軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第一話:魔王のお仕事

「まだ、首をかしげているね。まっ、いきなり魔王なんて言われても理解できないか。しょうがない。実演しよう。魔王というものがどういうものかを」

苦笑して背中を向けた、【獣】の魔王マルコニアスこと、マルコのあとをつける。

見た目は、ただの白髪の美女(狼の耳、しっぽ装備)だというのに、魔王と信じさせる何かが彼女にはあった。

彼女に連れていかれたのは、狭い部屋だ。

壁に立てかけられた鏡を見ると、十代半ばの整った顔つきの少年が居た。これはまさか俺なのか?

妙に違和感がある。

そして、部屋の中央には、白い台座があり丸い水晶が置かれている。

そっと、水晶に手を伸ばそうとすると、その手をマルコに掴まれた。

「それは触らないで欲しいな。その水晶は私の命そのものだ。それを砕かれると、魔王としての力のすべてを失う」

「死ぬのか?」

「いや、そういうわけじゃないよ。魔物を生み出せなくなり、今まで生み出した魔物たちはすべて消え、ダンジョンは消え去ってユニークスキルを失う。命はあるけど、魔王としては死んだも同然だ」

それを聞いて少し安心した。

だが、同時に不安も覚える。

もし、彼女が言う通り、俺が魔王だというなら、どこかに、俺の水晶が存在する。

水晶のありかも知らないのに、砕かれれば魔王の力を失うなんて状況なら、平静ではいられない。

「へえ、今の一言で危機感を覚えるんだ。君は頭が回るね。でも、その心配はないよ。その水晶はダンジョンを作ったときに現れる。逆に言えば、ダンジョンを作ってない君には、存在しないものだ……【我は綴る】」

羊皮紙でできた、重厚な本が彼女の手に現れる。

マルコはゆっくりと本を開いた。

「気付ていると思うけど、私たちが居るのは私のダンジョンの最深部、外観はこんな感じかな」

彼女がそういうと、水晶の上にホログラムが表示される。

立派だが、薄気味悪い城だった。

「ダンジョンと言っても外観は魔王それぞれだね。正統派の洞窟型も居れば、私みたいに城でもいい。森そのものなんてこともできる。君も独り立ちしたら自分のダンジョンを作ることになるから、今からどんなダンジョンを作るか決めておいたほうがいい」

「今の話がよくわかってない。一人立ちってなんだ?」

「ああ、言ってなかったね。生まれたばかりの魔王は、先輩魔王のもとで一年間魔王を学んで、その後独立して自分のダンジョンを作る。つまり、一年間は私が保護者なんだ。だから、こうして親切に教えてるわけ」

いきなり青い狼をけしかけてよく言う。

「じゃあ、ダンジョンの作り方の予習をやってみよう。こう言ってみて【我は綴る】」

「うん、えっと、【我は綴る】」

俺の手に本が現れる。

自然に開く。

すると、ダンジョン作成と書かれたページがあった。

「そこにある一覧から、好きなものを選んで組み合わせるんだ。最初は外装。外から見える風景だね。そこは完全に趣味でいいかな。中身は時空が歪んでるんだ。実際、私のダンジョンも外から見るよりずっと広いし、恐ろしく階層がある」

俺はぺらぺらとページをめくる。

彼女の言った通り、さまざまな見た目のダンジョンが用意されている。全てのページにDPと書かれてある。

「このDPっていうのは?」

「ダンジョンポイント。私たち魔王が必死になって集めているものさ。それと交換することで、書かれているものを手に入れられる。基本、凝った外装ほど高い。性能は変わらないけどね。でも、ダンジョン中身のほうは性能が値段に直結するかな」

「中身?」

「そっちは見たほうがはやいかな?」

そういうなり、水晶の先のホログラムの風景が変わる。

「私のダンジョンは階層型で、上へ上へあがっていくタイプ。一つ階層は三つの部屋に分かれていて、部屋単位で購入する。私のダンジョンの場合は、一階は石の回廊っていう安いのを買ってる」

彼女の言う通り、全部曲がりくねった石の道しかなかった。

「上の階層になると、罠とかいろいろある高い部屋を買ってるけど、最初の階は手抜きだよ」

ホログラムを見ていると、人間の男がコボルトと戦っていた。

コボルトは二足歩行の犬の魔物だ。

俺が戦った青い狼……ガルムに比べると子犬のように見えてしまう。

人間がコボルトに勝って、ガッツポーズを浮かべた。

また視点が変わる。次は宝箱を拾って人間が欲にまみれた顔をしていた。

「さっき俺が戦った青い狼みたいな魔物は使わないのか? コボルトに苦戦しているような奴相手ならあっさり殺せるだろう」

わけがわからない。

侵入者を撃退することを考えるなら、一番最初のフロアにこそされなりに強い魔物を配置するべきなのだ。

「それはできないよ。DPはね、人間の生命の力なんだ。強い感情、恐怖、絶望、欲望がとくに美味しいね。このダンジョンに人間が集まるほど、DPを手にいれることができるんだ。殺したときはたくさん、DPが手に入るけど。あんまり強い魔物をはじめから入れると、人間が来なくなる。適度に倒しやすい魔物を配置しないとね」

「さっきの宝箱も、もしかして人間を呼ぶための餌か?」

「ピンポン、その通り。ちなみに、人間がここに来るのは強くなるためさ。人間って生き物は魔物を倒せばレベルがあがって強くなる。強くなって、お宝を手に入れて大満足で帰っていくんだ。逆に魔王はDPをゲットしてうはうはってわけ。ちなみにだけど、強い魔物ほど経験値が高くなるから、上の階層には強い魔物を用意しておくんだ。こっちも強い人間ほどDPが得られるからお得だしね。浅い階層から深い階層まで、強い順番に魔物を並べると、弱い人間から、強い人間までみんな呼べて、DPがたくさん溜まるの」

なるほど、そういう仕組みか。

魔王はDPを得るために、人間に接待している。

「なら、宝をがんがん設置して、強い魔物にわざと負けるように指示するわけだ」

「それはしないよ。だって、宝はDPと交換して手に入れたものを設置してるし、魔物だってただじゃない。たくさんの人に来てもらいつつ、黒字で回すのが魔王の腕の見せ所……それにね。万が一、最奥まで来て、殺されるか水晶を壊されるかしたら終わりだ。あんがい骨が折れるよ。たいがいの魔王は自分が居る最後の階層は高い罠だらけの部屋を買ったり、自分に有利な補正がかかるフィールドを用意してるんだ」

俺は生唾を呑んだ。

魔王という仕事の難しさと、面白さを両方知った。

だが、一つだけ疑問がある。

「人間の感情を食らうんだよな? そして人間を集めるために魔物と宝を餌にしてるって言うけど。どうしてそんな効率の悪いことをするんだ?」

俺の言葉に、マルコは首を傾げた。

「それはどういう意味かな?」

「いや、人を集めて生活させたほうが早いかなって。いっそのことダンジョンなんてやめて街にすればいいのに。そしたら、二四時間ずっと、DPを稼げるはずだ」

俺がそういうと、マルコは声をあげて笑った。

「確かにもっともだね。でも、難しいよ。強い感情が出ている状態だとDPを得る効率があがる。命がけの戦闘や、宝を得る興奮。それは戦いが一番効率がいい」

「本当に? それは一人一人で見ればそうだけど、百倍の人数がずっと住めば、その効率をひっくり返すことができるんじゃないか?」

なぜか、俺の中であまり人を殺したくないという想いがあった。

消えた記憶が関係してるのだろうか?

拳銃を持てば冷静になるような男なのに、矛盾している。

「そうかもしれない。なら、君がそういう魔王を目指すのもいいかもしれないよ。魔王の数だけ、魔王道がある。君の道を行くがいい」

「そうだな。そうする。だけど、その前にしっかりと学びたい。今のままじゃ、ただの夢物語だ」

「いい心がけだ。ダンジョン作りは見せたから次は魔物づくりを見せよう。ある意味、魔王の醍醐味だよ」

魔物作り。

魔物を生み出すのがどういうことか、俺の好奇心が沸き上がっていた。