軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十五話:ストラスの戦い

~ストラス視点~

いきなりしてやられた。

まさか、あれだけのAランクの魔物を用意されているとは思わなかった。

初めの十体だけなら、エメラルドドラゴンを前衛にして全力でサポートすれば勝てた。

だけど、そこからさらにAランクの増援が来るのは完全に想定外だった。これ以上の戦いはいたずらに被害を増やすだけだ。

今は全力で、勝てるフィールドへ誘い込んでいる。

「私のミスね」

「違います。あれだけの戦力を読むのは無理です」

ラーゼグリフのローゼリッテが慰めてくれる。だが、認めないといけない。あれは魔王である自分のミスだ。

「増援は読めないのは仕方ないわ。でも、増援が現れてからの対応の遅さが許せないの」

「仕方ないですよ」

勝てると思った瞬間、警戒が緩んだ。その緩みが判断を遅らせた。

「仕方なくない。その判断の遅れのせいで、エメラルドドラゴンは致命傷を負ったわ。あの子は、あんなにもがんばってくれたのに」

慌てて【収納】して消滅だけは免れた。

だけど、【収納】は魔物を現状維持するだけだ。傷を癒せるわけじゃない。【収納】から取り出せば、すぐに死んでしまう。

「プロケルなら、すごいポーションを持ってる。何を対価に支払ってでもポーションを手に入れて、助けるわ」

どんな要求をされても受け入れよう。

それで、あの子が死なずに済むなら何を失っても構わない。

そのためにも、まずはこの場をなんとかしないと。

「ローゼリッテ!」

「はい、ストラス様!」

ローゼリッテの体が光る。

全力の全軍強化能力の発動。タイミングを合わせた無数の魔術が追っ手に降り注ぐ。

Aランクの魔物を倒すには至らないが、足止めにはなる。

ローゼリッテの全軍強化能力は非常に強い能力だが、魔力と体力の消耗が激しい。

だからこそ、魔術を放つ一瞬だけの発動にして消耗を抑えていた。

今回は長丁場になる。できるだけローゼリッテの力は温存したい。

「フォボス、風の道はまだ持ちそう」

「でえじょうぶです。このフォボス、だてに【誓約】の魔物ってわけじゃねえ」

Bランクの魔物。ペガサスのフォボスが先頭を走り、前方の風を切り裂いてくれるている。

おかげで、こちらの進行速度はかなり早い。

風の抵抗というのは案外馬鹿にならない。時速五〇キロを超えると運動エネルギーの半分は風の抵抗に持っていかれる。

この速さと、迷宮の罠に加えて、要所要所での反撃のおかげで被害を最小限にして後退ができている。

相手がAランクの集団だと逃げるだけでも命がけだ。

「みんな、もう少しよ。がんばって」

ただ、逃げているわけではない。

誘い込んでいるのだ。

私たちが勝てるフィールドに。

そして……。

ようやくたどりついた。

第二階層、第二フロア。【渓谷】。

どこまでも、青い空が広がり、細長く入り組んだ足場のフィールド。

ここなら、やりようによっては勝てる。

飛べない魔物は飛べる魔物にのり、いりくねった渓谷を飛び越えて開けた場所に移動、飛べる魔物は空中で待機。

そして距離をとって反転する。

ここが勝つために選んだ戦場だ。

そのタイミングで清冽な風が体を包んだ。ただの風じゃない。この風には意思が込められている。

少し頬が緩んでしまった。

「プロケルは心配性ね。たとえ、相手がずるをしても、私は打ち勝つわ。私も成長しているもの」

彼の配下の魔物がおこした風だ。

彼は手を貸すと言ってくれている。プロケルが心配してくれたのはうれしいが、同時に寂しくもなる。もっと自分の力を信じてくれてもいいのに。

自分は彼のライバルだ。守ってもらうだけの女なんてごめんだ。

気持ちを切り替えよう。信じてほしいなら、信じてもらえるだけの戦いをするのだ。

「このフィールドでも、ためらいがないようね」

せまい足場でも、さすがはAランクの魔物というだけあって。ものおじせずにやってくる。

飛行能力をもった魔物は希少とはいえ、敵には数体の飛行能力をもった魔物がおり、先行していた。

「想定通りよ」

敵の先頭集団は、巨大な七色の翼を広げたクジャク、四対の翼をもった悪魔、毒の鱗粉をまき散らす蛾の三体。そのすべてがAランクの魔物。

彼らは勇敢で、あまりにも無謀だった。

【風】の力を持つ魔物がこれだけいる中を無警戒に飛ぶことの意味を考えるべきだったのだ。

竜巻が巻き起こった。

乱気流。

ストラスの魔物数十体が、息を合わせて作り出した竜巻だ。

いかにAランクの強力な魔物といえど【風】に特化した魔物数十体がかりで生み出した竜巻には逆らえない。風に振り回せ、方向感覚すら失い翻弄される。そして、その魔物たちは槍で串刺しになり墜落していく。

「ガルーダ。相変わらずいい腕ね」

「恐悦至極」

いつのまにか、ストラスの隣には鳥人がいた。炎のような赤い羽毛と翼をもった魔物。

【獣】と【風】で作り出されたAランクの魔物。強力な飛行能力を持ちながら、空の賢者と呼ばれるほどの知識と知能がある。さらに極まった武術、そして炎を操る能力をもった強力な魔物だ。

両手に巨大な両手槍を持ち、油断なく敵の魔物を睨んでいる。

彼は竜巻の流れを読み、竜巻に逆らわず、むしろその風に乗るようにして、槍を炎の爆発魔法で車室した。いかにAランクの魔物といえど、竜巻にとらわれながらでは、回避も防御も不可能だ。

ストラスの魔物が牙を向いたのは、先行していた飛行能力を持つ魔物だけではない。

細い足場を必死に走る魔物たちにも異変が起き始めていた。

一体、一体、突然消えて、次の瞬間には二千メートルを超える上空に現れ重力にひかれて落下する。もとの足場どころか、その下にある底の見えない谷底に叩き落されていた。

敵の魔物たちはパニックに陥いる。

自分たちが何に襲われているのかすらわからない。

彼らを襲っているのは、もちろんストラスの魔物だ。

風で光を屈折させて姿を消しながら、渓谷に潜み近づいた魔物の足首をつかみ、【転移】させてほうり捨てる。

ダンジョンの外では【転移】は転移陣同士でしか飛べないが、自軍ダンジョンの中ではその制約がない。遥かな上空に転移させれば一撃必殺の攻撃になりえる。

「返事はしなくていいわ。いい働きよウィンディ」

ウィンディもガルーダと同じく、Aランクの魔物だ。

Aランクでありながら、風を使う能力の最高峰、【風の支配者】を持ち、さらに【転移】まで備えている。純粋なステータスは低いが高い魔力と優秀なスキルと魔術を持ち、使い方によってはすさまじい働きをする。

「プロケル、私もちゃんと成長しているのよ」

ストラスはプロケルとの【戦争】で負けてから、強くなるために努力した。

この【渓谷】フロアには罠が無数に仕掛けられている。

だが、まだその罠を温存している。

ただ、罠に嵌めるだけではなく、こうして魔物の力だけで戦い、注意力を分散させてから確実に嵌める。

この状況において冷静な判断を下せるのはストラスの成長の証左だ。

純粋な戦力も大幅に増加している。Bランク、Cランクの魔物をかなり増員し、さらにガルーダ、ウィンディを含むAランクの魔物を三体増やした。

そう、まだ見せていてないAランクの魔物がいるのだ。

しかりべき場所で使うために、彼女は温存していた。

彼女は確信していた。地の利と、魔物の適正を最大限に活かせば二十体のAランク相手でも戦える。

敵の突撃が止まった。

パチパチパチと拍手の音が聞こえた。

「ガッハハハ、ご立派、ご立派、よくやるのう。無駄なあがきだってのに」

魔物の群れをかき分けて、一人の男が現れる。

鎧をまとい、腰に剣をぶら下げた大男。牛のような角が生えていた。

「【刃】の魔王、こんなところにノコノコあらわれるなんて余裕ね」

「おう、余裕じゃ。なにせ、……これだけの戦力があるんだからな」

指を鳴らすと、百を超える魔物が背後から現れる。

そのほとんどがBランク。

本来、Bランクは魔王の中でも精鋭だ。

Aランクの魔物を作れたとしても、DPで購入できるのはCランク。

つまり、Bランクの魔物は、ごく一部のSランクの魔物を作れた魔王を除けばメダルでしか作れない魔物なのだ。それが百体。

ありえない光景だ。

ストラスは弱気になりながらも、それを必死に覆い隠し不敵に笑ってみせる。

「親のすねをかじって、大きな顔をして楽しい?」

「はあ? 何言ってんだ。これは俺様の力だ! 俺様が、【鬼】の魔王を【戦争】でぶっ倒して、やつの魔物もメダルも全部奪ってやったんだよ! 傑作だぜ、魔物を消滅させたくねえから、水晶を砕く前に魔物の権利を委譲させてくれって、【鬼】の魔王は自分から魔物を差し出してきやがった」

ストラスは頭を回転させる。

今回の過剰な戦力の原因がわかった。

移譲であれば、罰則を受けるが、【戦争】で勝ち、奪ったのであれば罰則もなにもない。

きっと、【刃】の魔王には強力な支援者がついている。

そして、その支援者と共に【鬼】の魔王に戦争を仕掛けたのだ。

こんな抜け道があるのは驚きだ。

そして、もう一つわかったことがある。こいつは馬鹿だ。自分からの手の内を晒した。

「そう。でも、数だけでどうにかなると思わないで」

「だな。……数だけじゃなくて質もこっちが上だ。わかってんだろ。勝てないって。なあ、ストラス。俺の女になれよ。そしたら、殺さないでいてやる」

得意げになって【刃】の魔王は熱弁をふるう。

「おまえの魔物だって俺が全部支配してから、水晶を砕くようにしてやるからさぁ、可愛い魔物が水晶と一緒に砕けるなんてやだろう? 最強の魔王になる【刃】の魔王サブナック様についてくれば一生安泰だぜ」

【刃】の魔王が嘗め回すようにストラスを見る。

新人同士の【戦争】であれば、それは魅力的な提案だ。

水晶が砕かれるとダンジョンと支配下にある魔物が消失する。

支配権を移せば魔物は助かる。

新人限定で一年経てば、水晶が砕かれていた場合、新たな水晶が支給されるという救済措置がある。

消滅した魔物が戻ってこないという、最大の痛みを回避できればやり直しが利くのだ。

ストラスは物おじせずに、まっすぐに見つめ返す。

「お断りよ。私には心に決めた人がいるの。だいたい、借り物の力で粋がっているような小物に私が惚れるわけがないでしょう?」

ストラスは嘲るような笑みを作る。

上から目線で、可愛そうな人を見る目で。

【刃】の魔王のこめかみに血管が浮く。

「このっ、くそあまっ! てめえの魔物を皆殺しにして、そいつらの生首ならべて、てめえを犯してやる!」

【刃】の魔王は絶叫し、魔物たちに全軍突撃を命じた。

ストラスは口角を若干釣り上げた。

正攻法でこの物量に勝のは不可能だ。

冷静さを失って罠にかかってもらう必要がある。だからこそ、逆上させた。

とはいえ、この数、質、命がけの戦いになるのは間違いない。

ストラスの脳裏に自分のミスで傷つけてしまったエメラルドドラゴン。そして、恋い焦がれた少年の笑顔が浮かんだ。

首を振り、自軍に作戦を伝えていく。

「このままじゃ、まずいわね」

ストラスは、地の利と各魔物の能力を最大限生かして、圧倒的な戦力差の中、踏ん張っている。

ストラスは最善を尽くしていた。

だが……、あまりにも戦力差がありすぎた。

いかに策を弄そうと、いかに有利な地形だろうと、圧倒的すぎる戦力差は覆すには至らない。

魔物たちは次々と倒れ……そして、細く険しい道を踏破し、ついに敵の魔物の先頭がストラスたちがいる開けた場所にたどり着き、咆哮をあげた。

~???視点~

僕は乱暴ものだ。

外に出ると、目に映るものすべてを壊さないと気がすまない。

頭が黒い何かに覆われて壊す以外のことを考えられなくなる。

仲間の魔物すら理性がない、狂ってる。僕を見てそういった。

その通りだ。僕はそういう存在だ。

だけど、心がないと言われるときがあって、そういうときは痛いんだ。僕にも心はある。

あの子だけは、いつも僕に言葉をかけてくれた。僕を大事な魔物だって言ってくれた。僕は最初に作った魔物らしい。大好きなお父さんにもらったメダルで作ったって言って笑った。

本当は名前をあげたいけど、自分が未熟で僕に言うことを聞かせられないせいで、後回しになってごめん。いつか僕を使いこなせるぐらいにすごい魔王になったら名前をあげるから許して、ってよく彼女は謝る。

僕は彼女が相手でも近づいたら暴れて。それでも、彼女は閉じ込めるんじゃなくて、僕だけの部屋を作ってくれた。何度も話しかけてくれた。態度に出せないけど、すごく感謝している。

もどかしい。彼女に抱きしめてもらいたい。もっとたくさん話したい。そんな心のとおりに体が動くことは一度もなかった。

僕は暴れるしかできないけど、僕が暴れることで彼女が喜ぶことがあった。そんなときは嬉しかった。

それだけが僕が彼女にしてあげられることだった。

でも、それすら失敗した。たくさん怪我をした。悔しい、傷の痛みよりも僕にできるただ一つを失敗したことが、すごく痛かった。

ここにいると彼女の心が伝わってくる。泣いていた。大事な魔物が死んじゃって、泣いている。誰かが彼女を泣かせている。許せない。僕が戦わなきゃ。

『ここから出して、僕はまだ戦えるから』

きっと、この心は届かない。

ここから出て、彼女のために戦わないといけない。

でも心と体が別々の僕は何もできない。

僕は心の通りに動く体がほしい。

「いい 心(こえ) ですな。我の我が君への想いに匹敵する。おせっかいをやかせていただきましょう」

声が届いた。力強い声だ。知らない声。

【竜帝】、竜の王様。その声は黒いもやより強くて声に耳を傾けていると体が軽くなっていく。声だけじゃない。体の中に熱い何かが流れ込んでくる……もしかしたら、今だけは僕は心のままに動けるかもしれない。

知らない人、ありがとう。

僕は羽ばたこう。初めて心の通りに体が動くんだ。

「幼き竜よ。おぬしはどうなりたい? 何を願う」

そんなこと決まってる。彼女を守りたい。彼女は世界でただ一人僕に優しくしてくれたんだ。

「なるほど、姫君を守る騎士になりたいわけですな。その想い、ゆめゆめ忘れぬことだ。思いが強ければ、我が君の力で必ずそうなれる。ゆけ、騎士よ」

騎士、その言葉の意味はわからない。だけど、素敵な言葉だと思った。

もう、【竜帝】の声は聞こえない。

行こう。

この世界は僕を捕まえようとする。でも、知るもんか。振り払ってやる。

僕ははじめて自分の心のままに飛ぶ。もう泣かないで僕が君を助けに行くから。

この世界に亀裂が走った。

さあ、彼女のもとに飛んでいこう。