作品タイトル不明
28-32 最後の遺跡
「後継者、ですか」
言葉を発したのは礼子だった。
確かに礼子は、先代 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 、アドリアナ・バルボラ・ツェツィに作られ、彼女が没してからおよそ1000年の間、後継者を捜し続けていたのであるから、その言葉の重みを一番理解しているといってもいいのだろう。
「そうよ。人はいつか朽ちていくけれど、その想い、その教え、その意志は引き継がれていくもの」
ミロウィーナのその言葉は、仁に向けたようでもあり、自分に言い聞かせているようでもあった。
「後継者……」
仁はちらっとエルザの顔を見た。
「?」
その視線の意味をはかりかねたエルザは小首を傾げる。
続いて仁が何かを言おうとした時。
『 御主人様(マイロード) 、ダース川中流域に遺跡を発見しました』
「お、やったか!」
『はい。こちらは保存状態が良いようで、原形を留めております』
「それは朗報だ」
続いて、遺跡の外見が映し出される。
「まあ、これは……」
「ミロウィーナさん、ご存知なのですか?」
「ええ。といっても、資料で見たことがあるだけなのですけどね。レナード王国の伝統建築よ」
「これが……」
画面に映し出されていたのは『パゴダ』。いや、それにそっくりな建物であった。
『パゴダ』は、地球においては仏舎利(釈迦の遺骨)を安置するための『塔』であるが、ここでは何か大切な『遺物』が収められているのだろうか。
「面白い、様式」
「外装は金属のようだな。だから耐久性があるのか」
何年前からそこにあったのかはわからないが、ところどころ鈍い金色に輝いている。
周囲は岩が点在する草原になっており、ヤギに似た動物が草を 食(は) んでいた。毛が長く垂れ下がっており、暖かそうだ。
「こいつらがいたから草原が維持されていたのかもな」
「ジン兄、あの毛、暖かそう」
「確か、『カシミル』とかいう動物ね」
「毛を刈って毛糸にしたら質のいいものが作れそうだな」
その予想は正しい。カシミルは地球のカシミアヤギにごく近く、その毛はかつてのレナード王国では高級品であった。
が、レナード王国特産の動物であり、飼育も難しいので他国では流行らなかったのだ。
「いずれどこかで飼育を試してみたいものだな……っと、今はそれどころじゃないか」
画面が周囲を映し出していく。
石でできた建物が散見される。
「ああ、ここは石造りの街だったのですね」
ミロウィーナが懐かしげに呟く。記録で見ただけとはいえ、故郷の街が少しでも残っていたのは嬉しいのだろう。
街は壁で囲まれてはいなかったようで、どこからが街でどこからが外なのかもはっきりとはわからない。
『 御主人様(マイロード) 、危険な生き物もいないようです。地下も2000メートルまで調べましたが、魔物は見あたりませんでした』
草食獣がのんびりとしている時点で肉食獣の危険が少ないというのがわかろうというもの。
「そうか。それなら行ってみることもできそうだな」
仁は乗り気である。
「そうね、行ってみたいわ」
ミロウィーナが行ってみたい、と口にしたことで遺跡に向かうことが決定した。
現地には既にランド隊・ラプター隊がいるので、仁たちは簡単に仕度を済ませると、『コンロン3』で出発した。
海上を飛び越え、陸地に差し掛かると、仁が床を指して、
「開けますよ」
と言った。それに応じて床の一部が透明に変わる。
いや、カバーがスライドして窓が現れたのだ。
「ちょっと改良を加えておきました」
「あらあら、素敵ね」
「ジン兄、いつの間に」
「これくらいは朝飯前さ」
『コンロン3』の船室、その床の一部が透明素材になっていたのだ。
「これだと地上が見やすいでしょう」
「ええ、ええ。ありがとう、ジン君」
『 強靱化(タフン) 』を掛けたキュービックジルコニア製の床窓である。
ミロウィーナは食い入るように地上を見つめていた。
『コンロン3』がダース川遺跡に到着したのは現地時間で午後4時。夏の日はまだまだ明るい。
眼下の草原には、ランド隊が円陣を作り、安全を確保していた。
「着陸します」
操縦士エドガーは、見事に『コンロン3』をランド隊円陣の中央に降下、着陸させた。
扉が開くのももどかしいように、ミロウィーナは真っ先に飛び出した。
「気をつけて下さい!」
仁が声を掛けるが、
「ジン君の部下が安全確認してくれたんでしょう? なら大丈夫よ! カイも付いていてくれるし、腕輪もあるし」
とミロウィーナは言い、100メートル程先に聳えるパゴダを見つめた。
「絵で見たとおりの形だわ。でも実物はずっとずっとすばらしい」
仁もその気持ちはわかる。
現代日本でも、絵葉書や写真集を見て有名観光地を知った気になっていると、実物の迫力に圧倒される、ということはままあるものだ。
仁は、遺跡に見惚れるミロウィーナをそっとしておくことにした。エルザに付いていてもらい、自分は少し離れた場所でランド61からの報告を聞くことにする。
「ご主人様、ここの地下には大きな空洞があります。魔力は感じ取れませんので、魔物が巣くっていることはないかと」
「うん、それから?」
「あの大きな建物の外被は極限まで強化された22金です」
「なんだって……」
旧レナード王国が地下資源に恵まれていたのは知っているが、あれだけの金を使えるとは、と半ば感心、半ば呆れた仁であった。
「いえ、あくまでも『外被』です。全部が金ではなく、表面の1ミリほどの層が22金でできているだけですが」
メッキというよりも金クラッド、金張りである。それでも金の量としたらかなりのものだ。
「金張りの内側は銅合金と思われます」
青銅に強化系の魔法を掛けたものであろう、という。
「なるほどな」
「そして内部には、『 魔力素(マナ) 』を発する何かがあります」
それ以上のことは外側からではわからないそうだ。
「ふうん。魔導頭脳とか記録装置とかかな?」
魔力素(マナ) を発しているということは、何らかの 魔導機(マギマシン) があり、まだ生きているということだ。
「注意が必要ですね」
隣に立つ礼子が仁の袖を引いた。
そこへ、エルザと共にミロウィーナがやって来た。
「ジン君、何かあったの?」
「いえ、実は……」
仁は、ランド隊の調査結果を説明する。
「そういうことね。この遺跡に何があるのか気を付けないといけないわね」
「ええ。大きな危険はないでしょうけれど、小さな危険はあるかもしれません」
内部の 魔導機(マギマシン) が生きているとなるとそう判断せざるを得ない。
「じゃあ、ジン兄。具体的にはどうするの?」
「まず 分身人形(ドッペル) を使おう」
「ジン君、『 分身人形(ドッペル) 』っていうのは、ジン君の身代わりだったかしら?」
「ええ、そうです。……とりあえず、蓬莱島に戻りましょう」
旧レナード王国に遺された最後の遺跡。
その調査は慎重に行いたいと、仁はミロウィーナ、エルザらと共に、『コンロン3』の 転移門(ワープゲート) を使い、蓬莱島に戻ったのである。