軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十八話:【竜帝】の真実

カジノに遊びに来た【竜】【刻】【獣】の三魔王。

彼らは、ただ遊びにためにやってきたわけじゃなかった。

その目的は……。

「この【竜】の魔王アスタロトが誇る、真竜軍……そして真の【竜帝】を譲ると言っておるのだ。もっと喜んではどうだ」

アスタロトはしわだらけの顔を歪めて笑う。

真竜軍。

その存在は俺も知っている。

マルコを救出するための戦いにおいて、【黒】の魔王の聖都を叩いた最強の竜の軍団。

一体のSランクの魔物と十九体のAランクの魔物で構成される精鋭たちだ。

Sランクの強さは語るまでもないが、残りの十九体もただのAランクではない。変動レベルで生み出され、極限までレベルを高めており、Sランクにすら匹敵する力を持つ。

……それもすべてが【竜】であり、【狂気化】を持つ。

本来、【狂気化】はランクを一つ上昇させるほどの圧倒的な能力上昇補正を得る代わりに、理性を失い、ただ目に映るものすべてを破壊する壊れた存在になる。

だが、Sランクの魔物、皇帝竜テュポーンの能力により、そのデメリットを踏み倒す。

皇帝竜は竜の王。

その能力は、竜族すべてを従える【竜帝】。

たとえ、狂気に堕ちようが、狂気ごと従えてしまう。支配するだけではない。竜帝に率いられた軍勢は極限まで力を引き出される。

……おそらく、真っ向勝負で真竜軍にかなう戦力は、この地上には存在しない。

アヴァロン・リッターたちにグラフロスの支援をつけたとしても容易く全滅させられてしまうだろう。

「アスト、うれしい申し出だが俺には竜を引き継ぐ資格がない。あなたの子というわけでも、あなたの派閥というわけでもない」

たしかに、手に入れられれば圧倒的な力になるだろう。

だが、受け取ることをためらってしまう。

「ふむ、説明が足りなかったな。わしの真竜軍は、プロケルかストラスにしか制御できないのだ。なにせ、【狂気化】を無理やり【竜帝】で抑えているゆえな。【竜帝】なしで自軍に加えたところで、内側から食い尽くされるのがオチだ」

それが【狂気化】の怖さだ。

まともに使えない。普段は【収納】しておき、敵地の真ん中で解放するぐらいしか使い道がない。

実際、【新生】するまでの間のエンリルは常にストラスに【収納】されていた。

「なら、【竜帝】を持つ魔物を一緒に引き継げばいいでしょう?」

「そういうわけにもいかんのだ。……わしの【竜帝】は皇帝テュポーンのシーザーと言ってな。わしと一緒に逝くと言って聞かんのだ。こやつは魂になって旅ができる。死んだあともついて来てくれるらしい。となると、残された竜たちの面倒を誰かに見てもらわんといかん。だからこそ、まだ未熟だが、【竜帝】の卵である風騎竜バハムートのエンリルを持つストラス。もしくは黒死竜ジークヴルムのデュークを持つプロケルに後を頼むしかない」

【竜帝】スキルは俺のデュークも持っている。

そして、口ぶりではストラスのエンリルも。

おそらくは、Sランクの竜が持っている能力だろう。

「アスト、教えてくれ。【竜帝】とはなんだ。俺は、竜種に対する強化スキルとしか認識していなかった」

実のところ、【竜帝】スキルはなんどか検証した。

強化の度合いは微々たるもので、統率能力もさほど高くない。外れスキルと思っていたぐらいだ。

アスタロトのシーザーのように【狂気化】した竜たちを従えられるなんて思えない。

「私もよ。アスタロト様。エンリルも【竜帝】スキルは持っているけど、アスタロト様のシーザーほど強くないわ。とても、鍛え上げられた竜たちの【狂気化】を抑えられるとは思えないの」

ストラスも同じ認識のようだ。

【竜帝】には秘密があるはず。

「それはな、【竜帝】は成長するスキルだからだ。散っていた仲間たち、あるいは自らが倒した竜。【竜】の魂と力を喰らって、どんどん【竜帝】は強くなっていく。わしのシーザーは、何千、何万もの魂を喰らっておる。ひよっこどもとはわけが違う」

なるほど、そういうわけか。

デュークは竜種を倒したこともないし、グラフロスの死にも立ち会ったことがない。

それでは【竜帝】が成長することがない。

エンリルも一緒だ。【竜】と出会うこと自体が少ないのだ。

【竜】の魔王であり、そして、魔物を餌にして冒険者を呼び込む、まっとうなダンジョン運営を行い、数多もの【竜】を失ってきた、アストの魔物だからこそ【竜帝】は育った。

もし、俺がデュークの【竜帝】スキルを育てようとするなら、グラフロスたちを意図的に殺さないといけない……。

そんなことはごめんだ。

まっとうな方法で【竜帝】を育てさせないと言うなら、すでに育ち切った【竜帝】を奪うしかない。

「俺と、ストラスを呼んだ意味をわかった。……つまりは、最強の【竜帝】である皇帝竜テュポーンのシーザーを倒し、【竜帝】の力を引き継ぎ【竜帝】を完成させる。……そして、真の【竜帝】となったエンリルか、デュークのどちらかに【狂気化】した最強の竜軍団を任せるということだな」

何千もの【竜】を喰らうことができないのなら、すでに育っている【竜帝】をいただけばいい。

そして、それができるのは同じ【竜帝】であるエンリルとデュークだけ。

なるほど、アスタロトの派閥の魔王じゃ手に余るわけだ。

「正解じゃ。本来はその役目をストラスに任せたかったのだがな、エンリルだけでは、我がシーザーには勝てん。二頭がかりで我がシーザーを倒して見せろ。全力を尽くした戦いでなければ、【竜帝】は受け継ぐことはできん。……ダンを呼んだのはそのためじゃ。ダンの【刻】の闘技場なら死闘を行い、どちらかが死んでも元に戻せる。シーザーに勝つ。それこそが【竜】の試練だ」

ごくりと生唾を飲む。

最強の三柱。その中でももっとも恐れられる【竜】の魔王の切り札である皇帝竜テュポーンと戦える。

仮に、一切のメリットがなくても引き受けたいと思ってしまった。

「是非、受けさせてほしい。ストラスもいいか?」

「もちろんよ。少しでもたくさんのものをアスタロト様の証を残したいと思っていたの。……それだけじゃないわ。アスタロト様に私の力を知ってほしい。全力で挑ませてもらうわ。あなたの子として」

満足そうにアスタロトは頷く。

「ダンにも面倒をかけるな」

アスタロトは、親友であるダンタリアンに笑いかけた。

ダンタリアンもそれに応えるように苦笑する。

「まったくだ。……素直に僕の【刻】の力を受け入れればまだ生きていられるのに。それを拒んでおいて、面倒ごとを押し付けてくるなんてな。どうして、こう僕の友は頑固で図々しいんだか」

「それでも聞いてくれるのは、ダンらしいのう」

「アストには、返せてない借りがあるからな。もう、返せる機会は他にない。まったく面倒な」

最近になってようやくわかったが、【刻】の魔王はこう見えて案外いいやつだ。

彼は自らの能力で延命している以上、まだしばらくは消えない。

いい関係を築いていきたいと思う。

「プロケル、さかしいおまえのことだ。僕の【刻】の能力があれば、一度失敗してもまた挑めるし、やりようによっては、エンリルとデュークの両方が【竜帝】を受け継げるとか考えているんじゃないか?」

「よくわかるな」

あそこなら、それができると真っ先に思い浮かべた。

「それは期待するな。やり直しなどできない。【竜】同士の戦いで、一度決着が付けば魂が敗北を認めてしまう。そうなれば、【竜帝】の力を奪うなんて不可能だ。……それだけではない、【刻】の力をもってしても、【竜帝】の力までは戻せない」

一発勝負、負ければ終わり、二度と真の【竜帝】にはなれない。

ぞくぞくしてきた。……こうでないと面白くない。

「ストラス、あらかじめ言っておく。どちらの【竜】が【竜帝】になっても恨むなよ」

「わかっているわ。抜け駆けをしようなんて考えてはだめね。今のエンリルとデュークなら到底、シーザーにはかなわないもの。連携しないと容易く蹴散らされてしまうのが目に見えている」

その通りだ。

シーザーはそれだけの化け物だ。マルコから、いろいろと聞いている。

エンリルとデューク、超越したSランク二体でようやく互角。

「若い者はいいのう。ギラギラして」

かっ、かっ、かっとアスタロトは豪快に笑う。

こうして、【竜】の試練を受けることが決まった。

そして、その試練は一か月後だ。

それまでは、ひたすらデュークを強化する。

それだけでなく、エンリルとの連携も試そう。

グラフロスとテンペスト・ワイバーンもできたのだ。この二体ができないはずがない。

これで、今日の用事は終わりらしい。

アスタロトもダンタリアンも、これから帰るような雰囲気を出している。

「それで話が終わりなら、場所を移そう。せっかく、アヴァロンに来てくれたんだ。アヴァロンには、カジノ以外にもまだまだ面白いものがある。案内させてもらう」

だが、そうはさせない。

アスタロトと共にいられる時間は少ない。

だから、こうして会えたときぐらい、精一杯もてなしてやる。それが恩を受けたものの義務だ。

「うむ、そうだった。カジノで稼いだ金を使い切らんとな。相変わらず、婿殿は気が利くのう。安心してストラスは任せられるは」

「……だから、婿殿は止めてくれ」

「固いことをいうな。それで、もうストラスとはやったのか?」

アスタロトが落ち着いた物腰に似合わない下品なジェスチャーをする。

「アスタロト様!!」

真っ赤になって、ストラスが叫ぶ。

それを見て、笑ってしまう。俺だけでなくダンタリアンたちもだ。

「アスタロト。言っているだろう。俺とストラスは親友だって。そういう仲じゃないさ」

……このまえとんでもないことを口走ってしまったが。

「なんだ、つまらん。ストラスは魔王としては優秀なのに、こういうところはへたれだのう。さっさと押し倒せばいいものの。まあいい。……二人には時間があるからな。ゆっくりと進めばいい」

年月の重みを感じさせる表情。

それから、俺はアヴァロンで彼らを全力でもてなし、温泉を楽しんでもらった後、見送った。

アスタロトから思いも知らないチャンスを受け取った。

なんとしてでも物にしよう。

……そして恩返しもしないと。

俺にできる恩返しはストラスを守ること。これからも彼女と助け合い、成長していくのだ。