作品タイトル不明
30-21 模擬戦、予選終了
ゴーレム競技(ゴンペテイション) 会場では、いよいよ『模擬戦』が行われようとしていた。
〈『模擬戦』は、お互いに相手を壊すようなことをせずに優劣を決める競技であります〉
〈そういうことですね。武器と防具に工夫があるわけです。武器は特別誂えで、特殊処理をした木製となっています〉
〈解説のトルフさん、防具も工夫されているのでしょうね?〉
〈もちろんです。防具は特殊処理をした革製で、武器が当たると色が変わるようになっています〉
〈なるほど、色が付いたら負けということですね〉
〈簡単にいうとそうです。非常にシンプルなルールですね〉
〈また、魔法の行使は特に禁止されてはいませんが、それで勝っても得点にはなりません〉
〈あくまでも武技の勝負ということですね〉
「なるほど、面白いルールだな……魔法よりも武技優先か」
一撃をもらったら負けという訳か、と理解した。
「……ここぞという場合に魔法を使って牽制するとかはあるかもな」
仁はそれを聞いて、自分なりに戦いを想定してみる。
「でも、魔法じゃあ防具に色は付かないんだろうな……どんな原理なんだろう?」
また、防具と武器の設定は面白い、と感心もする。
「感圧紙みたいな薬品が染み込ませてあるのか? いや、それだと武器でなくても跡は付くから、やっぱり武器と防具それぞれに染み込ませた薬品が反応すると色が付くとかかな」
と、叩かれた箇所に色が付く仕組みを想像してみたりもする仁であった。
〈さあ、模擬戦の開始です! まずは予選! 4つのブロックに分かれた多対多の集団戦! 勝ち残った1体が本戦に出場できます!〉
〈棄権者がいますので38体ですから、9体もしくは10体で同時に戦うわけですね〉
要するにバトルロイヤルか、と仁は想像した。
「……あの場合、一番強いと思われる相手を、残りで寄って集って攻撃するというのがセオリーだったような気がする」
仁が独り言をいうと、エルザが反応した。
「それって、卑怯な気がする」
「ああ、そういう見方もあるだろうが、騎士と騎士の戦いじゃない。元々、一対一じゃあないところからして、生き残った者勝ちという勝負形式だからな」
「……確かにそう、かも」
こうした格闘技には疎いエルザであるから、こんな意見が出るのも無理はない。
「作戦、というか、戦術、といえばいいのか」
「理屈ではわかる、けど」
要は、『強い者』を決めるのに、どうしてそういうやり方を取ったか、という疑問らしい。
そういう観点ならわからなくもない仁であった。
「確かにな。バトルロイヤルでは一番強い奴が脱落する可能性もあるもんな」
「そういう、こと」
こればかりは、大会運営の方針であろうから、仁としてもコメントできなかった。
そんな話をしている間に、バトルロイヤル——予選は進んでいた。
丸く区切られたエリア内で行われた戦いは、仁が予想した形ではなく、単純な乱戦となっていた。
予選第1組では、1番『 鋼鉄騎士(シュタールリッター) 』と16番『 蒼天の騎士(ブルーナイト) 』の2体が最後まで残っていたのだが、一対一で戦った結果、『 蒼天の騎士(ブルーナイト) 』がやられて終了。
第2組には2番『ザーベラー』が他のゴーレムを素早さで圧倒して終了していた。
第3組は、最終的には35番『 鉄戦士(アイアンウォリアー) 』と40番『 古き戦士(アルトクリーガー) 』の一騎打ちとなっていた。
「お、あっちはまだ決着ついていないのか」
巨大な『 魔導投影窓(マジックスクリーン) 』に映し出される戦いの様子を見て、仁は興味を惹かれた。
『 鉄戦士(アイアンウォリアー) 』も『 古き戦士(アルトクリーガー) 』も重戦士タイプだ。
だが、500メートル走の記録では『 古き戦士(アルトクリーガー) 』が3秒ほど差をつけている。
それはすなわち、基本性能の差だ。
〈予選第3組は、最後まで残った2体が激戦を繰り広げております!〉
〈予選というのに見応えがありますね。どちらも譲りません〉
司会と解説の目には互角と写っているのかもしれないが、仁から見れば、『 古き戦士(アルトクリーガー) 』にはまだまだ余力があった。
そしてついに、ドナルドの『 古き戦士(アルトクリーガー) 』は、本気の一端を見せる。速度を一段上げたのである。
『 古き戦士(アルトクリーガー) 』は、力を速度に転化するだけのバランスと技術を持っていたのであった。
互角と思われた戦いの中、『 古き戦士(アルトクリーガー) 』の横薙ぎが『 鉄戦士(アイアンウォリアー) 』の胴にヒットした。
そこにくっきりと残る赤い筋。
〈やはり強かった! 予選第3組を制したのは40番、『 古き戦士(アルトクリーガー) 』!〉
魔導投影窓(マジックスクリーン) でその名勝負を見ていた観客は惜しみない拍手を贈った。
そして第4組。41番、『ファントム』がいる組である。
意外なことに、熱戦だった第3組が終了しても、まだこちらには3体が残っていた。
もちろんその1体は『ファントム』。そして15番と29番。どちらも昨日の累計で10位以内に入った猛者である。
(……やっぱり)
仁は、先日来の推測が当たっていることを確信した。
(相手の技術を習得することを優先している)
41番は、負けない程度に手を抜きつつ、対戦相手の持つ戦闘技術をできうる限り習得しようとしていたのだ。
そして、その思惑どおり、予選開始直後に比べ、41番の戦い振りは目に見えて変わってきていた。
最初はよくいえば真面目、悪くいえば融通の利かない戦い振りだったのが、相手を1体2体と排除するうちに、その動きがみるみるよくなってきたのだ。
不規則な攻撃にも対処できるようになったと言えばいいか。
あるいはマニュアルを離れた対応ができるようになったと例えるべきか。
「やっぱり学習しているな」
「……ジン兄、あのゴーレム、関節の可動域が半端なく広い」
エルザも観察結果を口にした。
「ああ、それはいえるな」
もしかしたら内骨格ですらないのかもしれないと思った仁である。
内骨格の場合、関節の設定で手足などの可動範囲は決まる。
外骨格でも同様である。
だが、『 変形動力(フォームドライブ) 』の場合は違う。
どこだって曲げられるし、その曲がり方にも制限はないのである。
但し、『 基礎制御魔導式(コントロールシステム) 』にはそんな動作をサポートしているものはないので、自分で構築しなければならない。
「……やっぱり、それだよなあ……」
41番が飛び入り参加という強引な手を使って、この ゴーレム競技(ゴンペテイション) に参加した目的については、間違いないだろうと仁は思った。
「だが、最終目的は未だに謎だ……」
仮に、『 流体変形式動力(フルードフォームドライブ) 』のゴーレムを文字どおり完成させたとして、それをどうしたいのか、どうするつもりなのか、が見えてこない。
「売り込みとも違うだろうしなあ……」
それなら、報告にあったようにガラナ伯爵へ売り込めば、そうそういい金になったはずである。
それをせずにこちらへ来たからには、金でなく他の何かであろうと推測ができる。
「やっぱり名誉か、それとも……」
仁がそこまで考えを巡らせたとき、一際大きな歓声が上がった。
41番『ファントム』が第4組を勝ち抜けたのである。
「ああ、終わったか。次は本戦だな」
〈さあ、本戦に出場する4体が決定しました!〉
〈順当といえますね。楽しみです〉
1番エーリッヒ・ジフロの『 鋼鉄騎士(シュタールリッター) 』、2番ヤルイダーレの『ザーベラー』、40番ドナルドの『 古き戦士(アルトクリーガー) 』、そして41番ジックスの『ファントム』が本戦で戦うことになる。
が、そろそろお昼時。
〈昼休みを挟みまして、午後から模擬戦の本戦、開始です!〉
* * *
「お父さま、老君から連絡が入っています」
審査員席を立った仁に、礼子が小声で告げた。
「かなり緊急度が高いようです」
「わかった」
仁はトイレへ寄る振りをして、人気のない片隅で老君に連絡を取る。
礼子が周囲を警戒し、エルザは共に話を聞く体勢だ。
「老君、俺だ。何かあったのか?」
『はい、 御主人様(マイロード) 。お呼びだてして恐縮です。実は、そこの外で、ちょっとした事故がありまして……』
老君は、ヴィヴィアンとルコールが乗った馬車と接触事故を起こした馬車に、例の『鎧』が積まれていたことなどを簡潔に説明したのである。