軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十四話:砕かれた三騎士

【転移迷宮】を超えてからも順調に俺たちは進んでいった。

……ただ、攻略に時間がかかりすぎている。

【戦争】が始まってからすでに半日経っていた。

時間稼ぎに徹した魔王のダンジョンを乗り越えるのがこれほど難しいとは思っていなかった。

いい勉強になった。

マルコを救うために戦ったときと比べると、敵の戦力は十分の一以下だろう。

ただ、踏破しにくいフロアや罠の多いフロアをうまく使うだけでここまで踏破に時間がかかるとは……いい勉強になる。【豪】の魔王のやり口、しっかりと参考にさせてもらおう。

今は踏破したフロアで休憩中だ。

魔物たちに疲れが見え始めていた。

新たなフロアに入る前に回復ポーションを使い、魔力と体力を補充する。

この時間を有効活用するためにアビス・ハウルたちが【転移陣】を描き、壊れたゴーレムや傷ついた魔物たちと共にアヴァロンに戻る。

しばらくすると武器弾薬とポーションを限界まで積んだミスリル・ゴーレムと共に戻って来る。

【転移】能力を持つ魔物がいると【転移陣】さえ描ければ気軽に本陣と行き来できるので戦力の立て直しが容易だ。

補充のついでにアヴァロンの状況を確認を行う。

アヴァロンに向かわせたオーシャン・シンガーの一体がデュークからの報告を伝えてくれる。

「デュークはさすがだな。あいつは頼りになる」

デュークとルーエはうまくやっているようだ。

今のところ敵の攻撃部隊は全滅させており、敵の目ぼしい魔物は【強化蘇生】でこちら側の戦力にしているらしい。

デュークはさらに素晴らしい魔物が現れたときに備え【強化蘇生】の限度回数を二回だけ残しているらしい。

そして、もしこれ以上増援が現れなかったときのために、【強化蘇生】させる候補の魔物を氷漬けにして青い粒子に変わらないように保管中とのことだ。

とはいえ、水晶を砕けば、保存をしっかりしていても魔物は消える。

デュークへはあと三時間以内にめぼしい魔物が現れなければ残り二回の【強化蘇生】も使いきれと言っている。

Aランクの魔物がただで手に入る機会だ。

少しでも厳選することは必要だ。デュークは気が利く。

さて、そろそろ休憩は終わりにするか。

「終わりが見えてきた。先に進もう!」

休憩でリフレッシュした魔物たちが元気よく返事をする。

今回も仲間たちを失わずに済んでいる。

常に最前線で戦い壁になっているアヴァロン・リッターの半数は壊れてしまったが、彼らはまだ修理ができる。

魔物ほうは重傷を負ったものも多いが死者は出ていない。

時間をかければやがて治療ができるだろう。

あの休憩からさらに三時間たった。

あきらかに【豪】の魔物たちの様子がおかしくなっている。

統率されている気配もない。

ただ、何も考えずに散発的に攻めてくる。

策もなく、勝算もなく、なにかに怯えるように無謀な攻撃を仕掛けてくるのだ。

そうなれば魔物の質こそが勝負を決めてしまう。俺の魔物たちが負けるわけがない。

今も、当然のように俺の魔物たちが蹂躙していた。

「なるほど、汎用機ではあるがただの汎用機ではないようだ」

アヴァロン・リッターたちの半数が失われたことで、三騎士たちが前にでる展開が多くなっている。

その中でも黒い騎士が一騎当千の働きを見せていた。

黒騎士は他の二機に比べて地味だとロロノは説明していた。

右腕が異様に大きく超重装甲の赤騎士や空戦に手足は必要がないと巨大ライフルに翼が付いたようなフォルムの白騎士に比べれば見た目は地味だ。

汎用性に特化した黒騎士はすらりとしたフォルムで美しさすら感じる人型。

コンセプトが人間よりも多彩な動きができる優れた骨格と疑似筋肉による柔軟性、多数の高出力のバーニアによって姿勢制御と機動力を確保というもの変になりようがない。

……と思っていたのだが、戦ってみると黒騎士もまた異様。

その戦闘スタイルは、ツーソード・ツーガン。

アヴァロン・リッターたちが一つでも持て余しがちだった新型重機関銃を二丁を振り回し、同時に魔力の刃を形成した大剣を二本振るっていた。

合計四つの武器を使いながらも洗練された動きを見せつける。

一戦ごとに、一秒ごとに徐々に動きが良くなっていく。

戦いを学習しているのだ。

「ロロノ、何が汎用型だ。結局、色物じゃないか」

「こっちのほうが便利」

黒騎士が二刀・二銃の四刀流なんて真似ができているのは……単純に腕が四本あるからだ。

考えてみれば当然だ。腕が多いほうが便利に決まっている。

「マスター、実は四本じゃない」

隠し腕がさらに出て来て弾倉を速やかに交換する。

その間も戦いの手を緩めない。

ゴーレムだからこその強みだと言えるだろう。

好きな形を作れるのだ。腕を二本だけに制限する意味なんてない。

黒騎士には背部に通常は使わない二本の腕とサブアームが隠されてたのだ。

「ん。これで三騎士全部の性能実験ができて満足。マスター、赤騎士、白騎士、黒騎士って呼ぶのは可哀そう。それぞれに名前を付けてあげて。魔物と違って、力は持っていかれない」

「わかった。考えておこう。この性能、この強さ、アヴァロンの切り札になりえる。特別扱いをしてもいいだろう」

いい名前を考えておこう。

それぞれに特徴があって名前は付けやすい。

そして、楽しみなのが三騎士の量産化だ。やはり、量産するなら黒騎士だろうか?

赤と白も強力だが……少々使い辛い。

このフロアの敵も掃討した。先に進もう。

新たなフロアはまるでパーティ会場のようだった。

赤い絨毯が敷き詰められ、一級の調度品が並べられており、天井にはシャンデリア。

おそらくは、ここが【水晶】の間を除けば最後のフロアであり、【豪】の魔王アガレスの見栄によって用意された部屋なのだろう。

そのフロアに足を踏み入れた瞬間。

空気が変わったのを感じていた。

濃厚な血の匂いがする。

くちゃくちゃくちゃと水気のある音がする。

酷い悪臭が漂ってくる。

そして、嫌な魔力を感じる。黒い魔力だ。

……よく知っている。かつて、俺はその闇に囚われかけたことがある。【覚醒】。

なるほど、外から見ればこれほど醜悪にすら感じてしまうのか。

この水音の原因は部屋の中央にあった。

赤い絨毯をより赤くしながら、【豪】の魔王はくちゃくちゃくちゃと音を立てて自らの仲間たちを食べている。

【豪】の能力はマルコには聞いているが、【覚醒】したあとの能力までは知らない。

危険なのは間違いない。

例外はあるが、リスクを抱えるほど能力は強くなる。

【覚醒】時に、味方を犠牲にしなければ使えない能力、弱いわけがない。

そして、この惨状から予想はついてしまう。

やつは魔物を食えば食べるほど、どんどん黒い力を増している。

……一体やつは、何十、いや何百食べた?

「……仕掛けろ。遠距離から一方的に叩き潰せ」

救いはある。

間抜けなことに、俺たちが入ってきても食事に夢中でこちらに気付いていない。

ならば、そのまま死んでもらおう。

卑怯だなんて思わない。

これは【戦争】なのだから。

最初に動いたのは、三騎士たちだった。

赤騎士が全スラスターをフル稼働させて神速の突撃をし、白騎士は飛翔し機首のライフルを発砲、黒騎士は距離を取り、二丁の重機関銃を放つ。

ロロノの指示で、三騎士はすべて【フルドライブ】を起動し、魔力光が溢れ出す。

ツインドライブゴーレムコア搭載型だけに許された、コアをオーバーロードし短時間だけだがSランクの魔物にも匹敵する力を手に入れる力。

いずれかの騎士の攻撃、その一つでも当たれば死亡。

三つの殺意が【豪】の魔王アガレスに襲い掛かっていく。

白騎士の超大口径ライフル弾がコメカミに直撃する。

赤騎士の巨大杭打機が爆音と共に胸に突き刺さる。

黒騎士の二丁重機関銃が降り注ぐ。

……ライフル弾は傷一つつけることができず、巨大な杭はへし折れ、重機関銃の雨は肌を撫でるだけ。

「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

【豪】の魔王アガレスが咆哮した。

赤騎士の右腕をねじ切り、思い切り投げつける。それは一瞬で音速を軽く超えて白騎士に突き刺さり白騎士が地に落ちた。黒騎士は二刀を持って斬りかかるがすべてを切り裂く魔力の刃が肌で止まった。

アガレスが黒騎士を殴り飛ばす。思い切り振りかぶる見え見えのテレフォンパンチ。学習型の頭脳を持つ黒騎士はそんなもの本来なら軽く躱せるはずだ。

だが、あまりにもその拳は速すぎた。予備動作で行動を予測し先に動いていた黒騎士を捉える。

拳を受けた黒騎士は装甲がひしゃげながら脱落していき壁に叩きつけられて機能停止した。

一瞬で三騎士が沈黙した。

ありえない。

【豪】の魔王が俺を見た。瞳が赤く輝いている。なんだ、これはまるで飢えた野生の獣。

「プロケルうううううううう、おまえはおでがごろすうううううううううううううううううううううううううううううう!!」

絶叫し、飛び掛かって来る。

いったい、ここまで何百メートルあると思っているんだ。届くわけがない。いや、なんだ、この速度、勢い、一瞬で目の前へ……。

「マスター!? アヴァロン・リッター。守れ!」

いち早く反応したロロノが叫ぶと、アヴァロン・リッターたちが壁になる。

その壁を氷細工のように砕きながら【豪】の魔王が突進してくる。

【豪】の魔王は筋肉が異様なまでに膨れ上がり二回り大きくなり、皮膚が硬質化し分厚くなり鎧のように、黒い力を纏う。顔が変形し悪鬼のようになる。

夢でも見ているかのようだ。

なんだこれは。

アヴァロン・リッターを砕いた拳が俺に届く……死が見えた。

だが……。

「おとーさんは殺させない。クイナがいる限り」

小さな少女の手がその手が【豪】の魔王の拳を受け止めていた。

クイナだ。

サイズが違いすぎて現実感がない。

だけど、その小さな手はしっかりと【豪】の魔王の拳を掴み、ぴくりとも動かさせない。

クイナの全身が金の炎に包まれる。

すらりと身長が伸び、胸が成長し、腰回りが引き締まり、尻が膨らむ、ただでさえ魅力的なもふもふ尻尾はより優雅に変わる。

顔からは幼さは消え、圧倒的な美しさに。

これこそがクイナの真の姿。

少女の姿は省エネモードにすぎない。省エネモードですら、ありとあらゆる魔物を一蹴するクイナが真の姿を晒すことは稀だ。

「おとーさん、ロロノちゃん、ティロ、ちょっと本気で戦ってみるの。……こんな機会滅多にない。クイナが死ぬまで手を出さないでね」

爆炎が【豪】の魔王を吹き飛ばし、炎に包まれた花道を本来の姿を取り戻したクイナが進んでいく。

……確実に勝つだけならティロやロロノにも戦わせるべきだろう。

だが、先のことを考えるならクイナに経験を積ませたほうがいい。

「わかった。負けたらお仕置きだぞ」

「やー♪ フェルちゃん以外で本気で戦っても壊れない 相手(おもちゃ) 、楽しみ尽くすの」

味方のはずの俺まで背筋が冷たくなる。

クイナは日ごろ力を抑えているせいで気付かなかったが、ここまで強くなっていたのか。

クイナが優雅に【豪】の魔王を手招きし挑発する。

【豪】の魔王が咆哮する。

【覚醒】の力で規格外の力を手に入れた【豪】の魔王。

Aランクメダル三枚を使い最強の存在として生み出されたクイナ。

さあ、どちらが真の化け物か。見せてもらおうじゃないか。