作品タイトル不明
35-24 鮮やかな回収
「『コンロン3』ではなく『コンロン2』を使うか……」
『コンロン2』はヘリウムガスで浮揚する、文字どおりの『飛行船』である。仮に魔法が一切使えなくなっても一気に墜落することはない。
風に流され、『魔導無効化』の結界範囲から出られれば再起動できるであろう。
「そして……」
『魔導無効化』の結界へどうやって近付くか、の検討をする仁。
「ジン兄、『 魔法障壁(マジックバリア) 』を張っていけば?」
エルザの意見に仁は頷いた。
「それはそうだな。万が一故障したらまずいから、2系統の 障壁発生器(バリアプロジェクター) を追加で搭載しよう」
元々の 障壁発生器(バリアプロジェクター) と合わせれば3系統。
同行してもらう礼子にも2系統の 障壁発生器(バリアプロジェクター) を追加して持たせることにした。
同様に、操縦士のエドガーにも2系統追加しておく。
加えて、 魔力貯蔵器(マナボンベ) も積載量が許す限り積んでおく。
「トスモ湖に投下された物体が怪しいんだよな。よし、マーメイド部隊2体も同行させよう。操縦はエドガー。俺、礼子、マーメイド1と2で行く」
『コンロン2』はヘリウムで浮かんでいるため、 力場発生器(フォースジェネレーター) で浮く『コンロン3』に比べて積載量が少ないのでやむを得ないことだ。
「ジン兄、大丈夫?」
『 御主人様(マイロード) 、『 分身人形(ドッペル) 』を使った方がよろしいのでは?』
「いや、この事態を引き起こした魔導具が予想どおりなら、俺が行かないとどうにもならない公算が高い」
『それはそうですが……』
「それに、人間なら『魔導無効化』の結界内でも行動はできるしな」
「ジン兄、気を付けて」
エルザも、仁の説得は無理と判断したようだ。
「ライ兄やベルチェさん、サキ姉たちを……よろしく」
「ああ、任せておいてくれ」
仁としてもそこまで何とかできるという自信があったわけではないが、不安そうなエルザを安心させようと、努めて明るい笑顔を浮かべた。
* * *
まず転送機で、安全と分かっているシュベーレ上空へと転移した。
ここから高度を上げ、まずは『魔導無効化』の結界が上空どのくらいまで存在するかを確認する。
『コンロン2』から20メートル程のロープを垂らし、その先端にモニタ用に『 明かり(ライト) 』の効果を与えた 魔結晶(マギクリスタル) をぶら下げておく。
この光が消えれば『魔導無効化』の結界に入ったことになるのだ。
この方法で測定したところ、『魔導無効化』の結界はほぼ半球状であることがわかった。半径50キロ、推定高さ50キロ、である。
高さが推定なのは、ヘリウムで浮揚する『コンロン2』では50キロの上空まで上がれなかったためである。
どこでこの様子を見ているか分からない相手に、目立つことは避けたということもある。
そして結界の中心はやはりトスモ湖であった。
「よし、トスモ湖へ向かおう」
『 魔法障壁(マジックバリア) 』を3重に展開して飛ぶ『コンロン2』は、無事『魔導無効化』の結界内に入った。
「これだって観察されている可能性があるけどな」
熱気球があるこの世界でヘリウム使用の飛行船。相手がどう判断するかは不明である。
一刻も早く、この事態を収拾しなければならなかった。
* * *
「……いつまでこの状態は続くのかしら……」
ショウロ皇国女皇帝、ゲルハルト・ヒルデ・フォン・ルビース・ショウロは為す術もなく空を見上げていた。その目に映ったものがある。
「あれは……? 『コンロン2』?」
見間違えようのない機体。『丸に二つ引き』は仁の紋章である。
「ジン君……来てくれたのね」
『コンロン2』はロイザートの上空を通過し、トスモ湖方面へと消えていった。
「貴方だけが頼りよ……」
祈るような思いで、女皇帝は『コンロン2』の後ろ姿を見送っていた。
* * *
「トスモ湖上空です」
エドガーが『コンロン2』を湖面から10メートル程の所に停止させる。
「よし、マーメイド1、2出動だ。頼むぞ」
「はい、ご主人様」
後部ハッチから2体は飛び降りていった。湖面に2つの水飛沫が上がる。
通常ならマーメイド1の目と連動する 魔導投影窓(マジックスクリーン) に映像が映るのだが、今彼女は『 魔法障壁(マジックバリア) 』を張っているので、そうした情報は送られてこない。
あとは待つのみである。
トスモ湖の水深は最も深い所で20メートル程。水は澄んでいるので、上空からでも何とか湖底は補助光なしで確認出来る。
マーメイドたちは深海での活動のため、暗視機能も持っているので尚更だ。
「湖底は比較的綺麗だな」
廃棄物が多いかと想像していたが、そういうものはほとんどない。
「その分探しやすいんだが……」
結界の中心ということでおおよその当たりは付けてあるのだが、それでもそれなりに広い湖底、なかなか大変な作業である。
30分が過ぎ、1時間が過ぎる。
2時間が3時間となり……。
「ご主人様、見つけました!」
湖面に浮かんだマーメイド2の声が聞こえた。
「よくやった! こっちへ運んできてくれ」
指示を出した仁は、一旦『魔導無効化』の結界から出て『 魔法障壁(マジックバリア) 』を切り、老君と相談する。
「どうすべきだろうな? 解析をすべきか、即破壊すべきか」
『解析すべきです。相手の技術は侮れません。可能な限り調査すべきと判断します』
「そうか……どうやろうかな」
今現在『コンロン2』が張っている 障壁(バリア) から外に出たら、仁も工学魔法は使えなくなってしまう。
「移動……もやめた方がいいな」
魔法が使えないエリアが移動すれば、それはそれで問題になる。
「どうするか……」
工学魔法が使えない以上、一部破壊するしかない、と仁は決定した。
「『 光束(レーザー) 』でスライスするか」
レーザー光線を発生させるのは魔導具だが、放たれた光は物理現象だ。故に『魔法無効化』の結界内でも有効である。
『 御主人様(マイロード) 、『 光束(レーザー) 』を持っているのは秘密にしておいた方がよろしいかと』
「確かにそうだな。よし、それなら礼子、『桃花』で頼む」
「お任せください」
方針を決めた仁は、再び『 魔法障壁(マジックバリア) 』を張り、トスモ湖へ戻った。
マーメイド1と2は『魔導無効化』の結界発生機を持って湖面に上がって待機している。
「意外と大きいな」
それはおおよそバスケットボールくらいの球形をしていた。
「色からすると、外殻は軽銀だな。礼子、頼む」
マーメイド1と2が球を左右から支え、礼子がそれを真ん中から愛刀『桃花』で両断する。
ハイパーアダマンタイトの桃花なら、軽銀や 魔結晶(マギクリスタル) は問題なく両断できるだろう。
「いきます」
『コンロン2』から飛び降りざま、礼子は『桃花』を振るった。
結界発生機は見事に真っ二つになり、礼子はまだ着水する前に『桃花』を納刀。そしてトスモ湖に着水した。
その直後。
「お父さま、魔法が使えるようになりました」
と報告が入る。
仁は『コンロン2』から縄梯子を降ろし、まず礼子を引き揚げ、次いでロープによりマーメイド1と2、それに結界発生機を回収したのであった。