軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

29-11 衣装の説明

「ジンとはゆっくり話をしてみたかったよ!」

仁、礼子、アーネスト、ライラ、リースヒェン、グロリアらは『五常閣』にいた。

慣れない者でも使いやすいようにと設けられた、テーブルと椅子が置かれている板敷きの部屋だ。靴は脱いで貰っている。

座っているのは仁とアーネスト、リースヒェンで、礼子、ライラ、グロリアはそれぞれの主人の背後に立っている。

テーブルにはグラスが3つ。冷えた微炭酸のシトランジュースが入っている。

「これでやっと、ジンとゆっくり話ができるよね」

「ですね。もしかするとショウロ皇国での技術博覧会以来でしょうか?」

と仁が言うと、アーネストは不満を顔に浮かべた。

「ねえジン、リースに話す様な口調で話してよ? 名前もネスト、って呼んで欲しいな」

会うのが久々だったこともあり、仁としても距離感を計りかねていたので、この申し出は正直有り難かった。

「わかった。……ネスト。これでいいかい?」

「うん!」

ぱっと顔を輝かせたアーネスト王子は、グラスのシトランジュースを一気に飲み干した。

「おかわりちょうだい」

すかさず、背後に控えていたトパズ88がジュースを注いだ。

「あまり飲むと夕食が入らなくなるぞ」

と仁が言えば、

「これ一杯で終わりにする」

と言葉が返ってきた。

「ところでジン、この『五常閣』、じゃったか? ここのゴーレムが着ている服は面白いのう」

「ああ。『 賢者(マグス) 』の故郷に伝わる衣装だよ」

「『 賢者(マグス) 』?」

「あ」

仁としては、『俺の故郷の服だ』とか、『和服っていうんだ』等と答えてしまったらそれ以上の説明ができないので『 賢者(マグス) 』の名を出したのだが、それすらもまだ未発表の情報だと言うことを失念していたのである。

「ええと……」

仁が上手い説明を考えていると、そこへ『女将』のレファがやって来た。

「姫殿下、『 賢者(マグス) 』というのは、1000年以上前にこの大陸中を巡り、文化の向上に努めたという伝説の人物です」

「ほう」

「へえ……」

アーネストもリースヒェンも興味を惹かれたようだ。

「ですが、小群国ではなぜかほとんどその名を知られていません。その一方で、『ミツホ』では偉人として崇められています」

「ミツホ? ……ああ、ショウロ皇国の西にあるという国だっけ」

さすが王族であるアーネスト、名前は聞いていたようだ。

「そうです。ショウロ皇国では間もなく正式に国交を結ぶことになります。……そのミツホへ、ご主人様たちは行って来られたのでご存知なのですよ」

「なるほど、そうじゃったか」

ミツホにはこの五常閣のような建物や五常園のような庭園もある、とレファは説明を締めくくった。

「もう少し『 賢者(マグス) 』についてわかれば、発表してもいいんだけどね」

曖昧な情報は混乱を招く、と仁も付け足すように言った。

「それはそうじゃな」

「ふうん、楽しみだね。ところで、ジン、君のところのゴーレムと、デウス・エクス・マキナのゴーレムだけど……」

この話題はこれで終わりとばかりに、アーネスト王子は話題を変えた。

「やっぱり、師匠が同じだからかな? よく似ているよね」

「……うん、やっぱりわかるかな」

ゴーレムに関しては勘の鋭いアーネストである。

「そりゃあね。でさ、以前話したかと思うけど、僕もいずれはゴーレムや 自動人形(オートマタ) を作ってみたいんだ」

「ああ、そんなことを言っていたっけ」

エゲレア王国で行われたゴーレム 園遊会(パーティー) の時、専用ゴーレム、ロッテの修理をしている仁を見てアーネストがそう言っていたことを仁は思い出した。

「少しでいいから、ゴーレム作りを教えてくれないかな?」

「それは構わないけれど、時間がないから本当にほんの少しになると思うけど……」

「うん、かまわないよ。リースも一緒だから、僕の我が儘ばかり聞いてもらうわけにもいかないしね」

と、リースヒェン王女への気づかいも見せるアーネストであった。

「ネスト様、お気づかいありがとうございます」

それを聞いたアーネストの隣に座るリースヒェンはちょっと嬉しそうに、はにかんだような笑顔を浮かべた。

「あ、それじゃあ、リースにはその間、レファに相手をしてもらおうかな?」

「ジン、それは嬉しいのう」

乳母 自動人形(オートマタ) 、ティアと同型のレファとなら、きっと話も弾むだろうという仁の気遣いであった。

「それじゃあ、まずは質問に答える形式でいいかな?」

仁が提案してみると、アーネストは頷いた。

「ああ、うん! それでいいよ」

「では、質問をどうぞ」

椅子の背にもたれかかりながら仁が言った。

「今一番気に掛かっているのは、ゴーレムの『教育』についてなんだよね」

アーネストはなかなか鋭い所を突いてきた。

「ゴーレムってさ、教育しないとまともに動かないじゃないか。そのせいで数を揃えるのが大変なわけだよね」

「うん、そういうことになるな」

この時点で仁には、アーネストの質問がおおよそ予測できていた。

「でも、マキナもジンも、あんなに沢山のゴーレムを作り上げている。これってやっぱり何かあるの?」

「そうだな……」

仁は、どう説明したものかと少し考え込んだ。そしてゆっくりと口を開く。

「基本的な動作は、『 魔導式(マギフォーミュラ) 』の形で『 基礎制御魔導式(コントロールシステム) 』として『 制御核(コントロールコア) 』に刻まれる。これはいいね?」

まずはおさらい。

「うん」

アーネストが頷いた。さすがにゴーレムを作りたいと言うだけのことはある。

「この『 基礎制御魔導式(コントロールシステム) 』は、 魔法工作士(マギクラフトマン) 独自の工夫が入ったりするんで、製作者を特定する役に立つ」

「ああ、だから、ジンとマキナのゴーレムはよく似ているんだね。先生が同じだから!」

「まあ、そういうことさ」

仁なら、『ジンのゴーレム』と、『マキナのゴーレム』の製作者が同じであることを見抜くことができるが、普通の、いや大抵の 魔法工作士(マギクラフトマン) には無理である。

だが、アーネストなら、と思わせる才能の閃きがそこにあった。

「……で、話を戻すと、その『 基礎制御魔導式(コントロールシステム) 』を沢山書き込めば、より動作は洗練されるわけだよ」

「それはそうだよね。でも……」

何か言いたげなアーネストを、仁は遮った。

「まあ、待つんだ。『 読み取り(デコンパイル) 』という工学魔法がある。これは、 制御核(コントロールコア) に書き込まれている情報を 魔導式(マギフォーミュラ) として読み取るんだが……」

ここで仁は言葉を切り、

「さあ、上手く使うことはできないかな?」

と、アーネストの目を見ながら尋ねた。

「え? ……うーんと……」

今度はアーネストが考え込む。が、それもわずかな間。

「あ、そうか! 完成しているゴーレムの 制御核(コントロールコア) を読み取って、同じ 魔導式(マギフォーミュラ) を書き込めばいいんだ!」

「正解」

実際、これは『一流』の 魔法工作士(マギクラフトマン) が行っている方法である。

これを『読み取る』手間を省き、いきなり 魔導式(マギフォーミュラ) を書き込めれば、という考えから『 知識転写(トランスインフォ) 』が出来上がった、とも言えるかもしれない。

インターフェースの考えに似ているかもしれない。

その昔、画像データをコンピュータに入力するには『デジタイザ』で絵を描き、そのデータを穿孔テープで一旦出力し、穿孔テープを読み取り機にかけてコンピュータにデータとして認識させる、という手間をかけた時代があった。

今では入力機器がインターフェースを介してコンピュータに接続されているので、膨大な情報を短時間でやり取りできる。

初代 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 、アドリアナが開発した『 知識転写(トランスインフォ) 』とはそういう価値のある工学魔法である。

閑話休題。

『完成しているゴーレムの 制御核(コントロールコア) を読み取る』ということは、誰にでもできることではない。

瞬間的な記憶力、もしくは直観的な理解力が必要になる。

それが一流と二流を分けているともいえる。

そのことをアーネストに告げると、

「頑張るしかないよね!」

と、至って前向きな言葉が返ってきたのであった。

その言葉を聞き、仁は、この王子なら、きっと一流の 魔法工作士(マギクラフトマン) になれるに違いない、と思ったのである。