軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十三話:最後の四大属性《エレメンツ》

「最後通告か」

朝食を食べながら、

朝一番に隣街の領主から送られてきた手紙を見て、苦笑する。

「おとーさん、どうしたの?」

キツネ耳美少女の天狐、クイナが首をかしげて問いかけてくる。口元にマヨネーズがついていて可愛らしい。

以前、暇つぶしに俺が作ったお手製のマヨネーズをアウラが気に入って、我が家の食卓の定番になっている。

なぜ、マヨネーズなんて作ろうと思ったのか自分でもわからない。ただ、そうしないといけないという世界の強制力みたいなものを感じた。

「ちょっとね。それより、クイナ。マヨネーズが口元についてるよ」

「おとーさん、とって」

わざわざ、椅子から立ち上がってキツネ尻尾を揺らしながらクイナがこちらまで来る。

自分でとったほうが早いのに。俺は小さく笑う。

「ほら、クイナ」

「ありがとー、おとーさん」

ほっぺについてるマヨネーズを手でとり、舐めるとクイナがにっこりと微笑む。

「ぶっ」

視線を前に向けると銀髪美少女のエルダー・ドワーフ、ロロノが目に入った。口元にべったりとマヨネーズがついてる。

そして、じっと俺のほうを見ていた。

だいたい考えていることはわかる。

……実を言うとうちで一番の甘えん坊はクイナではなくロロノだ。

それも照れ屋で口に出せないという複雑さ。そこも可愛い。

とはいえ、しょうがない子だ。

さて、ロロノの口元をぬぐってやろう。

そう、考えていたときだった。

「ロロノちゃん、だめですよ。お行儀悪くしたら」

金髪でスタイルがいいエンシェント・エルフのアウラが、後ろから抱き着きながら口元を布でふき取る。

ロロノが複雑そうな顔をする。

アウラの表情を見ると、わざとやっていることを確信する。アウラは、ロロノのいろんな表情を楽しむため、たまに意地悪をする。

「ロロノ。まだ、少しだけついてるよ」

「んっ、ありがとうマスター」

アウラの拭き残しを俺が拭う。

吹き残りがあるのもわざとだろう。がっかりしたロロノと喜ぶロロノ、二度おいしいとかアウラは思っていそうだ。

ロロノがほんのりと頬を染め、嬉しそうに頷く。

優しい雰囲気の中朝食は進んでいく。魔王も魔物も大気のマナや人間の感情を栄養にしており、食事をする必要はないが、心の栄養だ。

ある意味、これが魔物たちの強さだ。魔物は補給に困らない。

「最初の話に戻すけど、この前、兵士たちが来たよね。その親玉がさっさと従うと言え、もう一度兵を送りつける。その際にまだ時間稼ぎをするようなら、実力行使を行うって手紙を送ってきたんだ」

今日のトーストが美味しい、上に載っているチーズの質がいい。今まではアヴァロンではけして手に入れることができなかった新鮮なトマトまで乗っていて、チーズとの相性も抜群。

空輸を初めてからアヴァロン内に安くてうまいものがあふれ始めた。

冒険者たちにも好評だし、冒険者以外の客も各地からくるようになった。

アヴァロンでは旨くて安くて珍しいものが食べられるし、買えると話題になっている。

人が増えればDPが増える。生活の質があがり、一人あたりの感情の質もあがっているのも大きい。

人間の感情を喰らう魔王である俺は力が満ちているのを感じていた。

「たかが人間の分際でおとーさんに喧嘩を売るなんて死にたいの? むしろ、クイナが殺すの」

「そろそろ我慢できない。もう少し身の程をしるべき」

「まあまあ、クイナちゃん、ロロノちゃん、油断は大敵ですよ。ゴミはゴミなりに、足りない頭でいろいろと考えていますので足を救われるかもしれません」

クイナとロロノをアウラがいさめる。

俺は少し苦笑する。相変わらず、俺の魔物たちは人間を下等生物とみなしている。舐めきっていると言ってもいい。

魔物、それも圧倒的なSランクの力をもっている三人なら仕方ない。

実際、この街は超一流の冒険者たちが頻繁に訪れ、人間の強さの基準というものを知ってしまっている。

最強クラスの人間でようやくBクラス並み。この子たちなら三秒あれば殺せる。

こうして油断するのも無理はない。

「アウラの言う通りだよ。人間は確かに弱いけどね。数と道具、それに知恵。力以外の部分で補ってくる。英雄クラスの規格外もいるみたいだしね。油断はするな」

英雄と言っても、せいぜいAランク。百人ほど揃ってようやくアヴァロンの脅威と思える。

とはいえ、規格外の中の規格外がいても不思議ではない。

警戒は怠らない。

「わかったの!」

「マスターそう言うなら」

二人が頷く。ものわかりのいい子たちだ。

「それと人間はたしかに愚かで弱い。だけど、ゴミではないよ。今食べている美味しいチーズやトマト、お酒や歌、踊り、物語。すべて人間が作ったものだ。俺たち魔王や魔物には作れないだろう。人間はこうして俺たちを楽しませてくれる愛おしい存在だ。あまり見下しすぎるのはよくないよ。アヴァロンは、ただ感情を喰らうための牧場じゃない。人間たちに安全と安心を与えてやる代わりに、文化を作らせ、俺たちを楽しませてもらう。ここはそういう街だ。ある意味、俺たちは対等だよ」

クイナとロロノが、目の前にある人間たちのおかげで作れる美味しい朝食を見て考え込み、そして頷いた。

人間は、弱いが便利な存在だと認識してくれて嬉しい。

「ご主人様、隣街からの手紙はどうなさるつもりですか?」

「もちろん、断るよ。一応最後の交渉はするけどね。俺が妥協できる点まで、ラインを引き下げた条件を一覧にして突き付ける。たぶん、戦争になるだろう」

「おとーさん、クイナ、いっぱい頑張るの!」

「この前、マスターに恥をかかせた罪。死んで償ってもらう」

一度、兵士たちが視察に来たときは時間を稼ぐためにひたすら下手に出て対応した。

その甲斐があって、時間が稼げたっぷりと戦力が補充できた。

暗黒竜たち空戦部隊はワイトが太鼓判が押すほど練度があがり、【創造】によってしか材料が作れないナパーム弾の備蓄は山ほどたまった。

そして……。

「アヴァロンリッターの開発はどうだ」

「どんなコア同士でもツインドライブを起動するようにするのは無理だった。だけど、かなり制限は緩くなった。今まで私が作ったゴーレムの中から一二セットの同調可能コアを見つけた。全部、アヴァロンリッターにしてある。最初の一体、この前作った三体。今回の十二体を合わせて、総勢十六体のアヴァロンリッターをそろえた。今後は月に七体のアヴァロンリッターを作れる」

そう、アヴァロンリッターの量産化が成功したのだ。

当初予定していた月に一五体のアヴァロンリッターは不可能だったが、Aランク上位が月に七体。これはあまりにも破格。

なにせ、Aランクというのは本来、Aランクメダル二枚で合成して七割弱の確率でやっとできる存在なのだ。

他の魔王にとっては切り札。

自分のメダルがAランクである魔王は全体の一割程度。二枚Aランクメダルを使うとなると通常は二か月に一度しかAランクの魔物を生み出せない。

たとえ最古参の魔王でもAランクの魔物を三桁用意できているものは少ない。

それが、月に七体。はっきり言って反則だ。

「ロロノ、ありがとう。おまえのおかげで強気に交渉できるよ。よく頑張ってくれた」

「んっ。マスターが嫌な相手に頭を下げないでいいように、もっと頑張るって約束したから。私は約束は絶対に守る」

すでに現状でアヴァロンリッターは一七体。十分すぎるほどの戦力だ。

アヴァロンリッターはこの戦いの主力になってくれるだろう。

俺はロロノをぎゅっと抱きしめる。ロロノは誇らしげに微笑んで抱きしめ返してくれる。

「ううう、ロロノちゃんずるいの。おとーさんにぎゅーってされて羨ましい。でも、ロロノちゃん、とってもすごいことをしたから当然なの」

「まあまあ、クイナちゃん。私たちは私たちにできることをしましょう。いいことをしたら、ご主人様は褒めてくれますよ」

「わかってるの。今は準備中なの。おとーさん、きっと喜ぶの」

クイナは何かを企んでいる顔だ。

嫌な予感はするが、クイナが俺のためにならないことはしないはず。水を差すのはやめておこう。

ロロノから離れる。

ロロノは名残惜しそうな顔をしてから、ゆっくりと離れる。

「マスター、量産化の研究はこれで切り上げる。もしかしたら、もっと同調をしやすくできるかもしれないけど、ここから先はすごく時間がかかる。なら、ここでひと段落させて、クイナたちの武器と、アヴァロンリッターのオプションパーツを開発したほうが、成果が出やすい」

ロロノの言うことはもっともだ。

ある程度まで成熟した技術をさらに推し進めるには時間とコストがかかる。テストでも五十点を八十点に上げるよりも、八十点を百点にするほうがよっぽど難しいし、時間がかかる。それと同じだ。

なら少ないコストで成果がでるものを選ぶべきだ。

「任せた、ロロノ。おまえの働きに期待する。今回は大役だった。褒美をあげるよ。なんでも望むものを言ってくれ。俺にできることならなんでもする」

「父さん、今、何でもって」

ロロノが焦っているのか、俺のことを父さんと呼ぶ。

「ああ、何でもだ」

「なんでも、なんでも」

顔が真っ赤になり、ぷすぷすと煙が出始める。

いったい、何を考えているのだろうか?

「ロロノ、別に今すぐ言わなくてもいいぞ」

「んっ、そうする。じっくり考える」

ロロノがこくこくと何度も頷き、椅子に座るとお茶をすすった。

そこにアウラがやってくる。

「ロロノちゃん、チャンスですよ! 頑張ってください。これは餞別です」

アウラが何やら、ピンク色の粘度の高い液体が入った小瓶をロロノに渡した。

ロロノは耳まで真っ赤になり。

「いらない!」

そう言って、小瓶をアウラに押し付け返す。

アウラの方は残念ですと小声で言ってた。

「アウラ、それはなんだ」

「媚薬です」

さらっと言われた言葉に、俺は言葉を失う。

「……なんでそんなもの」

「この前、【邪】の魔王と戦ったときの戦利品です。成分を分析して、キノコとか草とかの成分で毒性を抜いて再現し、材料の生産体制を整え、量産化してみました。アヴァロンでも売ってます。わりと人気がありますよ」

「いや、だからどうしてそんなものを」

「お小遣い稼ぎと、勇気がでない女の子を応援するためです! 実際、ドワーフ・ス……むぐ」

途中まで言いかけたアウラの口をロロノが塞ぐ。

「それは言っちゃだめ」

ロロノが止めたが、言いかけたことはわかる。

ドワーフ・スミスがワイトに盛ったのか。

ワイトに効くとは恐れ入る。彼は毒に対して無敵なはずだ。おそらく、対象に毒ではなく薬として認識させているのだろう。毒と認識されれば、その瞬間、毒耐性が働き一瞬で浄化されるはずだ。

ワイトに効くということは、ほぼすべての魔物、当然魔王にも効果があるはず。なんて恐ろしいものを作るんだ。

「まあいい、依存症はないだろうな。アヴァロンを薬物汚染しているなら、アウラにお仕置きするよ」

「それは気を付けているので、安心してください! 流通させているのは、だいぶ薄めてますし、依存症はほとんどないです!」

「わかった。それと、アウラ。ロロノはまだ子供だ。そういうのは早い」

アウラは、ごめんなさいと頷き、ロロノは微妙に頬を膨らませている。

「一応、それをいくつか俺に回してくれ。薄めずに強力なものがいい。もしかしたら、今回の戦争で使えるかもしれない」

「了解です! ほぼ原液でお渡ししますね! 人間に使えば一発で廃人になっちゃうの」

「ああ、それぐらいのがほしい」

思わぬ形で武器が手に入った。おそらく使用する機会はないだろうが保険だ。

「さて、朝食を食べ終えたあとの話だけど。【創造】のメダルが新しく手に入った。新しい子を【合成】するつもりだ。気になるなら、見に来てもいいよ」

「やー♪ 新しい妹楽しみなの」

「んっ。マスターの魔物の心構えを教える。姉として」

「嬉しいです。私、末っ子だったので妹がほしいと思ってました」

俺は若干脱力して、無駄だとわかっていてもあえて口を開く。

「まだ、妹かどうかはわからないよ。男かもしれない」

クイナたちは顔を見合わせて、こそこそ話す。

そして、代表してクイナが口を開いた。

「それはないの! おとーさんが【創造】で作った魔物は可愛い女の子に決まってるの!」

「いや、一応ワイトを【新生】させた黒死竜は男だからな!?」

そのあとは、若干釈然としないものを感じながらも朝食を終え、人目につかない鉱山エリアに向かった。

鉱山エリアに到着。

相変わらず、ゴーレムたちが元気に鉱石の発掘中だ。

だいぶゴーレムたちが増えた。数が増えたドワーフ・スミスたちが律儀に一日一体増やしているおかげだ。

ロロノと違ってCランクのゴーレムまでしか作れないが十分な戦力兼労働力だ。

「さて、みんな。俺が作る新しい魔物を説明させてもらう」

クイナたちが期待を込めた目で俺を見つめてくる。

「アヴァロンの戦力はみんなのおかげで、だいぶ増した。だけど、アヴァロンには諜報、防諜部隊がいない。つまり情報収集面が弱点だ。それを補う魔物たちを作る」

そのためにDPを節約している。暗黒竜の空戦部隊を購入したあとは、ほとんど手を付けていない。

Sランクの諜報用の魔物を作れば、そのあとは購入可能となるBランクの諜報用の魔物を即座に買って増やすつもりだ。

「たしかに、クイナはそういうの苦手」

「一応、敵がいるかはわかるんですけどね。話を聞き出したりは苦手です」

クイナとアウラの、索敵能力にすぐれた二人が頷く。

あくまで彼女たちは奇襲に備えるのが精いっぱいだ。

「諜報系の魔物には、優れた知性と言語能力、意思疎通が必要だ。だからみんなと同じ、【人】を使う」

そう、言語を使いこなし、頭の回転が早いこと。これがこなせないと話にならない。

「そして、二枚目は【水】。水はどこにでも存在する。俺が求めるのは水を扉に異なる世界に潜める魔物」

あれからコハクに次元操作系の魔物に詳しく聞いた。

彼の話では、次元操作系の魔物は必ず異なる世界に渡るための制約が存在するらしい。

例えば、マルコの【誓約の魔物】の一体は影だった。あれは影からしか、別次元に侵入できないし、出てこれない。

制約は何でもいいわけではない。別世界を連想させるもの。

俺はそれを水にした。水中は異界というイメージが付きまとうし、どこにでも溢れている。

なおかつ、入り口を自分でいつでも作れるのは大きい。

さらに、次元操作系魔物たちが渡れる世界は一つ、影から入った世界も水から入った世界も行先が同じらしい。この世界と折り重なるように存在しているとのことだ。

次元操作系の魔物を止めるなら、別次元の戦いを挑むのが早い。

ならば、少しでも強くするために、 四大属性(エレメンツ) である【水】は最適だ。

「【人】と【水】。そこに俺の【創造】を追加する。【創造】を変化させるのは……【歌】だ。歌は神秘の象徴だ。さらに集めた情報を伝えるのに音を使う」

歌は神秘の象徴。異界に潜るなら【水】だけでは足りない。神秘性を高める必要がある。そして、【歌】は音のエキスパートでもある。

意外に思われるかもしれないが水と音というのは相性がいい。

音を伝えるには、何かを媒体にして振動を伝えないといけない。

水はその役目を果たせる。

水と音、両方の適性があれば水さえあればどれだけ離れていも情報を伝えることができる。

俺が考えているのは、Sランクの魔物を中心に、二ランクしたのBランクの魔物で作る情報網の構築。

各地に放った諜報系の魔物たちで情報のやり取りを行い、外にでたまま、すべての情報をアヴァロンに確実に届ける情報網が構築できれば非常に心強い。

「さあ、始めようか。【流出】」

俺の力ある言葉によって、手の平に熱い熱が生まれ、【創造】のメダルが現れる。

さらに懐から、【水】。

そして……。

「【我は綴る】」

魔王の書を呼び出す、【人】のイミテートメダルを購入する。

手のひらに【創造】【水】【人】、三つのメダルが揃う。

「【合成】」

手のひらから、光の粒子が勢いよく噴き出る。

【創造】が変化していく、俺が望んだ【歌】へと。

【創造】は【歌】に代わる。三つのメダルが噴き出た粒子たちが絡み合い、魔物を形作っていく。

本来なら、ここから先は完全にランダム。

だが、俺だけは【創造】の力により、無数の可能性から望む未来をつかみ取れる。

現れては消える、新たな魔物可能性。

俺は手を伸ばす。さあ、来い。俺の新しい魔物。

俺が望むのは……

「おまえだ! 来い」

望んだ可能性をつかみ取った。

光が止む。

新たな魔物が生まれる。

人の形をした魔物だ。美しい少女。クイナより少し年上だろうか。

どこか少年のような、それでいて少女の魅力を内包した絶世の美少女。

海色のセミロングの髪、同じ色の意志の強そうな瞳。

少し耳が尖っている。全身を薄青の透明なドレスで包んでいる。

その魔物の名は……。

「僕は、ルルイエ・ディーヴァ。深海の蒼い歌姫にして、邪神の巫女」

なんて、澄んで心地いい声だ。

その声だけで、陶酔しそうになる。

「初めまして、俺が君の創造主。【創造】の魔王プロケルだ」

「そう、君が僕のパトロンなんだね。よろしく」

にこやかに彼女がは笑いそっと手を伸ばしてきた。

その手をぎゅっと握り俺は微笑み返した。