作品タイトル不明
32-26 この世界に感謝を
『準備完了』
11基の『 魔力素除去器(エーテルエリミネイタ) 』が完成し、それぞれ『ファルコン』1〜10に搭載された。
ファルコンは隠密機動・支援用の『 垂直離着陸機(VTOL) 』だ。
残る1基は仁の愛機『ペガサス1』に搭載される。
ペガサス1は5人乗りなので、仁、エルザ、礼子、サキ、グースが乗りこんだ。
「よし、行こう」
計11機の飛行機が蓬莱島の空に浮かび上がり、西を目指して飛んでいく。
ファルコンの速度は、通常エンジンである『 魔法型噴流推進機関(マギジェットエンジン) 』では時速300キロだが、『 力場発生器(フォースジェネレーター) 』を使えば音速を超えることもできる。
ペガサス1も同じく、通常エンジンでは時速800キロ、 力場発生器(フォースジェネレーター) 使用では超音速を出せるのだ。
今回は低空を飛ぶので、衝撃波を懸念し、時速1000キロに抑えた。
西を目指しているので、空はだんだん暗くなっていく。
ショウロ皇国ではまだ午前5時前である。空はようやく明るくなり始めた。
ショウロ皇国上空を過ぎ、11機はそれぞれの担当方向へと分かれる。更に西にあるこちらは、まだ夜は明けていない。
仁たちは最初に見つけた群れを目指した。
「そろそろ見えてくる頃だ」
速度を時速100キロくらいまで落とし、仁が言った。
「お父さま、前方3キロに暴食バッタ、います」
まだ周囲には夜明けは訪れていなかった。
「よし、『誘引灯』点灯だ」
『誘引灯』とは、老君の報告を受け、仁が大急ぎで作った魔導具で、暴食バッタが好む波長の光を放つ。
薄暗い中では特に効果があるようで、それこそ 雲霞(うんか) の如く暴食バッタが集まりだした。
羽を使って飛び上がり、ペガサス1に向かって飛んでくる。そして『 力場発生器(フォースジェネレーター) 』の壁に阻まれ、停止する。
「うまくいっているな。『 魔力素除去器(エーテルエリミネイタ) 』起動」
「了解」
仁の指示で、グースが『 魔力素除去器(エーテルエリミネイタ) 』のスイッチを入れた。
その瞬間、暴食バッタの動きが止まり、バタバタと落ちていく。
「おお、成功だ」
「……すごい」
「くふ、ジンがいてくれて大助かりだね! あんな大群が穀物を食い尽くしたらと思うとぞっとするよ」
「いや、まったくだな。普通は、ああした群れというのは数の強みがあるんだが……」
サキとグースが仁を褒め称える。
「数の強み、というのは分散されたときに一番発揮されるからな。あんな小さい魔物を個別に討伐するなんて現実的じゃないだろう?」
「お父さまの仰るとおりですね。範囲攻撃を行うか、一箇所にまとまったところを一気に殲滅するか、が有効な戦術です」
そんな会話をしているうちにも、ばらばらと暴食バッタは墜落していく。
15分ほどで、寄ってくる暴食バッタは1匹もいなくなった。
『誘引灯』の向きを変えても、暴食バッタはやって来ない。どうやら殲滅できたらしい。
「礼子、 魔素貯蔵庫(エーテルタンク) のほうはどうだ?」
暴食バッタから奪い取った 自由魔力素(エーテル) は、全て 魔素貯蔵庫(エーテルタンク) に貯蔵している。
「はい、お父さま。持って来た 魔素貯蔵庫(エーテルタンク) の8割が満タンです」
「そうか……まさに『塵も積もれば山となる』だな」
「くふ、それにしてもいったい何匹いたのかね?」
「そうだなあ……1万匹は下らない気がする」
そして仁は明けてきた空を見つめ、
「他の地域はどうしたかな?」
と呟いたのである。
昨日観測された群れは6つ。
残るは5つである。
* * *
『ファルコン1は、『誘引灯』を点灯せよ。ファルコン2は、『 魔力素除去器(エーテルエリミネイタ) 』を起動』
老君は、『ウォッチャー』からの映像を元に、10機のファルコン部隊を2機ずつ5組に分け、それぞれに指示を出していた。
操作上、別々に行った方が即時対応しやすいという理由で、奇数ナンバーと偶数ナンバーにそれぞれ『誘引灯』と『 魔力素除去器(エーテルエリミネイタ) 』の操作を割り振る老君。
『ファルコン3、『誘引灯』をもう少し広範囲に。そのまま維持。ファルコン4は『 魔力素除去器(エーテルエリミネイタ) 』はまだ起動しないように。一網打尽にするのです』
かなり広範囲に広がってしまった暴食バッタもいたようである。
『ファルコン5は『誘引灯』をそのまま維持。ファルコン6は『 魔力素除去器(エーテルエリミネイタ) 』起動しなさい』
小さな群れはそれこそあっという間に殲滅されていく。
『ファルコン7、『誘引灯』をもう少し東へも向けなさい。……それでよろしい。ファルコン8、『 魔力素除去器(エーテルエリミネイタ) 』起動』
的確な指示により、暴食バッタの群れは次々に地面に落下、動かなくなる。
『ファルコン9、『誘引灯』そのまま。ファルコン10、『 魔力素除去器(エーテルエリミネイタ) 』起動』
夜明まえの30分で主な暴食バッタの群れは駆逐されたのであった。
『奇数ナンバーのファルコンは、地上に落下した暴食バッタを全て確保、蓬莱島に送りなさい。偶数ナンバーのファルコンは、駆除漏れがないかどうか、周囲を偵察するように』
どうしても、1匹2匹が逃れることは避けられない。
そうした『はぐれ』による被害をできる限り減らすための指示も忘れない老君であった。
『念のため、被害記録もつけておくように』
後世へデータを残すことは重要である。
* * *
「……どうやら、大きな被害は出さずに済んだようだな」
「……よかった」
仁たちは『ペガサス1』から『コンロン3』に移動し、船室で老君の報告を聞いていた。
「たまたまフソーへ『 虹色芋虫(ラヨチワーム) 』を探しに行ったのは本当に運がよかったな」
グースも胸を撫で下ろしている。
「それでも幾つかの森林や草原は打撃を受けているようだぞ」
上空から見ていると、暴食バッタが通過した区域にあった森林がいくつか食い荒らされている。
骨になった動物もおり、さらにはその骨すら齧られていた。
「もう少し早く気が付いて対処できていればなあ……」
いかにも悔しそうな仁。その顔には悲しみも見える。
そんな仁を励ますかのように、グースは口を開いた。
「確かにな。だが、あれで済んだのが奇跡みたいなものだ。仁は本当に凄いよ」
グースが言うには、過去の伝承にも『暴食バッタ』らしきものは出てきており、村が2つ3つまとめて滅んだこともあったという。
「くふ、ジンには感謝してもし切れないよね」
半分冗談めかして、だが本心からの言葉を呟いたサキであったが、当の仁はというと、当惑した顔をしている。
「……感謝……するのは俺の方だよ」
「え?」
「ジン兄?」
いつになくしんみりした口調の仁に、驚くエルザたち。
「前の世界で、俺は死んでいたはずなんだ。それが、礼子に喚んでもらって、こうしてここにいる」
仁はそっと礼子の頭を撫でる。
「そしていつの間にか居場所ができていて、心を許せる友人や……」
サキとグースの顔を交互に見つめる仁。
「……大切な人ができた」
そっと仁はエルザの肩を抱き寄せた。
「俺は聖人君子じゃないし、英雄にも正義の味方にもなれないけど」
一度言葉を切り、改めて口を開く。
「この世界が、好きだ。第二の故郷となった、この世界を守りたい、と思っているよ」
「ジン……」
「仁……」
「ジン兄……」
「俺の手は小さいから、この世界全てをよくする、なんて言えないし、言わない。でも、俺の知る人々が、泣かずにすむようにできるなら、俺は俺にできることをするよ」
仁はふ、と小さく笑った。
「……全部、俺の身勝手だけどな」
だが、それを聞いたエルザは、仁をぎゅっ、と、抱きしめた。
「……エルザ?」
「……ジン兄、どこにも行かないで」
「……え?」
「なんだか、ジン兄が、どこか遠くに行っちゃいそう、で」
仁はそんなエルザをそっと抱きしめ返す。
「どこにも行かないよ。エルザを置いてどこかへ行ったりするものか」