作品タイトル不明
32-24 作業開始
「ジン兄、それは……!」
『 魔素暴走(エーテル・スタンピード) 』と聞いて、エルザの顔色が変わった。
「ああ、言いたいことはわかる。 魔素暴走(エーテル・スタンピード) は危険すぎるからな」
エルザを宥める仁。
「お父さま、何かお考えがあるのですか?」
暴食バッタを結界に戻した礼子も、仁に向き直るとあらためて質問をした。
「ああ。要するに、暴食バッタが持つ 自由魔力素(エーテル) は、 魔結晶(マギクリスタル) が内包する 自由魔力素(エーテル) と同質だと言うことだ。いや、純度が違うから、 魔石(マギストーン) と言った方がいいかもしれない」
すると、納得した顔のエルザが口を開いた。
「わかった。とにかく暴食バッタが持つ 自由魔力素(エーテル) を使って何かする、つもり」
「そのとおり」
仁はエルザに頷きかけると、
「まずは研究所に戻ろう」
と言って歩き出した。エルザ、サキ、グースもそれに続く。
礼子は仁の隣を歩いて行った。
「さて、どうしようか」
工房の椅子に座った仁は仕切り直す。
「どうしようか……って、まだ何も考えていなかったのかい?」
サキが疑わしげな顔で尋ねた。
「ああ、違う違う。方針は決まっているさ。……緩やかな『 魔素暴走(エーテル・スタンピード) 』。それが目標だ」
「緩やかな 魔素暴走(エーテル・スタンピード) ……」
エルザがオウム返しに呟く。
「それはもう『 暴走(スタンピード) 』じゃない気がする」
珍しいエルザのツッコミに、仁は苦笑する。
「確かにそうだな。要は、暴食バッタの 自由魔力素(エーテル) を使って大きな魔法を起動させてやろうということさ」
「ふむ、なるほど。となると、焼き殺すか……最初に言っていた凍らせる方法かな」
グースがにやりと笑いながら言った。
「うん。俺もそれがいいと思うんだ。一石二鳥だしな。火は周りに影響があるから、やっぱり凍らせる方向だろうな」
「ジン、凍らせるのはいいけど、溶けたらまた動き出すんじゃないのかい?」
サキが心配そうに言う。
「ああ、その懸念はあるな。だから動かなくなっている間に集めてしまおうというわけなんだが……」
「集めたあと、どうするの?」
「……佃煮にでもするか」
「え!?」
「はあああ!?」
冗談で言った言葉を真に受けたらしく、エルザとサキが引いた。
「いや、俺の世界には、稲子の佃煮ってのがあって、ちょっと連想しただけで、冗談だから」
「……ジン兄にそんな冗談、似合わない」
「うんうん、ほんとだよ!」
「……」
エルザとサキにばっさりやられる仁であった。
「くふ、でももったいないね」
「え?」
「もったいない、と思ってさ。せっかく 自由魔力素(エーテル) を集めてくれているのに、それを消費させてしまうなんて」
サキは半分冗談で言っているのだろうが、仁とエルザはそれで何ごとか思いついたようだ。
「佃煮……か……」
「まだその話をするのかい、ジン!?」
サキが幾分冷たい目で見つめてくる。
「いや、そうじゃなくて、サキが言うように、奴らが集めた 自由魔力素(エーテル) を有効に使う方法はないかと思ってさ」
「確かに、そういう魔法があれば、一番いい」
「まてよ? ……あるぞ!」
「え? ジン、それは?」
「『 自由魔力素凝縮器(エーテルコンデンサ) 』を応用して、奴らから 自由魔力素(エーテル) を根こそぎ奪い取るんだ」
「あ。……奪い取った 自由魔力素(エーテル) は、 魔素貯蔵庫(エーテルタンク) に溜めておけばいい」
エルザも仁の発言の意味する所を察したようだ。
魔素貯蔵庫(エーテルタンク) は、かつてのエレナに使われていた技術である。旧技術ではあるが、ひょんな所で役に立ちそうだ。
「うん、それはいいな。だが、 自由魔力素(エーテル) を奪われた暴食バッタはどうなるんだろう?」
当然の疑問を口にしたグースに、仁は実験してみよう、と言った。
「まずは 自由魔力素凝縮器(エーテルコンデンサ) を改造して、集めた 自由魔力素(エーテル) を 魔素貯蔵庫(エーテルタンク) に溜めるようにして、と」
仁がやることであるから、作業自体は5分で終了。
「よし、やるぞ」
捕まえてきた暴食バッタ3匹のそばで 自由魔力素凝縮器(エーテルコンデンサ) を起動させる。
目には見えないが、周囲の 自由魔力素(エーテル) は凝縮されて、 魔素貯蔵庫(エーテルタンク) に流れ込んでいるはずである。
「よし、一旦停止」
1分ほど動かしたあと、仁は 自由魔力素凝縮器(エーテルコンデンサ) を止め、暴食バッタが内包する 自由魔力素(エーテル) がどうなったかを調べてみた。
「『 分析(アナライズ) 』……おっ、推測どおりだ。うまくいったぞ」
暴食バッタは 自由魔力素(エーテル) を全て吸い取られていた。
「動かなくなった」
そして暴食バッタは動きを停止。
「ふむ、こうなるともう復活はしない、か」
体内の 自由魔力素(エーテル) を全て奪い取ることで退治できるということだ。
魔素暴走(エーテル・スタンピード) 時の魔導士と同じである。
なんとか目処が立った、といえる。
「退治したこいつらは、集めて魚の餌にするか」
「それはいいかも」
生態系から外れた魔物であるから、こうした処置は致し方ないところだろう。
最後まで有効利用することで、自然界への回帰を果たしてくれればいい、と仁は漠然と考えていた。
「よし、それじゃあ対策用の魔導具を作るとするか」
「手伝う」
「ジン、ボクらには何か手伝えることはないかな?」
手持ち無沙汰なサキが申し出る。
「そうだな、実際の場面では暴食バッタをできるだけ集めて処理したいから、こいつらの生態について調べてもらえれば」
何を好み、何を嫌うのか。
顎の強さはどの程度で、どのくらい硬いものを囓れるのか。
気温や環境の変化にはどの程度適応出来るのか。
残った6匹を使い、できる範囲でデータを集めてもらうことにした。
「よし、任せてくれ」
グースも乗り気である。
老君の移動用端末、『老子』も協力する。サキが物性を調べるときのパターンだ。
「植物質、動物質、鉱物質、どれを一番好むか、まず調べてみるか」
「くふ、そうだね。そうやって絞り込んでいくのがよさそうだね」
さっそく実験の手順を相談し始めるサキたち。
「向こうは向こうに任せて、俺たちは俺たちでやろう」
「ん」
仁たちも作業を開始した。
「礼子、闇属性の 魔結晶(マギクリスタル) を頼む」
「はい、お父さま」
空間に作用する魔法との親和性が高い闇属性を選んだ仁。
「ジン兄、 魔法制御の流れ(マギシークエンス) を説明して、欲しい」
「わかった。まず……」
仁とエルザ、礼子も作業を開始したのである。