軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

コミック4巻発売だ、やっほい!!!!(子どもが生まれた話)

私の髪は、ひと房を除いて真っ白です。

それはかつて、働きすぎた証拠。皆さまのお話によると、生きていることが奇跡だったようです。その髪は、レッドラ家に嫁いでから、どんなにやっほいしても、戻ることはございませんでした。

むしろ、ある日を境に、たったひと房残っていたあんず色も真っ白になってしまいました。

それは、わたしがまた無理をした証。

本当に、わたしの命が危なかったそうです。

意識を失って、一週間目覚めなかったそうです。

目覚めたとき、まったく手足が動かなくてびっくりしました。

とうとう神様のもとへ召されたのかと、私でさえそう思ったのです。

だけど、神様のお住まいにしては、やたら耳障りな声が響いてました。

「おぎゃあああ、おぎゃああああああああ!!」

「あぁ、おなか空いたんですか、それともオムツ……たそがれか、このたそがれがいけないのか!? ちょっと父さん、このたそがれを斬ってきてくれない!?」

コレットさん……いくらセバスさんがかつてすごい剣士だったからといって、黄昏……夕焼けは斬れないと思います。

だから、やるなら私が……。

私が、奇跡で夕焼けを消してみせる……。

そう、ぼんやりした頭で奇跡を願おうとしたときでした。

私の中に今まであったマナが感じられませんでした。

まるで、すべて零れ落ちてしまったように。

私の中は、ただただ、空っぽ。

そうか、もう私、マナがなくなっちゃったんだ……。

もう、奇跡、使えないんだ……。

そう思った私の目から、ほろりと温かいものが流れます。

そのとき、コレットさんが目覚めた私に気が付いたようでした。

「うわ、ノイシャ様が起きてる!? ノイシャ様なんで泣いているんですか!? 旦那か、旦那がいないからか!? ちょっと父さーん、今すぐ王城ごと旦那様を連れてきて――」

「私……奇跡、使えなくなっちゃいました……」

慌てふためくコレットさんに、私は事実を伝えます。

奇跡が使えない私に、どんな価値があるのだろう。

ただ皆さんの慈悲にやっほいするだけの、私。

与えられるだけの、私。

これから、私はどうすればいいのだろう。

皆さんは優しいから、たとえ奇跡が使えない私を無理やり追い出すことはないだろう。

だからこそ、私から出ていくべきなのかな。

そんなことを、ぼんやりした頭で考えていたときです。

「おぎゃあああああ、おぎゃあああああ」

あぁ、なんて耳障りなんだろう。

うるさい。鼓膜だけじゃなくて、心の芯に響くような鳴き声がうるさい。

音源はどこか……それを探れば、コレットさんの腕の中からでした。

何かを抱っこしている。大切そうに、小さな何かを抱っこしている。

「とりあえず、早急に旦那をぶんどってきますからね! ちょっとだけ……ちょーっとだけ待っていてくださいね! 絶対に一歩も動いちゃダメですからね!?」

ものすごく念押しして、部屋から飛び出すコレットさん。

いつも、コレットさんは元気だなぁ。

とりあえず、私は一歩も動いちゃだめらしい。

耳障りな鳴き声が、コレットさんとともに遠ざかっていく。

あの存在はなんだろう?

その声が聞こえなくなっていくのが、とても私をしょぼりさせる。

あんなに、あんなに耳障りだったのに。

そして、本当に少しで帰ってきた。

「それで、ノイシャが奇跡を使えなくなったと?」

「はい、本人はそのように言っております」

「だけど、目は覚めたんだな」

「ずっと泣いておられますが」

「つまり、泣けるほどの体力は戻ったんだな」

「さようですね」

聞こえる旦那様とコレットさんの声にほっとする。

同時に「おぎゃあああああ」と泣きわめく声音がわたしを焦燥感に駆らせた。

扉が乱暴に開け放たれる。そして私と目を合わせたリュナン様が、一気に涙腺を緩ませた。

「よかった……よかったよぅ……一週間は寝すぎだろう、どあほう……」

リュナン様が泣いている。

私を抱きしめながら、泣いている。

私が奇跡を使えなくなったことを知っているにも関わらず、リュナン様は私が目覚めたことを喜んでくださっている。

途端、私も目の奥が熱くなった。

「私、捨てられないですか……?」

「おまえまだそんなこと言っているのかよ……ノイシャが俺を捨てても、俺がノイシャを捨てられるはずがないだろ……」

「でも……私、もう何もできない役立たずで……」

「むしろ天空城を作るとか、夕焼けを爆散するとか言い出さなくなったことに安堵するくらいだ。おまえに奇跡はいらん。もう二度と働くな」

「がーん……」

ショックです……。

今まで、私なりに懸命にリュナン様たちのお役にたとうとがんばっていたのに……。

私がしょんぼりしていると、リュナン様が優しい顔で私の丸い頭を撫でてくれた。

「それに、おまえはもう一生分の仕事を果たしただろう?」

「教会で、ですか?」

かつて、私は一日二十時間働いていた。

日が昇る前に起きて、教会中のお掃除。

泥水をすすって、下水道に潜り、灯りのない倉庫で事務仕事をして、ゴミ捨て場で残飯をあさる。

そんな生活を十年以上過ごしていたはずなのに、そのころの記憶に乏しい。

リュナン様と出会ってやっほいばかりした記憶しか思い出せない私がぽかんとしていると、リュナン様が私のおでこをツンとつついた。

「ど阿呆。あのころより、もっとすごいことを為したんだよ」

そんなリュナン様の横から、コレットさんが顔を出す。

「抱っこしてあげてください、 ママ(・・) 」

コレットさんが、何かを私に渡そうとしてくる。

それは、私がずっと耳障りだったもの。

赤ん坊だった。ほにゃほにゃの赤ちゃんだ。ずっと泣いていたせいか、目や鼻が真っ赤になっていた。頭にはあんず色の髪がふわっとしている。

目はリュナン様と同じ青い瞳。

だけど、髪は私にひと房あったはずのあんず色。

リュナン様の桃色でもない。

私の、私にあったはずの、あんず色。

セバスさんが気が付いてくれた、私とリュナン様を引き合わせてくれた色。

そんな赤ちゃんを私に託そうとしながら、コレットさんが私のことを『ママ』と呼んだ。

「私が……ママ……?」

そうだ、私は子どもを生んだ。

リュナン様と何回か夜を共にして、私のおなかの中にやってきた子。

つわりもひどくて、お医者様にも母体があぶないとずっと言われて。

それでも、ぜったいに生みたいとわがままを言って、私が生んだ大切なリュナン様との子ども。

どうやら、私は出産直後からずっと意識を失っていたらしい。

「そうだぞ、ノイシャがママで、俺がパパだ……今だに、俺がそんな大層なものになった自覚はないけど――」

そう苦笑したリュナン様を、コレットさんが肘鉄で黙らせる。

「弱気なことを言わんでください。おまえはもうつべこべ言わず妻子を幸せにするっきゃねー立場なんですよ!」

「う、うす……」

リュナン様がヤマグチさん語で返事して、いつもならやっほいするはずなのに。

私は、今も泣いている赤ちゃんから目が離せない。

あぁ、うるさい。私の何かを急き立てるように、落ち着かない。

赤ちゃんの泣き声は修道院や仕事の一環で何度も聞いたことがある。

だけど、そのときはどんなに泣き叫ばれても『かわいいなぁ』しか思わなかったのに。

「私……初めてなんです。なにかをうるさいと思うなんて……」

私の戸惑いに、コレットさんが「あぁ」と応じる。

「わたし聞いたことありますよ。母親って、自分の子どもの声はひときわうるさく感じるものだそうです。すぐお世話できるようになんですかね。まあ、この子も『ママ~』って呼んでいるのでしょうから……相思相愛ってことですよ」

赤ちゃんが、私のことを呼んでいる。

小さな身体で、精いっぱいの大きな声を出して、呼んでいる。

こんな小さいのに、全身で私を求めてくれている。

もう奇跡も使えない、役立たずな私なんかを――。

私は、そんな赤ちゃんを受け取った。

すごく柔らかくて、あたたかくて、なんだか懐かしいような、甘い香りがする。

なんだか、私は泣きたくなった。

「おっぱい、とか、私があげてもいいのでしょうか……」

「やり方ならお任せください。わたし、助産師の免許をとるときにしっかり勉強してきたので!」

コレットさんが胸を張る。

そういやコレットさん、私が妊娠したとわかるやいなや、お出かけが増えていたのだ。実際に私が生んだときにもそばで、まるで専門家のように色々サポートしてくれて……そうか、免許までとってくれてたんだね。やっぱりコレットさんはたくましいなぁ。

その隣で、リュナンさんはとても恐々と聞いてくる。

「その、おっぱいとやら……俺も見ていていいのだろうか?」

「父親が何を言っているので?」

「だけど、その……胸をはだけるわけだろう?」

「ノイシャ様の服を剥いたことある野郎が何を言っているの?」

「剥くだなんて……もっと丁重に扱っている!!」

そんなリュナン様とコレットさんのやりとりに、わたしは「ふふふ」と笑う。

私の腕の中の赤ん坊が、リュナン様に手を伸ばす。

なんとなく、この子がなんて言ってるかわかる気がした。

「そばにいて、だそうです」

「……この子が言ったのか?」

「はい。たぶん」

リュナン様が固唾を呑んだ。

「それなら、初めての授乳……するか。いっしょに」

「はい!」

そして、コレットさんの指導のもと、初めての授乳をしながら気が付いた。

赤ちゃんのまわりにキラキラしたものが視える。

リュナン様やコレットさんは気が付いていないらしい。

だけど、このキラキラは、ずっと私のそばにいたマナだ。

私は幸せそうにおっぱいを飲む赤ちゃんを見下ろしながら、告げた。

「天空城、諦める必要はないかもしれません」

「別に望んでもないが……どうしてだ?」

リュナン様に疑問に、私は笑みを返す。

「この子が、私のやっほいを全部受け継いでくれたようですから」

「えっ?」

ひとり増えた大切な家族の未来に。

私たちの楽しい毎日に、やっほい!!

【3分聖女の幸せぐーたら生活 おしまい!!】