作品タイトル不明
06-35 ロッテ改造
翌日、朝から仁は大忙しであった。
「ジン様、アーネスト殿下がお呼びでございます」
朝食が済むとすぐに王子からのお呼びが掛かり、内宮へと出向く。そこにはロッテを伴ったアーネスト第3王子がいた。
「ああ、ジン、早速だけど『ロッテ』をちゃんと直してあげてよ!」
そう言ってくるアーネスト第3王子。王族らしいわがままさはあるが、自分の作った『ロッテ』を大事にしてくれる故、と仁は笑って承知した。
「出来たら前より丈夫にしてくれると嬉しいな」
そう言った王子に仁は、
「丈夫にですか? 強くするんじゃなくて?」
と尋ね返した。すると王子は、
「うん、そりゃあ強い方がいいに違いないけど、それ以上に壊れて欲しくないんだ」
と返してきた。その答えにも仁は好意を持つ。そこで、
「わかりました、全力で取りかかりましょう」
と答えたのである。王子は大喜びで、
「そうか! じゃあ、倉庫にある資材は何でも使っていいからね! 僕の名前で許可を出しておくから!」
そう言って奥へ引っ込んだかと思うと書類を手にしながら戻ってきて、
「これを見せれば、管理官はジンを通してくれるから」
そう言って許可証を仁にくれたのである。
「さてさて、どんな資材があるのやら」
許可証を手にした仁は、まず王宮内の工房を借りた。普段は騎士ゴーレムの整備をしている場所らしい。
そこにロッテを待たせ、そこから資材を乗せる台車を引っ張りながら半ばワクワクしつつ王城の資材置き場へと向かう。それは内宮の隅にあり、2人の兵士が守り、入ったすぐの所には管理の係官が詰めていた。
仁は王子にもらった許可証を見せるとすぐに通してもらえる。一応係官が付いて来て、ねこばばをしないか見張っているが、仁にはそんな気はまったく起こらない。何せ蓬莱島のものより数段劣っているからだ。
とはいえ、貴重な資材もそれなりに置かれてはいる。
仁は軽銀をたっぷり、青銅もそれなりに。加えてアダマンタイト少々、 魔結晶(マギクリスタル) 4個、そして『 砂虫(サンドワーム) 』の革を使わせてもらうことにした。
王子の許可がなければ、とかぶつぶつ言っている係官を尻目に、仁は材料を乗せた台車を押して王子に借りた工房へと戻っていった。
戻った工房にはロッテだけでなく王子も待っていた。
「殿下!?」
「あはは、ジンがロッテを直すところを見たくて、今日の勉強すっぽかして来ちゃったよ」
アーネスト王子はよほどゴーレムが好きなようだ。いや、好きなのはロッテをなのか。
「ここで見ていてもいいよね?」
「ええ、どうぞ」
この純粋にゴーレムを愛する王子のことを仁も嫌いではない。
ロッテの魔力を停止し、
「まず、骨格を強化します」
そう説明してから作業に入る。
「あ、それは軽銀だね? それにそっちはアダマンタイトだ」
将来は自分でゴーレムを作りたいと言うだけあってそこそこ知識もある。
「はい、まず鋼鉄製だった骨格を軽銀に交換します」
そう言って仁は同一寸法でロッテの骨格を形成していく。普段ならあっというまに終える作業を、王子のためにゆっくりと行いながら。
「へえー、ロッテの骨格ってこうなっているんだね」
「人間に近くしているんですよ」
時々解説を入れながら作業を続ける仁。続いては摺動部にアダマンタイトをコーティング。
「あー、そうか。アダマンタイトを部分的に使う事ですり減ったりしないようにしているのか」
なかなか理解力もある。
次の作業は筋肉組織。『 砂虫(サンドワーム) 』の革を繊維状にし、よりあわせて『 魔導筋肉(マジカルマッスル) 』を作っていく。
「すごい、初めて見る技術ばかりだ……」
そう言いながら王子は仁の作業をじっと見つめる。筋肉を付けた状態のゴーレムは正直言って不気味なはずだが、この王子はそんなことに頓着しなかった。
そしていよいよ一番重要な 魔導装置(マギデバイス) の組み込みだが、これは既にある物を移植するだけなので簡単かと思いきや、
「殿下、この構造がロッテを『隷属書き換え魔法』から守っているのです」
そう言って 魔導装置(マギデバイス) を良く見えるよう、王子の目の前に差し出してみせる。
「ふうん、これがロッテの心臓部なのか。……この箱はミスリルかな? 何か 魔導式(マギフォーミュラ) が刻んであるね?」
「ええ、外部から来る魔法を防ぐ 魔導式(マギフォーミュラ) ですよ」
「そんな 魔導式(マギフォーミュラ) があるの!」
『 魔法障壁(マジックバリア) 』と同質の 魔導式(マギフォーミュラ) である。発生場所が空間と筐体という違いはあるが。
仁は、この後『隷属書き換え魔法』から守るための手法として魔法相にも伝える予定です、と言って作業を再開。
胸部のしかるべき位置に収め、周囲を 魔導筋肉(マジカルマッスル) で覆えばよい。
「これで第1段階は終了です」
そう言って仁は王子からの質問を待つ。案の定、王子は質問をしてきた。
「ねえ、 魔導装置(マギデバイス) をミスリルで覆っちゃったら、外からの魔法を受け付けないかもしれないけど、中からも魔力を取り出せなくなるんじゃないの?」
なかなか鋭い質問である。そんな王子の疑問に仁はわかりやすく答えていく。
「普通ならその通りですよ。でも、この筐体から何本か線が出ているでしょう?」
仁は6本ほど飛び出ている線を指差した。
「うん」
「これが身体の各部に魔力を伝達する導線です。それぞれ両手両脚、頭、そして胴体へ繋がっています」
「ああ、そっか。じゃあ、その線から逆方向に魔法が伝わることはないの?」
王子の理解力は抜群だ。仁は嬉しくなって、突っ込んだ解説を始める。
「それはありません。この線はミスリルで出来ていて、魔力は通しますが魔法は通しません。どうしてかというと……」
魔力は単なるエネルギーの波動だが、魔法はある意味実体を持つエネルギーなので、この細さの導線を通ることは難しいと説明した。
さすがにその説明は半分くらいしか理解できなかったようだが、少なくともそういうものである、ということだけは伝わったようだ。
「ジンってすごいね。先生よりも物知りみたいだ」
尊敬の眼差しを仁に向けるアーネスト王子。仁は笑って作業を再開する。
「では、ロッテの再生、最終段階に入ります」
そう断りを入れて、旧ロッテの外装を取り外し、新ロッテへと移行させていく。足りない分は持ってきた青銅で補いながら。
みるみる元の姿を取り戻すロッテを見て、王子も嬉しそうだ。
全部の外装を移植し終えた時、残っていたのは鋼鉄の骨格のみ。あとの部材は全て再利用した。
「さて、最後の仕上げをしますか」
仁はそう言ってロッテの骨格を一度鋼の 塊(インゴット) に戻す。
「ふわあ、なんて見事なんだろ」
骨格が見ている間に塊となる様子を見て感心する王子。これでも仁はいつもの10分の1くらいの作業速度なのである。普通ならあっという間に変形が終わっているのだ。
「亜鉛を分離します。『 精錬(スメルティング) 』」
錆止めに使った亜鉛を分離する。亜鉛ってなんだろう、と王子が呟いていたが、そこまで説明するとさすがに時間が足りなくなるので聞こえないふりをして先へ進む。
「『 変形(フォーミング) 』」
分離した鋼鉄を変形させて円板を作っていく仁。そう、『 お盆(トレイ) 』だ。メイドさんと言ったらお盆、と思った仁の遊び心でもある。が、それにとどまらないのが仁。
「『 熱処理(ヒートリート) 』。『 硬化(ハードニング) 』。『 表面処理(サフ・トリートメント) 』」
「わあ、お盆だあ」
仁特製、打撃にも使え、投げることも出来る武器である。
更に仁は残った鋼でナイフを数本作った。
それでもまだ余っていたので、考えた末に仁が作ったのはモップ。鋼鉄製のモップである。打撃武器としてもかなりの物である。先には余った『 砂虫(サンドワーム) 』の革で房を作った。
最後に、工房外に控えていた 王宮隠密侍女隊(ロイヤルシークレットメイド) のライラを呼ぶ。今日も仕事とは言え、付かず離れず仁に付いて来ているのを知っていたのだ。
「あ、あ、あの、な、なにか御用でしょうか?」
王子もいる所へ呼び出されたライラは少し緊張していた。いや少しどころでは無さそうだ。
「あれ? 君は確か、魔導騎士隊のアイリの妹じゃない?」
そんな王子の言葉にライラは、
「は、はははははいっ! 私はアイリの妹でございまひぅ」
壮大に噛んだ。しかも痛そうだ。
「やっぱりね! アイリに良く似ているよ!」
「お姉ちゃ……姉みたいに優秀ではありません……」
俯いてしまうライラ。どうやら姉は魔導騎士隊でかなりの地位にいるらしい。
だが仁はライラに用があったので、
「殿下、先にこちらの用を済ませたいのですが」
そう言うと王子は素直に話を止め、
「ああ、ごめん! ライラ、ジンが何か君に頼みがあるそうなんだ」
とライラに告げた。
「は、はい、なんでしょうか?」
そこで仁は本来の用事を口にする。
「えーとな、君と同じサイズの侍女服一式が欲しいんだ。……下着も含めて」
「ふえ!?」
真っ赤になって俯くライラに、仁は誤解しているんじゃないかと思い、
「いいかい、『君の』侍女服じゃないぞ。『君と同じサイズ』の『侍女服』の『新品』が欲しいんだからな」
としっかりと説明する。王子も口添えして、
「ほら見てごらん。そのゴーレムに着せるんだよ。そうだね、ジン?」
「あ、ああ、そうだったんですか、てっきり、あたし……」
てっきり何だというのだろう。そう仁は思ったが、口には出さない。
ライラはすぐに戻ります、と言って工房を出て行き、本当に5分くらいで戻ってきた。
「あ、あの、これでいいでしょうか」
「うん、ありがとう」
差し出された侍女服一式、礼を言って受け取った仁は、まずロッテを起動する。
「ロッテ、『起動』」
「はい」
「きゃっ」
横で見ていたライラが驚いて小さく悲鳴を上げた。横たわっているゴーレムがいきなり起き上がるのは慣れないと驚くようだ。
「ロッテ、どうだ、身体の調子は?」
仁がそう尋ねると、
「はい、お父さま、すごくいいです。ありがとうございます」
そう答えてからアーネスト王子の方を向き、跪くと、
「殿下、ご心配おかけしました」
と挨拶をしたのである。王子は喜び、
「ロッテ、もう大丈夫なんだね、よかった!」
そう言って抱きついた。そして驚いた声を上げる。
「ロッテ、なんで君はあったかいんだろう?」
それに答えたのは仁。
「殿下、実はロッテには体温を作る 魔導回路(マギサーキット) が組み込まれているんです」
これは礼子を初めとした仁作製の 自動人形(オートマタ) 、ゴーレムのほとんどに組み込まれた機能である。
金属製のゴーレムでは触れた時に冷たいのでそれを解消するのが目的だ。
「へえ、やっぱりすごいや、ジンは!」
更に尊敬の念を募らせる王子。仁はロッテに、
「ロッテ、そこにある服を着なさい」
と指示を出し、それを着たロッテはすっかり侍女ゴーレムとなる。
ナイフはスカートの下、太腿に装備し、お盆を小脇に挟んでモップを手にすれば仁のイメージする戦うメイドさんの出来上がりであった。