軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エピローグ:出発

デュークとエンリルの特訓は順調だった。

二体ともレベルはSランクの標準の一歩手前まで上がっている。【紅蓮窟】と【偏在】のパワーレベリングを行っていたが、一か月というわずかな時間ではそこまでが限界だった。

二体の連携は極まっている。

ここに勝機を見出すしかない。

単純に力任せで挑んだのでは、変動レベルで生み出されレベル上限まで鍛え上げた皇帝竜テュポーンのシーザー相手に勝ち目はない。

そして……。

「次の【創造】メダルが手に入ってしまったな」

カジノの準備やティロの世話、デュークの特訓などであっという間に一か月がたってしまった。

この【創造】のメダルは使い道が悩ましい。

今月も、マルコのダンジョンの稼ぎと【獣】のメダルをもらっている。

【獣】【創造】に加えてイミテートメダルでSランクの魔物を増やすのが一番安パイだ。

Aランク二枚あれば、とりあえずはSランクにできる。

だが、いかに汎用性が高い【獣】とはいえ何も考えずに使用していいのか? という疑問がある。

そもそも、今生み出してもティロとデュークのレベル上げが優先で、鍛える余裕がない。経験値になる魔物は限られている。

固定で生み出すことも考えたが、やはりSランクは切り札として運用したい……変動レベルでないともったいない。

「持っているだけでも意味があるしな」

【創造】の価値は高い。

取引材料としても有用だ。今は少しでも派閥の魔王を増やしたい。

派閥の魔王にBランクの渦の購入を可能にする【創造】は、自分よりも他人に使わせてこそ意味がある。

今後、新たなメダルを得られる可能性もある。そしたら、手持ちのメダルでは作れない強力な魔物が作れるかもしれない。

そして……温存しておいて、窮地に陥った際に【獣】メダルと共に、固定レベルで生み出すという手もある。

というわけで、俺は【創造】を使わずにとっておくことにした。様子見だ。

今日は、アヴァロンを見回っていた。

二日ほど留守にする。

行き先は【刻】の魔王のダンジョンだ。

彼の計らいで、今日は【竜】、【刻】、【獣】の最強の三柱。それに、俺とストラスを招いての送別会を盛大に行う。そして明日、【竜】の試練を行うのだ。

「おとーさん、アヴァロンは今日も平和なの!」

「だな。……ただ、ルーエたちの報告が気になる」

「パトロン、ちゃんと僕の報告を覚えていていたようだね……アヴァロンは狙われている!」

ズビシッとよくわからない擬音を口にしながら、ルーエが俺を指さしてくる。

……この前、見せたアニメの真似だろう。

ロロノはちょっと前まで、新型アヴァロン・リッターの開発に行き詰っており、食後の団欒の時間は彼女の要望で、ひたすらロボットアニメを見続けた。

ルーエはとくに青い流星が気に入ったらしい。クイナは銀河美少年、ロロノは絶対順守、アウラは天空が気に入ったと言っている。

「ふざけているわけではないんだな」

「もちろんだよ。かなりの数、アヴァロンに斥候の魔物が放たれて情報がさらわれてるね。……僕たちも殺さずにとらえて、逆に情報を引き出してるんだけどさ。どういうわけが、自分がどの魔王の魔物かも、演技じゃなくて本当に忘れてる。……よくもまあ、それで情報集なんてできるものだね。パトロンは真似しちゃだめだよ」

おそらく、記憶操作ができる魔物が敵の中にいるのだろう。

敵に見つかった時点で記憶を消去する。そんな能力を魔物たちに使っているおそれがある。

自分の魔物に、よくもそんな真似ができるものだ。死体はちゃんと保管して、デュークの【強化蘇生】で手駒に加えている。

時がくれば、ひどい仕打ちをした主に復讐させてやろう。

「心配するな。そんな真似はしない。俺はおまえたちのことが好きなんだ」

「信じるよ。パトロンは甘い魔王だからね。まっ、そこがいいところだけど。アビスっちは使えるね。本当に頼りになる」

最近では、ルーエの部下のオーシャン・シンガーとアビス・ハウルはペアを組んで活動してもらっている。そのおかげで、諜報部隊はさらに強くなった。

アビス・ハウルの鼻はすごい。

アビス・ハウルのおかげで、異空間から情報収集をしようとした、魔物を発見し始末できた。

アビス・ハウルは通常空間でも活躍している。他の魔王の魔物が入りこむと、それを匂いで感知できる。

音や姿を消せる魔物は多いが、匂いまでは隠せないようだ。

「ルーエ、数は日に日に多くなっているんだな」

「うん、かなり本格的な感じだね」

アビス・ハウルの鼻は、侵入者を見つける以外にも、侵入者の残り香を感じ取り、過去にどれだけの侵入があったかどうかを突き止めることができる。

敵を見つけられなかったとしても、アヴァロンを巡回すれば敵が忍び込んだ形跡を見つけられる。

「そうか……」

「一番やばいのはロロノちゃんかな? どう見ても狙われてるよ」

「諜報部隊から、ロロノへ護衛をつけてもらえないか?」

「もうやってるよ。オーシャン・シンガーが二体と、アビス・ハウル八体のチームが影に潜んでる。表には二体のアビス・ハウルがいるよ。ロロノちゃんにも許可を取ってる。光源付き、水源付き、のゴーレムが一体護衛に居てね。いつでも影と水たまりを作れるから、何かあったら即座にでるよ。わんちゃんが十体いれば、大抵なんとかなる」

奴らは特にロロノの工房を重点的に調べているようだ。

俺の生命線がロロノにあると気付かれてしまった。

ロロノを失えば、アヴァロンの戦力は半減する。敵からすれば真っ先に潰したい魔物だ。

絶対にロロノを失うわけにはいかない。

あの子は、戦力としても素晴らしいが、何よりも俺の大事な娘だ。

護衛にアビス・ハウルをつけていると安心できる。

アビス・ハウルの鼻と耳での警戒をかいくぐって近づくことは難しい。

それができたとしても、アビス・ハウルは十体以上集まれば【群れをなすもの】が発動し、攻撃力と耐久力が上昇する。Bランクでも上位の魔物がさらに強化され、優れた連携を発揮すれば、大抵の魔物は撃退できるだろう。

たとえ、倒せなくても時間稼ぎはできる。

俺の不在の二日は、ルーエはアヴァロンに滞在するように命じた。

クイナ、ロロノ、ルーエ、ティロの四体のSランク。アヴァロン・リッターが存在する。時間さえ稼げれば、あとはどうとでもなる。

少なくとも、不意打ちでロロノが殺害、あるいは誘拐されることは防げる。

「ルーエ、さすがだな」

「まーね。ロロノちゃんには借りがあるし、無理言って新型アサルトライフルを僕の隊の人数分と予備分作ってもらったし。その恩ぐらいは返すよ。……僕たちアヴァロン諜報部隊の誇りにかけて」

普段は飄々としているルーエも今回は本気のようだ。

彼女は、こう見えて仲間想いで義理堅い。

ロロノを守るために必死なのだ。

「任せた。ロロノとアヴァロンを守ってくれ」

そんな俺とルーエを見て、クイナが頬を膨らませている。

「今回は、クイナもお留守番だから安心するの!」

どうやら、軽く嫉妬したらしい。

クイナのこういう子供っぽいところが可愛く見える。

「そうだったな。クイナも残ってくれれば安心だ。悪いな。本当は連れていきたいんだが……」

クイナは本来、アヴァロン最強の魔物であり、俺の護衛だ。

常に、そばにいてもらうのだが、あきらかにきな臭い動きがある。

しかも、俺と防衛時の指揮をとるデュークが揃っていなくなってしまう。

もし、敵がアヴァロンを狙っているのなら、これ以上の好機はない。

それを考えると、保険として残しておきたかった。

俺の護衛が不在でも、行き先が【刻】の魔王のダンジョンなら問題ない。マルコがいる。

俺の護衛はマルコに任せるつもりだ。

「おとーさんとデュークの分もしっかりとクイナがアヴァロンを守るの。だから安心して行ってきて」

クイナの頭をガシガシとなでるとクイナが嬉しそうに目を細める。

クイナがいる限り、そうそうアヴァロンは落とされないだろう。

さて、移動しよう。出発前に挨拶しておかないといけない子がいる。

俺が向かったのはロロノの工房だ。

工房の中に入ると、二匹のアビス・ハウルが出迎えた。

彼らは尻尾を振りながら頭を擦り付けてくれるので撫でてやる。

こうしていると、ただの大きな犬に思える。……この人懐っこい犬が、超一流の冒険者でもない限りたやすくかみ殺す強力な魔物には見えない。

工房の奥にあるロロノの研究室に入る。

ロロノが無心で液晶タブレットを駆使して、図面を書いていた。

その横では、何かの演算シミュレーションをさせているらしくCPUが悲鳴を上げている。

集中しているようだし、邪魔しては悪い。

しばらくその様子を見ている。

こうして見ていると、アビス・ハウルたちを護衛につけて良かったと思う。

ロロノ自身がSランクの魔物で自衛力があると思ったが、何かに集中しすぎると周りが見えなくなる。

今のロロノはいきなり後ろからぎゅっと抱きしめても、その直前まで気付かないだろう。

三十分ほど経っただろうか?

ロロノが顔を上げる。そして、冷めきったコーヒーを飲んでいた。

「ロロノ、開発は順調か?」

「あっ、マスター。いらっしゃい」

ロロノがようやく俺に気付いたようだ。

「アヴァロンを出発するまえに、ロロノに会いたくなってね」

「うれしい。私もマスターに会いたかった。……新型を出発前に見せられなくて残念」

ロロノの新型は若干予定より完成が遅れている。

さすがに三体同時は無理があった。基幹パーツが共用であり、一度に三体分のパーツを作れると言っても、細部のパーツはそれぞれ特注品であり、一から設計が必要なのだ。

「それは帰ってきてからの楽しみにしておくよ」

「ん。楽しみにしてて。最高の三騎士ができた。……実は今やっているのは、黒……汎用性特化の期待の手持ち武器。機体自体は三機とも完成している」

それは嬉しい誤算だ。

従来のアヴァロン・リッターを凌駕する新型アヴァロン・リッターが三機。

これらはアヴァロンの切り札足りえる。

「コンセプトは予定通りなのか」

「ん。赤、白、黒の三騎士。赤は一撃必殺の威力を持たせた重装甲強襲型。白は超高機動遠距離攻撃型。誰も届かないほど遠くから遠距離攻撃で仕留める。……この前、飛竜レースに参加させたらグラフロスに大差をつけた。ゴーレムの常識を打ち壊す形状は正解だった」

……そういえば、このまえレースで騒ぎになっていたな。

グラフロスの中で最速、全勝していたキングと呼ばれるグラフロスが負けた。

ロロノがやらかしたのか。

グラフロス以上のスピードで空を舞う遠距離攻撃型。見るのが楽しみだ。

ゴーレムの常識を打ち壊す形状というのも気になる。

「黒は、究極の汎用性を目指した。固定兵装はゼロ。特徴は人間並みの関節を持たせつつ強靭な内部構造、大出力ブースターと多数の姿勢制御スラスターで大出力の推進力を任意の方向へ振り分けられる。武器は状況に合わせて使い分ける。……この子の頭脳は、他の子と違って成長するようにしてある。できることが多すぎて、あらかじめすべてをプログラミングするのは不可能」

状況に応じて武器を使い分けるなら、他の二機よりも優れた頭脳が必要になるのも納得だ。

「面白いな、柔軟な動きができて、機動力と運動性に優れる。地味だけど戦いに必要なものが揃っている」

MSに必要なのは、大火力でも変形機構でもない、追従性が高く信頼性が高い機体であると言っていた木星帰りの男を思い出した。

「黒がどう活躍するかが楽しみ。三体を運用してみて、一番活躍する子を性能を落として量産するつもり」

それを聞いたからには、三騎士が活躍する舞台を作りたくなった。

一年の雛の時期を終えて、新人を守るルールが消失すれば、否応なしに戦いに巻き込まれる。

そのときには、第一陣を任せよう。

……もっとも、それを待たずに敵が仕掛けてくる可能性もあるが。

「帰ってきたら、さっそく見せてもらう。そのつもりで準備しておいてくれ」

「ん。わかった。……父さんが満足できる出来だったら、ご褒美がほしい」

ロロノが顔を赤くして、顔を逸らしながらわがままを言う。

俺はロロノの頭を撫でてやる。

「ああ、約束しよう。ロロノのしてほしいことをなんでもしてやる」

「楽しみ……がんばる。二日でもっと煮詰めてみる」

やる気が出てくれて何よりだ。

いけない、大事なことをいい忘れていた。

「ロロノ、ルーエにも聞いていると思うが、おまえは狙われている」

「知ってる。護衛もつけてもらったし、できる限りの準備をしてる。魔物や冒険者は、電子機器を警戒しない。この工房の守りを甘く見てる……それに私自身も戦いたい。ずっと、こつこつ改良し続けてきた【機械仕掛けの戦乙女】。全然、使う機会がなかったから」

ロロノも、ロロノでちゃんと考えているようだ。

出発する際の不安が少し減った。

工房の扉をノックする音が聞こえる。

「入って」

ロロノがそういうと、扉が開かれた。

「探したのです! ご主人様。フェルが迎えにきてやったです! 感謝するです!!」

フェルだ。

カラスの魔物を頭に乗せて、狼尻尾を振っている。

【刻】の魔王が迎えに出してくれたようだ。

「ああ、今行く。ちょっと待っていてくれ」

ロロノともう少し話していたい気もするが、フェルのほうに向かう。

さあ、いよいよ始まる。

【竜】の試練、見事クリアしてみせよう。

そして、帰ってきたらロロノの新型を堪能するのだ。

俺もアヴァロンはまだまだ強くなる。

さあ、行こうか。