軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

30-19 合流

セルロア王国で ゴーレム競技(ゴンペテイション) が行われる少し前、7月23日。

「ルコールさん、問い合わせの返事が届きました」

ニカライの東にあるネデフの町の宿で、ヴィヴィアンが告げた。

「なかなか早いな」

「高い鳩便使いましたからね」

この世界では『鳩便』が最も早く、次いで『馬便』となる。

『鳩便』とは伝書鳩を使った通信、『馬便』は俗にいう早馬を使った連絡手段である。

伝書鳩は600キロくらいなら1日で飛ぶので、素早い通信が可能になる。

ただし、重いものは運べないため、軽い皮紙をさらに小さく刻んだ紙片に小さな文字で書き込むことになり、長い文章や物品は無理。

因みに、伝書鳩は基本片道飛行なので、その都度もしくは数羽から数十羽まとめて馬車などで元の町へ送り帰している。

「それで結果は?」

「ちょっと待って下さい。……『ゴーレムの全てを鉱物性の素材で作り上げることは理論的に可能』だそうです」

「ふうむ……やはり、あの文章はゴーレム製作に関する技術的記述の可能性が高くなったな」

「ええ、そうですね」

「だが、謎はまだ謎のままだ」

「ですね。我々が探しているのは『失われた過去』を知る手掛かりなのですから」

そんなヴィヴィアンのセリフに、ルコールは頷いた。

「……でだ、あそこで見つけたもう一つの手掛かりについてだが」

「ガンノ・アッシャーですね?」

「そのとおり。ジダンは話してくれなかったが、そのガンノという男を見つければ、何かわかるかもしれん」

「ですが、手掛かりもないのに?」

ルコールは笑った。

「手掛かりなら見つけてきた」

昨日の昼、ルコールとヴィヴィアンはネデフの町に到着した。

そこで宿を取るや否や、ルコールとヴィヴィアンは別々に行動していたのだ。

「私はまず、尋ねて回ることから始めた」

ルコールは話し始めた……。

『ゴーレムを連れた男を見なかったか』。

この質問を、行く先々でルコールは尋ねたという。

「漠然としすぎと思うかもしれんが、そうでもないのだ。そんな男がそうそういるとも思えないからな」

そして案の定、返ってきた答えで、『見た』というものはわずか3件。

そしてそのうち2件は『外れ』だった。

だが、残った1つ、それこそは謎のゴーレムと警備隊が、前日の夜ホホドで接触したという情報であった。

「ホホドですか? 随分遠いですね」

「うむ。だが、私が尋ねた警備隊員は、『このことを重視した本部から警告されたため』と言っていたよ」

ここでいう『警備隊』は『 懐古党(ノスタルギア) 』の傘下にあるため、情報の伝達が速かったことがルコールに幸いしたといえる。

「そこで何があったかも簡単に教えてくれたよ」

「……警備隊のゴーレムを破壊、ですか。それでいて、他の犯罪行為はなし。これって……」

「うむ、研究者独特の行動パターンだと思う」

目的のためなら手段を選ばず、他に気を回すことはせず、ひたすら目的だけを追い求める。

一部の狂的な研究者にありがちな行動である。

「では、ホホドに行ってみますか?」

「それなのだが、おそらくもうホホドにはいまい。絶対に場所を変えていると思う」

「確かにそうですね……」

ヴィヴィアンは小さく溜め息をついた。せっかく手掛かりが見つかったと思ったら、その手掛かりはどんどん遠くへ逃げて行ってしまうのだ。

「まあ、待て。……もう一つ、耳寄りな情報がある」

「それは?」

「セルロア王国で、『 ゴーレム競技(ゴンペテイション) 』が開かれるというのだよ」

「ゴーレムを集めて競わせるのですね? それはいつ?」

「7月28日と29日だそうだ。急げば間に合う」

今日は23日。ちょっと無理をすれば、なんとか間に合うかもしれない。

「どうする、行ってみるか?」

「そうですね……正直、エゲレア王国での手掛かりは探し尽くした感があります。セルロア王国に行ってみるのもいいかもしれません」

リシャール王時代に亡命したヴィヴィアン。

今の王、セザールは仁と懇意にしているし、その政治もしっかりしている。

『仲間の腕輪』もあることだし、堂々と入国しても構わないだろう……とは思うが。

「一応私はセルロア王国から亡命した人間ですので……」

「そうか、止めておくか」

だがヴィヴィアンはかぶりを振る。

「いえ、変装して偽名を使えば大丈夫かと」

ということで、白に近いプラチナブロンドの髪を赤毛に染め、名前も『ヴィア』と名乗ることにした。

「では『ヴィア』殿、行こうか」

ヴィヴィアンが変装している間に、ルコールは手伝いに雇った2人に馬車の手配をやらせていた。

4頭立ての高速馬車だ。馬車の中で寝泊まりも出来る。

「街道を行くから水や食糧は心配いらないだろう」

万が一宿に泊まれないときは馬車の中でも眠れるし、馬車で2〜3時間行けば次の町になる。

急ぎの旅ゆえ、多少の不便は我慢するつもりの2人だった。

手伝いの2人に、交代で御者をさせて急ぎに急がせた。

* * *

7月24日、バザード泊。

7月25日、ディジール泊。

7月26日、ウレムリン泊。

7月27日、国境を越えてテルルス泊。

7月28日には首都エサイアに着ける筈であった。

だが、『 ゴーレム競技(ゴンペテイション) 』を見に行くものが多すぎたため、渡し船が間に合わず、1日足止めを喰らってしまった。

馬車も一緒に渡そうとしたことも失敗の元だった。

「馬車はこの町に預け、我々だけでなら渡れたかもしれんな」

「言っても詮無いことですよ」

暮れゆく川面を宿の窓から見つめ、ルコールと『ヴィア』は肩をすくめた。

そして29日朝、ようやくトーレス川を渡ることができた。

渡ってしまえば、首都エサイアまではすぐだ。

馬車を駆り、会場へ急ぐ。

他に馬車の影はなく、かなりの速度が出せた。

そのため、脇から出てきた馬車に気が付いた時はもう遅かった。

「きゃあっ!」

「うわっ!」

接触、そして転倒。

密かに付けていた『 隠密機動部隊(SP) 』の1人、『エルム』が付いていたため、その視界を通じてヴィヴィアンの危機を察した老君はすぐに『仲間の腕輪』の機能、『 障壁(バリア) 』を発動。

ヴィヴィアンと、そのそばにいたルコールまでも包み込んだ 障壁(バリア) は、2人を守ったのである。

「……ひどい目に遭いました」

競技会場200メートル程手前で転倒した2台の馬車。

ヴィヴィアンは、無傷で済んだのが『 障壁(バリア) 』のおかげだと気付いており、心の中で仁に感謝していた。

一方ルコールは運がよかった、くらいにしか思ってはおらず、それ以前に目の前の惨状に目を見張っていたのである。

「な、なんということだ……」

馬車からは、大量の鎧が転がり落ちていた。