軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エピローグ:幸せの歌

ストラスを見送ってからは、ここ数日の間、戦力を整えながら、今後のことを考えていた。

若い魔王を中心にした対プロケル派閥が作られてしまった。

俺は自分から攻めるつもりはない。手を出してこない限り、無害な魔王だというのに、危険視するなんてどうかしている。

「さすがに、派閥を作られるとしんどいな」

若い魔王というの新人魔王という意味ではない。

おそらく、生まれて数十年の一番野望に燃えている連中だ。

そいつらを、あと半年で凌駕しないといけない。

派閥を作って対抗する手も打つが、俺自身に圧倒的な強さがないと、どうしようもない。

普通にやれば、先輩魔王複数を相手に真っ向勝負するだけの戦力を整えることは不可能だ。

……だから、普通じゃない方法をとる。

「まず、最初にやるのは新たなSランクの魔物の【合成】だ」

クイナたちをはじめとするSランクの魔物たちは他の魔王の切り札たるAランクの魔物十体分以上の戦闘力を発揮する。

単体で戦況を変えることすら可能だ。

Sランクを自由に作れるのは、俺だけの強みだ。

もうすぐ、一か月に一回の制限が解除され、【創造】のメダルが作れるようになる。そうなれば、早急にSランクの魔物を【合成】しよう。

変動レベルで生み出す以上、魔物を作るのは少しでも早いほうがいい。

クイナたちとは違い、莫大な経験値が手に入る大きな戦いはそうそう経験できない。レベルを上げるのに時間がかかる。

「問題は、どのメダルで作るかだな」

手持ちのAランクメダルには【刻】がある。

最低でも【創造】以外に一つはAランクのメダルがないと、Sランクの魔物は作れない。

【刻】以外にAランクメダルを所持していないし、【刻】のメダルは強力だ。【刻】を使わない手はないだろう。後一つのメダルを何にするかが問題だ。

俺は、マルコを救出するための戦いでボロボロになったルルのことを思い出す。

異空間で戦えるSランクが彼女一体しかいなかった。そのせいで、リスクのある能力を使わせた。

あちら側の力を引き出したことで、ルルは汚染された。ルルの話では、二回目はたぶん戻って来れるが、三回目は確実に戻って来れなくなる。……もう二度とあの力を使わせないためには、異空間で戦える魔物を作らないといけない。

「どうやって、メダルを手に入れるかだよな」

そして、もう一つ課題がある。

安定してAランクメダルを得られるようにしないといけない。

魔王は他の魔王の水晶を砕くことで、砕いた魔王のメダルを作れるようになる。

月に一度生み出す際に選択肢が増えるのだ。

俺の場合は、自らの【創造】以外に、【邪】【粘】【鋼】を選ぶことができる。

ただ、【創造】以外はBランクメダルであり、作る気にはなれない。

Aランクメダルを持つ魔王の水晶を砕ければ、【創造】と交互にAランクメダルを生み出し、二か月に一回安定してSランクの魔物をできるようになる。それを目指すべきだ。

「そろそろ、【紅蓮窟】の水晶を砕くか」

マルコの許可はもらっている。

今、俺が魔物たちのレベリングに利用させてもらっている【紅蓮窟】の水晶を砕けば、【炎】というAランクのメダルを作れるようになる。

……ただ、やっぱりレベル上げができる便利なダンジョンを失うのは惜しい。

「いや、待て。マルコは、【魔王権能】を持っている。もしかして、ダンジョン運営だけじゃなく、メダルを作れるのではないか?」

賢狼王マーナガルムとなったマルコは、魔物でありながらスキルにより魔王としての力を保有している。

もし、メダルまで作れるのなら、彼女から供給してもらうのもいいかもしれない。

さっそく、今度確認してみようか。

もし、供給してもらえるのであれば、【獣】【刻】【創造】で魔物を生み出そう。

その組み合わせは、【刻】の魔王が生み出した天狼のフェルと一緒だ。だが、まったく別の魔物を生み出す。

【刻】と異空間系は相性がいい。【獣】も何とでも合わせられる汎用性がある。【創造】を異空間系の能力を与えるメダルにすれば、理想の魔物が生まれる。

今から、新しい魔物を作るのは楽しみになってきた。

「いや……それよりも先にやることがあったな」

ちょうど、王都から彼女が返ってくるころだ。

これ以上、待たせるのはかわいそうだろう。

ずっとやり残していた仕事を終わらせるとしようか。

屋敷で、書類仕事をしていた。

今日は彼女が返ってくる日だ。

きっと、アヴァロンに帰ってくるなり、この屋敷にやってきて疲れた、人使いが荒いと愚痴を言うだろう。ボーナスを出せと騒ぐかもしれない。

そんなことを考えていると、来客を知らせるベルがなった。

「ご主人様、会場のほうは準備がばっちりですよ!」

「我が主、サプライズパーティとはなかなか粋なことをしますな」

屋敷に入ってきたのは、エンシェント・エルフのアウラと黒死竜ジークヴルムのデュークだ。

彼らには、パーティの準備を任せていた。

「ご苦労様。あいつは、こういうのが好きそうだからね。……それとは別に話がある。デューク、土産の具合はどうだ」

俺の問いを聞き、壮年の竜人はにやりと笑う。

土産というのは、王都で俺たちを襲った人工英雄の連中だ。

「すべて、我が配下にしました。アンデッド軍団がさらに強化されております。ただ、一つ問題が、地下墓地フロアが手狭になっているのです。マルコ様から送られてくる死体の量が想定以上に多く、いかんともしがたい」

それは考えてなかったな。

たしかに、マルコのダンジョンから運ばれる冒険者の死体はそれなりに数が多い。

手を打たないとかわいそうだ。

「わかった。階層を増やす。地下二階を新設する。地下一階はパン工場と武器工場だけにして、アンデッド軍団は地下二階のフロア二つを使った墓地地帯に移動だ。加えて、暗黒竜たちも随分増えた。地下二階の最後の一フロアは彼らが自由に飛び回れる渓谷……いや、【鉱山】にしてそこに住んでもらう、街の警備のゴーレム以外は、元からの【鉱山】と新しい【鉱山】に半分ずつ配置だ」

「助かります。みんなも喜ぶでしょう」

アンデッド軍団、【渦】が二つある暗黒竜グラフロス、そしてドワーフ・スミスが作るミスリル未満のゴーレムたち。

切り札たるロロノのアヴァロン・リッター。

こいつらは日々増え続けている。

さらに言えば、一階層に三フロア作れるとはいえ、アヴァロンの階層は少なすぎる。

これから、攻められる機会が増える。そう考えれば階層を増やすのは、必然と言っていい。

「ご主人様、一つ進言を。今はアヴァロンの戦力の増加が急務です。それについて名案があります」

アウラが、こういうことを言い出すのは珍しいな。

今、手を出しているもの以上に戦力を増す方法には興味がある。

「言ってみてくれ」

「子づくりしましょう。ご主人様は【邪】の能力を得てます! Sランクの魔物と子づくりをすれば、Sランク以上の」

「却下」

途中で言葉を遮る。

アウラが頬を膨らませている。

水晶を砕いて得られるのは、その魔王のメダルだけではない。特殊能力まで得られる。

もっとも、魔王自体にキャパがあり、最大でも三つまでだ。ただ、【鋼】の能力は【創造】の下位互換だし、【粘】も使いどころがもどかしく、【邪】は論外だ。

「名案だったと思ったのに……」

「そういうのはごめんだ。俺の美学に反するし、おまえたちは大事な娘だよ」

【邪】の能力は、魔物や人間を孕ませ、母体の力を引き継いだ子を産ませる力。

その力を行使することを考えなかったことがないわけじゃないが、この子たちに手を出したくない。

それに、冒険者たちを襲うのも気が乗らない。

「残念です。あっ、ルルちゃんが帰ってきたみたいです」

アウラは周囲の風を聞くため、誰よりも最初に彼女が返ってきたことに気付いたようだ。

屋敷の扉が開かれる。

「たっだいまー、やっと戻って来られたよ。三つの街を回れなんて、パトロンは人使いが荒すぎだよ。これはもうボーナスを要求してもいいレベルだね!」

王都を中心に、三つの街の教会で礼拝に出向いていたルルが帰ってきた。

レナード王子を護衛する必要がなくなったので、ルルには礼拝をがんばってもらっていた。

各街の教会では、週に一度ルルとオーシャン・シンガーたちが訪れる。

そして、礼拝に訪れた人々は、【神の微笑み】という特製ワインを楽しみながら、彼女たちの讃美歌を聞ける。

これが大人気で、どこの教会も大盛況と聞いている。

「いいだろう。ルルは頑張っているからな、今月から支給する金貨を増やしておく」

「あっ、冗談だったのに。でも、もらうものはもらったとくよ。パトロン、ありがと」

相変わらず現金な奴だ。

「早速だが今から地下に向かうぞ。大事な仕事がある」

「ええー、疲れてるから休憩させてよ。旅から戻ってきたばっかだよ」

「ついてこないと後悔するぞ? ご褒美を用意しているからな」

「パトロン、それを早く言ってよ。ささっ、早く行こう!」

ルルの態度がころっと変わった。

そんなルルの様子を見て、アウラとデュークがくすくすと笑う。

さあ、地下に行こう。

ずっと、先延ばしにしていた大事な約束を果たすために。

地下にたどり着いた。

そこには、アヴァロン中の魔物が集まっている。

たくさんのごちそうと酒が用意され、ハイ・エルフたちが楽器を演奏し、オーシャン・シンガーたちが歌を奏で、その歌に合わせて妖狐たちがキツネ尻尾を揺らして舞を披露していた。

「パトロン、これっていったい」

「お祝いだよ」

「いったい何の?」

「ルルを祝っているのさ」

ルルの手を引いて、用意していたステージの上に行く。

「みんな、遅くなってすまない。やっと今日の主役が帰ってきた」

魔物たちが歓声を上げて、ルルは目を白黒させる。

いつもは勘のいいルルも、自分のことになると鈍くなってしまうようだ。

「これより、アヴァロンに尽くしてくれたルルイエ・ディーヴァの功績を認め、褒美として名を与える。名を与える以上、ルルイエ・ディーヴァは特別な魔物、アヴァロンの幹部となる。ルル、その覚悟はあるか?」

ルルに問いかけ、手を伸ばす。

名前を得れば、力を得ることができる。

だが、力には責任を伴う。

特別な魔物として、俺と共にアヴァロンを支えていく覚悟。それがないと名前を与えられない。

「あっ、こういうことか。あはは、ずるいよ。こんな不意打ち。でも、ありがと。すっごくうれしい」

すべてを理解したルルイエ・ディーヴァが微笑み、言葉を続ける。

「それとね、覚悟があるかなんて愚問だね。僕は、この街も、パトロンのことも大好きだもん。大好きじゃないと、あんな力を使ってまで守らなかった……誓うよ、僕は名前をもらって、このアヴァロンとパトロンに僕のすべてを捧げるって」

ルルが微笑んで、俺の手をとる。

その手を握り返す。

「その覚悟受け取った。ルルイエ・ディーヴァ。これよりおまえに名を与える。お前の名は……ルーエだ」

名付けた瞬間に、魔力と魔王の力がすさまじい勢いで持っていかれる。

その力がルルに宿る。

【誓約の魔物】と違い、パスがつながるわけではない。

ただ、俺から一方的に力が流れ込んでいくだけ。

それでも、流れ込んでいる間だけルルと繋がった。

彼女の心が伝わる。

いつも冗談ばかりで、人をからかってばかりの彼女は、実は寂しがりやで、ほんとは誰より優しい心の持ち主だった。

力の流出が終わる。

デュークのときよりはマシだが、Sランクの魔物に対する名づけはかなり消耗する。

彼女に心配させないように、弱っているところは見せない。

ただ、微笑み続ける。これは俺の意地だ。

「ルーエ、それが僕の名前」

「ああ、もう消えてしまった古い言葉で、平和という意味がある」

いろいろと考えた結果、ルーエという名がルルイエ・ディーヴァに一番ふさわしいと結論が出た。

「ふふっ、なにそれ。変なの。平和なんて僕には似合わないよ」

「いつかルルには、平和になったアヴァロンで、純粋に、おまえが歌いたい歌を歌ってほしい。そんな願いを込めた。だから、その夢を叶えるために力を貸してくれ……ルーエ」

俺がそういうと、目に涙をためたルーエが微笑む。

「また、そんな甘いこと言って。やっぱり、僕がいないとパトロンはダメなんだから。これからもパトロンを支えてあげるよ。それで、いつか平和な街で、愛を歌うって約束する」

ルーエが名を受け入れた。

これで、名づけは終わる。

彼女は気付いていないようだが、向こう側の力を引き出したことで、彼女の肌に侵食していた黒の刻印が少し薄まっていた。

名前を与えられ力を得たことで、少しだが自浄できるようになったのかもしれない。

俺の魔物たちが拍手し、おめでとうと叫ぶ。

「ルーエ、さっそくだけど頼みがある。一曲歌ってくれないか。今の気持ちのままに、おまえの歌を」

ルーエは目を丸くして、微笑んで、そして……

「しょーながないな。パトロンのわがままに付き合ってあげるよ」

言葉とは裏腹に、うれしそうにルーエは歌いだした。

その歌声に、俺も俺の魔物たちもうっとりと耳を傾ける。

その歌は、間違いなく今まで聞いた歌の中で、もっとも温かで、美しくて、ルーエらしい歌で、聞くものすべてを幸せにする……そんな素敵な歌だった。