってラインハルトは横になったエルザの頭をそっと撫でる。

「そんなところ、幾つになっても変わらないな。気になったなら直接聞いてみればいいのに、そうやって内に籠もる。まったく、お転婆の癖に妙に臆病なんだから」

そう言いながらもラインハルトの声音は柔らかく、頭を撫でるその手は優しい。

「今日で17だろう? なのにまだまだ子供だな」

そう言ったラインハルトの手を押しのけて、

「……もう子供じゃない」

そう言って起き上がるエルザであった。

「よし、その調子だ。いいか、相手の事を思いやれる。それが大人ってものだ」

「あいての、こと……」

「そうだ。お前、『アルバス』が襲ってきた時、真っ先にジンをかばったじゃないか。あの時の気持ちを思い出せ」

「…………」

「ジンにはこの後僕が確かめてきてやる」

そう言ってラインハルトはエルザの部屋を出ていったのである。

* * *

ラインハルトが仁の部屋を訪れると、

「ラインハルト、いいところに。今、訪ねていこうと思っていたんだ」

仁がそう言った。そして、

「今日、エルザの誕生日だったよな?」

と確認する。ラインハルトが頷くと、

「以前、ボルジアを見て回った時、エルザが短剣を欲しがっていたんだが、誕生日に短剣を贈るってどうなんだ?」

と聞いた。やはりステアリーナの話だけでは不安だったようだ。そしてそれを裏付けるように、

「うーん、他人が贈る事はあまりないかな。大概は親族、家族が贈るなあ。だが、贈ってはいけないわけではない」

「そう、か」

仁にしてみれば微妙な答であった。仁はしばらく頭をひねっていたが、

「それならラインハルト、頼みがある」

そう言って一振りの短剣を差し出し、

「ラインハルトならエルザの親族、これを渡してもおかしくないだろう?」

それを受け取ったラインハルト、その鞘、柄に施された見事な造形に驚き、更にそれを抜き放ってみて、ミスリルの輝きに驚嘆する。

「ジン、もしかしてこれ、君が作ったのかい?」

仁が肯くと、

「ううむ、君はよほど創作の神に愛されているんだな。素晴らしい、見事な意匠だ。ちょっと真似できない」

と褒めちぎるラインハルトだが、仁は頭を掻き、

「いや、実はデザインはステアリーナにやってもらったんだ」

と告白した。それを聞いたラインハルトは、仁の部屋を訪れた目的を思い出し、

「そう言えばジン、昨日の夜、ステアリーナ殿と何かやっていたようだな?」

とさりげなく問うてみる。そう聞かれた仁は困ったような照れたような顔をして、

「まいったな、廊下まで聞こえていたか? ああ、俺ってデザインが致命的に苦手なもので、素材を探していた時にステアリーナに出会ったんで相談に乗って貰ったんだ」

と答えた。そしてエルザには内緒にな、と付け加える。

それを聞いたラインハルトはそんなところだろう、と内心頷いた。よく考えてみれば、礼子という小姑(?)が付いているのだ。そうそう仁に色仕掛けが成功するとは思えない。

心の中で安堵の溜め息をついたラインハルトは晴れやかな顔で、

「よし、短剣については引き受けた」

そう言って仁の肩を叩いたのである。