軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

32-21 カメラ

「カメラか……」

700672号の下を辞した仁は、大急ぎで研究所に戻って来た。

「ジン兄、楽しそう」

生き生きとした仁の顔を見て、エルザが言う。

「ああ、どうしても印画紙が作れなかったんだ。これはどういう仕組みになっているんだろう。……まず、使ってみるか」

仁はそう言いながら『 写実機(カメラ) 』をエルザに向け、ボタンを押した。

「え?」

きょとん、とした顔のエルザ。

そして中から『印画紙』を引っ張り出せば、そこにはちゃんとエルザが写っていた。

「お、写ってる写ってる」

その動作はインスタントカメラに近いようだ。

「どれどれ……ふうん」

画質はかなりよい。さすが、700672号からの贈り物である。

「……見せて」

半ばひったくるように、仁の手から『写真』を奪い取ったエルザ。その顔が赤く染まる。

そこには、いきなりカメラを向けられてびっくりしたエルザの顔が。

「……いじわる」

膨れるエルザ。

「ごめんごめん。でも、こういう自然な顔のエルザも可愛いよ。どんな顔をしていたってエルザはエルザだから」

「……もう」

そんな言い方されたら怒れない、とエルザは不平を言うと、写真をポケットに仕舞い込んだ。

「あ、ちょっと待ってくれ。まだ調べていないんだから」

仁は慌てて写真を取り返そうとした。

「……だめ」

だがエルザはポケットを抑え、写真を渡そうとしない。

押し問答している2人を見かねた礼子が助言を行った。

「お父さま、でしたらもう1枚写せばいいではありませんか」

「……ああ、そうか」

「わたくしでよろしければいくらでも写してください」

そう言って胸を張った礼子を遮るようにエルザが前へ出た。

「……私を、写して」

そんなエルザの背後では礼子がしてやったりという笑みを浮かべていたのだが、仁もエルザもその表情に気が付くことはなかった。

再度、すました顔のエルザを写した仁は、手の中の写真に『 分析(アナライズ) 』を掛ける。

その顔が驚きに彩られた。

「これは……そうか、そういう方法だったか!!」

しかし驚きは悔しさに取って代わられる。

「ジン兄?」

「お父さま?」

心配そうな2人に、

「……いや、この色素は『魔法染料』と同じ種類のものだったんだよ。……ああ、どうして思い付けなかったかなあ!」

魔法染料は、込めた魔力の量で色が赤、橙、黄、緑、青、藍、紫、赤紫と変わる。

だが、ここに使われているものは、さらに濃さも変えられるようになっているようだ、と仁は推測を述べた。

「光の波長を魔力に変換して色を。また、光の強さを魔力に変換して濃さを変えているんじゃないかな。うまく考えたよなあ」

まだ若干悔しさがにじむ口調で仁は説明した。

「もっとよく調べないと同じものはできないだろうが、原理としては今言ったとおりだ」

その原理上、『ネガ』というものは介在しない。正に『インスタントカメラ』的だ。

『写真』が写せるようになれば、記録を残す上でいろいろと便利になる。そう、『長周期惑星』に関するデータも。

仁は、この方式を研究し、再現、量産できるようにしようと決心した。

* * *

「うーん、要は魔力波長で色、魔力強度で濃さが変わるのか……」

魔法染料の特徴を洗い出すことはできたが、肝心の魔法染料の心当たりがなかった。

既存の魔法染料では赤から赤紫まで変化するが、印画紙に使われている魔法染料は、ちょうど光のスペクトルと似通った発色特性があるようだ。

「ジン兄、これも生体素材なのかな?」

「うーん、その可能性は高いな」

自然界にある物質で、このような特性を持つものは考えづらい。

「となりますと、グースさんですね」

珍しくエドガーが発言した。

「そうだな……聞きに行ってみるか。サキもこういう研究好きそうだし」

そういうわけで、仁は礼子を連れ、サキの家へと移動したのであった。

* * *

「行く! 今すぐに行く!」

話をすると案の定サキは食い付いてきた。

そしてグースはというと。

「……うーん……もしかして、『アガマ』……いや、『 虹色芋虫(ラヨチワーム) 』かも?」

「知っているのか、グース?」

「ああ。仁が言う色素は、もしかしたら『 虹色芋虫(ラヨチワーム) 』から採れるかもしれない」

グースによれば、『 虹色芋虫(ラヨチワーム) 』はフソーの奥山に棲息する昆虫、『 虹色蝶(ラウンク) 』の幼虫だという。

「幼虫は、魔力の種類によって色が変わるんだ。成虫は紐みたいに細い尾を持つきれいな蝶なのさ」

「へえ……。その蝶も色が変わるのかい?」

「いや。幼虫の時、……というか、サナギになる直前の色がそのまま羽の色になるんだ。色が変わるのは幼虫の時だけだよ」

「なるほど」

「染料として使っている村もあったはずだ」

朗報であった。

「分けてもらえるかな?」

「そうだな……。稀少という程じゃあないから、少量なら大丈夫じゃないか?」

「そうか」

そうなると、乱獲はできないから、養殖することを考えたいと思う仁である。

「とにかく分けてもらいに行くとしよう」

仁はそう言うと席を立った。

そんな仁をグースが引き止める。

「当然俺も行くからな」

仁は無言で頷く。

「くふ、なら、ボクも」

サキが名乗りを上げた。

「よしわかった。じゃあこれから蓬莱島へ行き、『コンロン3』で向かうとしよう」

ということで、3人は蓬莱島へと移動した。

「私も行く」

当然エルザも付いてくる。

結局、操縦士エドガー、護衛礼子ということで、仁、エルザ、グース、サキは『コンロン3』でフソー目指し飛び立ったのである。

道中、『 写実機(カメラ) 』についてグースとサキに懇切丁寧な説明をした仁であった。