軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

05-11 実験

「いやあ、ジン、久しぶりだな!」

仁達はフィレンツィアーノ侯爵別邸へと招かれ、そこでラインハルトと再会した。

「エルザも御苦労だった。いろいろ大変だったようだが、無事で何よりだ」

よしよしと言わんばかりに頭を撫でるラインハルトにエルザは、

「ライ兄、よして。もう子供じゃない」

そう言ってそっとラインハルトの手を押しのけた。

「なんだ、昔はこうしてやると喜んでいたくせに……ん?」

頭を撫でる手を押しのけた、そのエルザの手指に嵌っている指輪に気が付くラインハルト。

「ほう、指輪か。お転婆娘も色気づいてきたとみえる」

するとエルザは慌てて左手を隠し、

「こ、これはそんなんじゃない」

心なしか顔がうっすら赤らんでいる。

「これは魔導具。……ジン君にもらった。これのおかげで助かった」

その科白を聞いたラインハルトの目が輝く。

「そうか、ちょっと見せてくれないか?」

「駄目」

「そう言わずに、なあ、ちょっとでいいから!」

しつこく迫るラインハルトだが、

「駄目と言ったら駄目。ライ兄のことだからきっと壊す」

にべもないエルザ。だが、ラインハルトはひるまない。

「そんなことしない。約束する」

そんな押し問答をしているのを見かねた仁が、

「あー、何だ、エルザにあげた物と同じ指輪がここにあるから、世話になるお礼代わりにラインハルトに一つやるよ」

「おお、そうか! すまないな!」

そう言って、仁が差し出した指輪をひったくるようにして受け取るラインハルト。

「……とても外交官とは思えない。ライ兄はまったく工作バカ」

と、溜め息混じりにエルザが漏らした。

「ふんふん、ベースは全属性の 魔結晶(マギクリスタル) だな。それに 魔導式(マギフォーミュラ) を刻んであるのか」

早速解析にかかるラインハルト。

「すごく細かいなあ。魔法……に関……する結界、それにこっちは攻……撃に対……する結界、か。なんとか読めはするが、読めるだけだ。僕には真似できない」

それでも、礼子ですら読み取れなかった 魔導式(マギフォーミュラ) を読めるだけ大したものではある。

良いものをもらった、感謝する、とラインハルトは、あらためて正式な礼を仁に対して行ったのである。

「さて、まずは入浴して疲れを取ってくるといい」

いささか型破りな再会の挨拶の後、ラインハルトがそう勧めてきた。風呂好きな仁は喜んでそれを受けた。

ラインハルトが、そばに控えていた侍女に命じ、仁を客室に案内した後、浴室へ連れて行くよう指示した。

「こちらです」

フィレンツィアーノ邸の侍女の案内に従って、仁と礼子は後を付いて行った。

まず、部屋に案内され、荷物を置き、そこから着替えを出して浴室へと向かった。

「こちらでお脱ぎになって下さい」

脱衣所は銭湯のそれのように広かった。豪華さは比ぶべくも無い。

服を脱ぐのを手伝おうとする侍女に、自分でやるからと断りを入れる仁。その侍女はそこで引き下がった。

更に浴室に入った仁を待っていたのは、水着様の浴室着を着た侍女であった。

「わあ!」

いきなり90度の礼で迎えられた仁は驚き、浴室内で転びそうになった。それを支えたのは礼子である。

「お客様、お背中をお流しさせて下さいませ」

そう言って仁に近寄ってくる侍女を制したのはこれもまた礼子。

「結構です。お父さまのお世話は私がしますから」

だが、

「お嬢様のお世話も言いつかっております、どうぞおまかせ下さい」

と礼子に言って食い下がる侍女。しかし礼子は、

「私は 自動人形(オートマタ) です。人間にお世話になるつもりはありません。そしてお父さまのお世話をするのは私の特権です」

そう言ってその力を以て侍女を半ば強引に浴室から追い出してしまった。仁は苦笑して見ているしかない。

「これでお父さまと私だけです」

そう言って、仁の背中にお湯を掛ける礼子であった。

浴槽は大理石造りの豪華な物。これも銭湯並みの広さである。

「あー、ひさしぶりの風呂はやっぱりいいなあ」

そう言いながら手足を伸ばす仁。礼子は湯船には入らず、洗い場に正座している。いつも通りである。

だが、それを見た仁は、

「礼子も入れよ。気持ちいいぞ」

「いえ、私には不要ですので」

「そんなこと言うな。風呂場に一緒にいるんだから、お湯にも一緒に浸かれ。その方が俺も嬉しい」

仁が嬉しい、という言葉に反応した礼子は、お父さまの仰せですから、と前置きを入れ、自らの身体に湯をかけ、失礼します、と言いながらそっと浴槽に体を入れた。

そんな礼子をそばに招き寄せると、仁は礼子の頭を撫でる。

「いつも尽くしてくれてありがとうな。感謝してるぞ」

すると礼子は驚いたような顔で仁を見つめ、

「お父さまは感謝などしなくていいのです。ただ命令してさえ下されば」

「馬鹿。前にも言っただろう、お前は娘だって」

「…………」

その後、追い出された侍女によって、フィレンツィアーノ邸使用人の間に、仁が少女人形愛好者だという噂が流れたとか流れないとか。

* * *

「お嬢様はわたくしがお世話致しますので」

一方、エルザはエルザで、もう一つある浴室にいた。かいがいしく世話を焼いているのは乳母のミーネ。

まだ貧血気味だろうに、それでもエルザにくっついているのは見上げたものである。

エルザはエルザで、普段は自分で服くらい脱ぐのだが、今はミーネに任せていた。

「お嬢様のお肌はいつ見てもお綺麗です」

そう誉めながらドレスを脱がしたとき、左手薬指の指輪に気が付いた。そして、昼間賊に襲われたとき、エルザがその指輪を仁にもらった、と言っていたことを今更ながらに思い出す。

「お嬢様、その指輪……」

「ん? ジン君にもらったの」

「な、な、な、なぜその指に!」

元々貧血で悪かった顔色を更に青くするミーネ。だが、

「この指にちょうどいいサイズだったから」

そうあっさりと言い切るエルザに、ミーネは脱力し溜め息をついた。

「いいですか、お嬢様、左手の薬指は愛情の指。そこにはめる指輪は婚約指輪か結婚指輪です」

「そ、そう、なの?」

珍しくうろたえるエルザ。単に、母親はじめ大人の女性の多くがその指に指輪をはめていたから、少し大人になった気がしていたのであった。

ミーネは、お風呂に入りながらゆっくりお話をして差し上げましょう、と言い、2人は風呂場へ入ったのである。

* * *

どこかわからぬ国、どこかわからぬ場所で。

誰かわからぬ男が、誰かわからぬ相手と話をしていた。

「……試作ゴーレム11型2体が破壊されました」

「ふむ。してその手段は?」

「はい、それが……」

「どうした?」

「……あまりに一瞬でしたので、検知出来ませんでした」

「何? ……そうか。あの国にもなかなか優秀な者あるいは物が存在するようだな」

「もうしわけもございませぬ」

「まあよい。まだ今は試作を作り、その力を試している段階だ。少々のロスは致し方ない」

「はっ」

「だが、破壊方法を知り、その対策を施していけば、無敵に近いゴーレムが完成するはず。そうだったな」

「はい、仰せの通りです」

「よし、今のまま続けるがいい。ところで、あの男はどうした?」

「は? ああ、エルラドライト密輸を任せていたあいつですか。あいつは密輸がばれ、国から指名手配されたようです。使えん奴ですな」

「ふん、ならば、使い潰せばよかろう」

「と、言うことは」

「そうだ。試作20型を与えてやれ」

「あ、あれをですか……」

「かまわん。どうせいずれは試さねばならんのだ」

「わかりました」

それきり会話は止み、静寂が訪れた。