軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

過去篇 弐  16 成長

また1年が過ぎ、アドリアナは7歳になった。

彼女が火属性魔法の応用で『 熱処理(ヒートリート) 』、土属性魔法の応用で『 接合(ジョイント) 』を作ったのはこの年である。

「アドリアナちゃんは本物の天才ね」

この年、上級クラスに上がったシャトーネがアドリアナを褒めた。

これまで、アドリアナが作り出した工学魔法は、『 軟化(ソフトニング) 』『 仕上(フィニッシュ) 』『 消臭(デオドラント) 』『 熱処理(ヒートリート) 』『 接合(ジョイント) 』の5つ。

高弟も一般の弟子も、彼女の実力を認めていたのである。

「うーん、むずかしいなあ」

「アド、今度は何を考えているんだい?」

「あ、お父さん。あのね、ゴミとかほこりとか火とかをふせぐまほう」

「ふうん。……あのな、物を作っている時に作業者を守る魔法として『 防御(ガード) 』があるぞ」

「ほんと?」

シュウキは説明した。

「……こういう考えを元に、魔力で壁を作るものなんだぞ」

「ふうん。それなら、かおとか、おなかとかにげんていして、はっせいできるといいね」

「ああ、そうだな。手作業の邪魔になってはいけないからな……って、アド、すごいな!」

「えへへ」

アドリアナの発想は既に高弟たちをも凌いでいるようだ。シュウキはこの子を娘にできたことを天に感謝した。

「固体と液体と気体とでは分子の大きさ……じゃないな。分子の集合体の大きさがが違うんだ。だから魔法の『網』を作って、その目の粗さを変えれば……」

「くうきはとおすけど水はとおさない『けっかい』ができるね!」

「そのとおりだ、アド。そうやって『 防御(ガード) 』を作るんだよ」

シュウキは、こうしてアドリアナと魔法の開発をしていると、ふと昔を思い出すことがあった。

かつての妻、アドリアナも、シュウキの言葉にインスピレーションを得て、いろいろな魔法を開発してくれたものだった……。

「お父さん?」

娘の言葉に、シュウキは我に返る。

「ああ、すまん。ちょっと考えごとをな……」

「もう。……ねえ、みてみて! ほら、『 防御(ガード) 』」

「なに? もうできたのか!」

シュウキの目の前には、目には見えないが確かに『壁』が存在しており、埃や火の粉を防いでくれそうであった。

しかも機能を聞く限り、応用も利くようだ。強度も変えられるし、何より気体・液体・固体をそれぞれ通す・通さないを選択できるという。

「アドはすごいな。これはもう『 防御(ガード) 』じゃないな。そう、『 障壁(バリア) 』だ」

娘を抱きしめ、頭を撫でるシュウキ。アドリアナは嬉しそうな笑い声を上げた。

その時。シュウキの背に、鋭い痛みが走った。

「ぐ……うう」

痛みに呻き声を上げるシュウキ。

「お父さん!」

「だい……じょうぶだ。いつもの……持病、だ」

だが、シュウキの顔は真っ青で、脂汗が流れ落ちている。

シュウキにはわかっていた。

元居た世界で事故に遭い、壊れた身体を魔素が補完して今の自分があるのなら、補完されていない部分もあるということ。

その補完されていない部分の寿命が尽きかけているのだ。

「まだ……あと、少し、時間が……欲しい……誰か……」

いつもなら高弟のリーベスラウかロットラオが治癒魔法を掛けるのだが、生憎と2人とも隣町へ出掛けていてこの場にいない。

「あたしが! ……『 回復(ヒーリング) 』!」

それにより、少しシュウキの顔色がよくなった。だが、『少し』である。

「これじゃあ、まだだめ……『 回復(ヒーリング) 』!」

だが、同じ魔法の重ね掛けではほとんど効き目がないようで、歪められたシュウキの顔はそのままであった。

「お父さん! しっかりして! ……『 完治(コンプリカバー) 』!!」

必死のアドリアナが唱えたのは内科最上級の治癒魔法。

イメージと、想いと、魔力と。ついにアドリアナは最上級の治癒魔法会得したのであった。

「……楽になった」

身体を起こしたシュウキは、娘アドリアナが自分を癒してくれたことを知ると、涙を流して娘を抱きしめた。

「ありがとう、ありがとう、アドリアナ……!」

「お父さん、くるしいよ」

そう言いながらも、アドリアナも父シュウキをぎゅっと抱きしめたのである。

* * *

それから、アドリアナは常にシュウキのそばに付いているようになった。

今やアドリアナはシュウキの弟子たちの中で一番の実力者である。

高弟、リーベスラウとロットラオも、アドリアナの指導により3ヵ月遅れで『 完治(コンプリカバー) 』をマスターすることができた。

「アドリアナ様、ここの詠唱はどうすれば」

そんなアドリアナが普通の弟子たちに指導したことはといえば。

「えいしょうなんていらないわ。まほうはイメージとまりょくではつどうするの。えいしょうはイメージをほじょするためのものでしかない」

「は、はあ……」

例えば、火属性魔法上級の『 炎の嵐(フレイムストーム) 』には、『炎よ、全てを焼き尽くせ』という詠唱があるが、その詠唱をせずとも、アドリアナは 炎の嵐(フレイムストーム) を放つことができた。

「 炎の嵐(フレイムストーム) 、というたんごだけでじゅうぶんまほうのイメージはできあがるの」

しかし、これができるのはほんの一握りの者たちだけである。

とはいえ、できる者がいるということは、理にかなっているということの証明でもある。

一般の弟子たちは、まずは初級から、という指導に沿って練習をし、中級くらいまでなら詠唱せずに魔法を発動できるようになっていった。

「さすが『 賢者(マグス) 』様のご息女だ」

「アドリアナ様は当代一の魔導士であらせられるな」

「あのお方ならいずれ全ての魔法を使いこなせるようになられるであろう」

アドリアナの評判は日ごとに高くなっていく。

だが、それは同時に、自由な時間が減るということでもあった。

まだ7歳のアドリアナが、終日大人に混じって講義や研究ばかりしている姿を見て、シュウキは人知れず胸を痛めていた。

そんなある日、シュウキはアドリアナを連れ、ユルガノの町郊外にある湖に来ていた。

魔法三昧の毎日を見かねて、講義を2日休みにし、親子水入らずでの短期休暇としたのである。

「わあ、きれいなばしょ!」

この時ばかりは、7歳の少女らしく、アドリアナははしゃいだ。

「泳いでもいいんだぞ」

「ほんと?」

時は夏真っ盛りの8月。シュウキはちゃんと水着を用意してきていた。

水着とはいっても、生地は薄い麻。シュウキ用は膝まであるズボンタイプであるし、アドリアナにいたっては下は短パン、上は帯状の布を胸に巻き付けるだけのものだ。

(工学魔法が完成すればメリヤス生地も作れるようになるかもなあ)

さすがのシュウキも、伸び縮みのするメリヤス生地の織り方はまったくわからなかったのである。

「お父さーん、つめたくてきもちいいよ!」

「よーし、泳ぎを教えてやるからな!」

高知出身のシュウキは泳ぎも達者であった。

「いいか、水の中で目を開けることから始めるんだ」

「うん……」

さすがのアドリアナも、魔法ならぬ水泳の習得には戸惑っているようだ。

「そうだ。身体の力を抜いてごらん。……ほら、浮けた」

「できたできた! お父さん、泳げたよ!」

だが、シュウキの教えがよかったのか、それとも素質があったのか、アドリアナは半日ほどで平泳ぎを覚えたのであった。

「よーし、そしたら一緒に並んで泳ごうな」

「うん!」

水の中での親子水入らず。

「あまり冷たい水に入りっぱなしだと体に毒だからな。少し甲羅干しをしよう」

「お父さん、こうらぼしって?」

「ああ、ほら、亀がときどき岩の上で日向ぼっこをしているだろう? あれに似ているから甲羅干し、っていうんだよ」

「へえ、面白いね」

持参の布を草の上に広げ、2人は寝そべった。

焼け付くような日射しが降り注ぐ夏の日のことであった。