軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第一話:プロケルの決断

~???視点~

「驚いたな。本当に驚いた」

旧い魔王の一柱である彼は、配下の魔物からの報告を聞き、嬉しそうに言った。

彼は、人間を利用するタイプの魔王だ。

宗教を利用することで、人間の感情を集めている。

彼のダンジョンは世界最小の国にして、この世界の最大宗教、クリアラル教の総本山だ。

熱心な信者が多く集まり、なおかつ聖地として日々訪れる人が絶えない。その感情はひどく強く質がいいものだ。

さらに、聖戦と称して大規模な戦争を仕掛けることで臨時収入も多い。

「何を喜んでいるのですか、【創造】との戦争は大敗です。人間を利用して若い芽を摘むつもりだったというのに、これでは【創造】を強くしただけではないですか」

【創造】の魔王との戦争に参加した人間の兵士が主である魔王に苦言を言う。

「ふむ、我は若い芽を摘むなんてことは一言も言っていないはずだ。【創造】の力を確かめると言っていた」

魔王は手に持ったグラスを傾ける。

超一流の酒。神への献上品故に、彼の持ち物はすべて最上のものばかりだ。

「主よ。いったい何を考えているのですか?」

「答えるのはいいがその前にその皮を脱いだらどうだ。苦しいだろうに」

彼の言葉を聞いた、兵士が大きく口をあける。

すると、黒い影が出てきた。黒い影はまるでのっぺらぼうのよう。

何一つ、特徴はない。

彼が這い出てきたあとの兵士の肉体はぺらぺらの皮だけだった。

その魔物の正体は、ドッペルイーター。

人間の中に入り成り代わる能力をもっている。

人間の皮をかぶり、魂すらもかぶってしまうため、どれだけの感知能力をもっていようとも、魔物とは判断できない。

この旧い魔王は監視要員として、ドッペルイーターを数体戦争に参加させていた。

もともとは、アヴァロンの中にも忍ばせていたが、【創造】の魔王プロケルが作り出したルルイエ・ディーヴァを恐れて撤退させている。

あれは、感情を読み取る能力をもち、さらに感覚が鋭すぎる。長期間の潜伏はドッペルイーターといえどもばれてしまう恐れがあった。

「これでいいでしょうか」

「ああ、では続きを話そうか。もともと、彼を試すつもりだったんだ。この程度で潰れるようなら殺してしまって構わなかったし、そうでないならこちら側に引き入れるためにも強くなってほしかった。だから、強制的に魔王としての覚醒条件を整えてやった。……つまるところ、どっちに転んでも成功だったわけだ。【創造】の手札も見れたしね」

魔王は純粋に経験を重ねていくだけの成長とは違い、とある一定の条件を揃えることで覚醒を行える。

ちまちま、魂や感情を喰らっていてもけっして覚醒などできない。

その条件を知っている魔王は片手の指で数えられるほどだ。たとえ、子相手でも教えない絶対の秘密である。

「主、あなたはいったい」

「あれは、我と似ているからね。街という発想。そして、未熟な状態で覚醒しても闇に飲まれない。そんな魔王は我以外に知らんよ」

ドッペルイーターは、主を見て驚く。

ここまで楽しそうに笑う主は百年以上見ていない。

「さて、最終試験を行うとしようか。彼の魔王の力ではなく器を試す。非情になりきれるかどうかを。ここで己の力にうぬぼれ、身の程をわきまえない行動をするようならいらない」

「まさか、あれをやるつもりですか」

ドッペルイーターは息を呑む。

あまりにも不遜かつ危険な主の行動に期待とおそれを感じて。

「何十年も前から根回しをしていたし、ちょうどいい。だいたい。我を無視して、最強の三柱と奴らが呼ばれるのに苛立っていた。【獣】【刻】【竜】。そろそろ老害には消えてもらう。一番弱い奴からね。さあ、親を見捨てることができる正しい魔王か。分をわきまえず、旧い魔王との戦いに巻き込まれ擦りつぶされる愚者か、彼はどっちだろうね」

旧い魔王の後ろで、影が蠢きだす。

それらは最強の魔物たち。そして、量産に成功した英雄たち。

すべての魔王の頂点は、【獣】【刻】【竜】と言われている。

だが、ドッペルイーターには自らの主が彼らに劣るとは到底思えなかった。

◇プロケル視点に戻る。

目的地である地下のパン工場にたどり着いた。

ワイトに会うためだ。彼には重要な仕事を任せている。

今日もせっせと、スケルトンたちがパンを作っていた。人口が増えた分、大忙しだ。

「これは我が君、またいらしてくださったんですね」

俺の姿が見えた途端、ワイトはうれしそうに駆け寄ってきて、優雅に一礼をする。

「ワイトに用があってきた」

「人間の死体のことでしょうか?」

「その通りだ。あれが戦力になるのかを確認したかった」

今回の戦争では隣街は英雄クラス。魔物に置き換えればAランクの極めて強力な存在を投入してきた。

そいつらを皆殺しにして死体を手に入れており、再利用をワイトに命じていた。

「では報告を、英雄クラスの死体は十六体、【強化蘇生】に成功しました。Aランクの魔物並みの力なうえ、さまざまな特殊能力があり、バリエーションも豊富。なかなか頼りになりますぞ。我が力で強化された影響で、弱いものでもAランク中位、優れた個体ですとAランク上位の力がございます」

「ほう、それは朗報だ」

俺はワイトの報告を喜ぶ。

ワイトの能力の一つに【強化蘇生】というものがある。

同じ対象には一度しか使えないが、アンデッド化した状態で、生前よりも強く復活させ配下にする。

英雄クラスの冒険者が強化されて配下になったのは大きな戦力増だ。

「ですが、残念ながら十四体は死体は損傷が激しすぎて【強化蘇生】できませんでした」

「それは仕方がない。アウラには殲滅を優先させた」

仮にも相手は英雄クラス。余裕ができるまでは敵を殺すことだけを考えるようにと命じていたのだ。

「ワイト、英雄クラス以外の死体はどうした?」

今回の戦争では三千人のうち、過半数を殺した。

死体は無数に転がっていたはずだ。その中には損傷具合が少ないものもある。

「まだ、四体のみしかアンデッド化できておりません。私の【強化蘇生】は一日に二十回が限界でございます。そういったこまごました雑魚は、ルルイエ・ディーヴァ殿にまとめて凍らせてもらい倉庫で保存しております。毎日少しづつアンデッド化していく予定ですよ」

「それは頼もしいな、あの中には魔物にしてBランク、Cランクの兵も多い。おまえの【強化補正】による能力の向上、そしてアンデッドに対する軍団強化スキルを考えると十分な戦力だ。無駄にはするな」

「御意に」

ワイトが礼をする。

「頼んでいたもう一つのほうはどうなった」

「それがですが、話が通じません。こいつらはおかしいのです。私が【強化蘇生】を行ったものは、経験と知識、そして記憶はすべて残りますが、感情や人格は闇との親和性が高いものしか残りません。とはいえ、残り香ぐらいはあるのが普通です。英雄クラスは全員が、もとより空っぽとしか思えませんでした」

「空っぽ? 英雄にまで至った人間が」

「ええ、我が主の命じたとおり情報を引き出そうとしたのですが、白い部屋で生活していたこと。定期的にパパと呼ばれる何かに正体不明の魔術を施されたこと、投薬、命令される度に何かを壊した。それら以外の記憶は何一つない。有意義な情報は引き出せませんでした」

ワイトの言葉と、領主がもらした今回の英雄クラスは養殖。その二つの言葉がつながる。

「いや、十分だ。その情報が得られただけでも価値があった。英雄クラスの兵士たち以外も【強化蘇生】したら情報を引き出せ」

「御意に」

ワイトが恭しく頭を下げる。

そのあと、元英雄クラスのアンデッドたちの能力をこの目で確かめさせてもらった。

さすがに、その力は圧巻だった。

超一流の剣技を持つ者。弓のスペシャリスト。ありとあらゆる攻撃魔術の使い手、治癒魔法を極めしもの。

彼らの力はクイナたちには遠く及ばないが、とにかく戦術の幅が広い。

うまく使えば、最高の戦力になるだろう。

ワイトのところで新たな戦力を確認したあとは、屋敷に戻った。

街の運営にかかわる仕事はいくらでもある。

優秀な人間を一人雇おうと決めた。ダンジョンの運営はともかく、街の運営のほうはそろそろ手を放したい。

クイナたちは珍しく、昼過ぎにはもどって自室で待機していた。

どうやら、昨日の祝勝会の影響で街の機能がマヒしていて仕事が進まないらしい。

紅茶を一口啜ったところで、屋敷の中に魔力が高まった。

これは、【転移】の魔術?

俺の屋敷の中にある転移陣を使って誰かが来たようだ。

可能性があるのは、隣街とマルコのダンジョンにあるもの。

転移陣に向かうと見知った人物が、こちらに向かってかけよってくる。

足元には血が滴り落ちている。正面に傷がないということは、背中を怪我している。

クイナたちも、魔力の気配に気付いてやってきた。

「サキュバス、どうしてここに。その傷はなんだ」

そう、マルコのダンジョンにいるはずのサキュバスだ。

おそらく、俺がマルコのダンジョンに設置した転移陣を使用したのだろう。転移陣を設置することにはデメリットもある。転移できる他の魔物たちに利用されてしまうことだ。

だが、マルコの魔物なら警戒は必要ないだろう。

崩れ落ちそうな彼女を慌てて支える。

「プロケル様、マルコシアス様のダンジョンが、複数の魔王に襲われています。完全な不意打ちの上、強い魔王が何人もいて、かなりまずい状況です。私はマルコシアス様の命令で、あなたの元にまいりましたわ」

「状況はわかった。すぐに助けにいく。だから安心して眠ってくれ。治療の手配をしよう」

マルコのピンチか。

今までの俺なら、行ったところで何の力にもなれない。

だが、今の俺なら十分な助力になる。

「違いますわ!」

サキュバスが必死になって、俺の襟首をつかむ。そして、顔を近づけて声を絞り出す。

「マルコシアス様は、絶対にあなたに助けにくるなと伝えるために私をよこしたのですわ! いいですか、あなたはもっとも才能がある魔王ですわ! 将来的には最強の魔王にすらなりえる! ですが、今はただのひよっこです」

「そんなことはわかっている。それでも、力にはなれる」

俺の言葉を聞いたサキュバスが怒りの表情を浮かべる。

「わかってない! マルコシアス様に助勢することの意味を考えてください! 新たな魔王が旧い魔王から攻められないという約束は、あくまで新しい魔王から攻めないことが条件なのです。あなたが助勢したとたん、マルコシアス様に攻撃を仕掛けている魔王たちは、あなたを叩き潰しますわ。嬉々として、強力なライバルになるあなたを今なら潰せると」

その言葉でようやくマルコの意図がわかった。

マルコは、俺に助けて欲しかったわけじゃない。

自分が攻撃を受けていて、劣勢だと俺がわかったら、助勢に来て、そして旧い魔王に俺が攻められる口実を作ってしまうとわかっていた。

だから、釘を刺したのだ。

それも、魔王同士の戦いで有用なサキュバスを使ってまで。

つい先日、彼女を怒らせた俺を助けるために。

拳を握りしめる。

転移陣の光が消えた。おそらく、なにかしかけをしてマルコのダンジョン側の陣を壊したのだろう。敵に利用されないように。

「クイナ、ロロノ、アウラ、俺は馬鹿だ。馬鹿な魔王だ。これからとびきりの馬鹿をやる。そんな俺を許してほしい。おまえたちの意見は聞かない。もうすでに決めている」

力強く言い切る。

これは、俺の魔王としての決断。

助言を聞いて、判断の責任を自分意外に求めたりしない。背中を押してもらおうとなんて思わない。

俺が自ら決めたのだ。

「やー♪ それでこそ、おとーさんなの」

「ん、【獣】の魔王マルコシアスはマスターの母親。見殺しにはできない」

「旧い魔王なんて、私たちが倒してあげますよ」

さすがは俺の【誓約の魔物】たちだ。

心強い。

「待ちなさい、マルコシアス様の想いを踏みにじるつもりですか!」

「親の心、子知らずってやつだな。俺はもう巣立ちしたんだ。自由にやらせてもらう。それにな……」

俺は、頭の中で最善手を探す。

俺が単身乗り込んでもたかが知れている。

それよりも、俺とマルコ共通の知り合いに声をかけないと。

まずはストラスに取り次いでもらって【竜】の魔王と交渉だ。彼はマルコとの親友だ。きっと協力してくれる。

次に、【刻】の魔王に謁見を行う。マルコに惚れている彼ならきっと力を貸してくれる。

「サキュバス。喧嘩をしたまま、マルコと死に別れなんて嫌だよ。俺は死に別れるとしても最後に笑顔をみたい」

さあ、マルコを助けるために動こう。

この事件はきっと、マルコだけを狙ったものではない。何かの罠だ。

それでも、俺が俺であるために、俺のプライドで動く。

たとえ、どんな罠が待ち構えていようと俺たちの力で打ち破ってみせる。