作品タイトル不明
33-20 地下訪問
「ほう、これは」
エレベーターで降りた先は、綺麗に整えられた居住施設になっていた。
「少し月の施設にも似ているな」
「ん。旧レナード王国の遺跡内部にも似てる」
「お父さま、 統一党(ユニファイラー) の本部にも少し似ています」
つまり、過去の技術と共通点があるということ。このことから仁は、ここがそれ相応の過去から続く施設であると推測した。
「こちらです」
『ランス』が先頭に立ち、一行を案内していく。
壁、床、天井は磨かれた石材と金属の組合わせ。手入れはいいが、古さを感じる。
じっくり見てみたいが、すたすたと歩いて行くランスの後に続かなければならないためそうもいかない。
そしてランスは2度ほど角を曲がり、1つの扉の前で立ち止まった。
「ここに製作者の息子殿がおられます」
そして扉横のボタンを押すと、一拍置いてから扉が開いた。
「ランス、ご苦労様」
「お客人をお連れしました」
「うん。……外からのお客様、ようこそ。僕は『ギムナス』といいます。この施設の持ち主です」
ギムナスと名乗ったのは、14、5歳に見える少年だった。髪は淡い金色、瞳の色は赤。肌の色も白に近く、体つきは華奢である。
簡素な、木製の机を前にして座っている。イメージは受験勉強中の中学生だ。
「ジン・ニドーです」
「エルザ・ニドー……です」
「従者の礼子です」
仁たちも名乗った。
「どうぞお掛け下さい」
ギムナスは椅子を勧める。木で出来た椅子のデザインは古めかしかった。
そこで仁たちは部屋を眺め回してみる。
内装は木がメインで、アンティークな雰囲気が漂っている。ところどころに置かれた魔導具がミスマッチといえる。
大きな本棚があって、ぎっしりと本が詰まっている。ちょっと見てみたい、と仁は思った。
侍女姿の女性が2名、飲み物を持って奥から出てきた。仁が見たところ、 自動人形(オートマタ) である。
無言でテーブルに飲み物を置いて下がっていく侍女 自動人形(オートマタ) 。
ゆっくりとギムナスが口を開いた。
「多分、いろいろお聞きになりたいことがあるのだと思います。まずは、僕の方から、事情を簡単に説明しますので、質問はその後でよろしいでしょうか?」
「そうですね、それでいいと思います」
仁も丁寧な受け答えを心掛ける。
「まず、ここの施設ですが、400年ほど前に、この『スホント山』の地下を深く掘って作られたものです。本来の用途としては退避用のシェルターだったらしいですが」
ギムナスは話し始めた。口調ははっきりしていてわかりやすい。きちんとした教育がなされていたことがわかる。
「ここの地下は、『 自由魔力素(エーテル) 』がやや濃いようで、いろいろな研究にはもってこいだと、数十名の研究者とその家族が住んでいました」
効率良くエネルギーが得られるというのはやはり魅力的なのだろう。
「その後、記録によりますと『魔導大戦』という戦争が起こり、かなりの魔導師が亡くなったようですね。ですがここは 自由魔力素(エーテル) が外より濃かったため、そういう目には遭わずに済んだそうです」
要は隠れ里みたいなものだったのか、と仁は話を聞きながら考えていた。
「その魔導大戦以降、外との連絡が取れなくなり、 自由魔力素(エーテル) が減ったこともあって、外とは完全に没交渉となりました。ですが、食糧は地下農場・地下牧場がありましたし、水や資源にも困ることはなく、人手もゴーレムがいましたので、まったく問題はなかったのです。あるとすれば……」
そこでギムナスは一旦言葉を切り、小さく溜め息を吐いた。
「……問題は、人口の減少です」
やはり、と仁は思った。どう考えても、人口を維持できるとは思えなかったのだ。
「血が濃くなったこと。それに、閉鎖・密閉された空間では、生物は徐々に弱ってくるのではないだろうか、という仮説も出されました」
仁もミツホやフソー、いや、ニューエルを見てきた経験から、それには共感できる。
「僕の父が最後の1人だったそうです。それで、父は外の世界へ出て、伴侶を見つけてきたのです」
ギムナスは寂しそうな笑みを浮かべた。
「母の弟……僕にとっては叔父に当たる人は、魔法工学関係の素養があったようで、母と共にここへ移住してきました。その後の話では、母とは血の繋がらない弟だったようですが、見たところ姉弟仲は良かったようです」
ギムナスの母親も、見知らぬ土地へ1人で嫁ぐよりも、義理とはいえ弟が一緒だったなら心強かったのだろう。
「母は僕を産んだ後、健康が優れず、一昨年病で。その後、その叔父がここに定住していろいろ父の手伝いをしていたのです」
人手不足の時に、それなりに使える人間、まして義理とはいえ身内なら一も二もなく手伝ってもらうだろうな、と仁も内心で頷いた。
「ですが叔父は、 邪(よこしま) な考えをいつしか抱いていたようで……ここの設備を悪用することを思いついたのでした」
それが今回の騒動の発端となったのだろう。
「外の世界は魔導大戦の後、随分と文化が後退してしまったようですね」
侍女ゴーレムの運んできた飲み物で喉を潤したギムナスは、再び口を開いた。
「ええと、駆け足で事情を説明したんですが。聞きたいことがあったらどうぞ」
「では、いくつかお聞きします」
仁は確認も含め、聞きたいことを尋ねることにした。
「ここの人手……労働力は、ゴーレムや 自動人形(オートマタ) で賄っているのですね?」
「そうです」
「その何体かを盗み出された、ということですね?」
「そうです。警備用の『ソード』と『グラー』、それに部品の幾つかを」
「部品?」
「ええ。ゴーレム用の『 制御核(コントロールコア) 』と、『 魔素変換器(エーテルコンバーター) 』、それに『 転移門(ワープゲート) 』用の『 制御核(コントロールコア) 』などですね」
「……それから……」
仁の質問でわかったことが幾つか。
まず、この施設には、未使用のゴーレムや 自動人形(オートマタ) が何体も眠っており、必要に応じて起動して使用している。
盗まれたのはそのうちの2体。警備用の『ソード』と『グラー』である。
このうち、『ソード』は『ランス』の下位互換の 自動人形(オートマタ) で、外装を取り付けることでゴーレムとして扱うことができる。
『なぜそんなことを?』と仁が尋ねたが、ギムナスは理由を知らなかった。
「だから、取り戻すときにゴーレムと言ったり 自動人形(オートマタ) と言ったりしたのか」
ジュミから話を聞いていた仁は納得がいった。
「で、その叔父さん、というのはどうなったんです?」
この質問に、ギムナスは俯いた。ランスが代わって答える。
「 製作主(クリエイター) が病気になったとき、先程挙げたものを持ち出して姿をくらましたのだ。その際、水に毒を入れていった。そのせいで 製作主(クリエイター) は亡くなった」
「……ええ。僕も危なかったのですが、なんとか助かりました」
病気で体力の落ちていたギムナスの父は助からなかったという。
「それは、何と言っていいか」
「いえ、ジン殿が気になさることではありません」
ギムナスは少し無理をして笑みを浮かべた。
「でも、だとするとまだその叔父さんは見つかっていないし、 転移門(ワープゲート) 用の 制御核(コントロールコア) も……」
「ええ。でも、そっちの方はわかっています」
「え?」
「ランスが見つけてくれています。先に、悪用されているゴーレムを回収する方を選んだのですよ」
「なるほど、そういうことでしたか」
この説明に仁も納得がいった。
「ええと、できましたら、ジン殿のことも教えていただけませんか? ランスの話に寄りますと、『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』という称号をお持ちだとか」
「まあ、そういうことです。それでは、少し自己紹介させていただきます」
仁は、簡単な自己紹介と、今の立ち位置を説明した。
* * *
「なるほど……そんなお方だったのですね」
「いや、俺自身は大したことはしてないですよ。偉かったのは先代です」
「先代……アドリアナ・バルボラ・ツェツィさんと仰いましたか。聞いたことがある気がします」
「そうですか!」
ギムナスの言葉に、礼子が食い付いた。
「ええ。古い記録に、その方の名前が。我々のゴーレムや 自動人形(オートマタ) はその方の領域を目指すとかなんとか……」
仁も礼子も、そしてエルザも、思わぬ所で先代の名前を聞き、ちょっと嬉しくなったのである。