軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第八話:暗黒竜グラフロス

転移で自宅に戻ってきたあ俺は思わず独り言を漏らす。

「失敗したな。マルコを怒らせてしまった」

【新生】の話を持ち出したあと、マルコは激怒した。

俺に打算はあっても悪意はなかった。

マルコに生きて欲しかった。

とはいえ、彼女が怒るのも無理はないとは思える。

【新生】して俺の魔物になるということは、最強の魔王であるマルコにとっては屈辱かもしれない。

そのことは想定しており、説得の準備はしていた。

だが、彼女が怒っていたのは、寿命を延ばすことそのもののように感じ、何も言えなくなった。

「おとーさん、悲しい顔をしてる」

「クイナ、マルコに嫌われたのが悲しいんだ」

マルコの性格上、敵に回ったりつまらない嫌がらせはしてこないだろう。

それでも、マルコは大事な友人だ。仲たがいするのは辛い。

「おとーさんは、マルコのこと好きなの?」

「好きだよ。彼女のことは尊敬している。世話にもなった」

「なら、仲直りするの! ごめんなさいって言えば、たいていなんとかなるの!」

俺はクイナの言葉に笑ってしまう。

だが、それは一つの真理ではある。マルコの気持ちが落ち着いてきたぐらいにもう一度訪れ誠心誠意謝ろう。

「その通りだな。ちゃんとしたお土産をもっていつか、謝りにいくよ。……クイナ、もしだけどさ。俺が寿命で死んだらクイナは悲しんでくれるか?」

俺の問いを聞いたクイナが泣きそうな顔をして、俺の右腕にぎゅっと抱き着いてきた。

「悲しいの、絶対いやなの。おとーさんは、ずっとクイナと一緒じゃないとダメなの!」

そんなクイナを見ると、微笑ましい気持ちになってくる。

「俺も死にたくないよ。だから、マルコの気持ちが理解できない。可愛い魔物たちを置いて先に逝くなんて絶対に嫌だ。そのためなら、どんな手段でもとる。たとえ他の魔王の魔物に堕ちてもいい。他の魔王たちもみんなそうだって思っていたんだが、それは俺の独りよがりだったみたいだね」

もしかしたら、長い人生の中でまた考えが変わるかもしれない。それでも、俺には理解できない感情だ。

マルコとの会話を思い出す。

俺に対して、あいつみたいなことを言う。そうマルコは言った。

おそらく、ほかの魔王も同じようなことをマルコに持ちかけたのだろう。

十中八九。【刻】の魔王ダンタリアンだ。

彼の能力なら、あるいは魔王の寿命である三〇〇年を捻じ曲げられる可能性がある。

「おとーさんは、クイナが死なせない。おとーさんを生かすためなら、なんだってする。キツネは長寿の象徴、たぶんクイナを食べればおとーさん長生きするの!」

「クイナをマスターが食べるなんて論外。でも、死なせないのは同意見。寿命なんて科学の力でどうにでもできるはず。マスターが死ぬまで三百年。それだけあれば、寿命を克服する研究なんて終わる……絶対に終わらせる」

「科学だけじゃないです。自然の力も舐めてはいけません。健康に長生きできるような環境と食べ物を揃えてみせます! 私の力が増せば、本物の生命の樹。世界樹を超えるものだって作れるはずです!」

クイナだけじゃなく、ロロノとアウラもそれぞれ俺のために力強い言葉をくれる。

それが嬉しくて、おかしくて、思わず笑ってしまった。

「まったく、おまえたちは。ありがとう。すごく嬉しいよ。大丈夫、おまえたちを置いていったりしない。だから、安心してくれ」

愛しい娘たちの頭を撫でる。

彼女たちはいずれも長寿の魔物だ。もっとも戦いに適した年齢に到達すればほとんど成長しなくなる。

俺が死んだあとのほうが彼女たちの人生は長い。今のままでは俺はどうしたって彼女たちを置き去りにして先に逝く。その運命に彼女たちは抗うと言ってくれた。

さて、感傷に浸るのはここまでだ。ここからはやれることをしていこう。

「クイナ、レベルが低い魔物たちを連れて【紅蓮窟】に向かってくれ。今回はアヴァロンリッターを連れていくこと。アヴァロンリッターはレベルが上がることはないが、戦闘データがほしい。加えて遊撃部隊としてDPで妖狐を二体増員する。敏捷が高く小回りが利き、気配に敏感な妖狐は使い勝手がいい、しっかり育ててやってくれ」

「やー! クイナ、ばっちり新しい妹たちを育てるの!」

クイナがピシっと手をあげて声をあげる。

キツネ耳がぴんっと立って。やる気十分といった様子だ。

「ロロノ、アヴァロンリッターの戦闘を直接見る必要はあるか?」

「ない、戦闘は全てアヴァロンリッターの頭脳に記憶される。私が目視する必要はない」

「わかった。ならデータ収集はクイナに任せる。ロロノは工房で研究を進めてくれ。今度の戦争。アヴァロンリッターの量産化が一つの鍵になる。期待しているぞ」

「了解。マスターの期待には絶対応える」

ロロノが真剣な顔で頷き、さっそく工房に向かっていった。

「アウラ、アウラはなんとか白虎のコハクが早く快復する方法がないかを探ってくれ。あいつを遊ばせておく余裕がない。戦力だけなら、おまえたちは彼を凌駕するだろう。だが、彼には俺たちにない経験がある。絶対に役に立つ」

「かしこまりました。ふふ、任せてください。傷を治すどころか、元以上に体調をよくしてあげますよ!」

「任せる、それとコハクに伝言だ。あとで知恵を貸してほしい。諜報型の魔物について彼の経験を便りにさせてもらう。アウラが、侵入者に気付かないことはありえない。だから、諜報型の魔物の本質は、存在を認識されて、『なおかつ問題なく諜報できる』ことだと考えている。そのからくりを知りたい」

「はい、コハクさんに伝えておきます!」

アウラが会釈して去っていく。

俺の誓約の魔物たちがそれぞれ自分の仕事を始めた。

俺も負けてはいられない。

さあ、自分の仕事をするとしようか。

クイナに作り出したばかりの妖狐二体を預けた。

それだけではなく、ドワーフ・スミス、ハイ・エルフも二名づつ増員しクイナに預けている。

DPはかなり余っていたので、まとめて戦力を増強したのだ。

最近、人口がますます増えてきており、ロロノの鍛冶工房もアウラの果樹園も厳しくなっていたので、必要な出費だった。

それでも、残り一万二千DPほど残っている。

そこで俺は、ワイトを【新生】したときに購入可能になった暗黒竜グラフロスを購入しようと決めていた。

どっちみち、今は諜報型の魔物を作るための【創造】メダルがない。その間にできる戦力の拡充を済ませておく。

アヴァロンの街中で暗黒竜なんて物騒なものを呼び出すわけにはいかないので、鉱山地帯に移動していた。

「空爆部隊の有用性は前の戦いで証明したが、ヒポグリフじゃ、正直心もとないからな」

ヒポグリフは、ランクBのグリフォンを【合成】したときに購入可能になったランクDの魔物だ。

空爆するのであれば攻撃力の低さは補えるのだが、問題点は多い。

まず、遅い。空を飛べるとは言えヒポグリフの速度は魔物の中では微妙だ。

そして、弱い。一方的に攻撃しているうちはいいが、空を飛んでくるある程度強い魔物が相手では、まず太刀打ちできない。

対空攻撃手段を持つ魔物が相手でも分が悪い。

こう言ってはなんだが、所詮Dランクの魔物にすぎないのだ。

だが……暗黒竜グラフロスは違う。

Bランクであり、しかも強力で飛行可能な竜種の魔物。竜種は同一ランク内において上位の能力を持っている。

戦闘能力は折り紙付きだ。地上からの矢なんてものともしない。Aランクの飛行型でもない限り、空中では歯牙にもかけない。

しかも爆弾を投下したあとも、己の力だけで戦える。

暗黒竜グラフロスをメインにした空戦部隊を作れば、飛躍的にアヴァロンの戦力は高まるだろう。

加えて、アヴァロンリッターを効率よく運用するために、空戦部隊との連携を考えている。ヒポグリフでは筋力が足りずに輸送できる重量に限界があり、俺の作戦を実行できない。

だが、暗黒竜ならできる。もし、俺の考えが実現すれば【戦争】の在り方ががらりと一変する。

空爆部隊だったグリフォンとヒポグリフたちには別の重要な仕事を任せるつもりだ。暗黒竜グラフロスではけして実行できない彼らだけの仕事がある。

「まずは、二体ほど作ってみようか」

空戦部隊を作るのであれば、最低一〇体ほどはほしいが、きちんと運用できるかを確認しないといけない。

「【我は綴る】」

力ある言葉で、魔王の書が俺の手に現れる。

そして暗黒竜グラフロスを頭に浮かべると一人でにページがめくられていき、該当ページが表示される。

必要なDPは、Bランクの魔物の標準値である1,200DP。

けっして安くはないが、今の俺なら十分払える。

いつか、魔物購入時に百倍の値段を支払うことで購入できる【渦】を購入したいものだ。あれは一日一体、魔物を生み出してくれる。三か月強あれば元が取れてしまうほどコストパフォーマンスがいい。

基本的には、いかに【渦】の数を揃えて魔物の安定供給をするかが魔王の格となる。マルコなどはCランクの魔物を生み出す【渦】を何十個も用意しているのだ。

一定の戦力が整えば、ちゃんと【渦】を購入するための貯金をしようと思う。購入できる魔物だけでも、うちには優秀な子たちがそろっている。Bランクの魔物を購入できるという俺だけの強みを十二分に活かせる。

「いでよ。暗黒竜グラフロス」

DPを支払い、暗黒竜グラフロスを購入し終えた。

黒い粒子が俺の前方に集まり、竜を形づくる。

それは四肢を持つ、全長四メートルにもなる漆黒の翼竜。

鋭い爪と、牙、長い尾。

アンデッドの属性を持つ闇の竜。

ぎろりと、暗黒竜グラフロスは俺を見下ろす。

その目にあるのは敵意。

「キャオオオオオオオオン」

そして咆哮、空気が震える。

魔物は、主を傷つけられない。主の命令に逆らえない。

だが、それ以外の縛りを受けない。

ようするに、気性の荒い魔物は扱い辛い。

まさに、こいつはそれだ。完全に俺を舐めている。

どう、手なずけようか。

そう考えていると、一人の男が現れた。竜の角と尻尾を持つ壮年の亜人。

頼れる俺の右腕。ワイトだ。

「我が君、パン工場に向かう途中だったのですが、私に近い気配を感じてやってきました。それにしても、随分生意気な若造ですね。しっかりとしつけねば。我が君にこのような態度をとるなど度し難い」

「ああ、おまえに任せるよワイト」

そして、彼は静かに怒りを込めた冷たい目で暗黒竜グラフロスを見つめた。

今のワイトはアンデッドの王であると同時に竜帝だ。

彼ならあっという間にこの生意気な”若造”をしつけてくれるだろう。

俺は微笑み、静かに見守ることにした。