軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第一話:皇帝に挑む竜たち

いよいよ、【竜】の試練の日だ。

貸し与えられた部屋で身支度を整える。

昨日の宴のことを思い出す。いい宴だった。

酒も料理も超一級品。

とくに料理には驚かされた。

調理技術そのものは、アヴァロンのシェフたちのほうが上だ。

美食に食べなれた俺を驚かせるほどの料理の秘密は素材の良さ。

世界中から最良のものを集めるアヴァロンをも上回る。

その秘密を聞いて驚いた。

材料に使った肉は魔物のドロップアイテムらしい。

魔物は死亡し一定時間たてば青い粒子になって消える。その際に、一定確率でその魔物を象徴するアイテムをドロップする。

なんでも、ドロップアイテムの中には肉というものがあり、中でも、Bランク以上の魔物しかドロップしないレアなものを使ったらしい。

基本はどんな魔物でも豚、鳥、牛、羊の四種類に分類されランクが、下、並、上、特上となり、レアな魔物はユニークな名前の肉をドロップする。

当然ランクが上の肉のほうがうまく、特上はBランク以上の魔物しかドロップせず、その味はどんな食通をも唸らせる。

貴族や富豪相手に高額で売れるので、冒険者はこの肉を狙ってダンジョンに探索に向かってくることもあるらしい。

今回提供した肉は、冒険者が肉を手に入れたものの持ち帰るまえに力尽きてしまったものを回収し保存していたものらしい。

今、思い出しても震えるほどうまかった。

……当然と言えば当然だ。Sランクの魔物をもたない魔王はBランクの魔物を【合成】でしか作れない。

そんな高位の魔物のドロップアイテムなのだから。

「俺が知らない味のはずだ」

いわゆる、普通のダンジョン運営をしている魔王なら、ダンジョン内での魔物の死に幾度も立ち会い、ドロップアイテムも身近なものだろう。

だが、俺は違う。

俺は魔物を殺させないためにアヴァロンを作った。魔物の死に立ち会う機会は極めて少ない。

……やってくれる。【刻】の魔王が自分にしかできないものを揃えたという意味がわかった。たしかに俺にはできない宴だ。

部屋に備え付けられている水瓶で顔を洗う。

目はばっちり覚めた。

さあ、行こうか。

【刻】の魔王の闘技場に向かう。

そこの観客席には、すでに【刻】の魔王の魔物たちが押し寄せてきている。

彼らも、Sランクの【竜】同士の熾烈な戦いには興奮を隠せないようだ。

俺の【竜】が来た。

黒死竜ジークヴルム、名前はデューク。

昨日と同じく、ドワーフ・スミスお手製の燕尾服を着こなしている。

「デューク、おはよう。昨日はよく眠れたか?」

「いえ、あまり。最強の【竜】を倒し、最強の座を得ると思うと高揚が止まらなかったのです」

「相変わらず、頼もしい奴だよ」

そして、ストラスと嵐騎竜バハムートのエンリルがやってきた。

エンリルはストラスの肩から飛び降りる。

そして、その真の姿を現す。

巨大な翡翠色の翼竜。うろこの一枚一枚に圧倒的な魔力が込められており、エメラルドのような光沢を放っている。

嵐の騎士の何恥じない静観な顔つき。

この姿でストラスと並ぶと絵になる。

「エンリル、いい風ですな。ともに戦えることを頼もしく思います」

「GYAAAAAAAAAAAAAAA」

迫力のある咆哮で、エンリルが応える。

デュークも真の姿を現したそうにしているが、彼には制限時間があり、もどかしそうにしている。

さて、挑戦者側の顔ぶれがそろった。

王者の登場を待つ。

……彼らが現れた。

【刻】の魔王の魔物たちが歓声をあげる。

会場が揺れた。

三体の魔王の登場だ。

鋭利な美青年、白い狼耳と尻尾をもった褐色の美女。そして、鍛え上がれた体を持つたくましい老人。

現存する最強の三柱。【刻】の魔王、【獣】の魔王、【竜】の魔王。

この三柱が揃えば、おおよそできないことなど何もない。

世界征服すら容易だろう。

【竜】の魔王は先に闘技場の中心であるリングに向かう。

そして、腕を組んで仁王立ちした。

「来い!」

彼がそう叫ぶと、四方から圧倒的な力を持つ竜たちが次々に現れた。

一体、一体が変動で生み出され、極限まで強化された【竜】。【狂気化】の力でSランクにも匹敵する、単騎にて国を滅ぼしうる魔物。

それが、十九体。

彼らは闘技場を囲むような配置で着地し、咆哮をあげる。

威嚇ではない。何かを敬うように、恋焦がれるように。

それに応えるように、超越者が出現する。

空間にヒビが入り、その日々を内側からこじ開けて。

皇帝竜テュポーン……名前をシーザー

二十メートルを超える巨躯。赤褐色の肌と巨大な四肢を持つ巨竜だ。

赤褐色の体を金色の光が纏った。魔に属するのに神聖さすら感じさせる。光の闇。

すでに戦闘態勢に入っている。

シーザーは他の竜のように方向をあげない。

ただ、絶対者として上から品定めをするようにデュークとエンリルを見る。

エンリルが唸り声をあげる。

その声には隠しきれない怯えがあった。

エンリルをして恐れさせる、竜の中の竜。

デュークも平然な顔をしているように見えるが手が震えてる。

「これが、竜の頂点……真の【竜帝】」

呆然とした顔で漏らしてしまった。

こんな化け物に挑むのか。

難敵であることは、初めからわかっていた。だが、改めて自分たちが今からあれに挑むと理解すると、足がすくみそうになる。

……ダメだな。

デュークの主である俺がこんなのでは。

俺の恐れはそのままデュークに伝わってしまう。

俺は俺らしくしよう。

デュークは俺を最高の魔王あると信じてくれている。だから、それにふさわしいふるまいを。

深呼吸、そして前を向き一歩を踏み出し、デュークの肩に手を置く。

「デューク、あの魔物は強い。今まで出会ったどんな魔物よりも。だが、あえて言おう。勝て、命令だ」

かつて、デュークは言ってくれた。

どんな命令だろうと果たして見せる。俺をできない命令を放つような無能の魔王にはしない。そのために、己のすべてを賭けると。

デュークは振り返らない。

だが、背中が語っている。やって見せると。

ストラスもエンリルに向かって手を伸ばす、エンリルが頭を下げると、彼女は鼻先を撫でた。

それだけで、エンリルは恐れを振り払い前を向く。

騎士の意地だ。姫の前でかっこわるいところは見せられない。

強い子だ。そして、あの子にとってストラスの大きさが良くわかる。

俺とストラスは頷き合い、それぞれの【竜】を引き連れて、シーザーの最強の三柱が待つ闘技場に上る。

【竜】の魔王アスタロトが口を開く。

「ふむ、我が最強の【竜帝】に恐れず立ち向かうか。それだけで評価に値する。心配していたぞ。戦うまえに怖気づいて逃げるのではないかとな」

とんでもない上からの言葉だが、それを言うだけの力を持っている。

俺は薄く笑い。ストラスはまっすぐにアストを見る。

「その最強を打倒し、【竜】を継ぐために俺たちはきた」

「アスタロト様、あなたを超えます。今日、ここで」

俺たちの決意に応えるように、エンリルとデュークが闘気を放つ。

それを見て、アストは満足そうに頷く。

「いい、覇気だ。……最高の戦いをしよう。観客は、ダンとマルコ、【刻】の魔物たちだけではない。我が【真竜軍団】が、新たな王にふさわしいかを見定めている。そのことを忘れるな」

闘技場を取り囲むように現れた十九体の竜はただの観客で来ているわけではない。

自分たちを率いるにふさわしいかどうかを、品定めしているのだ。

【竜帝】に勝つだけでなく、新たな王として認めさせる必要がある。

ハードルはあがった。だが、デュークとエンリルなら必ずやってくれるだろう。

「アスト、プロケル、ストラス、何があっても僕が巻き戻す。だから、思う存分暴れろ」

「結界の維持には私の魔力も使うから、観客席も気にしないでいいよ。久々に腕がなるね。ふう、三体のSランクの竜の攻撃を抑え込むのは骨が折れそうだよ」

この二人が来たのはこういうわけだ。

この規模の戦いなら、リングを覆う通常の結界では防ぎきれず、余波だけで強靭な魔物たちも即死しかねない。

そうさせないためにマルコがいる。マルコが全魔力を結界に注ぎこんで、リングの外へと流れ弾を外に出さない。

そして、【刻】の魔王がいることで、戦いが終わったあと、リング内の時間を撒き戻すことで、死んだ魔物が戻ってくる。

つまり、お互い殺すつもりでの全力を放てる。

あとは始めるだけだ。役者はそろっている。

「では、行ってきます。我が君。必ずや勝利を持ち帰ります」

「ああ、信じてるぞ。デューク」

デュークを見送る。

彼の姿が巨大な黒竜に変わり、闇よりも昏い瘴気を纏った。

黒死竜の本来の姿にして、真価を発揮する。

「GRYUUUUUUUUUUUUUUUUUUUR」

「任せたわエンリル。大好きよ」

エンリルの風が、彼の魔力の色である翡翠色に変わる。

黄金の竜に、漆黒の竜、翡翠の竜が向かい合う。

【竜】の魔王が笑った。

そして……。

「では、これより。【竜】の試練を開始する!」

高らかに【刻】の魔王が宣言し、新たな【竜帝】を決めるための戦いが始まった。