軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三話:ティロの戦い

クイナと、ルーエ、ティンダロスのティロと共に、俺の屋敷に隠された転移陣に移動する。

転移陣の行き先は、【紅蓮窟】だ。

【炎】の魔王の置き土産のダンジョン。

ここで魔物たちのレベル上げをさせてもらっている。

いくら倒しても、【紅蓮窟】の魔物が尽きないのは、無数の【渦】が設置されているからだ。

最近は、【渦】を購入できるだけのDPがたまったので、俺も暗黒竜グラフロスの【渦】を購入している。

【渦】は、DPで購入可能な魔物の百倍のDPを払うことで設置できる。

その効果は、ノーコストで二十四時間に一体、魔物を生み出すという非常に便利なものだ。

しかし、【渦】にはいくつかの弱点がある。

一つ目、固定レベルでしか魔物を生み出せない。そのため、変動レベルで生み出し鍛え上げるということができない。

二つ目、魔物の種類によっては【渦】が購入できない。試してみたが、妖狐、ドワーフ・スミス、ハイ・エルフ、オーシャン・シンガーの四種類の魔物は【渦】の購入が不可だった。

逆に、暗黒竜グラフロス、ヒポグリフの二種、それに加えて、ティロを生み出すことで購入可能になった新たな魔物は【渦】の購入が可能だった。

生み出せる魔物と生み出せない魔物の差、それは人型かどうかだと推測している。

人間に近い魔物は【渦】を作れない。ティンダロスに【人】の要素を入れなかったのは、それも理由の一つだ。

「おとーさん、カラスさんを呼んでくるの!」

クイナが、はしゃいだ声をあげる。

カラスさんとは、【刻】の魔王からもらい受けた、【転移】能力を持つ魔物だ。

いつもは彼の力を借りて【紅蓮窟】に向かっている。

「いや、その必要はないよ。なにせ、ティロがいるからな」

ティロは、異空間を行き来する能力、【刻】を操る能力に加えて【転移】までもっている。

おかげで、これからは【刻】の魔王のスパイとわかっているカラスに頼らなくて済む。彼は今のところ味方だが、油断できない相手だ。

「ティロ、【転移】を頼めるか?」

「グルゥ!」

元気のいい返事だ。

今は黒い大型犬の姿だ。ずっと、この姿でいてくれると気が楽なのだが、この子は気まぐれな性格だ。いつ幼女になるかわかったものじゃない。

ティロが転移陣の上でお座りして魔力を高めていく。

俺とクイナは彼女に続いて、転移陣の上に乗った。

転移陣が魔力の光を放つ、しばらくすると【転移】特有の浮遊感が体を包んだ。

【紅蓮窟】に設置した転移陣にたどり着いた。

火山のダンジョンだけあって、熱い。

「おとーさん、ティロちゃん、ルーエちゃん、クイナに近づくの」

「がう!」

「あついー、しぬー、ふう、クイナちゃんがいて助かったよ」

「助かるよ」

クイナのそばにいくと涼しくなった。

クイナの【炎】の力は熱量操作だ。こうして冷やすことすら可能だ。

蒸し暑い夜は、ロロノもアウラもクイナの部屋によく遊びにいく。

クイナの部屋は一年中適応に保たれているし、彼女を抱きしめて眠るとひんやりとした抱き枕になって気持ちよく眠れる。

この能力は火山でも役に立つ。

「ティロ、おまえはSランクの魔物とはいえ、レベルが1だ。Cランク以上の魔物との戦いを禁じる」

「ガウ!」

賢い子だ。そして素直でもある。

ちゃんと、俺の言っていることを理解しているようだ。

「クイナ、もしCランクの魔物が現れたら、そのときはお前が率先して倒せ」

「クイナにお任せなの!」

クイナがお姉ちゃんぶって張り切っている。

ここのダンジョンにいる魔物はランクCがもっとも強く、あとはそれ以下だ。

【渦】を生み出せるのは購入可能な魔物だけ。

そして、購入できる魔物とは、【合成】したことがある魔物の、二ランク下。つまるところ、Sランクを【合成】できる俺以外は、【渦】ではCランク以下の魔物しか生み出せない。

Bランクの魔物の【渦】が許されるアドバンテージは大きい。

おそらく、今頃ストラスも風騎竜バハムートの二ランク下であるBランクの魔物の【渦】を作っているだろう。

黒死竜ジークヴルムと風騎竜バハムートは同格だ。となれば、暗黒竜グラフロス同格の魔物が量産されると考えるべきだろう。

今、【渦】を作ると半年後にはBランクの魔物を二百体近くストラスは使役できる。

「ストラスが味方にいれば、百人力だな」

九割の魔王は自身のメダルがBランクであり、自力ではBランクの魔物までしか【合成】できないのだ。

同ランクのメダル二枚なら、三分の二でそのメダルと同じレベル。三分の一で一ランク落ちる魔物が生まれるという仕様に縛られる。仮にAランクのメダルを手に入れたところで、Bランクと【合成】すれば、Aランクの魔物が生まれる可能性は三分の一だ。

そのため、Bランクのメダルを持つ魔王は、Bランクの魔物を切り札に、Dランクの魔物を【渦】で増やして主戦力としている。

ぶっちゃけて言えば、ほとんどの魔王は俺やストラスにとっては雑魚なのだ。いくら年月を重ねようと扱える魔物の質が違いすぎる。

【創造】をストラスに託したのは、今となれば大正解だった。

彼女は俺の派閥に入ってくれている。そんな彼女が大量のBランクの魔物を所持するのは心強い。

「……もし、新たに派閥を増やせば、そのときは【創造】のメダルを託すのもいいかもな。次のメダルは温存しておこう」

派閥のメンバー全員がBランクの【渦】をもっていれば、戦力は桁違いにあがる。

なぜか、【粘】の魔王ロノウェの顔が浮かんだ。

……案外悪くないか。

【粘】の魔王である彼は、水棲生物とスライムを操る。

スライムというのは、低ランクでは雑魚の代名詞だが、高位の個体になったとたんに”化ける”。

スライムは可能性の塊だ。噂では【無限に進化するスライム】なんてふざけた存在もいると聞く。

【創造】を与えることで、ロノウェがSランクのスライムを切り札とし、Bランクのスライムの群れを率いるようになれば、戦力として計算できる。

戦力や、頭の回転、魔王としての才覚。そういうものを考えるなら、もっと別の魔王に声をかけたほうがいいだろう。

だが、よくも悪くもあいつは根が善人であり、裏切らない。

想定する最悪は【創造】のメダルを与えたにも関わらずに寝返えってしまうこと。

それを防ぐことのを最優先にするなら、ロノウェを引き入れれるという選択肢はありだろう。

「おとーさん、難しい顔をしてどうしたの?」

「すまない、ちょっと考えことをしていてね。思考が横道にそれた。今はティロの狩りに集中しよう」

悪い癖だ。連想ゲームのように別のことを考えてしまう。

だが、この思い付きは大事にしよう。

ロノウェを引き入れることは、一考する価値がある。

「じゃあ、先に進むの! クイナにお任せなの」

「ガウガウ!」

クイナは、よく引率役としてここに来ていたので、他人を率いることに慣れている。

アウラも、ルーエもクイナによって育てられたと言っていい。本人は戦闘以外で役に立たないとコンプレックスを感じているが、ちゃんとこういうところで役に立っているのだ。

クイナの案内で、効率よく魔物が狩れるフロアにたどり着いた。

そこは、洞窟の中で岩に囲まれたフロアだ。

いくつも、俺の背ほどの大きな岩が無造作に設置されており、死角が多い。

だが、溶岩がないし、足場も安定しているおかげで戦いやすいフロアだ。

このフロアに入った瞬間から、いくつかの視線を感じる。おそらく魔物のものだろう。

「ここには、Dランクの魔物がたくさんでるの。ティロちゃんのレベル上げには最適なの!」

ティロが一歩前にでる。

そして、鼻をくんくんとしてから周囲を見回す。

無数の岩の陰に魔物が隠れて、こちらの隙を伺っているようだ。

魔王は、魔物の力を見通すことができる。岩から尻尾がはみ出ている間抜けな魔物が一匹いたのでステータスを見抜く。

種族:火蜥蜴 Dランク

名前:未設定

レベル:35

筋力C 耐久D 敏捷C+ 魔力E 幸運D 特殊E

スキル:炎耐性 擬態 炎ブレス

特筆することがない雑魚の魔物。

ただ、数が多いと厄介だ。

あの岩場の密集地帯に近づくと、一斉に隠れている火蜥蜴があつまってきて袋叩きにされる。

重要なのは、どうやって各個撃破するかだ。

ティロは足元の岩を見る。

そして、ぴょんと跳んで頭から地面に落ちて消えた。

違うな。消えたのではない、落ちていた小岩に存在する”鋭角”を入り口にして、異空間に潜った。

その次の瞬間には、数メートル先の岩に隠れていた火蜥蜴が倒れて死体を晒す。首から上がなかった。

「ティロはあの岩の鋭角から現れて不意打ちしたのか」

鋭角という極めて緩い出入り口をもち、なおかつ。出るときは、任意の鋭角に瞬間移動できる。

すなわち、最強の奇襲だ。

近くに鋭角がある魔物は、突然現れたティロによって首を切り落とされる。

ティロは、一匹を奇襲し終わるとすぐに鋭角にもぐる。

岩場に隠れ、近づけば袋叩きにしようと企んでいた火蜥蜴たちはわけがわからないまま、ティロの気配を感じ取れることすらできずに、首が飛び絶命していく。

悪夢のような光景が繰り広げられる。

ごくりと生唾を呑む。

……想像していたより、すさまじい能力だ。

こんな理不尽な奇襲を防げるわけがない。

瞬間移動で死角から、筋力S、速度S+の高ステータスでの致死の一撃が襲う。

しかも、ティロは隙ができるまで異空間で獲物の様子をじっと見ているという選択肢がある。

ティロの能力を知らなければ、警戒すらできないまま殺される。知っていたとしても、いつまでも警戒し続けるなんて不可能。いつか必ず隙を見せ殺される。

加えて、ティロの鼻も優秀だ。目視することで永続的に探知する【至高の狩人】を使わずとも、その優れた鼻でティロは隠れている火蜥蜴の位置をすべて把握して襲撃した。

レベルさえあげればティロは無敵になる。そのことを改めて確信する。

足元の小岩の鋭角からティロが戻ってくる。

口には、火蜥蜴の首を加えていた。

そして、俺の足元にポンとおいて得意げな顔になって尻尾を振り……。

「がう!」

と吠えた。

ほめてほしいのだろう。

俺は、乱暴にガシガシとティロの頭を撫でると、ティロが甘えた声をあげる。

「ティロちゃん、すごいの! ずるいの!」

クイナが興奮して、褒めながら悔しがる。そう言うのも無理はない。

ティロはそれほどまでに反則じみた戦いをした。

「クイナが、もしティロと戦うならどうする?」

それが気になったので聞いてみる。

クイナも最強の魔物の一体。クイナならティロへの対処法が思いつくかもしれない。

「んー、まず最初に周囲数メートルにあるものを全部溶かして、角を消すの。岩だろうが地面だろうが、クイナならつるつるにできるの。数メートルの距離があれば、【超反応】で対応できるから怖くないの!」

そうか、周囲数メートルから鋭角を消すのは、一流の魔物なら実現可能だ。

「それに、ロロノちゃん、アウラちゃんなら、たぶん戦場を空にする。空には鋭角なんてないの」

「思ったよりは穴はあるが、知らないと対応は難しいな」

なるべくティロの能力は隠しておこう。

とくに、鋭角を出入り口にすることは、突破の鍵にされてしまう。

「なの! だけど、初見だとしてもクイナなら勝っちゃうと思う」

「どうやって勝つんだ?」

「えっとね、首をかまれた瞬間、魔力を首に集中して硬くして、食いちぎられるまえに、ショットガンでお腹をぶち抜くの! たぶん、大丈夫なの!」

……さすがはクイナだ。

可愛い少女という見た目とは裏腹に、数多の戦場を生き抜いた歴戦の戦士なのだ。アヴァロン最強は伊達じゃない。

「なにはともあれ、ティロ、よくやった。まだ魔力に余裕はあるか?」

「がう!」

本人はまだまだいけるというので、もう少しがんばろう。

レベルが1で大量の魔物を倒したおかげで一気にレベルがあがってくれた。

俺は【創造】でデジタルカメラを作り出す。

次の戦いはしっかりと録画する。

ロロノに頼まれているのだ。ティロの戦いを見れば、ティロのための装備のアイディアが浮かぶかもしれないと。

実際に、ティロの戦闘を見て近接武器かつ攻撃力の高いものがほしいと思ってしまった。

さて、しっかりと録画しよう。

ついでにクイナも撮っておこうか。遠い未来、今のクイナの姿を見て、笑いあう。そんな日が来るかもしれない。

「クイナ、ティロ、次に行こう。今日はがっつりレベルを上げるぞ!」

「やー♪」

「がうがう!」

そうして、俺たちは日が暮れるまで【紅蓮窟】で狩りをして、アヴァロンに戻った。

たくさん動いたからお腹がすいた。ティロが仲間に加わったお祝いも兼ねて、今日の夜は豪勢に行こう。