軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第34話 淑女のお勉強をしよう!

♦ ♦ ♦

「旦那様の許可なくなりません!」

「あら。どうして? リュナンはノイシャさんを軟禁でもしてるの?」

セバスさんとラーナ様が喧嘩をしている。

なぜか間に挟まれた私が口を開く隙すらない。

「それは大変だわ! よりにもよって、かのレッドラ家次期公爵が聖女を身請けしたと話題になっているのに、その聖女への待遇が軟禁だなんて……。そんなことが巷に知れ渡ったら、レッドラ家の評判はどうなるかしらね?」

仰々しく開いた口元を扇で隠すラーナ様。

おー。なんかいつもと違い、ご令嬢っぽい!

それに対して、セバスさんも負けていない。いつもよりも毅然とした佇まいからは『私は仕事できます』感がビシビシ伝わってくる。カッコいい!

そんな二人の会話を他人事のように話を聞いていれば、私の腕がラーナ様に絡められた。

「私はただノイシャさんに『遊びに行きましょう』と言っているだけですのよ?」

「でしたら、我々も同行させていただきます。どこへ参るのですか?」

「そんなの、女同士の秘密に決まっているじゃない。あ、いつものメイドさんも付いてこないでほしいわ。れっきとした淑女のだけの遊び場ですの」

ラーナ様が目を細めた。

「よくあるでしょう、貴族には」

その発言に、セバスさんが息を呑んでいる。

――ラーナ様は私に淑女教育的なのを施そうとしてくれてるのかな?

こっそりラーナ様の腕に触り、脈などを図ってみても……どこも具合悪そうなところはない。よかった。お風邪というのは噓だったみたい。だけどつまり、ラーナ様は大切なお仕事よりも、私への教育を優先させるべきと判断したということだ。きっと先日トレイル家に訪問した際、大々的な不出来があったということなのだろう。

「ほら、もうノイシャさんも公爵夫人なのですから。こういった遊びのひとつやふたつも覚えないと。ね? 恥を掻くのはリュナンなのよ?」

私は旦那様に買われた以上、このまま『ぐーたら生活』を極める義務がある。

ならば、私が今為すべきことは――

「セバスさん。コレットさん。私、大丈夫ですから」

――すべては幸せなぐーたら生活のために!

私は笑顔でセバスさんに告げた。

「淑女のお勉強してきますね!」

そして、私は馬車に乗せられた。

ガタゴト。ガタゴト。車輪の音と馬の足音以外、とても静か。こんなに大勢の兵隊さんに護衛されるのなんて初めてだ。そう驚いていたら、ラーナ様は「貴族ならこのくらいの護衛、当然よ」なんて言っていたけど。

それ以降、いつも賑やかなラーナ様が何もお話しなさらない。着替える時間も惜しいと言われて、私はジャージのままだった。ドレスコードはないから、と。

流れゆく風景は、とても見覚えがあった。馬車の中から眺めたのは一度だけ。しかも進む方向は逆だったけれど――人里離れたのどかな草原の中に建つ、厳かな建物を私が見違えるはずがない。

「ここは……」

「懐かしい……てほど、久しくもないのかしら?」

馬車から下ろされ、足が竦む。それは、まわりを取り囲む大勢の兵士さんが怖いからではない。それでも「こっちよ」と穏やかな声音と強い腕に掴まれて、入った礼拝堂は――

「こんにちは、司教様。結婚の式典ぶりですね」

「これはこれは、トレイル卿。今日も大変麗しゅうございますね」

その声に、私は即座にうつむいた。長年あんなにお世話になっていたはずなのに……なぜか私は、 その方(・・・) の顔を見ることができなかった。だけどラーナ様は「まだその呼び方は早いわよ」と朗らかに談笑している。

――なんで? なんでなんでなんで?

ここは淑女教育とは無縁のはずだ。だってここが淑女教育に適しているのだとしたら、人生のほとんどをこの場所で過ごした私が淑女じゃないなんて、おかしいじゃないか。

――いや、おかしくないのかもしれない。

――ただ私が不出来だから、 返品(・・) されたのだとしたら……。

「それで、今日はどのようなご用件で?」

司教様は、今日も愛想よく微笑んでいた。あれは人々を安心させる笑顔らしい。たとえ仮面と変わらないのだとしても、それで民の心が軽くなるなら、それは人が生み出せる奇跡と変わらないとおっしゃっていた。

一番質のいい祭服を身に着け、少しふくよかな司教様の見目はひと月くらいじゃ何も変わっていない。そんな私の育ての親に、ラーナ様は言う。

「えぇ、それが……ノイシャさんが身請け先で酷い目に遭っているようなの」

――そんなまさか!

レッドラ家のお屋敷で、酷い目なんて一度も遭ったことがない。

それもこれも、全部旦那様のおかげ。

真面目で、優しくて、お仕事に一生懸命で、男の人の、リュナン様のおかげ。

それなのに、ラーナ様は私のジャージの袖を捲る。

「見て、この細い腕。きっと何日も食べさせてもらってないんだわ。だって貴族に嫁いだ年頃の女の子がこんなに痩せているなんて、ありえないですもの」

――ちがう! ちがうちがうちがう‼

毎日美味しいもの、たくさん食べさせてもらっている。ふかふかのベッドで眠って。楽しいお喋りをたくさんして、セバスさんやコレットさんやヤマグチさんと、毎日毎日楽しく『ぐーたら』してたんだ。

ただ私が細いのは、どんなに素敵な生活を送らせてもらったとしても、一か月やそこらじゃ簡単には変われないから。お肉だってすぐに付くものじゃないし、お話だって急に上手くなれるものじゃない。

だけど、だからこそ……。

「私はリュナンの幼馴染だから、よくわかるのだけど……あの人、 こういう(・・・・) ところがあるのよ。弱いものを虐めて、悦に浸るところ。昔も剣も握ったこともない友人をボコボコにして誇らしそうにしていたわ。だけど、さすがにもう見ていられなくって……」

私は司教様が怖くて。今のしおらしいラーナ様が怖くて。

唇が震えるだけで、口の中がカラカラだから。何も言葉にできない。

「この子を教会で 保護(・・) してあげることはできないかしら?」