軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

プロローグ:アヴァロンに忍び寄る魔手

俺たちはアヴァロンに帰還した。

アヴァロンに帰ってくると、まず家政婦として働いてくれている妖狐たちにはじまりの木の近くにある別宅に、ストラスとバハムートのエンリルを連れていくように頼んだ。

次に、不在時に守備の指揮を任せてあったデュークの副官であるドワーフ・スミスに不在時の報告を受けた。

どうやら、ストラスの増援で留守になったときを狙ってくるという考えは杞憂で何も起こらなかった。

諜報部隊のほうにも確認をとったがそちらでも異常はなかったらしい。

そのまま、商店通りにほうに移動する。

今回働いてくれた魔物たちに対する褒美を与えるためだ。

商店通りはいつ来ても新たな驚きがある。

最近は、アヴァロンも有名になって毎日のように新しい店ができるぐらいだ。

商品もすさまじい勢いで入れ替わるので、見に来るたびに新しい商品があってなかなか面白い。

今回活躍してくれた魔物たちに、大金と呼べる額を渡して、お釣りはいらないし、ほしいものがなければ金が褒美として持って帰っていい、足りなければ俺を呼べと伝えた。

みんなはちりじりになって、買い物を楽しんでいる。

「おとーさん見て! かわいい?」

クイナがまっさきに帰ってきた。今回購入したであろう黒のワンピースを身にまとっている。

大人っぽく成長したクイナに似合う素敵な服だ。

「とってもかわいいよ。どこかのお嬢様みたいだ」

「やー♪ この服、一目ぼれしたの」

すっかりクイナは上機嫌。

そんなクイナを見ていると俺まで楽しくなってくる。

「おとーさん、お金まだまだあるし、服が足りないの。だから、おとーさんがクイナに着てほしい服を選んで! それを買うの」

「わかった。わかったから、そんなにひっぱるな」

クイナのお気に入りの服飾店まで手を引かれていく。

クイナに似合いそうなふりふりのフリルがたっぷりついた淡いピンクのドレスを選ぶと、それを購入し、大事そうに抱きかかえて走って帰っていった。

さっきまで拗ねていたのが嘘のようだ。

クイナとわかれて、再び商店街のほうに戻るとアウラを見かけた。

なにやら錬金術士の店で怪しげな薬品や素材を買い込んでいた。

今のアヴァロンにはこういった店まで並んでいる。冒険者が多くたちよるので需要があるし、世界中を飛び回る商人が多くいるので、希少なものが集まりやすく、ねければ取り寄せられる。気が付けば有名どころの錬金術師や鍛冶師が次々に移住してくる始末だ。

彼らは腕を競いあい、その結果アヴァロンは次第にその方面も有名になりつつある。

錬金術士や鍛冶師にとって、金さえ積めば世界中から材料を短期間で手に入れられる環境というのは何者にも代えられない。

そして、彼らの工房を作るための建築士たちが呼ばれ、人が増えると、その衣食住にかかわる人たちが潤う。もちろん腕のいい錬金術士や鍛冶師が作り出すものは魅力的なコンテンツが多く、それ目当てにも客が増える。

放っておけば勝手にアヴァロンが発展していくので非常に楽でいい。

ただ、最近やりがいがなくなってきたのでここらで一発、直営の面白い店を用意したいと思うようになっていた。

「アウラ、ポーションの開発に必要なものなら、今回のご褒美を使わなくてもいい。予算は毎月支給しているだろう。もし、足りないなら増やすぞ」

アウラのポーション開発の材料も、初期は自前でそろえていたが今ではこうして店も買っているし、商人たちのネットワークを使って積極的に世界中から取り寄せている。

「ポーションの材料であることは変わらないのですが、こっちは趣味のほうです。さすがに、趣味で作るポーションの材料をいただいてる予算で買うわけにはいきません。着服になっちゃいますね」

アウラは変なところでしっかりしている。

だが、今の言葉を聞いて嫌な予感がした。

彼女は熱心に、アヴァロンの戦力アップにつながるポーションを作るが、たまに趣味でめちゃくちゃなものを作る。

代表例としては媚薬や、動物に好かれる香水、女性ホルモンを百倍凶悪にしどんな男でも立派なレディにしてしまうものなどだ。作るだけでなくお小遣い稼ぎにアウラが市場に流すので、たまにトラブルの種になったりする。

「……ほどほどにしとけよ」

「もちろんです! ほどほどに面白おかしいものを作ります! 最近、すっごいレアな本が手に入ったんですよ。ケアルガの書って本で、普通に読むと料理のレシピですが、実はそれは暗号で、読み解くといろいろとアレで破滅的な開発者の人格を疑う素敵なポーションのレシピが書き記されていて、研究のし甲斐があります!」

聞かなかったことにしよう。

大丈夫、きっとアウラなら本気でシャレにならないものは作らないと信じたい。

商店で話し込んでいるアウラを後目に俺は店を立ち去る。

「あっ、パトロン、こっちこっち、お金足らなかったんだ。お金もっとちょーだい!」

今度は異界の歌姫ルルイエ・ディーヴァこと、ルルが蒼い髪を揺らして俺を呼んでいる。

予算オーバーするとしたらコイツだと思っていた。

俺が渡した金額は、この街に住む住人の平均的な年収の半分ぐらい。

それで足りなくなるのなら、相当変なものを買わないとだめだ。

ルルはにっこり微笑みながらとある商品を指さしてる。

「……これ、本当にほしいのか?」

「ほしい、ほしい、めちゃくちゃほしい! だから買ってよパトロン」

こびているのか、俺の腕に抱き着いてくる。

金額的にはまったく問題ない。

アヴァロンには金、銀がたっぷりとれる鉱山があり予算は潤沢にある。

だけど、ルルが呼びさしているのはよくわからない魔物の頭蓋骨だ。

「なんに使うんだ、これ」

「なんでもこれを砕いて煎じて飲むと、のどにすごくいい伝説の霊薬になるって。いうても僕って歌姫じゃない。のどに効くと言われたら買わないわけにはいかないよ。ちゃんと魔力は感じるから詐欺ではないと思うんだ」

彼女のいう通り、頭蓋骨からは魔力を感じる。

それも悪意に染まったものではなく、むしろ清らかで澄んだ魔力。体にいいと言われればそんな気がする。

「ちゃんと最後まで飲めよ」

「もちろんだよ。パトロン」

溜息と共に、支払いを行う。

白金貨なんて、まさか個人店で使うとは思わなかった。

念のために持ち歩いていてよかった。

「今日のお礼にパトロンにとびっきりの歌を今度聞かせてあげるよ。なんならベッドの上で歌おうか」

「ちゃんと聞かせてもらうよ。おまえの行きつけの酒場でな」

「ちぇっ、つまんない。でも、ありがと。この前の戦いで無茶しすぎて、ずっと喉の調子が悪いんだ。これで治るかも」

ルルは俺の頬にキスをすると頭の上に頭蓋こつをのせ、器用にくるくるまわって踊りながら、自宅に向かっていく。

「……てっきり、高い買い物をしたいだけだと思っていたが、本気でほしかったのか」

あの喜びよう、演技ではないのだろう。

喉にいいものを喜ぶなら、こんどアウラに頼んでのど飴でも作ってもらおう。

ほかの魔物も、みんな思い思いの買い物を済ませたようだ。

予算オーバーを言ってくる魔物も現れなさそうだし、そろそろ戻ろうかと考えていると、竜人の老紳士であるデュークと鉢合わせた。

「デュークは何を買ったんだ?」

「妻に土産を買いました。最近、街で評判の洋菓子店のケーキに花束。それにヴィンテージもののワインに、上物のチーズ。今晩は自宅でゆっくり、夫婦で楽しもうと思います」

さすがは妻子持ち。

デュークは部下の扱いだけでなく、妻に対する気配りもよくできている。

少々、見習わせてもらおう。

「俺もロロノにお土産を買ってかえろうか」

【誓約】の魔物でロロノだけを留守にした。

彼女には、アヴァロン・リッターの修理という急を要する仕事があった。それに戦力的にロロノとゴーレム部隊までアヴァロンを留守にするわけにはいかなかったのだ。

「それは名案ですな。ロロノ様は表だって不満を言うことはありませんが、クイナ様に負けないぐらいに寂しがり屋で甘えん坊です。……ため込んでしまう分、クイナ様より厄介かもしれません。ロロノ様も甘いものは好きなので、お菓子などがいいかと思われます」

「感謝するよ。おまえの忠告にしたがって菓子店を覗こう」

「では、不詳このデューク、僭越ながらいくつかアドバイス。まず、生クリームが一番美味しい店は……」

そういうと、デュークはいろいろとおすすめの店を教えてくれた。

それも、恐ろしく細かい。

聞いてみると、デュークは竜人になり味覚を得てからというもの、スイーツにはまり、余暇は妻とともに食べ歩くのが趣味と言っていた。

そんなデュークの俺の知らない一面が、おかしくて思わず笑ってしまった。

そうか、俺はまだまだ知っているつもりで、魔物たちのことを知らなかったんだな。

……結局、デュークおすすめの店で、その店の看板メニューであるシュークリームを買った。

生クリームのおいしさがほかとは段違いであり、ちょっと洋酒の風味を利かせているいるところが、背伸びしがちなロロノにぴったりだということらしい。

今から食べるのが楽しみだ。

魔物たちが、みんな買い物を終えたので家路につく。

そろそろ帰ろう。

背後から衝撃。

ローブをまとった小柄な存在が、俺の脇腹にナイフを突き立てていた。

完全な不意打ち。

だが、その刃は俺を傷つけるには至らない。刃のほうが折れる。

三体のSランクの魔物を【誓約の魔物】にし、大量虐殺により超高レベルとなった俺はSランク並みの力を有する。

さらに、俺がまとう服は一見、普通の服に見えるが、その実ロロノが全力で魔物の強靭な糸に魔力を込めて編み上げ、 魔術付与(エンチャント) を施した特注品。

たかが人間のナイフごときで傷つけることはかなわない。

だからこそ、魔王である俺が一人で出歩ける。

襲撃者の手を取る。

「いったい何のつもりだ」

「ひぃっ、ひぃっ、放せ、この悪魔! 私にはわかってるんじゃ。おまえが善人の皮を被った悪魔だと!!」

襲撃者の正体はただの老婆だ。

レベルが低く、まともに訓練も受けていない。

そんな彼女がいきなり襲ってきた。恨みを買った覚えもない。

老婆の首元には特徴的な紋様が彫られた木の十字架。

それを見て、だいたい現状が把握できた。……また、面倒な嫌がらせを。

街を巡回しているゴーレムたちが走り寄ってきて老婆を捕らえた。

街で暴力事件を起こすと自動的にゴーレムが鎮圧にうつる。

そして、鎮圧終了後はとある場所に放り込む。

あとはゴーレムにお任せだ。

尋問の必要はない。どうせ今の老婆はろくな情報を持っていない。

「はなせ、はなすのじゃ! これは横暴じゃ! 優しい領主とやらがついに本性を現したぞ!! この領主の正体は悪魔だ」

ゴーレムに連れていかれながら老婆がわめく。

だが、ほとんどの住人たちは気にも留めていない。冒険者が多いこの街で、暴れてゴーレムに連行される風景はよくある光景に過ぎない。

だが、ほとんどだ。一部はこの老婆のいうことを間に受けている。

「これだから宗教はきらいだ」

あの首飾りは【黒】の魔王が作り上げた宗教の入信者の証。

信者というのは便利な存在だ。

ありとあらゆる場所で生活している。スパイなど送り込まなくても、タイミングを見計らって熱心な信者に命令をすれば、何年もともに生活をしている身内がいきなりスパイにも暗殺者にもなる。前触れもないし周囲にも信用されているので警戒が非常に難しい。

あの口ぶりからして、何かしらの宗教の信者で、俺が悪魔だと教えられ、自発的に殺しにきた。

俺が悪魔だと思っている連中は一人や二人じゃないだろう。

まったくもってめんどくさい。

これも【黒】の魔王のいやがらせだろう。

【黒】の魔王ほど絡めてといやがらせが得意な魔王はほかにいないかもしれない。

小さな、とげを無数にまいて内側から破壊する。しばらくしたら、俺を追い出してこの街をわがものにしようとする連中がバカをたきつけ、一斉蜂起なんてやりだすのが目に見えている。

「なんなら、俺も宗教を作ってやろうか」

それもいい考えかもしれない。

少し、本気で立案してみよう。

うまくいけば、【黒】の魔王の収入を奪えるかもしれない。

いや、奪ってやろう。

そのためには……、【黒】の魔王をこき下ろして権威を失墜させてやろう。

これ以上の嫌がらせは存在しない。

「マルコとストラスだけで飽き足らず俺のアヴァロンにケチをつけようとしたツケ、きっちり払ってもらう」

俺はとっくに我慢の限界だ。

こちらを新人魔王だと思って舐めてくれているようだが、【創造】の魔王の力、思い知ってもらおうか。