軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

30-38 低い沸点

「すごい……さすがは『崑崙君』だ」

『崑崙島』でその実力を知っていたつもりのセザール王であったが、目の前で繰り広げられる『蹂躙』とも言える圧倒的な鎮圧ぶりを見てしまっては、その認識を新たにせざるを得なかった。

「ジン殿が世界征服に興味がなくて幸いですな」

第一軍事省長官ラゲードもしみじみとした声で同意した。

「遠くで何やら土埃が上がっているのはレーコ媛でしょうなあ」

カーク・アットが目の上に手をかざしながら呟いた。

「くっ! 『崑崙君』め! これだけの力を隠し持っていたのか!」

四方へ向かわせた『 鈍色(にびいろ) ゴーレム』があっという間に鎮圧されていく 様(さま) を、信じられないものを見るかのように見つめていたジックス。

彼とガンノを守る2体も、ゴーレムメイドに制圧され、彼等を守るものはもう何もない。

逃げようにも、5色ゴーレムメイドに取り囲まれ、それも不可能。完全に詰んでいた。

「ジックス、ガンノ。『力』というのはこういうことを言うのだ。だが『崑崙君』は無闇矢鱈とそれを振りかざしはしない」

セザール王が声を掛けるが、2人の耳には届かない。

「君たちの気持ちもわからないでもない。だが、復讐するなら、もっと大きな視点を持て。『世の中から戦争をなくす』くらいの志を持ってみろ」

「やかましい!」

「近寄るな!」

興奮した2人はまったく聞く耳を持たない。

「……陛下」

何を言っても無駄と、仁(の 分身人形(ドッペル) )は、2人を捕らえるよう、ゴーレムメイドたちに無言で合図を出した。

「くそぉ……ガンノ、最後のゴーレムを動かすぞ!」

「わかった、兄貴。『起きろ』!」

その 魔鍵語(キーワード) に応じ、馬車の中から1体のゴーレムが現れた。

「まだ残っていたのか」

「ふふ、そうさ。こいつが我々の切り札だ」

一番大きい樽にはこのゴーレムが入っていたらしい。

馬車からそのゴーレムが飛び降りると、微かだが地響きが生じた。相当な重さがある証拠だ。

だが体格は他のゴーレムに比べ一回り小さい。身長1.8メートルほど。

* * *

蓬莱島の司令室で、仁はそのゴーレムを観察していた。

「こいつが……エゲレア王国で警備ゴーレムに喧嘩を売った奴らしいな!」

おそらく全身鎧の中は空洞ではなく、『流体金属』で満たされているのだろう、と仁は推測する。

「倒す術はいろいろあるんだがな……」

どうやってもあの2人を正気に戻すことはできそうもない、と仁は感じていた。

「ジン兄、あの2人の様子、父さまの時と似てる」

仁の横で 魔導投影窓(マジックスクリーン) を見ていたエルザが突然言いだした。

「脳の一部に何か障害が起きているんじゃないかと思う」

かつて、エルザの父ゲオルグ・ランドル子爵は、脳内出血のため前頭葉に血腫ができ、それが脳細胞を圧迫していたために感情の抑制が効かなくなっていたことがあった。

エルザはそれを思いだしたのである。

「ああ、そうか。……そういう原因は考えられるな。とっつかまえたら診察してみた方がいいかもしれない」

「ん」

分身人形(ドッペル) にも、かなりのレベルの診察は可能である。

「でもまずはあのゴーレムを無力化することだな。『流体金属』で満たされてるなら……熱は止めとくか……」

「ジン兄、どういうこと?」

「え? ああ、熱のことか? ちょっと考えて見ればわかるだろう。例えば水銀の融点はおよそ摂氏マイナス39度、沸点は357度だ」

「……蒸発?」

「そうさ。あのゴーレム最大の弱点は熱のはずだ。……待てよ!?」

突然仁は難しい顔になった。

「水銀……蒸気……中毒……」

その呟きを聞いたエルザも、仁が何に思い当たったのかを察することができた。

「水銀が脳に溜まったということ!?」

「……そうだ。『流体金属』イコール水銀じゃないかもしれないから、出る症状にも違いがあるんじゃないかな」

仁のおぼろげな記憶では、水銀によって起こされた公害病で、地方の名を冠する『メチル水銀中毒』という病気があったことくらいしか思い出せないが、水銀が人体に害を及ぼす可能性が高いことは間違いない。

それと酷似した中毒症状が『流体金属』によって引き起こされてもおかしくないのだ。

「うーん、だとしたらどうやって無力化するか……」

他同様、首を落とせばおそらく中から『流体金属』が流れ出すだろうと思われる。

それがどの程度毒性を持つかわからないので、地面に染み込んでしまうような事態はなるべく避けたい仁であった。

「と、なると……その逆だ!」

* * *

仁の指示を受けて、礼子が飛び出した。

真正面からぶつかり合う2体。

礼子が大きくはね返され、馬鹿正直なぶつかり合いは、相手ゴーレムの勝利に終わる。

「……やはり、あの全身鎧の中は『流体金属』で満たされているようですね」

今回、礼子が馬鹿正直にぶつかったのは、相手の重さを見極めるためであった。

(これで、お父さまの考えを実行すれば……)

弾き飛ばされた礼子目掛けて、敵ゴーレムが突っ込んできた。

「『崑崙君』! レーコ媛は大丈夫なのか?」

心配そうなセザール王。だが、仁(の 分身人形(ドッペル) )は余裕の顔である。

「大丈夫です。今のは作戦ですから」

そう、相手の重さを知ると同時に、仁たちのいる場所から距離を取ったのだ。

それはもちろん……。

「『 超冷却(アブソリュートゼロ) 』!」

どんな魔法を使ったのか、詳細を知られないように、である。

『 超冷却(アブソリュートゼロ) 』は対象物の熱エネルギーを奪う魔法である。つまり『温度を下げる』。

水銀の融点はおよそ摂氏マイナス39度、それ以下では固体になる。

絶対零度付近まで冷やされれば当然『流体金属』は『流体』ではいられない。

最後の敵ゴーレムは停止した。

* * *

「この点でも生体素材の方が高性能だよなあ」

苦労して入手した『古代竜の抜け殻』。

その後の調査で、耐寒性は摂氏マイナス270度くらいであることが判明した。もちろん魔力で強化した状態で、だ。

しかも耐熱性は摂氏3000度以上というとんでもない素材である。

因みに蓬莱島産の 地底蜘蛛(グランドスパイダー) の糸の耐寒性は摂氏マイナス210度。液体窒素の摂氏マイナス196度にも耐える。

また、耐熱性は摂氏1600度。

参考までに書くと、アダマンタイトの融点は摂氏3422度。

つまり、『流体金属』を使ったゴーレムでは、高温・低温という条件において遙かに礼子に及ばないのである。

「さて、これで無力化は終わった」

仁が見つめる 魔導投影窓(マジックスクリーン) の中では、5色ゴーレムメイドたちに取り押さえられるジックスとガンノの姿があった。