軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

3分聖女のお昼ご飯

それは、とある日の昼休みのことだった。

「きみは何を食べているんだ?」

「スリーミニッツゼリーです」

この学校には学食もあるが、必ずしも利用する必要はない。

いつも混んでいるので、学内の売店で買うやつもいるし、外から買ってくるやつもいるし、弁当を持参するやつもいる。

だから、取り立てて教室で一人で昼食をとるノイシャ=アードラが変わったことをしているわけではないが……俺は思わず声をかけてしまった。

だって女子高校生が一週間毎日携帯飲料ゼリーを三分チャージしているんだぞ?

俺がセバス先生から彼女の世話役を仰せつかっていることもあるが……なにより気になるじゃないか!

「昨日もそれを飲んでいたな?」

「明日も飲んでいると思います」

「……他には何も食べないのか?」

「食事に三分以上の時間をかけると、鞭で打たれますので」

……本当、今までどんな生活をしてきたんだよ⁉

彼女の発言に、まわりのクラスメイトたちがヒソヒソと何かを話し始める。いや、俺は鞭で打ったことなんかないからな? なんでそんな勘違いをされなきゃならない――

「あなた、顔が常に怖いのよ」

そう割って入ってきたのは、俺の幼馴染であるラーナ=トレイルだった。

俺とバルサとラーナは三人腐れ縁である。家が近いのもあるが、小・中・高と同じ学校に通い続けてクラスも同じとなれば、嫌でも気心は知れてくるというもの。それに現在も生徒会の副会長を務めているとなれば……俺も彼女も、お互いに遠慮なんてものはない。

「こんな 幼気(いたいけ) な女の子に、そんな仏頂面で話しかけてもパワハラ働いているようにしか見えないわよ? バルサじゃないけど、もっと優しく声をかけてあげなさいよ。せめて視線を合わせてあげるとか」

「こ、こんな感じか……?」

たしかに、俺は男の中でも身長が高い方である。

対して、ノイシャ=アードラは女の中でも小柄だ。しかも現在、椅子に座っている。

なのに、俺が立ったまま見下すように話しかけられたら怖いと思われても仕方ないだろう。

だから彼女の机の前にしゃがんで視線を合わせると、ノイシャ=アードラは丸い目をパチパチとさせていた。

「なんか不思議な光景ですね!」

「い、嫌か?」

「いえ、やっほいします!」

ここでニッコリされたら俺もときめいたりするのだろうが……彼女がすごく真剣な顔で「やっほいです」ともう一度言った。これは……喜ばれているのだろうか?

ともあれ、この状態のままラーナを見上げればサムズアップされたので、俺は再び彼女の昼食について尋ねることにする。

「で、だ。毎日そんなものを飲んでいるが、それで腹は溜まるのか?」

「だってスリーミニッツゼリーですよ?」

「それは答えになっているのか?」

「ちなみに朝食は何を食べているんだ?」

「スリーミニッツゼリーです」

「夕食は?」

「スリーミニッツゼリーです」

「ど阿呆! 他にないのか⁉」

仮にも彼女は学園運営の雑務を一人で全部こなしつつ、試験もオール満点の才女のはずだ。その天才的頭脳をもっているのに……どうしてそれだけじゃ栄養が偏ることに気付かない⁉

しかし何だろう。急に彼女の声が聞こえなくなる。

頭を掻きむしっていた俺が視線をあげると……彼女が顔面蒼白、わなわなと震えていた。

「ごめんなさい……」

「急にどうしたんだ?」

疑問符を投げる俺に、ラーナが冷たい指摘を降らせてくる。

「あなたが『ど阿呆』なんて怒るから、怖くなっちゃったんじゃないの?」

「それは……」

度々ラーナから苦言を呈されていたが、俺の悪い口癖だ。直そう直そう思いつつ……どうも妹分のような あいつ(・・・) のせいで、未だ直せないでいる。

――と、そんな俺の事情なんて、出会って間もない彼女には関係のないことだろう。

「す、すまない。本当にきみのこと阿呆だと思っているわけじゃ――」

「三分すぎちゃいました……」

「…………は?」

まるで意味がわからない。

だけど、彼女はこの世の破滅に危機しているかのような絶望した顔を崩さない。

「スリーミニッツゼリーなのに、三分すぎちゃいました。もう飲めません。三分で完食するからこそのスリーミニッツゼリーなのに……」

いや……それはあくまで宣伝文ってなだけで。

別に三分すぎようが栄養も変わらなければ、味も何も変わらないと思うのだが……。

だけど、ふと思い立った俺は自分の机からまだ食べていないパンを持ってくる。

「俺が話しかけたせいですまなかった。詫びにこれを食べてくれるか?」

「これは……?」

俺が渡したのは、売店で買ったメロンパンだ。栄養は……それこそスリーミニッツゼリーの方がバランスよく入っているだろうが、カロリーは圧倒的にこちらの方が高い。瘦せっぽちの彼女がたまに食べる分にはむしろ好ましいだろう。

彼女は不思議そうな顔をしながら俺のメロンパンを頬張る。

途端、顔が蕩けた。すごく幸せそうな顔で目をキラキラさせるものだから……思わず俺も苦笑してしまう。

そんな後ろで、他の誰かが近づいてきた。学食から戻ってきたバルサである。

「ねぇ、ラーナ。あの二人は、なに?」

「私が見ていて退屈しない何かよ」

淑女らしい完璧な笑みを浮かべるラーナに、俺は思わず「ど阿呆!」と振り返った。その後「口が悪い!」とラーナに怒られたことは語るまでもないだろう。