軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第一話:【絶望】の魔王について

【絶望】の魔王ベリアルとの顔見せが終わった。

表面上は友好的であり、打算もないように見えた。

ただ、それだけで手を組むわけにはいかない。判断するためには情報が必要だ。

幸いなことに、今の俺には情報を得るための手段がある。

マルコなら大抵の魔王のことを知っているだろう。

情報を得るために、【転移】でマルコのダンジョンに来ていた。

マルコのダンジョンには【転移陣】を用意しており、気軽に行き来ができる。

「アビス・ハウル、ごくろう」

「がう!」

俺を運んでくれたアビス・ハウルは【収納】しておく。

今回、護衛のクイナは連れてきていない。アウラに黄金リンゴの【回復部屋】への移植を依頼するように頼んである。

【獣】のダンジョンは今や俺のダンジョンの支店と言える。護衛は必要ないため彼女には別の仕事をさせたい。

【転移】を察知して現れた馴染みのサキュバスにマルコのもとへ案内してもらい、マルコの部屋である魔王の間に入る。

俺の気配を感じ取り、ダンジョンの運営計画を作るために書類と格闘していたマルコが顔を上げる。

「プロケル、朝まで一緒だったのに。もう、来てくれたんだ。もしかして、もう私が恋しくなった? しょうがない子だな」

マルコがこちらに駆け寄ってきて抱きしめる。顔に胸が押し付けられる。

柔らかくて温かくて気持ちいいが息苦しい。

「よしよし、おっぱいが恋しくなんったんでちゅね。ベッドに行こうか。たっぷり可愛がってあげるよ」

今の一言は微妙にプライドが傷つく。

マルコを押して強引に引き離す。

「……マルコ、子供扱いは止めてくれ。というか、今は子ども扱いすら超えて赤ん坊扱いだったのは気のせいか?」

「ついね。プロケルは不思議と母性本能をくすぐるんだよ」

マルコがからかうように笑う。

マルコにはいつも頭が上がらない。恋人として対等に振る舞いたいと思っているのだが、マルコのほうが一枚も二枚も上手だ。

なんとかしたいものだ。

「今日来たのはそういうことが目的じゃない……もちろん、そういうことが嫌なわけじゃないが目的は別にある」

「ふーん、つれないね。でも、いいや。プロケルが私を頼ることって少ないしね。聞いてあげる」

マルコが玉座に戻り足を組む。

マルコにはそういう仕草が良く似合う。

こういうのを見ると、やはり玉座は魔王にとって必要なものだと思う。前々から作ろうとは思っていたが、使う機会がまずないので後回しにしてきた。

マルコの隣に並ぶには形からでも魔王の威厳を身に付けたい。なるべく早く作るだけ作ってしまおうと決める。

「俺の派閥に入りたいという魔王が現れたんだ。話してみたが、どこか捉えようがない奴でマルコにそいつのことを教えてもらいたくてここに来た」

「へえ、それはめでたいね。今年生まれた子?」

「いや、百年ほどに生まれたと本人は言っていた。【絶望】の魔王ベリアル。話してみると明るくて人懐っこい印象を受けた。俺に憧れたというのが理由で派閥に入りたいと言っている」

マルコが何かを考えこむようにして顎に手を当てた。

「これはまた、有名人に目をつけられたね」

「有名人?」

【絶望】の魔王ベリアルに、そんな印象は持たなかった。

だが、おかしくはない。

彼はAランクメダルの持ち主だ。魔王が生まれるのは十年に一度、十人。そして、Aランクメダルの持ち主はマルコの世代のような例外はあるが通常は一人だ。

Aランクというだけで特別なのだ。

「うん、そうだね。彼はすごかった。君とおんなじぐらいにね。数年で頭角をメキメキ現して、誰もが百年もするころには最強の魔王になると期待していたんだ。……期待じゃなくて恐怖も」

「だろうな。強い能力を持つ若い魔王は早めに潰しておきたい。俺に敵対派閥ができたように、【絶望】も付け狙われたんだろう?」

「うん、その通りだね。いつの時代も人も魔王もやることは変わらないよ。中堅どころが主導になって、【絶望】を潰そうとした」

俺との奇妙な共通点だ。

彼は俺の状況を知っているだろう。その上で、どう思っているのだろうか?

「その結果は? まあ、言わなくてもわかるが。【絶望】が生きてるそういうことだろう」

【絶望】の評価が上がる。

俺と同じ状況から生き延びた魔王。圧倒的な強者であることは間違いない。

「うん、【絶望】を狙った連中は全滅したよ。だけどね、【絶望】が勝ったわけじゃない。私は言ったよね。当時は百年もする頃には最強の魔王になると期待されたって」

そして、今はその百年後になっている。

相変わらず、最強の三柱は【竜】【獣】【刻】と呼ばれている。【絶望】の名は聞かない。

最強にはなれなかった。

「……今は、さほど有名ではないようだ。昔すごかったとマルコが話したってことは、彼は落ちぶれたのか?」

「【絶望】はね。勝利したわけじゃない。”なぜか”【絶望】を倒そうとした魔王たちが次々に何者かに倒され、あるいは発狂し、包囲網が崩れた。それが【絶望】自身によるものじゃないことはわかってる。【絶望】は正々堂々の真っ向勝負以外をしない魔王だった。きっと、【絶望】は誰かを頼ったんだ。……それからだね。【絶望】は表舞台から消えた。ただ、守りをひたすら固めて戦力を増やし続けることだけに執着し始めた」

推測だが、彼はその同盟とやらに勝てないと理解してしまったのだろう。

それでも生き残りたかった。

そうなれば他の魔王を頼るしかない。生き残るためにさまざまな魔王に頭を下げ、誰かに救ってもらった。

……安くない代償を払って。

そのあと野心を捨てて戦力の増強だけをしているのはその代償のせいではないか?

あるいは、この一件がトラウマとなり目立つことに対する恐怖を感じているのかもしれない。

「なるほど、その話を聞くと俺に協力するのは不自然に感じるな。もとは最強の魔王になるとまで言われた魔王だ。プライドもあるだろう」

「そうかな? 私は納得したけど。プロケルにかつての自分を重ねているのかもしれないよ。自分は誰かに頼って救ってもらったけど、君は立ち向かおうとしている。事実、君は向こうの隙をついて一体の魔王を葬った。それもAランクメダルを持つ猛者をだ。憧れもするし、力になりたいと思っても不思議じゃない」

そういう考え方もあるか。

一応動機らしきものが見つかり、信用できる要素が増えた。

「マルコは【絶望】の能力を知っているのか」

「うん、知ってる。言ったでしょ、有名だって。【絶望】の能力はね……」

マルコが絶望について話してくれた。

なるほど、俺と同じぐらいの活躍をできるのも納得だ。

味方になってもられれば心強い。

……そして敵になれば非常に厄介だ。おそらく、今まで俺が戦ったどの魔王よりも強い。一対一ですら勝利が危うい。

それから、マルコといろいろと話して……誘惑されて体を重ねた。

予定より変えるのが遅くなったが、【絶望】のことをよく知れたのは良かった。

近いうちに会えるように手配しよう。

今度はルーエを呼ばなければ。

今日は、すでに他国の教会へ旅立った後で招集ができなかったがルーエの耳はよく、感情を読み取るセンスにも長けている。

俺以上に、【絶望】の言葉の真偽を見極めてくれるだろう。

俺は【転移】でアヴァロンに戻る。

今日の仕事はこれで終わり、アヴァロンに戻ればデュークの家に向かって褒美を与える。デュークの愛の巣に足を踏み入れるのは初めてで少し楽しみだ。魔物たちがどんな暮らしを送っているかは、あまり把握していないので興味がある。

【竜帝】になったことを祝うために最高の祝いの品を用意した。

きっと、デュークは喜んでくれることだろう。