作品タイトル不明
変わりはてる。
「…ふぅん」
意外である。
性転化。
正確には「突発性性別化生症」というそれは、二千人に一人くらいの確率で発症する「意外とある」病である。
女性が男性化する症状も含むこの病は、珍しくはあるが、探せば発病者をすぐにみつけられる。そのくらいにはありふれた病である。
故に、その情報は世に出回っており、朝霧もある程度の概要は周知していた。
なので、朝霧が性転化について知っているのは意外ではない。
意外なのは、朝霧が冷静であることだ。
「えっと、まず、掃除かな?」
知っているからと言って、この事態を動揺せずにいられるものではない。
今までとは別の性別に変わるのが小事であるはずはなく、常人であれば混乱必至だ。
まして朝霧は、体型や容姿に至るまで大きく変質しているのだ。
本来であれば冷静でいられるはずもない。
「うぇぇ、服気持ち悪い」
油ぎった体液でギトギトの服を脱ぎ捨て、全裸になって近くの戸棚を探る朝霧。
落ち着いた様子で、淡々と探している。
「お、バスタオルがあった、ありがたい」
朝霧は冷静であった。それは、今までの小物感丸出しであった彼からは考えられないことだ。
これには当然、理由がある。
原因はもちろん性転化だ。
実は性転化を患った者は、性格の変質が起こりがちである。
性格の変質と言っても考え方や価値観が変わるわけではない。
大抵の場合、発病者は精神が成熟するのだ。
これは遺伝子の覚醒によるものである。
性別が変わると共に、いくらかの眠っていた遺伝子が目覚め、それにより脳機能の一部が覚醒するのだ。
子供が物事に対して我慢が効かないのは、脳の感情を抑制する機能が未成熟であるからだ。
そして、それは肉体の成長に伴う脳の発達により解消される。
性転化した人間は未起動の脳機能の覚醒に伴い、それと同様の効果を得るのだ。
要するに朝霧は性転化の副作用により、「冷静さ」と「忍耐力」を獲得したのである。
「掃除って、大変なんだな」
なかなか上手くいかない掃除に手間取りながら、朝霧は家の使用人達に思いを馳せる。
かの使用人達は日夜、こんな面倒なことを行なっていたのかと関心をする。
冷静と忍耐を獲得しても要領の悪さはそのままの朝霧は、鈍臭くも一生懸命に部屋の掃除をするのだった。
全裸で。
ーーーー
「掃除終わった」
三時間もかけて掃除を終わらせた朝霧。初めてと言うことを抜きにしても時間かかり過ぎである。この掃除により、家にあったバスタオルをすべてダメにしてしまった。
ダメにしたバスタオルと体液塗れの服を捨てようとゴミ袋を探し、見つけた際に雑巾も見つけて歯噛みした朝霧である。
そのあとはシャワーを浴びて身体を綺麗にし、雑巾で身体を拭いて、その時にハンドタオルを発見して歯噛みした朝霧でもある。
「さて、次はと…」
掃除とシャワーを経て、ようやく落ち着いた朝霧。
冷静さを獲得した彼女は、取り乱しはしなかったものの、内心では混乱しまくっていたのだ。だが、黙々と三時間も掃除する中で、ようやく考えもまとまった。
朝霧は昨夜、泣き疲れて眠った後に性転化を発症し、女性となってしまった様だ。
「取り敢えず、病院かな?」
かつて、テレビで見た性転化を患った際のガイドライン。うろ覚えのそれを思い出しながら、今後の方針を決めた。
先ずは病院で検診、そして市役所で本人証明をとる。
そうと決まれば、早速着替えて出かけねばならない。時刻は10時前、検診の所要時間次第では役所が閉まってしまう。
朝霧はゴミ袋を探していた時、押入れに何着かの服を見つけていた。
有難いことに、タオルやゴミ袋同様、生活に必要な最低限の物は用意されている様だ。
だが、体のサイズが全然違うので、用意されていた服はどれも着れそうにない。
風呂場の鏡で確認したその姿は、かつての朝霧とはまるで違っていた。
肥え太っていた腹と手足は、折れそうなほど華奢に。
170センチほどあった身長は150センチほどに。
何より顔。
顔が、亡き祖母に瓜二つであった。
ともかく。
サイズの違う服を無理矢理着ることにする。
パンツはぶかぶか過ぎて履けないので、諦めてノーパンとする。
ダボダボのジーパンの裾を折り、ベルトを限界まで絞ってなんとか履く。
そして不恰好なデカTシャツを被って、なんとか着替えを終えた。
「行こう」
サイズの合わない靴のせいで、おぼつかない足取りのまま出かける朝霧。
鍵を閉めるという習慣のない彼女は、そのままに出て行くのだった。