軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

32-20 700672号への挨拶

仁とエルザは『家』でゆっくりと休み、翌9月16日、仁とエルザ、礼子、エドガーは700672号の下を訪れた。

「おお、よく来られた」

いつもの笑顔で700672号は仁たちを出迎えた。その両脇には『ネージュ』と『ルージュ』が寄り添うように立っている。

「今日は、俺とエルザの結婚の報告に来ました」

仁はエルザの肩を抱き寄せながらそう告げた。

「おお、それはめでたい。お祝いを言わせてもらおう」

「ありがとうございます」

仁とエルザは頭を下げた。

「さて、それだけではないのだろう?」

挨拶が済み、いつもの手土産であるペルシカジュースを渡すと、700672号がそう言いだした。

「何か聞きたいことがあるのではないか?」

「はい、実はそうなんです」

仁は、新婚旅行で訪れたアルキオネ島で発見した、分子圧縮されたと思われる方鉛鉱の話をした。

「ふうむ……」

真剣に考え込む様子の700672号に、仁もエルザも口をひらけなかった。ネージュとルージュも黙って彼を見つめている。

そして、5分か10分、たっぷり考えた後、700672号は顔を上げ、口を開いた。

「惑星改造の過程で生じたものかも知れぬ」

「惑星改造、ですか?」

思いもかけない言葉に、仁は聞き返した。

「うむ。吾も詳しくは知らぬのだが、そもそもこのアルスは、『主人たち』が移り住んだ星であるからな」

700672号の話をまとめると、次のようなものである。

・『主人たち』が『アルス』に移り住むことを決めたとき、幾つか問題があった。

・その1つとして『アルス』は、『主人たち』が移り住むには、若干重力が少なかった。

・ゆえに、『主人たち』は、自分たちの母星『ヘール』と同等の重力を持たせるための改造を行った。

・その改造は、現住生物の適応状況を見ながら100年単位でゆっくりと行われた。

・惑星改造を行ったのは、『主人たち』および『100000番〜300000番台の従者』である。

・改造を終えた『アルス』への移住はやはり100年単位で行われた。

・500000番台以前の従者の情報は、700672号は持っていない。ゆえに改造の詳細はわからない。

このようなことである。

「そんなことが……」

「それとても、乏しい情報から、吾が推測したことだがな」

どうも、従者間にも格差や隔たりというものがあったらしい、と仁は700672号の言葉の裏から感じ取ったのである。

「それで、足りない重力を補うため、重い元素を核に注入したのではないか、と推測する。その分子圧縮された方鉛鉱らしきものはそういった実験の産物ではないだろうか」

これとて推測にしか過ぎない、と700672号は言う。

だが、仁としてはかなり納得がいく説明であった。

「やはり、この星が小さいわりに重力が大きいというのは、そうした改造の結果だったのですね」

「うむ。改造をした、ということは間違いない。だが、その内容までは分からぬから、あくまでも推測だがな」

それでも、星の成り立ちとして興味深い話であった、と仁は思う。

「……あなたの『主人たち』が、どのようにして分子圧縮をされたか、わかりますか?」

わずかに残った疑問を口にする仁。

「想像だけなら、な」

そう前置いて、700672号は『やり方』を説明し始めた。

「目標位置を定め、『重層重積圧縮転送』を行うのだ」

「『重層重積圧縮転送』?」

聞き慣れない単語に、仁は聞き返した。

「『重層重積圧縮転送』とは、『主人たち』が開発した、高密度物質を生成するための魔法技術でな」

仁は聞き耳を立てた。

「詳しいことは吾も知らされておらぬが、物質に物質を重ねることで密度は上がるが、実際にそれをなすことは難しい」

どうやら、情報にも隔たりがあるらしい。

「それを可能にする結界を生成し、その内部に物質を送り込むことで行っているようだ」

それ以上のことはわからない、と、済まなそうに700672号は言った。

「いえ、参考になりました」

仁は、『圧縮結界』を使って、力業で分子圧縮を行っているが、『主人たち』はもう少しスマートに行っているようだ。

もっとも、仁のやり方では圧縮したあとに隙間ができてしまうし、そもそも質量は変わらない。

惑星の重力を増やすためなら、どこかから物質を持って来て追加しないことには意味がないので、仁の方式では不可能とは言わないが手間が掛かりすぎるわけである。

「おそらく元々の倍くらいに重力を増やしたのではないかな?」

「そうですか……」

元々、アダマンタイト並に重い惑星ではあったものの、それでも重力は0.5Gくらいであったため、さらに倍に増やすための改造を行ったということだろう。

「それが他の生物にどう影響を与えたかは、吾にもわからぬ。吾と『主人』が来た時には、既に今の重力であったからな」

惑星改造は、もしかすると移住の何万年も前から、テストケースとして行われていたのかも知れない、と700672号はさらなる爆弾発言を行った。

「吾とて、真相をすべて知っているわけではない。むしろ、100000番台に比べたら何も知らないに等しいのだ」

「ははあ……」

仁は、この世界も、そうした100000番台の従者やその主人によって創られたものなのだろうか、と想像を逞しくした。

(考えても仕方ないことだけどな)

神話や伝説の元とは、こういうものかもしれない、と、現代日本にいた頃のSFやアニメを思い出した仁であった。

「ところで、『長周期惑星』についてはどうなっておる?」

700672号もこの件については気になっているらしい。

「はい、詳細を調査するために観測ロケットを送り出しました」

「おお、それはよい。なにしろ、途轍もなく周期が長く、遙か彼方まで離れては戻ってくる惑星なので、前回と同じであるとは限らぬしな」

「やはりそうなりますか……」

太陽セランが長楕円軌道の焦点の1つであるが、もう片方の焦点付近に何があるかはわかっていないのである。

「吾も微力ながら幾つかの対応処置を講じてはおるがな」

「それは?」

「小型の重力安定機と、気体用の巨大結界だ」

『長周期惑星』が接近した際、その重力場により影響がどうなるかわからないこと。

そして、大気が『長周期惑星』に奪われたら一大事なこと。

これを700672号は説明したのである。

「仰るとおりですね。俺も何かしないと」

「それならばジン殿は、 自由魔力素(エーテル) を蓄えるがよろしい。何をおいても、いざとなったときに必要なのはエネルギーだからだ」

「……わかりました」

700672号の言うことはわかる。

仮に惑星規模の結界を張ろうとしたなら、通常の『 魔力反応炉(マギリアクター) 』がどのくらい必要になることか。

礼子の 魔力反応炉(マギリアクター) 何百万倍になるか、仁にも想像できなかった。

それでも、安全なエネルギーの確保は、いろいろと役に立つはずである。

「すぐに取り組んでみます」

「おお、ジン殿ならきっとできる。頼んだぞ」

この世界を危険にさらすことはできない、と700672号は言った。

「堅い話ばかりで奥方には悪いことをしたな。そうだ、吾からの祝いを受けて欲しい」

700672号は一旦部屋の奥へ行き、何か小さな箱のようなものを手にして戻って来た。

「これをお2人に贈ろう。これは『 写実機(カメラ) 』というものだ」

「え、カメラですって!?」

「そうだ。ここから覗いて映したいものに向け、このボタンを押してしばらくすれば、ここから映したものそっくりな絵が描かれたシートが出てくる」

やはり仁の知る『カメラ』であった。

「原理は……いや、それはジン殿の楽しみに取っておこう」

「ありがとうございます」

仁は喜んでそれを受け取った。

これまで、カメラがあればいいと何度も思ったものだが、どうしても印画紙が作れなかったのである。

これを研究すれば、きっとできる、と仁は確信しつつ、700672号からカメラを受け取ったのであった。