軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

29-02 歓迎

「まあ! 素敵な建物!」

「これは……すごいですな」

「見たことのない様式ですが、美しい」

「さすが『崑崙君』ですわね」

『翡翠館』を見た感想である。

「ようこそいらっしゃいました。わたくしはここ翡翠館の総支配人、ロルと申します」

青髪のオートマタ、ロルが挨拶をする。その両脇には各色20体、総勢100体の5色ゴーレムメイドたちが控える。

「す、すごいわね……」

「どうぞこちらへ」

仁は一行を案内して林を抜け、『五常閣』へと導いた。

「まあ! この建物は?」

やはり目を見張る一行。

「皆様、ようこそおいでくださいました。わたくしはこの『五常閣』の『 女将(おかみ) 』、レファと申します」

「素敵な衣装ね……」

若女将として留め袖もどきを着たレファが挨拶をする。その両脇には矢絣の着物と前掛けをした5色ゴーレムメイドが20体ずつ100体並んでいた。

* * *

「この『和室』、すてきねえ……庭も凄く品がいいわ」

「まったくもって仰せの通りですね、陛下」

女皇帝とフィレンツィアーノ侯爵が語り合っているのは五常閣の談話室。

ここは板敷きの間となっており、和風のテーブルと椅子が用意されているため、さほど違和感無く過ごせるのだ。

「壁がなく、庭が見渡せるというのもいいですな」

エリアス王国宰相、ゴドファー侯爵も気に入ったようである。

「この建築様式は興味深いですな。それ以上に、木造でこれだけの建物を作るという技術も素晴らしい」

ショウロ皇国魔法技術相、デガウズも興味を惹かれたようだ。

「とはいえ、宿泊はあちらの『翡翠館』でしょうね」

「そうですね、陛下。『崑崙君』が安全を保証してくれているとはいえ、こちらでは少し不用心といわれそうです」

実際にはかつて 魔導砦(マギフォートレス) を管理していた魔導頭脳、『太白』が監視している以上、どちらも安全なのだが。

「では陛下、そろそろ『翡翠館』へまいりましょうか」

「そうですね」

時差の関係で、彼等が崑崙島に到着したのは既に夕方。

なので今はもう午後6時、そろそろ暮れ始める時刻であった。

* * *

「あらあ、ここから見る海もいいわね」

『翡翠館』のVIPルーム、そのベランダから眺める海は格別の眺め。

ショウロ皇国首都ロイザートには海がないので、女皇帝は暮れゆく海を眺め、感激していた。

* * *

「……我々までこんな待遇でいいのですか?」

「ごらんなさいこの布団。ふかふかですよ?」

使用人たちもまた、『翡翠館』の1室をそれぞれ与えられ、その快適さに目を見張っている。

「……ねえ使ってみた? ここのトイレ。臭いもしないし、すっごい快適なのよ!」

「うん、見た見た。それにほら! お部屋にお風呂が付いてるの。洗面台もあるわ。お湯が出るのよ!」

「私の実家より快適だわ……」

「ずっとここに住みたくなっちゃうわね……」

* * *

「閣下、いかがです?」

エリアス王国のVIPルームではゴドファー侯爵とフィレンツィアーノ侯爵が対話をしていた。

「うむ、貴殿のいっていたとおりだな。『崑崙君』は我等とは何かが違う」

「ええ。ですが、彼の根本は私たちと同じですよ。同じ『人』なのですから」

「まったくもって。……彼とだけは争いたくないものだな」

するとフィレンツィアーノ侯爵は微笑みながら、

「それなら簡単です。彼が怒るのは、平穏が破られるときなのですから」

と言った。

「ふむ、簡単ではあるが困難なことよ」

「そのためにも、こうして『世界会議』を開こうというのではありませんか」

「そのとおりだな」

* * *

夕食は各部屋へと運ばれた。

各国の名物料理や宮廷料理を模したものだ。

その味はといえば、誰も不満を口にするものはなかったほどである。

* * *

護衛たちも今は寛いでいる。一部の例外はあるが。

フリッツとフローラは、女皇帝の部屋の前に立ち、警戒していた。

要所要所には、仁が配備したゴーレムが立っているが、最終防衛線は自国の兵でという自負からである。

「フローラ殿、陛下のおそばにいなくてよろしいのか?」

女性近衛騎士であるフローラならば、室内で警護すべきではないか、とフリッツは思ったのである。

「いえ、今日のところは付いていなくてよいと陛下が仰いましたので」

「それは自由にしてよいという意味ではないのか?」

だが、フリッツの言葉にフローラは首を横に振る。

「いえ、私の役目は陛下をお守りすることですから」

「生真面目だな、フローラ殿は」

苦笑するフリッツ。

「当たり前です。それが私の役目ですから」

「ふむ、わからなくはない。が、もう少し柔軟な思考を持たないと、お役には立てないぞ?」

「……どういう意味ですか」

そんなフローラに、フリッツは諭すように言う。

「考えてみるといい。ジン殿の実力を。我々では太刀打ちできない。そのジン殿がこの島を守っているのだ」

「ですが、万が一ということが!」

「そうだ。だから、その万が一というのは、もっと『身近な』危険なのだよ」

その言葉にきょとん、とするフローラ。

「わかりやすく例えで言おう。この島を攻撃するような勢力があったとして、そんな連中は寄せ付けないだけの力をジン殿は持っている。が、我々の中に紛れ込んで密かに陛下を害しようとされたら間に合わない可能性もあるだろう。だから、そういう場面まで己の力は温存すべきなのだ」

「……それって、明日以降、他の国が集まってきた時の話ですか?」

フリッツの例え話が少しは理解できたとみえ、フローラは自分で考えるようになったようだ。

「さて、な。あくまでも例えだ。とにかく、いざという時に力を出し切れないようでは護衛として失格だぞ、フローラ殿」

フリッツはそう言うと、廊下に座り込んだ。

「なっ! フリッツ殿はそこで夜明かしするおつもりですか!?」

「ああ。俺は軍人だ。こんな環境のいい夜勤なら大助かりさ。どのみち俺では、陛下のお部屋にまでは入れないからな」

「……わかりました、フリッツ殿。この場は貴殿にお任せします。私は明日以降、陛下のおそばを離れることなくお守りするつもりです」

「ああ、それがいい」

こうして、フローラは自室へ引き上げた。

とはいえ、フローラの部屋は、女皇帝の隣で、ドアを開ければすぐに駆けつけられるのである。

一方フリッツは、廊下で夜明かしをしたのであった。

そのことを『太白』から聞かされたエルザは苦笑を禁じ得なかったという。