軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

06-28 反撃開始

仁は周囲を見渡していた。

最初は混乱していて、仁の使える攻撃魔法、例えば『 光束(レーザー) 』や『 水流の刃(ウォータージェット) 』は、直進性と威力が高いのとで周りの人間を巻き込んでしまうおそれがあって使えなかったのである。

だが混乱が少し収まり、立っている人間が一握りとなった今、撃つ方向さえ見極めれば遠慮無く使えるというもの。

「ビーナ、俺から離れるなよ」

「え、え、え? 何するつもり、ジン?」

慌てるビーナに答える暇も惜しみ、仁は『 光束(レーザー) 』を放った。

狙うはエルザに群がっているゴーレム達である。

保護指輪(プロテクトリング) のバリアがレーザー光を防げるか自信がなかったので、バリア正面ではなく横にいるゴーレムから片付けていく。

今回も証拠を残すために、 魔導装置(マギデバイス) のある部分は避けている。つまり、下半身を重点的に消滅させていったのだ。

「す、すごい……」

横にいるビーナは驚きを通り越して呆れていた。仁の腕輪が光る度に、ゴーレムの下半身が蒸発して無くなるのだから。

それを数回繰り返し、ようやくエルザの周囲にいたゴーレムが一掃された。

「エルザ!」

涙に潤んだ目で、エルザはゴーレム達が倒されていくのを見ていた。そしてそれが仁の魔法であることも。

「ジン、くん……」

がくがくする脚を動かし、エルザは仁に駆け寄り、

……バリア同士ぶつかって跳ね返った。

「あうっ」

バリアの中で尻餅をついたエルザ。仁は苦笑して、

「エルザ、バリアを解除しなくちゃな?」

そう言って周囲を見回し自分のバリアを一旦解除。エルザも同様に解除したので、その手を取って立たせてやる。仁の手に握られたエルザの手は少し震えていた。

そんなエルザを仁は慰めてやりたかったが、

「済まない。でもまだまだゴーレムはうようよしているんだ。出来たらビーナを頼む」

「え、ジン?」

エルザの頭を一度だけ撫で、仁はビーナをエルザの方へ向けて押しやった。エルザはそんなビーナを抱き留める。そして、

「バリア」

再びバリアを張る2人。

「俺はラインハルト達に加勢に行く。2人は壁の方へ行くんだ。そうすれば少なくとも後ろから襲われることはない」

「……わかった。気をつけて」

いろいろと不満はあったが、エルザも今の状況は理解している。まだ少し震える脚でビーナと共に壁際まで下がるのであった。

* * *

少しだけ時間は戻って、迎賓館。留守番の礼子。姿は現している。

「……今の揺らぎは」

強大な魔法の波動が流れたのを感じた礼子。

「この前、アルバスとかいうゴーレムが使ったのと同種の魔法ですね。方向は城内、大広間のある方、ですか」

礼子はゆっくりと歩き出した。

「ど、どこへ行くんですか?」

居残りの 王宮隠密侍女隊(ロイヤルシークレットメイド) 、ライラがそう尋ねたが礼子はただ一言、

「お父さまが……危ない」

そう呟くと、部屋を飛び出した。

「あの、ちょっと!」

ライラも礼子を追って飛び出したが、

「ひぅっ」

廊下の惨状を見て息を呑む。

雑用ゴーレムが暴れ回っていたのである。そしてそれを礼子が軽く殴って破壊するところまで目にしてしまった。

「あわわわっ」

慌てて部屋へ戻り、ドアを施錠するライラ。

「い、いったい何が?」

誰も答えてくれる者はいない。

一方、更に礼子は出力を上げ廊下を疾駆する。普段仁に許されている20パーセント。

その前に2体の警備ゴーレムが立ち塞がった。

「邪魔です」

礼子は1度だけその腕を振るった。その結果、2体の警備ゴーレムは吹き飛び、迎賓館の壁を突き抜けて外へ飛び出し、ばらばらになった。

「やはり、さっきの魔法ですね」

進みながら礼子は呟く。

1度目は弱く、2度目は強く。仁には感じ取れなかったであろう2度目も礼子は感じ取っていた。それはゴーレムの待機所近く。

待機していた予備の戦力や雑用のゴーレムが全て影響を受けたということである。

迎賓館の敷地から出た礼子が見たものは一言で言って 混沌(カオス) 。そこかしこでゴーレムと騎士あるいは兵士とが戦っている。

倒れた兵士と壊れたゴーレムが折り重なり、王城の中庭は戦場のようだ。明らかに人間側の旗色が悪いが、礼子の最優先事項は仁の安全である。

とは言え、襲ってくるゴーレムは多く、無視することも出来ない。必然的に礼子はその場にいたゴーレムの多くを破壊する事となった。

「た、助かった……」

「な、なんだ、あの子は?」

「ゴーレム……いや、 自動人形(オートマタ) か?」

傷付いた者達に礼子は救いの神に見えたかも知れない。

今や、警備ゴーレム、騎士ゴーレム、雑用ゴーレム。ゴーレムというゴーレムが人間に反旗を翻していたのだ。

そんな多くのゴーレムを屠りながら進む礼子。

「?」

その中に、場違いな白い鳥型のゴーレムも混じっていた事に気がついたが、今の礼子は仁の所へ駆けつけることを最優先し、詳細を確認する事は無かったのである。

ついに礼子は中庭を横切り、王城中心部、内宮への扉へと辿り着く。だがそこは分厚い鉄の扉で区切られていた。

試しに押してみたが、中からかんぬきが掛かっているのか、動かない。そこで礼子は手っ取り早い手段を取る。

すなわち破壊だ。

があん、と一際大きな音が響き、鉄の扉が歪んだ。

「意外と丈夫ですね」

そこに出来た隙間は30センチほど。20パーセントを出した礼子の打撃でこの程度ということに、扉の頑丈さがわかろうというもの。

それもその筈、扉の厚さは10センチほどもあったのだから。だが礼子が通り抜けるには十分。

扉の隙間を抜けるとそこは更なる混沌の地であった。

内宮前広場では近衛騎士と魔導騎士がゴーレムを迎え撃っていたのである。近衛騎士はその卓越した剣捌きで、そして魔導騎士はゴーレムの弱点、炎系魔法で。

この城で使われている一般的なゴーレムの素材は青銅である。青銅の融点は錫が5パーセントとして1050度くらい。鉛などが混じるともっと下がる。

純度の低い青銅で作られたゴーレムは炎魔法を浴びると変形し、動かなくなった。

とはいうものの、 火の玉(ファイアボール) や 火の弾丸(ファイアバレット) では駄目で、最低でも 炎玉(フレイムボール) でなければ効果が上がらない。

そして 炎玉(フレイムボール) を撃てる魔導騎士の数は少なかった。

そんな混沌の中を、障害物を避けながら広間目指して進む礼子。

幸いなことにそこのゴーレムは既に騎士達と戦っていたため、礼子に襲いかかるゴーレムは僅かであった。それで礼子は先ほどよりもずっと速く進むことが出来る。

しかもその場にいた者達は皆余裕が無く、小さな女の子がものすごい速度で王宮目指して駆けていくのに気付かなかった。

王宮内も混沌としている。礼子目掛けて繰り出される剣、拳を初めとする武器、そしてモップ、箒、お盆などの日用品。

「さすがにうるさいですね」

傷付けられることはなくても、鬱陶しいし進むのには非常に邪魔になる。そこで礼子は、その辺に転がっていた壊れた雑用ゴーレムを見つけ、脚を掴んで振り回す。

礼子の重さは33キロ(この前3キロ増えた)、その礼子が100キロを超える青銅製のゴーレムを持って振り回す姿はシュールではあるが、効果は抜群であった。

広いとは言え幅5メートル、高さ3メートルほどの通路内で振り回されるゴーレムは壁を擦ってその破片をまき散らしながらも、近寄るゴーレムを弾き飛ばしている。

「重さというものはそれだけで武器になりますね……」

そんなことを考えながらも礼子の歩みは止まらない。開け放たれた扉の向こうからは仁の魔法だろう、 光束(レーザー) の光がゴーレム達を消滅させていくのが見えた。

「お父さま! 今まいります!」

礼子は更に進む速度を上げた。

* * *

ラインハルトと 黒騎士(シュバルツリッター) 、そして近衛騎士隊の面々は生き残った人々をなんとか1箇所にまとめようとしていた。

そこにはエルザとビーナも合流しており、大怪我をした者に治癒魔法をかけて応急手当をしている。

「数が多いな!」

黒騎士(シュバルツリッター) は襲ってくる数々のゴーレムを防ぎつつ、近衛騎士隊の援護もしていた。

「 黒騎士(シュバルツリッター) ! 後ろだ!」

警備ゴーレムを殴り飛ばした 黒騎士(シュバルツリッター) は、襲われかけていた女性を助け出してきた。

「あ、ありがとう……」

それはセルロア王国特使のドミニクであった。なんとか無事なようだ。

「ここにいれば比較的安全ですから」

そう告げてラインハルトは 黒騎士(シュバルツリッター) をまた出撃させた。

近衛騎士隊員達は戦闘は2の次にして、怪我人の救出に全力を挙げている。そしてまた1人。

「エルザ様、治癒をお願い致します!」

「わかった」

そう答えて怪我人を見たエルザの顔が引き攣った。怪我人はガラナ伯爵だったのである。

顔は腫れあがり、鼻の骨が折れている。右腕と左脚はおかしな格好にねじれていた。おまけに肋骨が折れたらしく口からは血を吐いており、瀕死の重傷である。

僅かにためらったものの、

「『 痛み止め(シュメルツミッテル) 』『 治せ(ビハントラン) 』」

治癒魔法をかけ、応急処置を行うエルザであった。

そんな中、

「あ、あれは陛下と……殿下!」

1人の近衛騎士隊員が遠くに王と王子を見つけた。

2人は動かなくなったゴーレムで出来た壁の向こう、 銅(あかがね) 色のメイドゴーレムに守られていた。

* * *

倒したゴーレムで作った壁があるとは言え、完全に防ぎきれるわけもない。

今、『ロッテ』は十何体目かのゴーレムを無力化していた。

その腕は傷だらけで指も何本か千切れている。着ていた侍女服は跡形もなく、その美しいボディラインもところどころ凹み傷付き、動く度に関節は軋むような音を立てていた。

「ロッテ、大丈夫?」

アーネスト王子が心配そうに尋ねる。

「はい、殿下。わたくしはまだまだ動けます」

そう言いながらロッテは襲ってきた騎士ゴーレムの剣をその腕で受け、王子が傷付くことを防いだ。

だがその代償は大きく、ついに右腕の肘から先が折れてしまった。

「ああ! ロッテ!」

だがロッテは平然と、

「大丈夫です。わたくしは痛みを感じません。この程度で……殿下危ない!」

「うわあっ!」

また1体、警備ゴーレムが襲いかかってきた。

「させません!」

ロッテはそれを迎撃。だが、右手が使えなくなったため、警備ゴーレムの左拳を防ぎきれず、その胸に受けてしまった。

大きく凹むロッテの胸部、だがそんなことを意に介さず、突き出された拳をまだ使える右脇に挟み、左手でゴーレムの頭部を掴む。

そのまま一気に左手を押し出せば、相手は独楽のように回りながら吹っ飛んだ。

「す……すごいんだね、ロッテ」

王子が感嘆の声を漏らす。

「はい、お父さまがこのように造って下さいましたから」

「お前を造ったというのは……」

それを聞いた王が何か言いかけるが、

「危ない!」

今度は王をかすめた剣。騎士ゴーレムである。片腕を無くしたロッテにはいささか荷が重い相手だ。それでもロッテは一歩も引かず、王と王子を庇ってゴーレムに正面から戦いを挑んだ。

ロッテの利点は速度と柔軟性である。真正面から騎士ゴーレムに挑むのは少々厳しい。だが、必要とあらば敢えてそれをする、それがロッテであり、ロッテの性格の母体となったマルームであり、動作の基礎となったリアンナである。

騎士ゴーレムは大上段から剣を振り下ろす。ロッテは使い物にならなくなった右腕でそれを受け止めた。衝撃で残った部分も肩からもげる。だが騎士の斬撃は十分に遅くなった。

残った左手で剣を掴み、梃子の原理で捻りあげる。あっけなく騎士ゴーレムは右手首が外れ、剣はそのままロッテの手の中に残った。

ロッテは剣を持ち替える時間を惜しみ、刃の部分を持ったままで騎士ゴーレムの首に一撃を加えた。

剣が半分ほど食い込み、騎士ゴーレムの動きが鈍くなる。そこでようやく剣を持ち替える余裕の出来たロッテは、左手に剣を持ち直し、もう一撃叩き込んだ。

今度こそ騎士ゴーレムの首が落ちる、だがまだ相手は止まらない。そこでその首の穴へ剣を突っ込むロッテ。

胴体内部の 魔導装置(マギデバイス) を破壊され、今度こそ騎士ゴーレムは動きを止めた。

「ロッテ! 平気なの?」

「はい、殿下」

だがロッテの左手も今の戦いで指が3本千切れてしまい、剣を持っている事が出来ず取り落としてしまった。それを見ても限界近いことがわかる。

その時ロッテが感じた魔力の波動。

「陛下、殿下、もう大丈夫です」

「な、なんで?」

「何故だ?」

疑問の表情を浮かべる王と王子に向かって、ロッテは傷だらけの顔で笑みを作り、

「お姉様が来ましたから」