作品タイトル不明
32-25 生態
「基本は『 自由魔力素凝縮器(エーテルコンデンサ) 』だ」
仁は、その基本となる 魔法制御の流れ(マギシークエンス) をエルザに説明した。
「……すごい考え方」
「お父さま、『 魔素貯蔵庫(エーテルタンク) 』の方はどうしますか?」
「そっちも用意しないといけないな」
「でしたらわたくしが」
「よし、頼む」
エレナの修理をした際に助手を務めてくれた礼子は、その構造も記憶している。
仁としても安心して作業を任せることができた。
「少し多めに作っておいてくれ」
「わかりました」
仁としては思うところもあって、『 魔素貯蔵庫(エーテルタンク) 』を多めに用意させることにした。
「無駄になるものじゃないしな」
仁とエルザ、そして礼子は『 職人(スミス) 』を助手に、それぞれ作業を開始した。
「無秩序に集めるんじゃなく、濃度の濃いところから優先的に集めるようにしたいんだ」
「と、なるとここの 魔導式(マギフォーミュラ) はこうなる?」
「ああ、そのとおりだ。で、こっちはこう、と」
「ジン兄の発想はいつもながらすごい」
そんなやり取りをしている仁たちの方をちらりと見ながら、礼子も作業を進めていく。
「多めに、ということですので200個用意しましょう。 職人(スミス) 25、頼みますよ」
「はい、お嬢様」
こちらは既にあるものを参考にしているので、若干の効率アップのための改良を除き、作業に難しいところはない。
とはいえ、蓬莱島の製品なので、通常では 魔導式(マギフォーミュラ) を書き込めないような小さい 魔結晶(マギクリスタル) に精密な書き込みを行っている。
つまりある意味廃品利用でもあるわけだ。
こうして、暴食バッタに必要なものはその日のうちに準備が終わったのである。
* * *
「こっちは準備完了した。そっちは?」
その日の深夜、仁たちは司令室に集合していた。
「ああ、半日じゃそれほど大したこともできなかったけど、少しは進展があったよ」
相手があることなので、これは致し方ないだろう。
「じゃあ、わかったことを説明する」
グースはサキを見た。それを受けてサキが口を開く。
「まず、食べ物の好みから、だね。……一番好むのは植物質、次が動物質だった。鉱物質はそれほど好まない。齧るけどね」
「ふむ。そうなるとやっぱり作物被害が心配だな」
「そうなんだよ。で、幾つか比較してみると、大麦、小麦、稲なんかは、葉よりも実を好むようなんだよ……」
「ああ、それはまずいな……」
「で、動物質は、生肉と干し肉で比較したら、生肉を好んだんだ」
「ますますまずいな」
危険過ぎる生物である。
「顎の強さだが、鋼鉄は難なく 齧(かじ) るな。アダマンタイトは齧れない。その間といったところだ。時間がなくてそのあたりはまだわからない」
「いや、助かるよ」
「環境変化についてはまだこれからだ」
以上、とサキが締めくくった。
「ありがとう。参考になったよ。……しかし、これは明日、急がないとまずいな」
そこに老君から耳寄りな報告がなされる。
『 御主人様(マイロード) 、暗くなると暴食バッタは移動を止めるようです』
「お、そうか。じゃあ、夜の間は被害が拡大しないで済むな」
『はい。明日の朝向かえば大丈夫かと』
あと少しで、次の耕作地に到達するはず、と、仁は翌日の未明に行動開始する旨を告げた。
「いずれは、こうした活動を『世界警備隊』にやってもらいたいよな」
今回は非常事態であるし、見過ごせる仁ではないのだ。
「ええと、時差があるから、蓬莱島時間で午前9時に移動、でいいだろう」
「くふ、そうだね」
時間に余裕があるのはいいことなので、仁たちは温泉で作業疲れを取り、今夜は休むことにしたのである。
* * *
『暴食バッタは、夜は完全に動きを止めていますね』
一方で老君は昼夜分かたず、その活動を行っている。
移動用端末『老子』を転送機で当該地域に送り込み、更なる調査を続けていた。
ちょうど、大きな群れからはぐれた50匹ほどの一群がいたのである。
『仮説を確認してみましょうか。……『 明かり(ライト) 』……やはり』
魔法による明かりが点いた途端、暴食バッタは動き始めたのである。
『……やはり、いわゆる『鳥目』なのですね。では、どんな波長の光に最も反応するのか、実験です』
暴食バッタが夜間に動かなくなるのは、気温ではなく、単に夜目が利かないからであることを突き止めた老君は、『老子』を用いて更なる調査を開始した。
『……なるほど、昆虫らしく、紫外線にも反応しますか』
暴食バッタは青〜紫〜紫外線領域の光にもっとも強い反応を示すことがわかった。
『明日朝一番で 御主人様(マイロード) に報告しましょう』
強力な紫外線発生機を作れば、暴食バッタを一箇所に集めることができるかもしれない。
老君はこの成果に満足することなく、さらに調査を進めていく。
『どこから、どうして発生するのかはグースさんとサキさんにお任せするとして……』
老君は『老子』を操って、暴食バッタについてのデータを集めていく。
『体長、最小で56ミリ、最大で111ミリ。雌雄で大きさに有意差はない模様』
『ジャンプ力はおよそ2メートル。移動には4枚の羽を使う。羽を動かす筋組織は異常に発達しており、長距離の移動が可能と見られる』
『1日の食事量は1匹につき100グラムから500グラム』
『 自由魔力素(エーテル) がどう作用しているかは……サキさんたちにお任せしますか』
間もなく夜明けである。
『では、ここの群れだけでも捕獲しておきましょう』
『老子』は、50匹ほどの暴食バッタを結界で捕らえ、サキたちの研究用に確保したのであった。
* * *
「あれ? バッタが増えてる」
「まさか一晩で増殖……するわけないか」
翌朝、サキとグースは実験用のバッタが増えていることに首を傾げる。
『サキさん、グースさん、昨夜のうちに確保してきたものです』
「なんだ、そうか。でも助かるよ」
「そうだな。さっそく実験だ」
老君からの説明に納得し、朝食もそこそこに研究を始めるサキとグースであった。
『これらを採集する際に、光に対する反応を調べておきましたので』
老君は、光の波長に関するデータを説明した。
「くふ、なるほど。さすが老君だね。ボクらの手間が一つ減ったよ」
『出過ぎた真似をして申し訳ないとは思ったのですが』
「いや、今は時間が惜しいから、それはそれでよかったと思うよ」
仁も口添えする。
「よし、今日の計画をまとめよう」
あと2時間ほどで出撃である。